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世界征服計画 その27

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27. ブラックハウス会議

novel372025年某月某日、ヒューストンのブラックハウスで米帝首脳部5人による、歴史的な秘密会議がもたれた。そこにはペイン副大統領、クリキントン国務長官、バッタ国防長官の他にCIA長官であるビューテーン・ケーツ(Butano Kates)氏も呼ばれた。ここでケーツ氏のみが男性で、後はすべて女性である。

まず米帝初代皇帝のオババ女帝が口火を切った。オババ皇帝は選挙で大方の予想を裏切って選ばれたのだ。

「ケーツ君、近年の日本とそれを中心とする状況について説明するように」

「はい、陛下。我々のCIAやその他の調査機関は、近頃の日本に於ける不穏な動きを注視してきました。まず関西科学研究所というところが、異常な発展を遂げて、日本中はおろか、世界各国から科学者を集めています。その科学的成果は目を見張るものがあります。その理由を、関西科学研究所を訪問したり、滞在したりした我が同胞から詳しく聴取しました。その結果分かったことは、文殊菩薩と呼ばれる非常に優秀な人工知能があり、それに接続すると研究者の知能が異常に増強されたことと同等になり、科学研究が非常に能率化されるそうです。その結果、論文数やパテント数は驚異的な上昇を示しています。これは第2次世界大戦以降、世界を知的に支配してきたアメリカにとって危機的な状況です。

さらに最近では、なんとアフガニスタンのワハン回廊と、インド洋のフランス領ケルゲレン諸島にまで、何に使うのか巨大なデータセンターを構築しました。文殊菩薩システムの一部と考えられます。そしてそれらはロシア製の対空ミサイルで防衛されているのです。あまりにも怪しすぎます。

大阪湾一帯、北海道、東北地方を含む北部同盟が異常な工業化を遂げています。たくさんの、何を作っているかは衛星写真だけでは判別できない、怪しげな工場がたくさんできました。また発展途上国に多数のトリウム型原発が設置されて、その周辺が急速な工業化を遂げています。これで中国は大きな打撃を被っているはずです。アジアの発展途上国のGDPがこのために、急速な上昇を示しています。肝心の日本のGDPは北部同盟以外は低下を続けています。ですから奴らの意図がよく分かりません。

そしてまた船隊大和とよぶ謎の船団ができて、そこも関西科学研究所と一体的に運用されているようです。船隊大和は20万トンクラスの研究船と呼ばれるもので、1隻に8千人ほどが乗り組み、その船がすでに20隻近くになり、現在は年間5隻のペースで増加を続けています。さらに問題なのは、それらを警備するとおぼしき海軍が作られたことです」

ここで国防長官のバッタ女史が口を開いた。

「我々国防省の調査によると、船隊大和は駆逐艦、補給艦、海洋調査艦を伴っています。さらには何に使うのか災害救助船、病院船、強襲揚陸艦まで配備しました。潜水艦も持っているという報告もあります。もっとも憂慮すべき事は、なんと空母まで建造を始めたことです」

こう言ってバッタ国防長官は衛星写真を見せた。そこには建造中の10万トンクラスの空母が3隻も写っていたのである。オババ皇帝が口を挟んだ。

「いったい、彼らの意図は何なんだ?」

国防長官が答えた。

「明らかに、海洋覇権を確立して、我が国の覇権に挑戦しようという試みと思われます」

「それは日本国の意図か?北部同盟か?それとも船隊大和の意図か?あるいはまさか関西科学研究所が世界覇権を狙っているわけでもあるまい」

オババ皇帝は言った。ここでクリキントン長官が口を出した。

「陛下、日本国の意図とは思われません。なぜなら日本国の支配層は完全に我々のコントロールの元にあるからです。日本国の政治家で旧アメリカ合衆国から離反を画策したものはすべて、我々の意図通りに動く日本の検察機構、マスメディアを通して抹殺してきました。CIAのエージェント達が日本の政治機構や官僚機構、マスメデイアに浸透していて、反米的動きはすべて押さえてきました。ですから、今回の反米的動きは、日本の支配層によるものとは思われません」

