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スパコン競争

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スパコンとはスーパーコンピュータのことである。スパコンをめぐっては米中日が激しいトップ争いを繰り広げていたが、2018年秋のランキングでは久々に米国が中国を抜き返したこと、日本は国産の暁光スパコンを政府自身が撤去して、みずから競争を降りたことが特筆すべきことである。

スパコンとは科学技術計算専用の超高速なコンピュータのことである。ハイテクの一つの象徴であり米国、中国、日本、ヨーロッパなどの主要先進国が威信をかけて開発と設置を競っている。

スパコンは1970年代に米国のクレイ社が初めて開発した。80年代には日本が米国を抜き一位になり、米国に激しくバッシングされた。米国の威信を日本が損なったので、米国を怒らしたのだ。その後、日本は経済的に凋落して米国に抜かれた。現在の米中貿易戦争は80年代当時の日米摩擦を彷彿とさせる。

2011年に日本は京コンピュータを開発して、久しぶりにTOP500で世界一位を達成した。そのスピードは10ペタフロップスである。10ペタは日本語の数字の読み方では京であるので、京コンピュータと呼ばれている。しかしその後すぐに米国に抜かれた。ちなみに京コンピュータは今年運用を停止した。

2013年には中国が1位を獲得して、それ以後ずっと一位を保ってきた。特に2016年に発表された神威太湖之光は93ペタフロップスと2位のこれも中国の天河2号の33ペタフロップスを圧倒的に抜いていた。

しかし2018年の6月には米国のオークリッジ研究所のサミットが120ペタフロップスを達成して世界一位の座を久しぶりに中国から奪還した。2位は神威太湖之光93ペタ、3位はローレンス・リバモア研究所のシエラの72ペタ、4位は中国の天河2号の61ペタである。

日本のベンチャー企業であるPEZY-Computing社と ExaScaler社の開発した暁光は2017年の11月段階では4位であったが、2018年になりになり政府の手で撤去されてしまった。

Top500のスパコン設置数では中国206、米国124、日本36、英国22、ドイツ21、フランス18システムである。

TOP500はスパコンの絶対性能を測る物差しだが、Green500は省エネ度を測る物差しである。Green500では日本のPezy-computing社とExaScaler社は2017年秋同様に2018年秋にも1,2,3位を独占した。4位はNVIDIA、5位は米国のTOP500で1位のサミットであった。

80年代は日本がジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた絶頂の時代であった。当時世界最大級のスパコンセンターは、なんと当時の宇宙科学研究所の助教授であった桑原邦夫先生の自宅にあったのだ。東京の東急目黒線の西小山の駅近くである。私は桑原先生のご好意でそのスパコンをタダで使わせてもらった。桑原先生の友人の外国の研究者もそれをタダで使わせてもらっていた。80年代末には桑原先生と大阪の不動産屋が大阪にスパコンセンターを作り、それを私と学生さんがタダで使わせてもらった。今から考えると、信じられないような夢のような時代であった。

しかし90年代初めにはバブルが弾けて、それ以降日本は長期停滞に陥った。そして2011年の東北大震災と福島原発事故を契機として、つるべ落としの衰退傾向を強めている。京コンピュータの世界一位は最後に咲いたあだ花であろうか。

中国は2010年頃にGDPで日本を抜き去り、それ以降は破竹の進撃である。現在の中国指導層の悲願、百年国恥をはらすために、科学技術、軍事にあらゆる勢力を傾けている。スパコンはハイテク技術のひとつの象徴である。中国は歴史的に超大国で先進国であったが、清の末期には太平天国の乱などで国が乱れ、西欧列強の侵略にあった。幕末に上海を訪れた高杉晋作たち日本の志士は、中国のあまりに情けない姿に驚いた。指導層も国民も堕落しきっていた。そのために西欧列強だけでなく日本ごとき小国にも侵略された。

現在の中国の指導層は、その轍を踏まないようにスパコン、人工知能、宇宙開発、原子力、戦闘機、空母など先端技術開発に最大限の資源を投じている。日本の指導層も国民も、まだ過去の栄光を引きずっている面もある。ネットを見ても中国の技術をバカにする投稿も見られる。これは無知か驕り高ぶりである。問題は現在の中国のスパコン、ステルス戦闘機、空母の実際の性能ではない。指導層と国民のやる気なのである。このまま行けば、10年も経てば中国は世界一の技術大国になるだろう。米国の指導層はそれに気づいて、それを叩き潰そうとしている。それが米中貿易戦争の真の原因である。しかし日本の国民は分かっていない。日本の現在の姿は、指導層と国民の気概のなさにおいて清の末期の姿に重ねることができる。世界に対抗できるスパコンを国家権力とマスメディアがみずから叩き潰したのだから。

私は後期高齢者である。現在、京都大学で人工知能に関して学生のゼミをボランティアで担当している。しかし参加者は全員、中国からの留学生であり、日本人は誘ってもこない。日中の気概の差を示す象徴的なことと思っている。

まとめ

スパコンはハイテク技術のひとつの象徴であり国力の象徴でもある。米国と中国は国の威信をかけて世界一を争っている。ヨーロッパも参戦した。しかし日本の国家権力とメディアは日本が世界一になる可能性を自分の手で葬った。国民もそのことの真の意味が分かっていない。日本の先行きが心配である。

   
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