事前討論 - NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion.html Mon, 29 Apr 2024 00:51:45 +0900 Joomla! - Open Source Content Management ja-jp 今中氏の質問回答について(事前討論 No. 7) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1127-discussion7.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1127-discussion7.html

今中氏の回答を公開するにあたって、今中氏から「あのQ&Aの中で、私は沢田先生の説を批判しています。それで、沢田先生の側にも反論なり弁明なりのチャンスがない形で、ただ私の意見のみが表にでるのはまずいような気がしています。坂東さんの方でその辺の配慮をお願いします。」ということでした。
そこで、再度沢田氏に今中回答文をお送りし、ご意見を伺いました。
以下、そのまま掲載させていただきます。私どもとしても、これ以上沢田氏に質問する必要はないと考えますので、これで議論は打ち切らせていただきます。

Q2 沢田氏の内部被曝説について、今中さんのご見解をお聞かせください。
     
A2 ●  沢田先生と私との関係ですが、沢田先生とは彼が『内部被曝説』をとなえ始めて以来何度も議論し、『個人的にはrespectしているが、彼の説はsupportしない』という関係にあります。
  ●  私流に言わせてもらえば、『遠距離で認められた脱毛や下痢は急性放射線障害であった』という仮説に基づく議論です。仮説の上にいくらりっぱな建物を作っても、仮説の確かさ以上にしっかりした建物にはなりません。
  ●  私は『Dosimetry屋』なので、沢田先生にはいつも『では、どういう放射線核種がどれだけ地表沈着して、人々がどの核種をどれだけ取り込んだのか』と聞いていますが、キチンとした答えはもらっていません。私の直感では、内部被曝で急性症状が出るくらいの放射能が地表沈着すれば、地表1mではべらぼうな空間線量率になると思っています。
     
今中氏の回答の問題点について(沢田昭二)
  
  1.被曝実態から学ぶ手段としての疫学的方法 
    今中氏は原爆放射線の物理学的測定とその物理学理論による解明ではきわめて重要な貢献をされ、その点では高く評価しています。しかし内部被曝影響を含めた研究では、内部被曝がきわめて複雑な現象であるため、物理学的方法には大きな限界があります。そこで被爆者の間に起こった被曝実態を反映させるためには生物学的方法、急性放射線症状の発症率、晩発性障害の発症率あるいは死亡率などから疫学の手法によって引出す方法、染色体異常の頻度、核磁気共鳴法による研究などが重要になります。
これらの生物学的方法の中で最も精度の高い被曝影響を明らかにするには多くの貴重な調査結果が発表されている急性症状が重要で、その結果を他の方法と比較することも重要です。しかし残念ながら、こうした急性症状は原爆放射線以外の原因で起こるという主張が、放射線影響研究所や厚生労働省によって執拗にくり返させられ、これが科学者にも大きな影響を与え、生物学的線量評価の研究が大きく立ち後れることになっています。この問題は2003年から開始された原爆症認定集団訴訟でいっそう鮮明になりました。
集団訴訟の国側の主張は、初期放射線がほとんど到達しない遠距離における脱毛の発症は放射線の影響ではなく精神的な障碍であると主張します。しかし具体的な説明はしていません。1945年には日本中の200の都市が空襲で焼け野原になりましたが、系統的な大量の脱毛の発症は広島や長崎以外には報告されていません。図1は典型的な急性症状である脱毛の発症率を1950年前後に原爆傷害調査委員会(ABCC)が調査した結果です。初期放射線は爆心地から2 km程度でほとんど無視できる線量になり脱毛を発症させる線量にはなりません。しかし、2km以遠でも発症率は小さくなりますが爆心地からの距離とともにゆっくり減少しています。すでにHPの私の報告に示しましたように、ABCCの脱毛発症率調査だけでなく、脱毛と脱毛以外のさまざまな急性症状の発症率の調査がありますが、すべて共通して爆心地からの距離とともに系統的に減少しています。
日本政府は原爆症認定裁判で下痢の発症は当時の衛生状態が悪かったためであると当時の衛生状態を示すデータを提出していますが、下痢の発症があっても、ホットスポット的にきわめてばらばらで、爆心地のように特定点からの距離に応じて系統的に減少しているものものはありません。
今中氏は 「『遠距離で認められた脱毛や下痢は急性放射線障害であった』という仮説に基づく議論です。仮説の上にいくらりっぱな建物を作っても、仮説の確かさ以上にしっかりした建物にはなりません。」と主張しています。急性症状の発症率の疫学的研究を進める場合に、これらの症状が放射線による影響であったか、放射線以外の影響であったかの検討が必要です。この場合には放射線による「影響があった」と放射線による「影響がなかった」の二者択一です。