「するとなにか?船隊大和が我々の海上覇権、世界覇権に挑戦しようとしているのか?」

「そうとしか考えられません。さらに憂慮すべき兆候があります。彼らは太平洋の小規模島嶼国家を取り込んでしまったようです。船隊大和は島嶼国家の住民の福利厚生をはかって、島民のGDPは先進国並みになりました。その代償として、主権を譲り渡したようなものです。島嶼国家は船隊大和の指導の下にまとまって北太平洋島嶼国家連合とか中部太平洋連合、南部太平洋連合と言ったものを形成しました。船隊大和は独立国ではないので国連の議席は持っていませんが、島嶼国家のそれを利用しています。また船の船籍をそれらの国に置いています。軍艦も法的にはそれらの国家のものになっています。これらの動きはすべて、たくみな世界覇権の獲得法であると推察されます」

「そうか、奴らの狙いは海洋覇権の獲得か。それなら我々への挑戦と考えねばならない。そこから出てくる結論はただ一つ、奴らをいかなる手段を講じても、たたきつぶすしかあるまい?」

一同はうなずいた。バッタ国防長官が口を開いた。

「それでは、太平洋艦隊を派遣して先制攻撃をかけて、全艦撃沈しましょうか?」

ここで初めてペイン副皇帝が口を開いた。

「そうよ、核攻撃しなさい」

ペインは全くのアホだと、オババ皇帝は思った。そんなこといきなりできるわけないじゃあないの。

クリキントン国務長官は慌てて制止した。

「それは困ります。船隊大和にも関西科学研究所にも、多数のアメリカ人が乗船していたり、滞在していたりします。ですからいきなりの攻撃では、同胞から被害が出ることになります」

「かまわんのじゃないか?多少の死者は。どうせ戦争になれば、それくらいの死者は出るのだぞ。でも核攻撃は行き過ぎじゃ」

とオババ大統領は言った。それに対してクリキントン女史は反論した。

「陛下、お言葉ではありますが、それはあまりに国内、対外政治的には無茶です。そんなことをしたら、陛下の名声が傷つきます。陛下は対外的には慈悲深い皇帝という体裁を保つ必要があります。内実は悪の帝王でもね」

「悪の帝王とは、言葉が過ぎるのじゃないの」

と、バッタ国防長官は口を挟んだ。

「いえ、私はほめ言葉のつもりで悪の帝王と申し上げたのです。内実は悪の固まりで、外見は慈悲深い善人。これこそが皇帝として、リーダーとしての最高の資質だと思います」

オババ皇帝は思った。私はスターウオーズの銀河帝国の皇帝か。私はあんな不気味な顔をしているわけではない。私は薔薇子よ!クリキントンはきっとグアンタナモ刑務所に送ってやる。しかしオババ皇帝はそんな考えはおくびにも出さずに、苦笑いしながら言った。

「それなら、どうすればいいのじゃ?クリキントン長官」

クリキントン長官の発言を制して、ケーツCIA長官が発言した。

「我々の調査では、船隊大和の指揮権がどこにあるのか判然としません。どうも船長でもなさそうです。アメリカ人の研究者が見るところ、船の統治権は、なにか雲の上にあるようで、船長はただの操船者の代表程度らしいです。何を聞いても上にお伺いを立てているそうです。それでは旗艦があるのか、艦隊の司令官がいるのかとなると、それも判然としないそうです」

「いったい誰が黒幕なのだ?」

オババ皇帝はいらついて聞いた。

「どうも首領は関西科学財団の理事長である森某という若い男らしいです。奴は本来はちんけな、取るに足りない物理学者だったのですが、我が同胞研究者の報告によると、国際会議や研究会での発言が、奴の異常な頭の良さを示唆しているそうです。発表者の研究発表に対して、驚くべき的確な批判を毎回下すので、驚きあきれていると報告しています。それが奴の地頭の良さか、文殊菩薩のせいであるのか。同胞研究者の意見では、いかに文殊菩薩システムを使っても、あそこまでの頭の良さを瞬時に発揮することは至難の業だと言います。なにか奴には隠された秘密があるように思われます」

「それなら、奴を消せ」

とオババ皇帝は叫んだ。CIA長官が答えた。

「陛下、それは我々にお任せ下さい。腕利きのエージェントであるスミスたちを派遣して、森某の暗殺を試みます」

「そうせい! Do so!」

オババ大統領は幕末の長州藩主の毛利敬親が、家来から何を言われても「そうせい」と言ったので『そうせい候』と呼ばれたように、手短に指令を下した。クリキントン長官がここで口を挟んだ。

「私は日本政府に指示して、スミスが何をしても日本の警察は手を出さないようにさせます。スミスへの妨害も援助もしないようにと」

「そうせい!」

というオババ皇帝の一言で会議は終わった。

続く

   
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