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トランスヒューマニズム

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今回のテーマは、「トランスヒューマニズム」である。まず、トランスヒューマニズムという用語の説明からするが、トランスヒューマニズム(英: Transhumanism)とは、新しい科学技術を用い、人間の身体と認知能力を進化させ、人間の状況を前例の無い形で向上させようという思想である。

一般的に、トランスヒューマニズムでは新しい科学技術、たとえばナノテクノロジー、バイオテクノロジー、情報技術、認知科学、仮想現実、人工知能、精神転送などの技術、薬品や遺伝子操作による寿命の延長・肉体の強化、脳とコンピュータの接続などの研究を支持しており、実際にその方向の研究はトランスヒューマニストでない人々により行われている。だから、トランスヒューマニストは、人間は人間以上の存在になるためにこれらの科学技術を使用すべきであり、使用できると考えている人々ということになる。ちなみにその意味では私もトランスヒューマニストである。

ゾルタン・イシュトヴァン

2014年、作家・哲学者のゾルタン・イシュトヴァンがトランスヒューマニスト党を結成し、あのトランプ氏が当選した2016年の米大統領選にも名乗りを上げた。基礎となる政党の考え方は、生命という体験は貴重で美しく、それを保護するための合理的手段はテクノロジーとサイエンスしかないというもので、「誰かを傷つけない限り自分の体には、したいことをする権利がある」という理念を達成したいとしている。主な目標は、お金などの資源を戦争や暴力行為ではなく、人々の健康のための医療や、繁栄、幸福の実現に向けて注ぐべきだとしている。

ゾルタン・イシュトヴァンはその目的のために、巨大な海上国家を作り、あらゆる人や科学実験がそこで受け入れられるようにしたいという。ロボットが仕事をする一方、人間は余暇を楽しみ世界を探索するという生き方を提唱している。その他、全国共通のベーシックインカムを設定することで経済的不平等をなくし、大学や幼稚園を含む全ての人の教育無償化も主張している。シミュレーション仮説を唱えたニック・ボストロムは、世界トランスヒューマニスト協会創設者だそうだ。

SF小説「森君とギリシャの神々による世界征服と超知能への道」

イシュトバンはその夢をSF小説トランスヒューマニスト・ウエイジャーに書いている。トランスヒューマニストに一番敵意をもつのはキリスト教原理主義者ということになっている。主人公たちはキリスト教原理主義者、それに影響を受けた世界各国の政府と激しい戦いを繰り広げる。

私はそれを読んでかなり影響を受けた。そこで私自身も小説を書いた。「森君とギリシャの神々による世界征服と超知能への道」と題して、NPO法人「あいんしゅたいん」の基礎科学研究所のホームページにある松田副所長ブログに置いてある。

粗筋は森法外君という若いオーバードクターの研究者がギリシャの神々であるゼウスやビーナスの助けを借りて超知能を作り上げるというものだ。小説ではギリシャの神々というのは、遠くの星の宇宙人が作った超知能であり、はるか昔に太陽系にやってきて、人類の進化を見守っていたのだとする。そして時々、アバターに入り込み、現実世界の人々の前に神として現れたのである。つまり人々の信じる神は、実は宇宙人の作ったアバターだというわけだ。だから神は奇跡を起こせるのだ。宇宙人の超知能だからなんでもできるのだ。

森君はアテナという知恵と戦いの女神から、科学と武術の特訓を受ける。そして作り上げたのが「事代主命(ことしろぬしのみこと)」という超知能である。ちなみに事代主の命というのは、古事記にでてくる神である。神代の時代に出雲地方を支配していた大国主命の子供とされている。森君はギリシャの神々に対抗して日本の神を作ったというわけだ。

事代主命本体は巨大なスーパーコンピュータであり、イシュトバンの小説の海上国家とは違って、私はそれを北方領土である択捉島においた。択捉島の単冠湾(ひとかっぷわん)に作った仮想の単冠市においた。単冠湾といえば日本海軍の連合艦隊が真珠湾攻撃するまえに集結した場所である。森君はゼウス、事代主命などとともに、世界を戦争のない平和な世界にするための戦いを開始する。まあ私もイシュトバンも世間的標準から見れば、おかしなマッド・サイエンティストかも知れない。

我々人間の身体的な未来は、一体どのようになるのか?

私の小説では主人公の森君は、宇宙人の超知能と脳コンピュータ・インターフェイスでつながっていて、知能強化がなされている。肉体強化は施していない。せいぜいパワードスーツあるいは外部骨格を装着して筋力の増強を図れる程度である。自分の肉体を強化するよりは、自分の頭でアバターやロボットを操作できればいいのではないだろうか。

映画「エリジウム」でも描かれたように、今後の世界は貧富の差がさらに大きくなる可能性があり、知能増強が高くつくとすると、金持ちだけがその利益を受けるかもしれない。そこで私としては、未来の政府は国民の希望者全員にタダか低額で一定の知能増強を、あたかも予防接種のように行うのが良いと思う。あくまで希望者にだけである。でもこの予防接種を受けた子供は知能指数が1000になり、受けない子供は平均100のまま留まるといわれれば、世の親はほとんど子供に知能増強注射を受けさせるであろう。

トランスヒューマニズムの考え方に反対の意見はあるとすればイシュトバンの小説にあるようにキリスト教原理主義のような宗教勢力であろう。日本や中国の人々にはあまり抵抗感はないのではないだろうか。

   
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