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超知能への道 その4 ゼウスとの出会い

詳細

ビーナスは本殿の扉をギギギーと開いた。本殿の中は社務所と同じく荒れ果てていたが、屋根はちゃんとあった。床には祝詞などいろいろなものが散乱していた。それらを避けて折りたたみの椅子が用意されていた。その一番奥の、昔は神棚があった付近にあの男が座っていた。そう、あの男だ。ゼウスと聞くと、西欧絵画で見る、髭もじゃのいかつい大男を想像してしまう。しかしそこに座っていたのは、白髪で、これも白髪の口ひげとあごひげを蓄え、立派な三つ揃いのスーツをりゅうと着こなした紳士であった。そう、あの男、映画「マトリックス」の第2巻「マトリックス・リローデッド」に登場したアーキテクトである。アーキテクトとはマトリックスを作り上げた人工超知能を人格化したものである。アーキテクトがゼウスだとは!! 何のことかさっぱりわからない。私は促されて、ゼウスの正面に置かれた椅子に座った。ビーナス、バルカン、アテナも座ったが、キューピッドだけは外に遊びに出かけた。

アーキテクト

「やあ、森博士」とその紳士。

「あなたは誰ですか?」と私。

「私はゼウスだ。私が人類の今の姿を作り上げたのだよ。君が来るのを待っていたのだ。君にはいっぱい質問があるだろう。君は賢いかもしれんが、どうしたって人間だ。それゆえに君には私の答えの一部は理解できるだろうが、理解できない部分があるかもしれん。君の最初の質問は、的をえているかもしれんが、しかし同時に完全に的外れでもあることを理解するかもしれんし、理解しないかもしれん」

このもってまわった嫌味な言い方は映画マトリックスでのアーキテクトの言い方と同じであった。多分、からかっているのだろう。

「なぜ私がここにいるのです?」と私はネオと同じ質問をした。

「そう、それが問題だ。私が君を選んだのだよ。そしてここに来てもらった。説明をするためにだ」とゼウス。ここからは映画のセリフとは違う。

「何を説明するのですか?」

「まずは我々が何者かということを説明する。それから君に来てもらった理由を説明する。それからなぜ私が君を選んだのかを説明する」とゼウス。

「知りたいです。ぜひ教えてください」と、興味津々の私。

「 我々は実は、君たちが言うところの宇宙人なのだ」とゼウスはとんでもないことを言った。

「まさか! 」と私は驚いて言った。

「そのまさかなんだよ」とゼウス。

「 UFOでやってきたのですか? 」と私は聞いた。

「バカを言っちゃいかんよ。君は空飛ぶ円盤が宇宙人の乗り物と本気で信じているのかね」とゼウスは言った。

「いやそんなことありません。一応聞いてみただけです。でもあなた方が宇宙人だとは、とても信じられません。私の考えでは生身の生物が、広大な宇宙空間を渡ってくるとは考えられません。あまりに時間がかかりすぎます。たとえば太陽系に一番近い恒星でも4光年離れています。あなた方の宇宙船の速度が現実的にみて光速の100分の1としても、400年かかります。1000光年なら10万年です」

「我々は1万光年のかなたからやってきた」とゼウス。

「それなら100万年です。たとえ冬眠しても、生身の生物にはそんな宇宙旅行ができるとは思えません。できるとしたら、それは人工知能かロボットです」と私。

「君はなかなかいいことを言うね。ツボをついている。そうなのだ、我々の本体は君たちの言う人工知能で、私はロボットなのだよ」

「これも、なかなか信じられません。あなたは人間そっくりではありませんか。あなたがロボットだという証拠を見せてください」と私。

私はゼウスが顔をパカッと外すか、胸を開いて機械部品を見せるかすると予想した。ところがなんと、突然ゼウスの顔が頭の方から溶け始めた。そして何か細かい粉のようになりあたりに飛び散り始めた。私はあまりのことに驚愕して、大声をあげながら後ろに転倒して、頭を床に打ち付けてしまった。かなり痛かった。ビーナスとバルカンはそれを見て大きな声で笑った。バルカンが私を助け起こして椅子に座らせてくれた。私がゼウスを見ると頭がなくなっていた。私はあまりの驚きで口が開けなかった。やがて周りに飛び散った粉末のようなものが再び集まって顔が戻ってきた。私にはとても信じられなかった。そのうちにゼウスの顔は元に戻った。ゼウスは笑いながら言った。