今中氏のような立場では、被曝実態から被曝影響を何時までたっても明らかにできないで、実質上被曝影響を隠蔽する政策に利することになってしまいます、
放射線影響であったかどうかの仮説を立てるにあたっては、さまざまな検討を行い他に合理的な方法がないことを考慮し、さらに合理的な研究方法を考え、得られた結果の合理性を検討しています。こうして被曝実態から科学的に学ぶ手段が疫学的方法なのです。
     
  2.放射性降下物の影響評価における物理学的方法の限界
    放射性降雨がもたらし、地中に残留した放射性物質からの放射線量を測定しても、その他の風で移動していったり、原爆による大火災や台風の洪水で流失した放射性降下物がなかったので、測定結果が放射性降下物のすべてであるという証明にはなりません。『物理学的方法によって得られた結果以外にはない』というのも仮説です。しかし、これでは原爆症認定集団訴訟の原告が自らの体験を証言し、30余の判決で認められた被爆者の間に系統的に現れている症状という被曝実態を説明できませし、第1図に示した脱毛発症率を合理的に理解する道が閉ざされてしまいます。
広島と長崎以外には認められていない、爆心地からの距離とともに系統的に変化するさまざまな急性症状の発症率調査結果、しかも統計的な誤差を除いてほぼ同じ結果を与えている調査資料を疫学的に研究することは、「数学的な意味での証明」ではありませんが、きわめて高い信頼度で得られた結果は、事実として受けとめ、それを物理学的その他の方法でどのように理解するかを探る出発点と位置づけるべきだと思います。
     
