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技術的特異点へまた一歩近づく・・・IBMの人工知能ワトソンがクイズ番組で人間のチャンピオンに勝つ

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人間がコンピュータに打ち負かされる時、技術的特異点がまた一歩近づいた。2011年2月14,15,16日に放映されたアメリカのクイズ番組ジェパディで、IBMの人工知能ワトソンが二人の人間のチャンピオンを打ち負かしたのだ。その二人とは74連勝して250万ドルを獲得したケン・ジェニングスと、史上最高の325万ドルを獲得したブラッド・ラターである。

ワトソンの本体はCPUとしてIBM POWER7を使ったPOWER 750サーバーで、10台のラックに収められ、メモリは15TB、2880個のプロセッサーからなり、80 TFLOPSの計算速度を持つ、小ぶりのスーパーコンピュータといったところだ。OSはLinuxである。大きさは巨大な冷蔵庫10台といった感じだ。そのなかに100万冊の本に匹敵する2億ページものデータを保存していて、3秒以内に200万ページを調べて、答えを出すことができる。データには本や事典の他に映画の台本まである。ワトソンはインターネットに接続されていない。されていれば、そちらから答えを探すことができるので不公平だからである。

ワトソンが既存の人工知能と比べて優れている点は、クイズの問題が人間の言葉で出題され、それに対して人間の言葉で答えを返していることだ。コンピュータ言語は、普通は一点一画も揺るがせられないほど厳密なものだ。それに対して人間の自然言語は、実に曖昧だ。その曖昧な言語を理解するという点がすごいのだ。つまりコンピュータが常識を備えたということができる。そのために、巨大なスパコンを必要とするのである。もっとも人間はそれを小さな脳で処理しているから、スパコンよりすごいともいえるのだが。

IBMはスパコン「ディープブルー」に搭載された人工知能を使って、1997年、当時の世界チェスチャンピオン、ギャリー・カスパロフに勝っている。ワトソンはその後継者だ。IBMの主任研究員ディビッド・フェルッチに率いられた数十人のチームが4年の歳月を掛けて開発したものだ。

YouTubeのコメント欄を読んでみると、もうすぐスカイネットができて人間がコンピュータに支配されるとか、所詮エクスパートシステムの一つに過ぎないという両極端の意見がある。真実はその中間あたりにありそうだ。IBMの計画では、ワトソンを当面、医療とかカスタマーサービスに使うことを考えているという。医者が患者を診察する場合、最新の情報を全て知っているわけではない。しかしワトソンをネット経由で使うことができれば、アフリカにいるお医者さんでも世界最先端の知識に接することができるのだ。この方向では、音声認識の専門的な会社との協同研究が進んでいるという。

PCの会社は顧客からあらゆる種類の質問が来るが、それに即答しなければならない。友人のPCで画面のアイコンが何個か消えるという現象が起きた。そこでそのコンピュータを作っている世界的企業D社のカスタマーサービスに電話を掛けたら、そんな現象は聞いたこともないという。そんなはずはないだろう。世界中に何千万ものコンピュータを売っていて、そんな現象が起きないはずがない。これなどデータベースの不備なのか、担当者の能力不足なのかは知らないが、明らかにその会社の評判を下げるはずだ。

ワトソンは人工知能ではあるが、強い意味での人工知能、つまり意識を持った人工知能ではないし、その方向を目指す必要はない。この種のシステムのもっとも良い使い方は、人類の知能増強に使うことである。さきほどの医療やカスタマーサービスへの応用は、まさにその方向である。この種の人工知能がネットに接続されて、それがGoogleやWolframAlphaのように、無料か安価に使うことができれば、人間の知能は飛躍的に増強される。

マン・マシン・インターフェイスとしては、声で入力し、インターネットを介してクラウド上のスパコンにアクセスし、その答えをまたネット経由で、画像なり声で返してくれればよい。使う人は初期の段階では、神戸大学の塚本先生がいつも装着しているようなヘッドマウントディスプレーを装着すればよいだろう。小さなカメラをヘッドセットにつけておけば、知り合いだが名前を思い出せない人に出会ったときに、即時に名前を耳元でささやいてくれるか、眼鏡の視野の片隅に名前が出れば、ボケ防止になる。こんなシステムの恩恵にあずかる人は多いだろう。

   
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