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世界征服計画 その16

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16. マーズの話

ビーナスに促されたマーズは一同を見渡した。マーズはビーナスの愛人である。二人の間にできた子供がキューピッドだ。マーズはこんな席上であるにもかかわらずギリシャ風の甲冑とヘルメットを着用して、剣を腰に差していた。顔はひげもじゃのおっさんという感じであった。

そもそもギリシャの神々など本当は誰も見たことがないので、絵画や彫刻では様々な顔になっている。宇宙人はそれらの中から適当なものを選んで僕に提示したのであろう。ゼウスことアーキテクトの顔が、映画「マトリックス・リローディド」に出てきたアーキテクトという紳士であるのは、彼らのシミュレーション現実を設計したのだから適切であろう。

ビーナスがミロのビーナスの顔をしているのは、それが最も有名だからであろう。ビーナスといえばボッティチェリの「ビーナス誕生」のビーナスも有名だ。ところがこちらのビーナスはよく観察すると、体のバランスが少しおかしい。同じボッティチェリが描いたビーナスとマーズの不倫のシーンに出てくるビーナスはまた別の顔をしている。そこに出てくるマーズはイケメンの青年である。ビーナスとマーズの不倫のシーンは有名で、西欧絵画で好んで用いられるテーマである。そこに出てくるマーズの顔も、ひげあり、ひげなしと様々である。今目の前で見るマーズは、そのもっとも厳つい顔を採用している。パリスの審判も有名で、多くの画家が描いている。アテナ、ヘラ、マーキュリーの顔は、その一つから取ってきたのだろう。

マーズは話し始めた。

「ワイの計画を話したる。ワイの作るのは海軍と一部、海兵隊や。海軍の主力は航空母艦や。それから空母を守る駆逐艦、潜水艦、それに海兵隊を運ぶ揚陸支援艦や。あと海洋調査艦、通信艦、輸送艦なんかの補助艦艇や。

まずは航空母艦から話したる。航空母艦は10万トンクラスの巨大なやっちゃ。こんなんもっとるのはアメリカだけやから、航空母艦を持つことだけで、アメちゃんを怒らせるにきまっとる。そこが付け目や。ワイらの目的が海洋覇権の獲得やと錯覚させるんや。航空母艦の設計はアメちゃんのを盗んで、そっくりにしたる。動力は原子力でもええけど、核融合が最適やな。

<航空母艦>

この空母を大々的に無人化するんや。飛行機はみんな無人のUAVにするんや。

<UAV>

ここでワイらの技術が役に立つのや。乗組員もほとんどロボットや。どこで作るかいうたら、東チモールかそこらや。日本はあかん。政府がビビリよる。12隻ぐらい作ったろか。3交代として、常時4隻が海にでとる。太平洋に4隻やで。アメちゃんに勝っとるわ。中国も怒るやろな。ほっとけ、ほっとけ。こんなん普通に作ったら、1隻2000億円ほどかかる。せやけど、ワイは東チモールかどっかに無人造船所を建てて、1隻100億円ぐらいに押さえたる。でもな、この空母はしょせん張りぼてみたいなもんや。

<東チモール>

次に駆逐艦やが、これは007で悪党のカーバーがもっとったカタマラン型のステルス艦もなかなか格好ええ。そやけど、双胴船は一部に進水したら傾いて航行でけへん。そやから三胴船、トリマランにしたろかと思っとる。アメちゃんはもう、もっとるけどな。フューチャリスチックで格好ええやろ。武器はミサイルとレールガンや。まあここらは常識的や。どの船もそうやけど。垂直離着陸の無人機を開発して乗せるんや。ヘリコプターの代わりや。

カーバー

<カーバー>

三胴船

<三胴船>

レールガン

<レールガン>

潜水艦はすごいでえ。普通の魚雷のほかに、コバンザメ魚雷を作って乗せるんや。これはな、あらかじめ静かに潜行して、相手の船や潜水艦の船底や舵付近にコバンザメみたいに張り付いとるんや。ことがあったら自爆するのや。舵がやられたら動きとれへん。戦わずして勝つ、孫子の兵法や。

強襲揚陸艦いうのは、海兵隊を運ぶ船や。海兵隊ゆーたって、みんなロボットや。映画スターウオーズに出てきた悪役の帝国軍の兵隊あるやろ。あれと同じ格好させるんや。人間もちょっとはおる。そいつらはガンダムみたいなパワースーツを着せるんや。

<強襲揚陸艦>

海洋調査艦ゆうのは、世界中の海に出没して、海洋調査とか偵察をするんや。アメちゃんを挑発したる。通信艦、これはなワイらが打ち上げるロケットや人工衛星を追尾するんや。それから通信傍受もする。アメリカのボロ艦のObservation Islandのまねや。おちょくって観測島1号、2号と名付けたる。これらを太平洋、大西洋、インド洋に派遣したる。本当はワイらにはスニッファーがあるから、通信傍受なんか必要ないのや。でもな、この通信艦で通信を傍受する振りをするんや。もちろん本当に傍受するで。海底ケーブルのそばに小型潜水艦を潜らせて、盗聴するふりもするんや。もっともこの頃は光ケーブルやから、そのままでは盗聴は無理やけどな。そこで光ケーブルの一部を切って、ワイらの作った装置をつけて情報を盗聴するんや。ちょっと無茶やけどな。米英のエシュロンの向こうを張ったシステムや。エタロンちゅう名前や。エタロンの存在がばれたら、その方が好都合なんや」