  3.急性症状発症率の研究から学んだこと
    私の疫学的方法の中心的方法は、急性症状の発症率は被曝線量における正規分布であるということです。これも、動物実験などを通じて、数学的証明ではありませんが100%に近い信頼度で示され、論文や説明にも書きましたように、放影研のストラムと水野による図1の脱毛発症率(図の□印)から、初期放射線による脱毛発症率を求めた結果も、3グレイ以下の部分ではほぼ正規分布をしていること、京泉らの免疫機能を除去したマウスに胎児の頭皮を移植した実験からも、人間の脱毛発症率が正規分布をしていることを確かめて、もっともらしい正規分布を見出して図1の脱毛発症率を解析しました。こうして、貴重な被爆者の資料から、脱毛と紫斑と下痢の被曝線量と急性症状の発症率の関係を見出し、同時に原爆放射線による遮蔽効果を考慮した初期放射線被曝と放射性降下物による被曝線量を求めました。私が求めた放射性降下物による被曝線量は複雑な機構を持って発症させる内部被曝の場合、適切な物理学的方法による被曝線量の定義をすることができませんので、外部被曝と同じ急性症状の発症率を与える被曝線量という意味を持っているので、グレイよりもシーベルトで表現した方が適切だと思います。
ストラムと水野は図1の脱毛発症率から図1の◆で示した初期放射線による被曝影響を求めました。彼らは初期放射線の到達しないところの脱毛はバックグラウンドだとして発症率を遠距離では初期放射線による発症率がゼロになるように引き算をし、初期放射線被曝がゼロではないところも5%から40%も引き算して、距離によって引き算する発症率を変化させています。これが図1の□印と◆印の開きに相当します。通常バックグラウンドというのは全く放射線影響を受けていない集団(例えば日本人全体など)の発症率は一定値で、放射線被曝による脱毛の場合広島と長崎以外では実質上ゼロです。ストラムと水野は爆心地からの距離とともに変化させる発症率を差し引いていますから、彼らは放射性降下物による被曝影響であることは認識していたと考えられます。また、爆心地から1 km以内の◆印は48%と35%に下がっていますが、これはABCCが調査した寿命調査集団(Life Span Study群、LSS集団)は、1950年の国勢調査に基づいて主として広島市と長崎市に戸籍をおいている被爆者を選んだ集団であることから、半致死線量(被曝から60日以内に半数の人が死亡する線量)と呼ばれる1km以内で初期放射線だけで4グレイ程度以上を被曝したLSS集団の被爆者は、放射線抵抗力が強く5年以上生き延びることのできた人だけであるために脱毛発症率が100%ではなく、76%とか63%であったものから、これからさらにストラムと水野がバックグラウンドとして28%を差し引いたためです。また、爆心地から1 km以内で生き残った被爆者はきわめて稀で、調査人数も少ないこと、放射性降下物の影響を少しでも考慮すれば脱毛の発症率は100%に達することも考慮して疫学研究の解析範囲からはずしました。
紫斑と脱毛の発症率が広島でも長崎でも爆心地からの距離とともに、ほぼ同じように減少していくことは、紫斑が放射線被曝以外には説明できない(国側も紫斑については何も主張しません)ことから、脱毛の発症が放射線影響であることを裏付けています。 下痢は外部被曝の場合、透過力の強い放射線のかなり高線量被曝でなければ発症しないことはよく知られています。原爆被爆者の場合も、近距離の透過力の強い初期放射線被曝が主要な被曝影響である爆心地から1 km未満の地域の被爆者の場合には脱毛や紫斑に比して発症率が低いことがこれを示しています。ところが、初期放射線被曝が小さくなる爆心地から1.5 km以遠では、下痢の脱毛や紫斑の発症率の数倍の発症率になります。このこは、放射性降下物の被曝の主要な影響が内部被曝であることを示しています。下痢の発症率から推定した放射性降下物による被曝線量と脱毛と紫斑の発症率から求めた放射性降下物による被曝線量がほとんど同じ被曝線量になったことは、初期放射線の到達しない遠距離における急性症状の発症が放射性降下物によるものであり、内部被曝が主要な影響を与えたことを示しています。
このようにして、被曝実態である急性症状の発症を放射線影響であると仮定して出発して疫学研究を進めていけば、ますます放射線影響であることを色々な角度から裏付けることになりました。得られた結果を他の生物学的方法で得られた結果とも比較して、相互に納得のいく結果が得られていると思います。
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事前討論 Mon, 27 Aug 2012 00:10:52 +0900
今中氏への質問と回答(事前討論 No. 6) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1126-discussion6.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1126-discussion6.html

今中氏からのメールによるご回答を、一瀬氏がQ&A形式にまとめたものです。

Q1 今中さんはDS02の作成に関わられたそうですが、残留放射線の効果が取り入れられなかった経緯について詳しく知りたいのですが。
     
A1 ●  私は、DS02策定にあたった日米WGのメンバーだったので、DS02には責任を感じていますし、DS02が(LSSコホートにかかわる)原爆線量推定方式として不適切であるとすればその旨を発表すべきだと思っています。
  ●  DS02の対象は、『放影研LSSコホートの解析に使うための被曝線量推定方式』であって、誘導放射能・放射性降下物(残留放射能)を含めた一般的な『広島・長崎原爆線量評価方式』ではありません。
  ●  残留放射能については、DS86の際に長崎大学の岡島先生がまとめられた章があります(いろいろ批判がありますが、私はいい仕事だと思っています)。
  ●  早期入市者については、最近のLSSではリスク解析の対象になっていません。”黒い雨”については、(LSSコホートの大部分が被曝時にいた)広島市内デルタ地域では『大きな線量ではなかった』ということで、DS86では考慮されず、DS02でもそれが踏襲され、DS02の策定でとくに議論はされていません。
  ●  DS02策定後に、誘導放射線や黒い雨線量がどれくらいであったのか、キチンと見積もっておく必要があるということで、私なりに残留放射能の再検討というようなことをやっています
     
