病理学からみたがんとは?
● がんの分類の目的は予後を把握し治療の方針を立てるため ● 触診やエコーの検査後、疑いがあれば、組織学的に検査し分類する。ガンになった部分から細胞の塊を採取し、薄くスライスして染色し、観察する。正常な細胞とがん細胞では細胞の形態が違っている ● 組織学的ながんの分類とそれらの細胞でどのような遺伝子異常が起きているのかが関連づけられはじめたのは最近のこと。原因となる遺伝子の解明を受けて、がんの分類は変わりつつある。 ● 病理の基本を知る上でのおススメ本:「基礎病理学(ロビンス)」「がんの分子生物学(ペコリーノ)」(総論)、「がんの分子生物学(デヴィータ)」(腫瘍各論)など
組織学的にみたがんの種類とその特徴
● 例えば、甲状腺がんと一口に言っても組織学的に見て分類できる。乳頭がん、濾胞がん、未分化がん。ほとんどが乳頭がん。 ● 甲状腺がんで例に挙がった、乳頭がん、および濾胞がんは予後が良い。がんではあるが、進行が遅く、正常組織に近い形態を持っている。このようながん組織を、次に述べる未分化がんに対して、高分化がんとよぶ。 ● 甲状腺未分化がんは進行が非常にはやく、頸部にすぐに浸潤し、育った癌によって気管がつまる呼吸器不全などで発見から1年ほどで死に至る。 ● 一般的に分化の度合いが高いがんは進行が遅く、予後がよい。一方、未分化のがんは予後が悪い。進行が早く、悪液質(癌に限らず慢性炎症などでも起こる。食欲がなくなったり、蓄えた脂肪が癌細胞などにエネルギーとして使用されてしまうことで、やせ衰えて消耗状態になること)を経て死亡に至るまでが速い。 ● 高文化のものより、未分化がんの方が、後に述べる組織学的な悪性腫瘍の特徴が大きい。形もばらばら、核の肥大サイズもばらばら、細胞の並びも無秩序(臓器として機能するためには、ある程度秩序だった並びが必要)。核重積も多数見られる。 ● がんの予後については、がんの組織学的な種類とも関係するが、甲状腺未分化がんの例のように、がんがどこにできるかにもよる。他の例としては、胆管がんのようなものの場合、細い胆管ががんによってすぐに詰まってしまうため、黄疸が出やすい。また、周辺臓器と密接しているため、発見時にはすでに転移した進行がんであることがほとんどで、予後が悪い。逆に肝癌では、肝臓のがんではない部分の能力(予備能)が十分にあるため、がんを抱えたままでも肝機能が低下しにくく、切除や腫瘍内の血管を塞栓することでがんを兵糧攻めにするような治療を繰り返し行なうことができるため、死に至るまでの時間は長くなる。
組織学的に見た悪性腫瘍の特徴。予後の悪いがんは以下の特徴が大きい傾向にある。
● 細胞の大きさや形態が不規則になる(多形性) ● 核クロマチンの増加 ● 核が細胞質に対して増加する(N/C比。Nuclear/Citoplasmaの増加) ● 巨大核を持つ ● 1つの細胞に核がいくつも存在する ● 隣りの細胞と重なり合って見える(重積) ● 細胞が密に存在するようになる ● 被膜が周りにある場合、皮膜をやぶり、浸潤する など
甲状腺乳頭がんの細胞によく見られる組織学的特徴
● 核が透けて見える(スリガラス化) ● 核に溝ができる(核溝)
予後によるがんの状態の分類
● よくきく「ステージ」はこれまでの知見から見た予後を表す ● ステージは3つの基準から決まる。腫瘍のサイズ(T)、リンパ節への転移の度合い(N)、リンパ以外の臓器への転移の度合い(M) ● 但し、乳頭がんの場合、ステージに腫瘍のサイズが関係するのは45歳以上。それ以下については、腫瘍のサイズはあまり予後に影響しないとされる。また、45歳以下の乳頭がんは予後が良いため、ステージも1と2のみ。
子どものがん
● 子供のがんは大人のがんとは基本的には種類が違う。上皮がんは少なく、白血病や脳腫瘍が多い。ただし、脳腫瘍も大人のものとは発生元が違う。 ● 成人では甲状腺がんと診察されたことのない人であっても、剖検時に甲状腺潜在がんが見つかることは珍しくない。一般に上皮性腫瘍(いわゆる固形ガン)は小児では稀ではあるものの、甲状腺乳頭癌は小児にも発生することがある。
福島の健康調査(子供の甲状腺がん)について(あくまで勉強会で出た情報、意見)
● 調査方法(意図):先行調査(3.11の半年後から2年後に実施)でまだ放射線の影響が出る前の福島の状況を調べた。このときは、青森、長崎、山梨でも比較のため調査を行なっている。次に、本格調査(3.11の2年後以降)により、福島での状況を調べ、先行調査との比較より、福島原発事故による曝露分を割り出す。 ● 先行調査では30万人を調査(悪性ないし悪性疑いが115名)、本格調査では27万人を調査(悪性ないし悪性疑いが57名。14歳以下は14名。2016年3月31日現在)。 ● 現在の公式見解:多発は認めているが放射線由来であるかについてはまだ調査中としている。 ● 先行調査では年齢に応じて発症数が高くなっており、通常のがんの傾向と同じ。また、先行調査では福島と他県において差は無かった。 ● 本格調査では発症数と年齢の間に明らさまな関係は見られない。発症数は先行調査時より少ないが、先行調査でのがん発症数が調査対象者の年齢分のがん発生要因の蓄積によるものだと考え、本格調査では先行調査以降分での蓄積だと考えれば、少ない事自体は大雑把には妥当。本当に蓄積年数に応じているのか、そもそも蓄積年数だと思って処理をすべきなのか、といったことは検証し調べる必要がある。 ● 本格調査の結果において、対象者の曝露状況などを鑑みて結果を解析する必要がある。 ● 健康調査が良いことなのかに対する疑問の声が存在する。甲状腺における乳頭がんはそもそも非常に進行が遅く、命の危険が少ないことから、調査によって今までは発見されないような早期の段階で見つけ、切除することがよいかどうかには、考える余地がある。なぜなら、甲状腺は成長等に欠かせない甲状腺ホルモンを分泌する器官であるため、幼少期に取ってしまうことで弊害があり得る。甲状腺ホルモンを補う錠剤を飲むことでカバーできるが、実質、ティーンエイジャーに錠剤を毎日飲むことを徹底して指導するのは難しいという現場の声がある。
参加者の疑問
● 診断の精度は?1ミリ単位でサイズを分けるのは妥当かどうか。結節と膿胞で形が違うがどのようにサイズを決定するか? ● 先行調査と本格調査において診断技術の進歩からくる影響は? ● 健康調査の是非について、がんの専門家の意見はどのぐらい反映されているのか? ● チェルノブイリの子供の甲状腺がんではRETという遺伝子の異常が多かった。福島ではどうなのか? ● 調査対象者の3.11後の移動などのデータはあるのかどうか。
研究会の様子・(文責者の個人的な(感想
● 女性の参加者の多い研究会で、自己紹介時には「女性の生き方ガイド」の話などでも盛り上がりました。 ● 病理診断で実際にどのようなことからがんを判定しているのかをわかりやすく提示していただきました。
(文責:廣田)
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