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世界征服計画 その19

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19. 御用学者論争

「トリウム型原子炉がいくらウラン型原子炉より安全だと言っても、原子炉は原子炉です。原子炉が壊れると、放射性物質が出る。放射性物質からは放射線が出る。放射線は人体に悪い。どんなに弱い放射線でも人体に悪い影響があるのです。だからトリウム型原子炉といえども怖いはずです。日本に設置するのは反対です」

と僕は言った。それにたいしてバルカンは応じた。

「俺はトリウム型原子炉を日本に設置しろとは言っていない。発展途上国に設置して、その国を発展させるのだと言っている。先進国が衰退して、発展途上国を繁栄させるのは、社会的公正、正義の点で正しいことだ。日本が衰退する道を選ぶのは日本人の自由だし、その分、発展途上国に富や雇用を譲るのは立派なことだ。譲り合いの精神だよ。大いにやるべきだと思う。私はトリウム型であれ何であれ、日本にこれから原子炉を設置するなどできないと思っている。日本人の危機意識がそれを認めない。だから脱原発は時代の流れだ。問題はそれを徐々にやるか、急速にやるかだ」

「発展途上国を繁栄させようというあなたの試みは、あなたの勝手ですが、日本の原子炉を即座に全廃しても、日本の製造業や雇用が失われることはないし、生活水準が低下することなどありません。だから日本が衰退するなど、絶対にあり得ません」

「根拠はなんだ」

「そう信じているのです。あなたこそ何を根拠に、日本が衰退するなど、無茶苦茶を言うのですか」


アテナとの論争

僕とバルカンの堂々巡りの論争に、アテナが割って入って議論を別の方に誘導した。

「原発論争はそのくらいにして、森君はどんな量の低線量の放射線でも人体に悪いと思っているようだけれど、それは違うわ」

「そんなことありません。放射能は身体に悪い。放射能といえば、原爆。原爆は悪です。原発は原爆と同根です。だから原発は悪なのです。そこから出る放射線は体にとって害があるだけで、益はありません」

「森君とも思えない、単純な論理だこと」

「いえ、これが日本人の心情で信条です。ただ今までは、政府や電力会社、それに原子力村に属する御用学者たちに、だまされてきたのです」

「そう思うのは勝手だけど、科学的事実として、どんな量の低線量放射線も人体に有害というのは、無知も甚だしいわ」

「あなたは政府、電力会社、原子力村に味方するのですか?低線量放射線が問題ないなどと言うのは御用学者です」

「ほほほほほ、宇宙人の我々が御用学者ですって、みなさん!いったい御用学者の定義は何なの?」

「放射線は危険でないとか、原子力は有用だという人たちです」

「ほほほほほ、単純だこと。御用学者とは例えば政府や東電から研究費や便益を受け取って、そのため自分の本来の主張を曲げてでも、彼らに便益を提供する学者とでも定義する方が良いと思うわ」

「それはもちろんそうです。ただ私は低線量放射線は危険でないなどという学者は、かならず東電などの電力会社からお金をもらっていると思います」

「調べたの?」

「いいえ、調べなくても分かります。そうに決まっています」

「あなたも学者らしくないわね。何か主張するには、根拠が無くては。そんなことは学者として常識でしょう?」

「正しい主張には根拠などいりません」

「無茶苦茶だわ。調べてみれば分かるけど、事実は違うわ。色んな学者がいるのよ。原子力村に属さないので、研究費に事欠きながらも、自分で実験して真実を探求している学者もいるのよ」

「なんと言われようと、放射線は危険です。」

「我々はコンピュータの中のシミュレーション現実です。シミュレーションはコンピュータの中で行われます。コンピュータに放射線を当てると故障したり、誤動作をしたります」

「やはりあなた方にとっても放射線は危険なのですね」

「その問題を防ぐために、コンピュータ回路には冗長性を付加したり、壊れたチップは交換したりするシステムを作っています。ですからなまじっかな放射線で我々は壊れたりはしません。その意味では、あなた方『生(なま)もの』の生物と理屈は一緒です。もっとも、我々はあなた方と同じ意味での生物ではないので、放射線の影響はあなた方とは同じというわけではありません」

