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なぜ西欧が世界を征服したか?「銃・病原菌・鉄」

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どう言う意味か? 我々の日常生活は基本的に西欧文明によって成り立っている。洋服を着て、電車や自動車に乗り、会社や学校に通う。我々が当たり前と思っているこの毎日の生活様式は、実は明治維新とともに日本に導入されたものなのだ。たかだか150年のことに過ぎない。

そして現代の世界を支配しているのは、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアをはじめとした欧米である。もっとはっきり言ってしまえば現代の世界を支配しているのは白人なのだ。ヨーロッパ人がヨーロッパはもとより、アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸と、世界の51%を支配している。日本や中国、インドなどのアジア諸国も欧米に対抗しようとしているが、しかしそれも所詮西欧文明の枠内においてである。このように現代社会を支配しているのは基本的に白人なのだが、それがなぜかというのが今回のテーマである。

その疑問に答えたのがジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」という本である。白人が世界を征服したのは銃と鉄、つまり兵器と軍事力、さらに意外なのだが病原菌によってであるという話だ。ダイアモンドが強調しているのは、白人がアメリカ、アフリカ、オーストラリアの原住民に比べて遺伝的に優れている、つまり知能が高いわけではなく、環境が有利だったにすぎないということである。

まずジャレド・ダイアモンドとはなにものか? 彼は1937年生まれのアメリカの生物学、人類学の研究者である。彼は人類学の研究のためにニューギニアにいた時に、現地の人にこう尋ねられた。「なぜヨーロッパ人がニューギニア人を征服し、ニューギニア人がヨーロッパ人を征服することにならなかったのか?」この疑問に彼は即答できなかったが、長年研究して得た結論が、銃・病原菌・鉄である。

ヨーロッパ人がそれ以外の文明を滅ぼした典型的な例がスペイン人ピサロによるインカ帝国の壊滅である。それは1532年11月16日の話だ。現在の南米ペルーにあった巨大なインカ帝国の8万の軍隊を相手に、ピサロはわずか60人の騎兵と106人の歩兵、それに鉄砲12丁の軍隊で滅ぼしてしまったのだ。

その時の話が生々しく述べられている。ピサロは輿に乗ったインカ皇帝に拝謁した。ピサロの連れて行ったキリスト教の宣教師が皇帝に聖書を差し出した。キリスト教に改宗しろという意味である。皇帝は聖書など読めないので、それを投げ捨てた。それを合図にスペイン軍は8万のインカ軍に襲いかかった。そして殲滅してしまったのだ。その理由は様々あるが、インカ軍が木や青銅でできた棍棒しか持っていなかったことが大きい。つまりインカはスペインの銃と鉄の鎧に敗れたのだ。

メキシコにあったアステカ文明も1521年にスペイン人のコルテスにより滅ぼされた。北米のインデアンの文明もヨーロッパ人によって滅ぼされてしまった。それは鉄砲による軍事力もあるのだが、ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘のような伝染病でアメリカ原住民はほとんど死に絶えたのだ。つまり本の書名「銃・病原菌・鉄」とはヨーロッパ人の武器の象徴なのである。

でも問題はそれだけではない。なぜヨーロッパ人が鉄と銃を持つことができたのか、さらに自分は死なないがアメリカの原住民には致命的な病原菌を持っていたのか、その理由を探ったのが本書「銃・病原菌・鉄」である。

ダイアモンドはヨーロッパとアジアを含むユーラシア大陸が、アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸に比べて、文明を育むのに有利であった理由を考察する。それは農業と牧畜の発達による。

まず農業により大麦、小麦、コメ、豆などの穀物を栽培することができる。それらの穀物は備蓄できる。そのため多くの人口を養える。また官僚や、宗教家、学者、芸術家など、自分では農業生産しない人間を養うことができる。その結果、文明が発展するのである。

農業はいまからほぼ1万年前に現在のイラク、シリアのあたり、つまりチグリス・ユーフラテス川辺りで始まった。中国でもコメの栽培が始まった。アメリカ大陸でも農業はあったのだが、ユーラシア大陸の穀物の方が優れていた。大きな種子を持つイネ科植物はユーラシア大陸の方が多かったのだ。

同じことは牧畜にも言える。現生人類が地球を支配しているのは、家畜の力によるところが大きい。鳥は除いて哺乳類の家畜として主要なものは牛、馬、ヤギ、ヒツジ、豚である。犬と猫もいるが、それは主として愛玩用で、生活の役に立つのは牛馬などである。ところが南北アメリカ大陸ではこれらがいなかった。実際、家畜化が可能な哺乳類で実際に家畜化できたのは、ユーラシア大陸で18%、南北アメリカ大陸で4%だが、サハラ以南のアフリカとオーストラリアは0なのだ。それがアフリカとオーストラリアで文明が発達しなかった理由だ。

豚やヒツジは食用、馬は戦闘用、牛は運搬用と人間にとって役に立つだけではない。実は病気の元でもあるのだ。人類のかかる伝染病には家畜由来のものが多い。人類と家畜がともに過ごすようになって、人類は伝染病の脅威に晒されるようになった。

ところがこの厄介な伝染病のおかげで、ヨーロッパ人はアメリカ大陸を征服できたのだ。なぜかと言うと、これらの病気にかかると免疫ができる。というか免疫ができた人だけが生き延びるのである。ヨーロッパ人がアメリカ大陸に侵入した時に、同時に伝染病も持ち込んだ。それにたいして免疫のないアメリカ原住民はバタバタと死んだのである。9割近くが死んだという。

ユーラシア大陸の有利さは農業用の植物と牧畜用の家畜の豊富なことの他に、その地形が東西に細長いことがある。この点の指摘がジャレド・ダイアモンドの最もユニークな点である。なぜ東西に細長いと有利かと言うと、東西の移動は気候が似通っているので容易だが、南北の移動は困難だと言う点にある。単に人が移動するだけならともかく、栽培用の穀物や家畜を伴っての南北の移動は困難なのだ。南北アメリカとサハラ以南のアフリカは南北に長い。これが地形的に不利なのである。 

ここまでの話で、ユーラシア大陸の有利さがわかった。しかしそれだけでは、ヨーロッパ人が特に有利な理由にはならない。中国人も同じ有利さを持っているはずだ。この点の説明に関しては、ジャレド・ダイアモンドの説明はあまり説得的でないと私は思う。

まとめ

現在の世界を支配しているのは基本的には白人である。アメリカ大陸にもインカやアステカの文明はあったが、ヨーロッパ人に滅ぼされた。ヨーロッパ人の武器は鉄砲と鉄の鎧、さらに彼らが持ち込んだ天然痘などの伝染病である。ユーラシア大陸が南北アメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸に比べて有利であった点は、穀物にできる植物が多くあったこと、家畜にできる大型の哺乳類の候補が多くあったことが挙げられる。またユーラシア大陸は東西に長いので、移動がたやすく、文明が伝播しやすいと言う特徴を持っている。ところでこの説明だけでは、現代社会を支配しているのが白人で、なぜ中国人でないのかは説明できない、と私は思う。その考察は別にしたい。

   
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