Q2 沢田氏の内部被曝説について、今中さんのご見解をお聞かせください。
     
A2 ●  沢田先生と私との関係ですが、沢田先生とは彼が『内部被曝説』をとなえ始めて以来何度も議論し、『個人的にはrespectしているが、彼の説はsupportしない』という関係にあります。
  ●  私流に言わせてもらえば、『遠距離で認められた脱毛や下痢は急性放射線障害であった』という仮説に基づく議論です。仮説の上にいくらりっぱな建物を作っても、仮説の確かさ以上にしっかりした建物にはなりません。
  ●  私は『Dosimetry屋』なので、沢田先生にはいつも『では、どういう放射線核種がどれだけ地表沈着して、人々がどの核種をどれだけ取り込んだのか』と聞いていますが、キチンとした答えはもらっていません。私の直感では、内部被曝で急性症状が出るくらいの放射能が地表沈着すれば、地表1mではべらぼうな空間線量率になると思っています。
     
Q3 黒い雨とその影響について、どれくらいわかっているのですか?
     

A3

●  「広島黒い雨研究会の中間報告」の中で私は、日本人科学者による原爆直後の放射線サーベイをレビューしましたが、理研グループ、京大グループ、阪大グループによって質の高い調査が行われています。その範囲では、爆心地近辺の誘導放射能と己斐・高須近辺の黒い雨地域を除き、大きな残留放射能は観察されていません。DSを批判されている方々は、『枕崎台風で放射能が流れた』といっておられますが、私の記憶では、広島では、原爆後の数週間は雨らしい雨はなかったはずです。
  ●  繰り返しになりますが、私の話は、Dosimetry屋として、『Gy単位の全身線量をもたらすほどの残留放射能が市内全域にあった』という説には乗れません、ということであって、急性放射線症状なり、それに似たような症状があったということを否定するものではありません。

※「広島原爆“黒い雨”にともなう放射性降下物に関する研究の現状」(2010),http://city.youth-service.com/01publication/0301BlackRain2010.pdfのp.11に、今中氏の「広島原爆直後に行われた放射能調査活動」が収録されている。

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事前討論 Sun, 26 Aug 2012 22:17:39 +0900
沢田昭二氏の回答(事前討論 No. 5) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1125-discussion5.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1125-discussion5.html

沢田氏から回答がとどきました。質問の意図を正確に受け止めておられない回答ですがそのままご紹介します。
なお、長文の付属資料が寄せられましたが、これはこちらで見ることができます。

沢田論文[1]への質問への回答

沢田昭二

8月に入って核兵器のない世界を実現させるために広島に来て、連日忙しい日々を送っています。明日からは長崎に行き13日頃までさまざまな行事で埋まっています。そのため丁寧にお答えする時間が取れないので、大まかなお答えになることをお許しください。

1)脱毛や下痢の原因は、必ずしも内部被曝だけに特定出来ないのではないかと考えられますが、論文で内部被曝と断定されている根拠は何でしょうか?論理がつながっていないようにも思われますが。

