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超知能への道 その18 映画産業に進出

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「ロボット、電子・電気製品ときて、つぎは何だ?」とゼウスがマーキュリーに聞いた。

「はい、つぎは映画産業です」とマーキュリー。

「映画? 何でだ?」とゼウスは聞く。

「はい、映画産業は産業規模としては大きくありませんが、国民のマインドをコントロールするのに役に立ちます」

「マインドコントロールか?」

「はい、そういうと聞こえが悪いですが、我々の価値観を植え付けるのです」とマーキュリー。

「価値観を植え付ける?」

「はい、例えばアメリカのハリウッド映画をお考えください。あれは単なる娯楽ですが、同時にアメリカの価値観を世界に植え付けているのです。マクドナルドやスターバックスなども同様です。要するにアメリカの考え方や生活様式を理想として、世界に広めているのです。だから我々は日本の価値観を、映画によって世界に広めようというのです」

「なるほど、深謀遠慮だな」とゼウス。

というわけで、我々の次のターゲットは娯楽産業である。われわれは映画を作ることにした。完全にデジタルな3次元映画である。アニメ映画かといえば、確かにそうなのだが、キャラクターも背景も完全にリアルなものなのだ。これは脚本から撮影まで全て弥勒菩薩システムが完全自動で作るのである。人間は映画を作れというだけでよい。

西宝という映画会社をつくり、本社は京都の太秦(うずまさ)においた。社長にはやはり藤原さんになってもらった。藤原定価社長はいまや日本の経済界の顔なのである。

映画を観るためには、観客はOculusのヘッドマウントディスプレイを被る。そうすると観客は完全に場面に没入してしまうのである。手始めに歴史物を作ってみた。例えば日露戦争の日本海大海戦である。観客は戦艦三笠の露天艦橋に立つことができる。東郷長官の横に立つこともできれば、東郷長官自身の目から見ることもできる。怖ければ司令塔の中に入ることもできる。大砲の弾が飛んできて、近くの海面に落ちて水柱が上がる。露天艦橋にいる観客には、海水がかかりそうになる。観客は身体をよける。しかし触覚はシミュレートしないから、海水がかかる事は無い。それでも観客は体を避けてしまうのである。実にリアルなのだ。

Oculus

恋愛ものの映画なら、観客が男性なら男性の目、女性なら女性の目からシーンを見ることができる。あるいは第三者の立場として外部からシーンを眺めることもできる。女性の観客が女性の目から見ていると、イケメンの男性がキスをするために顔が近づいてくる。ただし触覚はシミュレートしていないので、キスをされる事はないが、非常にリアリスティックなので、ときめいてしまうのである。

脚本を書かなければならないが、それもすべて弥勒菩薩システムが作る。手っ取り早いのは歴史ものである。我々は日本史のいろんな事件を映画化した。織田信長、壬申の乱、源平の合戦、何でもアリである。どのような視点から描くかによっても、いくらでも映画を作る事は出来る。われわれは試しに数十本の映画を制作してみた。それを上映して、観客に採点してもらう。それで観客の好みを測定するのだ。その評価は次回の制作に利用することができる。こうして、市場調査の後で数万本の映画を一挙に作った。

われわれは既存の映画館を改造した。もはや大きな部屋はいらないのだ。部屋を小さな小部屋に分けた。観客はそこにリラックスして座り、ヘッドマウントディスプレイをつけて映画を楽しむ。一斉に上映する必要は無い。観客は好きな時に劇場に来て、好きな時間に、好きな映画を見ることができるのだ。将来的には映画館ではなく自宅で映画を見るようにすることも可能だ。しかし我々は当面は帯域幅の問題もあり映画館方式を採用することにした。この方が金が稼げるのである。

我々のシステムは非常な注目を浴び、たくさんの観客が映画を見におしよせた。例えばモテない男女が、映画の中ではヒーロー、ヒロインになれるのである。映画の中では非常な美女とかイケメン男性にもてるのだ。現実生活に不満を抱いている人々の悩みを解消してくれるのである。というわけでわれわれは非常に儲かった。

しかし既存の映画産業にとっては壊滅的な打撃である。このシステムが支配的になり、国内外の映画会社は潰れ、俳優も失業してしまったのである。映画1本作るのにどれほど多くの人が従事していることか。ハリウッド映画などは制作費が何十億円、何百億円かかってしまう。ほとんどが人件費だ。それがほぼ電気代だけで作れてしまうのだ。数万円から多くて数十万円に過ぎない。有名俳優がホームレスになったという話も流れてきた。浪費癖が治らなかったからだ。

映画産業だけでは無い。例えばディズニーランドのような遊園地も、必要なくなるのだ。我々のヘッドマウントディスプレイを被ると、仮想現実の世界に没入してしまうことができるのだ。長い行列を待つことも無い。ただ座っていればいいのだ。だからこのシステムは親子にもモテた。このようにして我々の活動は、社会に静かな変革というか革命的変化を起こしていった。そして我々の手に膨大な利益が残されたのである。その資本を元に、さらに我々は変革を加速した。

しかし同時に我々の行為はアメリカの支配階級に対する挑戦にもなり、かれらの苛立ちは高まっていった。

続く

   
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