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技術的特異点後の7つの予想もつかない世界

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ドボルスキー(George Dvorsy)という人の”7 Totally Unexpected Outcomes That Could Follow the Singulrity”という実に興味あるエッセイを読んだので紹介したい。

技術的特異点とは、コンピュータが発達して、その知能が人類の知能を凌駕する時点を言う。そして人間を凌駕する人工超知能が出現する。アメリカの未来学者レイ・カーツワイルは2045年頃にそれが起きると言う。他の学者にはもう少し後、21世紀の半ばであるという意見も多い。

技術的特異点に達した後、人類はどうなるのか。カーツワイルは人類とコンピュータが一体化するという。また映画「ターミネーター」のように、人工知能が人類に戦争を仕掛けて、滅ぼそうとする可能性もある。ところがドボルスキーはそのエッセイの中で、普通の識者の考えもしない可能性を指摘する。

1.人工知能ワイヤーヘッド仮説

ワイヤーヘッド(Wirehead)をなんと訳すのか知らないが、脳に電極を差し込んで、快感中枢を刺激するものである。ネズミでの実験では、あるレバーを押すと快感中枢が刺激されるようにすると、ネズミはそれを押し続ける。人間でも実験が行われ、被験者は装置を押し続け、実験者が装置を外すことに抗議した。ワイヤーヘッドを装着すると、その動物なり人は、食べることもせず、死ぬまで快感に浸り続けると言う。それがワイヤーヘッドである。

そこで未来の人工超知能は、全人類をワイヤーヘッド化するのが、人類をもっとも幸福にする手段であると考えるかもしれない。

筆者の従来の主張はこれに少し似ている。脳に電極を差し込むかどうかは別として、未来の人間は自分の望む仮想現実の世界に浸るであろう。現在でも2次元美少女の世界にはまったり、ネット・ゲームにはまる若者がいる。未来には 究極の引きこもり人間が現れるだろう。男であれば、乙姫様のいる竜宮城に自分を置いて楽しむ。あるいは好みの異性を相手にバーチャルに楽しむ。私はこれをニューロ・マスタベーションとなづけたい。快感の極地で、飢えと脱水症状で死んで行くのだから、当人には本望であろう。 

あるいは非常に現実的なゲームに入り込むものも出るであろう。戦闘ゲームであれば、自分は死なないのだから安全であり楽しい。問題は、これらの楽しみにはまり込みすぎて、死ぬことである。実際、韓国ではネットゲームにはまり込みすぎて死んだ人がいた。非常に現実的な仮想世界が超知能により与えられたら、ある種の人々は飲み食いせずにゲームに浸り、快楽の中で死んで行くであろう。筆者など昔は、朝9時に大学に来て、学生とゲームを始めて、夜までやったことがある。その後はゲームセンターに行くのだ。

2.さようなら、お世話になりました仮説

未来の超知能は、人間とかかわることに意味を見いだせないだろう。人間があまりにおろかすぎるからである。その場合、超知能は荷物をたたんで「ハイさようなら」と地球から宇宙に旅立って行くと言う仮説である。

筆者の感想「私も一緒に連れて行ってください」

3.見えないシングルトンの出現

シングルトン(Singleton)とは、数学用語では要素を一つしか持たない集合のことである。単集合と訳する。ここでいうシングルトンは、世界の影の支配者である。オックスフォード大学の哲学者ニック・ボストロムの論文”What is a Singleton?”を参照のこと。神のような超知能は、人類をあからさまに支配するのではなく、影から支配するのである。これをシングルトン仮説とよぶことにする。

筆者の見解。筆者が世界征服をしたいと言った時、ある学生は「先生はヒトラーか金正日みたいになりたいのですか! そして全員の注目を集めたいのですか?」と聞いた。とんでもない。私は注目を集めずに世界を支配したいのだ。つまりシングルトンになりたいのだ。これを私は「酒屋の親父モデル」とよぶ。

北野武主演の「座頭市」という映画があった。極悪非道な盗賊の一団がいる。彼らは押し込みの間の期間は次の準備の為に密かに隠れている。強盗の首領はある町の酒屋の手伝いのジジイをしている。その子分が酒屋の主で、さらに下の子分が、その町のやくざの親分なのだ。つまり最高の権力者は、世間からそれと分からないように身を隠していると言う話だ。

現在流で言えば、世界を影から支配するユダヤ財閥、イルミナティ、フリーメイソン、ビルダバーク会議などの陰謀論である。でもこれらはまだ世間に知られているから十分なシングルトンではない。誰も知られずに世界を支配する、それがシングルトンだ。

4.聖戦勝利仮説

人類を支配しようとする超知能に対して人類は聖戦を仕掛けて、それに勝利すると言う仮説だ。映画「ターミネターター」でも「マトリックス」でも、人類は超知能と戦っているが、敗色が濃い。

筆者の感想。勝てる訳ないだろ! 戦争とは合理性の戦いである。戦いでは、両軍はさまざまなミスをする。頭を使い、考えに考えて、合理的戦略を立てる。それでもミスはする。ミスの少なかったほうが勝つのである。 大和魂では勝てないのだ。人類の知能の1兆倍の1兆倍の知能を持つ存在に対して勝てる訳がない。