「エタロンてなんのことです?」

「特定の波長の光だけを通す光学フィルターや」

「要するにエタロンという名前はしゃれなんですね」

「そうや。エタロンなんて、スニッファーがあるから必要ないんやけど、それを隠すためや。全ては真実の隠蔽、歪曲、ねつ造や。ワイはこの一連の作戦をGreat Deception Plan、通称GDPと呼ぶことにしとる。ははは。大詐欺作戦や。それで艦隊の名前はFleet of Paper Tigerや。つまり張り子の虎艦隊や。その艦隊の軍艦マーチは『帝国マーチ』いうんや。ワイの颯爽としたところ見てんか」

<帝国マーチ>

マーズの話を聞いて一同は感心した。というのは一部の噂では、マーズはアホや、ということになっていたからである。どうしてどうして、マーズは下品で口が悪いように見えるけれど、なかなかユーモアのセンスもあり、緻密な頭脳を持った知恵者である。ビーナスはうれしそうに微笑んでいた。愛人の面目躍如である。

マーキュリーが口を挟んだ。

「なかなかたいした計画ですが、えらく金がかかりそうですね。いかに自前の造船所で安く作ると言っても、航空母艦を12隻ももつのは高すぎませんか?そもそも軍隊は侵略でもせんかぎり儲かりませんから」

マーズは答えた。

「それは、あんさんの言う通りや。ワイが言うたのは最大規模のバヤイや。それに作戦の初年度はおまはんも、そんなに儲けられへん。ワシに回す金もあんまり無いやろ。そやから、ワイもボチボチ計画を始める。そうして、様子を見ながら、計画を進める。艦隊の中で観測艦だけは、宇宙開発に必要やから、まずこいつから整備するつもりや。それから船隊大和の直接の護衛艦の駆逐艦、補給艦なんかやな。空母は最後でええ」

アテナが聞いた。

「艦隊はいいけど、基地はどうするのです。呉や佐世保を借りるわけにはいかないでしょう」

「それは当然や。ワイが想定してるのは東チモールや島嶼国家の無人島や。島嶼国家にはたくさんの無人島がある。そのうちのいくつかを租借するのや。十分な借り賃を払ってな。ジュールベルヌの「海底2万マイル」ちゅう映画があったやろ。ネモ艦長の指揮するノーチラス号という潜水艦の話や。その基地が無人島にあった。ワイの潜水艦基地も無人島におくんや」

<海底2万マイル>

マーキュリーが聞いた。

「前にワハン回廊とケルゲレン諸島に秘密基地と秘密データセンターを作るという話でしたが、具体的にはどうするのです」

マーズは答えた。

「これが難物や。ワハン回廊ちゅうのはアフガニスタンの北東に、鳥のくちばしみたいに延びた部分や。標高が4000メートルもある過疎地帯や。昔はシルクロードが走っていて、三蔵法師やマルコポーロも通った道や。今は完全に忘れられた場所や。そこをカルザイの横面を金でしばいて、観光開発するとかゆうて、開発許可を得るんや。そこに表向きは、はじめから流行らんことが分かっているホテルを作る。実はそこは秘密のアジトや。そしてヒンドゥークシュ山脈の下をくりぬいてデーターセンターを作る。問題はそこにセメントなどの建設資材を運ぶ道や。パキスタン側からカラコルムハイウエーを通るが、ワハン回廊には届かない。ヒンドゥークシュ山脈の下にトンネルを掘ったろかと思っとる」

<カラコルムハイウエー>

「えらく金がかかりそうですね」

「うん、トンネル掘削は、ワイらの得意や。トンネル掘削ロボットを使う。でも現地の労働者を雇わん訳にはいかん。雇ったら、それはそれで功徳や」

「ケルゲレン諸島はどうするのです」

「こっちはもっとやっかいや。海洋冒険小説『Kクラス』で、台湾がインド洋の南極域にあるフランス領ケルゲレン諸島に秘密基地を作って核開発をやりおった。ワイの発想はそれのまねや。結構大きな島やで。フランスの観測基地がある。小説では資材を潜水艦で運ぶ設定やが、そんなことができるわけない。膨大な資材を運べるのは普通の船や。そうすると衛星に見つかる。アメちゃんはフランスに通報するやろ。先にフランスと科学観測基地を作りたいとかなんとか言ってごまかすか。あるいは強行してフランスとけんかするか。難しいところや。オーストラリア領のハード島も秘密基地には最適や。でもここにはペンギンがぎょーさんおるので、世界遺産に登録されとる。ここに秘密基地を強行建設すると、五月蠅いことになるかもしれん。最後の手は島嶼国家の無人島や。ただ山がないとあかん。地下に建設するのやから。クック諸島のラロトンガ島も考えられる。ただここはニュージーランドがうるさいからな。まあ、じっくり考えるわ」

ここでビーナスが口を挟んだ。

「さあ、話が一巡したので、ここで休会にしましょう。続きは明日にして、場所を変えて、他の神々も交えて話し合いをしましょう。それでは閉会」

我々は会議室を出て、この地下核シェルターデーターセンターの正門を出ると、そこは再び神殿であった。ビーナスは宣言した。

「それでは、明日9時にここに集合しましょう」

続く

   
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