A1) 英文では読み飛ばされてしまうかも知れませんので、和訳した論文(一部省略)を添付します。なお、英文論文は節の番号が抜けていますのでご注意ください。論文の最初から放射性降下物による被曝がすべて内部被曝であるとして出発してはいません。初期放射線による被曝は瞬間的な外部被曝です。放射性降下物からの被曝が主に内部被曝であることを明らかにする議論は、§5 3種の異なる急性症状発症率から推定した放射性降下物による被曝の比較において、急性症状の脱毛と紫斑の発症率の爆心地からの距離依存性と下痢の発症率の爆心地からの距離依存性を比較して明らかにしています。§5では於保源作さんの屋内被爆で3ヶ月間爆心地に出入りしなかった被爆者の調査結果を用いました。これは屋外被爆では熱線による火傷の影響があり、これとの混同を避けるためです。また中心地に出入りした場合には中性子による誘導放射化物質の放射線による被曝影響が加わるのでこれも避けました。その3種の発症率を示したのが図6(Fig. 6)です。
図6に示されているように、脱毛と紫斑は爆心地からの距離とともにほぼ同じように変化しています。ところが下痢は爆心地から1 km以内では発症率が小さかったのに、1.5 kmを越えると逆転して、下痢の発症率が脱毛や紫斑の発症率の数倍になっています。この論文では扱っていませんが長崎原爆の場合も同様、脱毛と紫斑の発症率は爆心地からの距離とともに同じように変化していますが、遠距離で下痢の発症率が脱毛や紫斑の発症率の数倍になっています。爆心地から1 km以内の初期放射線被曝が主要な被曝を与えた近距離では瞬間的な外部被曝です。爆心地から1.5 kmを越える放射性降下物が主要な影響を与える遠距離で下痢の発症率が脱毛と紫斑の発症率より大きくなることを説明するためには以下のように、放射性降下物による被曝が内部被曝であることを求めています。
放射線被曝による下痢の発症は腸壁細胞が傷害を受けて剥離することによるとされていますが、外部被曝において腸壁まで到達できる放射線は、透過力が強いガンマ線と中性子線です。中性子の透過力が強いのは、中性子が電荷を持たないために生体内物質の原子核に衝突するまで電離作用をしないためです。ガンマ線の透過力が強いのは、生体内を通過中にガンマ線の量子である光子が密度の疎らな電離作用をおこなうので、光子のエネルギーの損失が少ないためです。そのため、薄い腸壁の細胞に到達できても、腸壁細胞にあまりダメージを与えないて通過するため、かなり高線量でなければ下痢は発症しません。このことが論文の図6の爆心地から0.75 km以内の下痢の平均発症率を示す0.5 kmのデータに現れています。脱毛は100%の発症率、紫斑は66.5%に対して、下痢は3.3%です。当時近距離被爆者で下痢を発症したら、もう死ぬと言われたのは、下痢がかなりの高線量を被曝したことを意味していたからでした。
爆心地から1 km以内の初期放射線被曝に対し、1.5 km以遠では放射性降下物による被曝が主要な被曝影響を与えていることが脱毛の発症率の解析から示されており、放射性降下物による外部被曝では到底下痢を発症するとは考えられません。脱毛や紫斑より数倍の下痢の発症率を説明するためには、腸壁の細胞に放射性降下物の微粒子が付着するか、呼吸などを通じて血液中に入って腸壁の毛細管から細胞に密度の高い電離作用するベータ線あるいはアルファ線を放出して被曝させたと考えられます。
こうした考察を背景に、初期放射線被曝に対する下痢の発症率は脱毛の場合よりも高線量被曝を要する正規分布の関係を用い、放射性降下物による場合は低線量で発症する正規分布を用いました。こうして結果が図6のフィットした破線(脱毛)、実線(紫斑)および鎖線(下痢)の曲線です。こうしてフィットしたときの被曝線量が図7(Fig.7)です。図7に見られるように脱毛、紫斑および下痢の3種の急性症状の発症率をほとんど重なった初期放射線被曝線量と放射性降下物による被曝線量を得ました。放射性降下物による下痢の発症は内部被曝以外では説明できません。その下痢に対する放射性降下物による被曝線量と脱毛と紫斑が共通の被曝線量であることは脱毛も下痢も内部被曝であることを示しています。

2)黒い雨を頭に浴びた場合に、ベータ線熱傷により、脱毛症に至るものと思われます。つまり、脱毛は全身被曝ではなく局所的な被曝の可能性が大きいのに、それから換算した線量を、DS02で計算した実効線量と重ねるのはおかしくはないでしょうか。

A2)脱毛の発症が頭髪だけという誤解があります。放射線被曝による脱毛は頭髪だけでなく体中の毛の基部が細くなって脱毛となります。とくに初期放射線がほとんど到達しない距離の屋内で被曝した人も脱毛を発症していることを理解するためには放射性降下物の微粒子を呼吸や飲食を通じて体内に摂取したことによる内部被曝でなければ説明できません。ビキニ事件の第五福竜丸の乗組員が鉢巻きやベルトのところに放射性カルシウムの灰が貯まってベータ線火傷をしましたが、脱毛はそれ以外の全身の部位に発症しているので、灰のように目に見えるものの他に大量の放射性微粒子が充満していて、それを呼吸などを通じて体内に摂取して毛根細胞に接する毛細血管で運ばれた放射性微粒子からの放射線によって脱毛を発症したと考えられます。質問の「それから換算した線量を」の意味が不明です。脱毛が頭皮の局所的被曝によるというのは誤解です。頭皮に照射しないがんの放射線治療でも脱毛が起こります。