「そりゃあ、機械と人間は違いますよ」

「生物に対する低線量放射線の影響を調べるために、私はあなた方の中の放射線生物学者で、かつ低線量放射線の人体への影響を研究している専門家の最新の文献をサーチしました。低線量放射線は人体への影響はほとんどないし、むしろ有益だという意見すらあります。そう言う学者もたまにテレビに出てきますよ」

「そんなことを言うのは御用学者です。テレビでも新聞でも、週刊ポストを除くどの週刊誌でも、どんな放射線でも有害だと言っています。学者や有識者もそう言っています。ブログでも本でも、そう書いてあります。いくらでも証拠はあります」

「それは彼らが何も知らないからよ。彼らは専門家を自称していますが、たとえば物理の専門家であったり、放射線、原子炉、廃棄物の専門家であったりしますが、放射線生物学の専門家ではありません。ところであなたは物理学者でしょう。ということは、放射線生物学に関しては何も知らないはずよ」

「放射線生物学など知らなくても、放射線が危険だと言うことは、小学生でも知っていますよ。議論の余地はありません。それが違うという人は、御用学者です」

「味噌もくそも一緒にして、御用学者というレッテルを貼って、自分の意見に反対するものを封じるのはファシズムよ。あなたが無知だと言うことの証拠ですよ。だいたいテレビに出てくるような人たちは、自分で研究して、実験していないでしょう。実験していないような人が、えらそうに知ったかぶりするのが、彼らの特徴ですね。その分野に関する専門的論文もないでしょう。それがこの騒ぎに乗じて、知名度とか、出演料、印税を稼いでいるのでしょうよ。このところ著書が売れに売れて、儲けている自称専門家がいますからね」

「それはひどいいいようです。私が無知というのは許しても、正義を貫いている彼ら専門家を誹謗するのは許せません。彼らに代わって、私は抗議します」

「放射線は危険だとブログや本であおって、人気が出ている学者がいるわね。彼が東電から9億円の研究費をもらったそうよ。ほほほ、正義は儲かるわね。そんな人は御用学者なの?ちがうの?」

「そんなあ、そんな誹謗は信じません」

「当人も認めているわ。それにしてもあなたの本は売れないわね」

「そんなことは関係ありませんよ、失礼な。時流に乗れないだけです。ところであなたは日本に御用学者はいないというのですか?」

「そんなことは言っていません。日本の核政策を決めてきたのは、原子力村とよばれるグループに属する一群の学者達です。彼らが日本におけるトリウム型原子炉を一貫して妨害してきたのです。また成功しそうにもない高速増殖炉もんじゅを推進してきたのも彼らですよ。政府の審議会に自分たちの仲間を送り込み、膨大な研究資金を政府から引き出し、仲間内で分配してきたのも彼らですよ」

「そうでしょう。日本には御用学者がいるでしょう」

「しかしそんな彼らからは離れて、乏しい研究費でこつこつやってきたまじめな学者もいます。それを、あなたは味噌もくそも一緒にして言うから、私は違うと言っているのです。テレビなどのマスメディアに登場する多くの学者は、いわゆる御用学者と正義感ぶった自称専門家です。本当の専門家とか、まじめな人はあまりテレビには登場しません」

「どうしてですか、低線量の放射線が危険でないと信じているなら、テレビで堂々と主張すれば良いではありませんか」

「あなたのような人がいるから、そんな勇気のある人は御用学者と決めつけられます。非難されて、脅迫さえされます。だからバカバカしくて、正直者と真の専門家はテレビにはあまり出ません。ところであなたは数千万円とか数億円単位の研究費を稼いだことはありますか?」

「そんなものあるわけありません。良くて百万円ですよ。それで十分でしょう」

「ほほほ、あなたは研究費も乏しいし、本も売れていないようだから、御用学者でないことは確かね」

「それにしてもあなたは失礼な人だなあ。いや、人でなしの神ですね」

「ほほほほほ」

僕はアテナにいいようにからかわれただけなのかも知れない。

続く

   
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