5.ファースト・コンタクト仮説

ファースト・コンタクトとは宇宙文明と始めて出会うことを言う。宇宙には実はすでに人工超知能がたくさんいる。 その後どうなるか。さまざまなケースがある。

1)よその超知能は宇宙間インターネットを作っている。人類が産み出した超知能はそれを発見する。
2)宇宙超知能の取り決めで、原始的文明は捨てておく。技術的特異点を突破した文明だけが宇宙クラブに入会できる。
3)宇宙超知能は地球超知能を評価する。もしそれが安全なら宇宙クラブに参加を認めるが、そうでないなら滅ぼす。あるいは技術的特異点に達したら、何でもよいから滅ぼす。
4)宇宙超知能はすでに地球に来て、人類の進歩を見守っている。そして技術的特異点に達しそうになったら、アクションを起こす。筆者のWeb小説「悪の秘密結社猫の爪による世界征服計画」はこのモチーフに基づいている。人類のおろかさを支援して、技術的特異点に達するのを防ぐのである。

6.シミュレーション現実のシャットダウン仮説

シミュレーション現実仮説というものがある。これは我々が現実と思っているものは、実は宇宙人か、あるいは人類の末裔が作ったスーパーコンピュータの中で行われている先祖シミュレーションに過ぎないと言うのだ。この仮説も先の哲学者ボストロムやティプラーが主張している。

宇宙人がシミュレーションを行うのは、研究の為かもしれないし、遊びの為かもしれない。シムシティのようなものだ。研究の場合、パラメターを色々変えて並列計算しているかもしれない。 

ところがこのシミュレーションは技術的特異点がおきたところで止まるように設定されている。というのは、その先を計算するのは負荷が大きすぎるからである。

シャットダウンといえば、映画「マトリックス」では、アーキテクトはすでに5回シャットダウンしたと言う。全人類を5回滅ぼしたのだ。

7.超知能があらたな宇宙を作る

超知能は新しい宇宙を作る技術をマスターする(これはHugo de Garisが言っているのと同じことだ)。ただしこの著者の意見では、超知能は巨大な宇宙を作るのではなく、地下室にひっそりと宇宙を作るとか、脱出口としての宇宙を作るという。あるいはとても小さい宇宙を作る。その宇宙は人間からはウジ虫程度にしか見えない。超知能はそのなかに潜んでいるのだ。

筆者は穴蔵宇宙を提唱したい。その宇宙は小さなもので、自室とか地下室に隠しておく。そことはワームホールで行き来できるのだ。向こうの宇宙は天国、極楽、竜宮城、ハーレムなのである。現実世界に疲れたら、ちょっと別世界に行くというのはどうだろうか。

あるいは四畳半宇宙はどうだろう。森見登美彦の小説「四畳半神話大系」のなかにそんな話がある。「八十日間四畳半一周」という話だ。主人公が住んでいる四畳半の世界の向こうにまた同じような四畳半が連綿と続くという話である。四畳半はちと狭いし、それにトイレがないのが不便だ。私の世界では、地下室にあるワームホールをくぐると、立派なマンションの一室があらわれる。トイレも風呂も、それにいつ開けでも満タンの冷蔵庫がある。ところが玄関を開けて外に出ると、また似た部屋が現れるのだ。それがラビリンスのように繋がっている。おっと忘れた。その部屋には、一人ずつ嫁が住んでいるのだ。違う部屋には違う嫁が・・・。

SF小説「フェッセンデンの宇宙」というのがある。自宅に宇宙を作って、それで実験して、中に住む生命を滅ぼすと言う話である。この場合は実験者自身が神になるので、上述の話とは少し違う。しかし小さな空間に、宇宙を作ると言う点では似ている。

2013-07-26 追加

ネットを調べていると、ここに紹介したと同じエッセイを紹介しているサイトに出くわした。「コンピュータが脳に追いつくと起こる7つのこと

 


松田卓也(まつだたくや)
1943年生まれ。宇宙物理学者・理学博士。神戸大学名誉教授、 NPO法人あいんしゅたいん副理事長、同付置基礎科学研究所副所長、中之島科学研究所研究員、ジャパン・スケプティックス会長。 1970年、京都大学大学院理学研究科物理学第二専攻博士課程修了。京都大学工学部航空工学科助教授、英国カーディフ大学客員教授、神戸大学理学部地球惑星科学科教授、国立天文台客員教授、日本天文学会理事長などを歴任。主な著書に「これからの宇宙論--宇宙・ブラックホール・知性」 (講談社ブルーバックス) 、 「正負のユートピア-人類の未来に関する一考察」 (岩波書店) 、 「新装版 相対論的宇宙論--ブラックホール・宇宙・超宇宙」 (共著、講談社ブルーバックス) 、 「なっとくする相対性理論」 (共著、講談社) 、 「タイムトラベル超科学読本」 (監修、 PHP研究所)、「2045年問題--コンピュータが人類を超える日」(廣済堂新書)など
   
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