3)京泉氏らのマウスに植皮した頭皮の脱毛のデータを、そのままヒトにあてはめて、線量に換算されていますが、これは正当化できるのでしょうか。また、マウスを免疫不全にしての実験ですが、生きているヒトは、免疫不全ではありません。免疫不全のマウスと、免疫機能のあるヒトとの違いについての考察はありますか。

A3)放影研の京泉らは死亡した胎児の頭皮をそのまま移植して頭髪が人間のように日時的に成長するかどうかも調べています。移植した頭皮を免疫不全にするようなことはしていません。

4)1.5km以上のところでの線量が1Gy以上も高いはずだという結論だとすると、この線量を過小評価していたDS86やDS02の放射線リスクの評価は、実は「もっと高い線量のリスクだったはずで、低線量では大して症状は出なかったということになります。なのに、この論文から、内部被曝のことや低線量の放射線のリスクの危険性を強調するのは、ご自分の論文とは異なる主張になるのではないでしょうか。

A4)原爆の放射線被曝による影響を知るための相対リスクを求めるためにはその放射線に被曝していない集団の死亡率や発症率を用いなければなりません。放影研のように初期放射線被曝線量によって寿命調査集団(LSS)を区分すれば、広島では2.75 km以遠の遠距離被爆者は初期放射線被曝線量が0から0.005 Svの1つの区分にまとまって入ります。相対リスクを得るために回帰直線の被曝線量ゼロの死亡率や発症率として放影研では初期放射線ゼロのところの死亡率と発症率を用いますが、その値は実質上、初期放射線ゼロのところに接している初期放射線被曝線量が0から0.005 Svの区分の値になります。この区分の被爆者はLSSの広島集団の脱毛発症率から求めたように0.8 Svから1.15 Svの放射性降下物による被曝をしています。広島大学の原爆放射線医科学研究所の広島県内居住被爆者と非被爆者の死亡率の比較研究において、2km以遠の直爆被爆者の方の男女合計の悪性新生物による年間死亡率は0.290に対し、1.5 kmから2kmの直爆被爆者の場合は0.272で悪性新生物による死亡率がやや大きくなっています。非被爆者の場合は0.164です。地域的影響があるとしても、相対リスクを求めるとき、0.290を分母にするか0.164を分母にするかで大きな違いが生まれます。放射性降下物による被曝影響を受けている遠距離被爆者を比較対照群(コントロール)にするときわめて大きな過小評価をすることになります。こうした問題を詳しく論じた報告を参照して下さい。

5)内部被曝について、β線がγ線と比較して危ないといわれるのはどういう根拠でしょうか?データはあるのでしょうか?(これはrefSには書いていないが、別のところで「ICRPが,内部被曝に対してベータ線のRBEを1とすることには疑問がある」と表明されています[2]

A5)下痢を発症させるのにγ線はかなり高線量を要するのに対し、放射性降下物による下痢の発症が比較的容易に発症させる、その違いは透過力、あるいは線形エネルギー遷移LETの違いによる以外に説明できないと思います。内部被曝におけるγ線とβ線のRBEを共通に1とすることは、下痢については適用できないことを示しています。内部被曝では取り込んだ放射性物質の元素、微粒子の大きさ、水溶性か非水溶性かなどによって、また考える傷害によってかなり違いがあり、一律には定義できないと思います。ホールボディカウンターでγ線を測ってたいない被曝の影響を加味してシーベルトにする場合にも注意を要することです。

6)遠距離の被爆者に脱毛などの症状の報告には、聞き取り調査時の記憶違いや、結婚差別を恐れて遠距離の方に申告した等のヒューマン・ファクターがあることが指摘されています。これを十分に考慮した上で、原因が内部被曝であると結論されているのでしょうか。