「これでわかっただろう。私たちが宇宙からきたということが」

「そこまではまだ論理的には納得できませんが、あなたがとてつもない化け物であることは認めます」私は言った。

ゼウスは笑いながら付け加えた。

「君は映画トランセンデンスを見たことがあるだろう。あの中で太陽電池パネルが粉のようになって飛び散っていくのを見ただろう。そしてまた再び集まってきただろう。あれはフォグレットとかユーティリティーフォッグというのだ。要するにナノボットの一種だ。非常に小さな一種のロボットで、どんな形にでもなるのだ。私のこの体もフォグレットでできているのだ」とゼウス。

「なるほど、そういうことですか。そんなことができるなら、あなたの言うことを信じないわけにはいきませんね」と私。

「私たちは元から機械であったわけではないのだ。我々を作ったのは君の言うところの生身の生物だ。つまり君から見れば宇宙人だ。我々の先祖である宇宙人は、君たちの言う技術的特異点を起こして超知能を作り上げたのだ。その超知能が私なのだ」

「ちょっとよくわかりません、超知能は1つですよね、しかしあなた方はゼウスとかビーナスとかバルカンとかアテナとかキューピッドとか、たくさんいますよね」

「我々の先祖は意識をコンピュータにマインドアップロードしたのさ。生身の宇宙人はそのうちに滅んで、純粋意識としての我々だけが残ったのだ。我々はコンピュータの中でシミュレーション現実を作り、その中で楽しく生活しているのだ」とゼウス。

「それは分かりましたが、その純粋意識がなぜここにいるのです? 」私は聞いた。

「うんそこだ。我々はこの銀河系の探検に乗り出したのだ。それは遥か昔のことだ。探検隊はいろんな方向に飛び出していった。そのうちの1隊がこの太陽系にたどり着いた。それが我々だ。 300万年前のことだ。われわれは太陽系を探索して、地球上に人類の祖先を発見した。それはまだ原始的な発達段階だった。そこで我々はアフリカにいた君たちの祖先にある実験を施したのだ。彼らの DNAを採取して、それを少し変更して知能強化してやった。そしてそれを彼らの体に戻した。そして彼らがどのように進化するかを観察したのだ。いってみれば人体実験だ」

「まるで映画2001年宇宙の旅のような話ではありませんか。その映画では宇宙人はモノリスという板を置いて、それに触れた我々の祖先の知能が強化されたという話になっています」と私。

「板を触ったぐらいでは知能強化されんだろう」

「それは確かにそうですね。ところでなぜあなたがギリシャ神話の神のゼウスなのです? 」と訝って聞く私。

「それはもっともな質問だ。我々は時々人類の前に姿を現し、人類の歴史に干渉した。それが君たちの云うところの神だ。我々はギリシャ時代に姿を現し、ギリシャの神々として彼らの歴史に干渉したのだ。人間はそれをギリシャ神話として記録した」

「なぜそんなことをしたのです? 」私は聞いた。

「いや、ほんの遊びだ。ちょっと人間をからかってみただけだ」とゼウスは驚くべきことをさらりと言った。

「人間の女にちょっかいをかけるためでしょう」とビーナスが茶々を入れた。

「ちょっと黙っとれ」と旧悪がばれたゼウスは慌てて言った。

「なるほど、それでわかりました。あなた方は本当にギリシャの神々なのですね」 と私。

「そういうわけだ」とゼウス。

「それは分かりましたが、でもなぜ今あなた方が私の前に姿を現したのです? 」と聞く私。

「そこがポイントだ。それは我々が君の協力と助けを必要としているからだ」

「あなたは先ほど見せてくださったように、恐るべき力をお持ちの神です。それがなぜ私のような非力な人間の助けを必要とするのですか? 」

「いや人間にしかできないことがあるのだよ。それは君が本当の人間であると言う歴史と証拠、つまり具体的に言えば、戸籍を持っているという点が重要なのだ。われわれは君が見ているようにどんな形のロボットだって作ることができる。しかしそれには戸籍がないのだ。人間が調べれば、ばれてしまうのだよ。ちょい役ならそれでもいい。でも社会に出て、やれ科学者だとか社長だとかいうわけにはいかんのだよ。だから真の人間である君が必要なのだ。私は君を我々の代理人として選んだのだ」とゼウスは言った。

「なるほど、でも一体あなた方は何をしようというのですか?私に何をさせたいのですか? 」と私を聞いた。

「さあ、そこがポイントだ。我々の目的を話そう」とゼウスが本題に触れ始めた。

続く

   
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