A6)脱毛調査結果について私の論文にはさまざまな調査結果を比較して、ほぼ共通の結論を得ることを示しています。原爆症認定集団訴訟において、国側の主張や国側の証言をした科学者は、被曝実態を示すさまざまな調査資料に基づくことを回避する手段として、あるいは自分たちがこうした被曝実態を示す貴重な調査結果に基づいて真面目に研究してこなかったことの言い訳の代りに、調査結果は信用できないという根拠にヒューマンファクターを持出してきました。思い違いやヒューマンファクターが全くないとは言えませんが、調査時期や調査方法が異なるさまざまな調査結果がほぼ共通した結果を引出していることは、調査資料全体として信頼できると思います。被爆者が急性症状を発症すると、今度は自分が死ぬ番になったのかと深刻に捉えました。こうしたことを忘れるようなことはありませんし、むしろ言いたくないという影響も遇ったと思います。


[1] S. Sawada, “Estimation of Residual Nuclear Radiation Effects on Survivors of Hiroshima Atomic Bombing, from Incidence of Acute Radiation Disease”, Bulletin of Social Medicine, 29(1), (2011). (refSとよぶ) http://jssm.umin.jp/report/no29-1/29-1-06.pdf

[2]「日本の科学者」2011年6月号 http://peacephilosophy.blogspot.jp/2011/04/blog-post_20.html
また、岡本良治氏のHPに「2011年3月19日沢田昭二氏よりご教示あり」として、次の記述がある。「放影研の疫学研究に大きく依拠してきた国際放射線防護委員会ICRPは内部被ばくを軽視してきて、現在の原発事故も含めて大気中に漂うミクロンサイズ以下の放射性微粒子を呼吸で摂取することは全く考慮しないで、CT検査で浴びる放射線と比較して影響は小さいとしています。測定されているのはガンマ線で、内部被ばくは摂取した放射性微粒子からは主にベータ線でベータ線は密度の高い電離作用をするので透過力の強いガンマ線よりはるかに大きな影響を与えることは全く配慮していません。」

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事前討論 Sun, 05 Aug 2012 23:49:48 +0900
沢田論文への質問(事前討論 No. 4) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1124-discussion4.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1124-discussion4.html

<質問を出すに至った経緯>

私たちは、研究会に先立って、内部被曝や福島の状況把握について議論を深めるために、広島・長崎⇔チェルノブイリ⇔福島の比較検討を行いました。これまでのデータの検討と問題点を明らかにするためです。このとき、最近やっと採択に至ったといわれる、沢田さんの論文を丁寧に読みました。
その中で、内部被曝の危険を訴えておられるのですが、いろいろと不明な点が出てきました。学術誌に投稿された欧文の論文ですので、科学的な事実に基づいて書かれているはずなので、検討することにしたものです。

沢田氏には

湯川秀樹を始祖とする京都大学基礎物理学研究所の行う研究会は、立場を超えてお互いに科学的な真実を追求するための研究会です。立場は異なる科学者が一堂に会する機会が滅多にないのは非常に残念に思っております。実り多い議論ができますことを期待しております。ご多忙とは存じますが、どうか万難を排してご参加いただくことを心より期待しております。

世話人代表

というお願いを世話人としていたしました。

これに対して沢田さんからは、「8月の上旬は原水爆禁止世界大会で、12日までは塞がっています。今手を抜くわけには行きませんので、8日から10日は残念ですが無理」というお返事をいただき、そこに、意見が述べられていました。

残留放射線による被曝影響は無視できる、内部被曝と外部被曝は同じだとかという立場は、多くの貴重な被曝実態を示す資料から、科学的に真実を引出そうとしないで、広島と長崎の爆心地から系統的に、しかもかなりの人数で起こっているさまざまな急性放射線症状を放射線以外の原因だと言いながら、具体的に科学的な研究をしてこなかった人たちで、お送りした私の仕事を理解しようとしないで、科学的な考察もしないで否定することにきゅうきゅうとしている人たちです。
変な先入観にとらわれて、思考停止をしないで、被曝実態を認め、私の行ったような研究をすれば、誰れでもほぼ同じ結論に到達する筈です。
これまでの放射線影響研究所の結果にそのまま従属して、内部被曝の特質を考慮しないで、外部被曝と同じだとするICRPの意図的な怠慢に従属しているのは、科学的姿勢の根幹を忘れているとしかいえません。

沢田昭二

私たちは、このようなご意見を補うため、事前討論で、皆さんに、このご意見について、できるだけ公平に議論できるよう、勉強し、事前討論に資することにしたものです

坂東昌子・真鍋勇一郎・一瀬昌嗣(+LDM出席メンバー) 


 

沢田論文[1]への質問

(文責:坂東、一瀬、真鍋)

1)脱毛や下痢の原因は、必ずしも内部被曝だけに特定出来ないのではないかと考えられますが、論文で内部被曝と断定されている根拠は何でしょうか?論理がつながっていないようにも思われますが。

2)黒い雨を頭に浴びた場合に、ベータ線熱傷により、脱毛症に至るものと思われます。つまり、脱毛は全身被曝ではなく局所的な被曝の可能性が大きいのに、それから換算した線量を、DS02で計算した実効線量と重ねるのはおかしくはないでしょうか。

3)京泉氏らのマウスに植皮した頭皮の脱毛のデータを、そのままヒトにあてはめて、線量に換算されていますが、これは正当化できるのでしょうか。また、マウスを免疫不全にしての実験ですが、生きているヒトは、免疫不全ではありません。免疫不全のマウスと、免疫機能のあるヒトとの違いについての考察はありますか。

4)1.5km以上のところでの線量が1Gy以上も高いはずだという結論だとすると、この線量を過小評価していたDS86やDS02の放射線リスクの評価は、実は「もっと高い線量のリスクだったはずで、低線量では大して症状は出なかったということになります。なのに、この論文から、内部被曝のことや低線量の放射線のリスクの危険性を強調するのは、ご自分の論文とは異なる主張になるのではないでしょうか。

5)内部被曝について、β線がγ線と比較して危ないといわれるのはどういう根拠でしょうか?データはあるのでしょうか?(これはrefSには書いていないが、別のところで「ICRPが,内部被曝に対してベータ線のRBEを1とすることには疑問がある」と表明されています[2]

6)遠距離の被爆者に脱毛などの症状の報告には、聞き取り調査時の記憶違いや、結婚差別を恐れて遠距離の方に申告した等のヒューマン・ファクターがあることが指摘されています。これを十分に考慮した上で、原因が内部被曝であると結論されているのでしょうか。


[1] S. Sawada, “Estimation of Residual Nuclear Radiation Effects on Survivors of Hiroshima Atomic Bombing, from Incidence of Acute Radiation Disease”, Bulletin of Social Medicine, 29(1), (2011). (refSとよぶ) http://jssm.umin.jp/report/no29-1/29-1-06.pdf

[2]「日本の科学者」2011年6月号 http://peacephilosophy.blogspot.jp/2011/04/blog-post_20.html
また、岡本良治氏のHPに「2011年3月19日沢田昭二氏よりご教示あり」として、次の記述がある。「放影研の疫学研究に大きく依拠してきた国際放射線防護委員会ICRPは内部被ばくを軽視してきて、現在の原発事故も含めて大気中に漂うミクロンサイズ以下の放射性微粒子を呼吸で摂取することは全く考慮しないで、CT検査で浴びる放射線と比較して影響は小さいとしています。測定されているのはガンマ線で、内部被ばくは摂取した放射性微粒子からは主にベータ線でベータ線は密度の高い電離作用をするので透過力の強いガンマ線よりはるかに大きな影響を与えることは全く配慮していません。」

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事前討論 Thu, 02 Aug 2012 17:56:25 +0900
稲村卓氏の意見(事前討論 No. 3) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1122-discussion3.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1122-discussion3.html

2日目のテーマである低線量放射線の影響について、当初講演依頼をしていた稲村卓氏(原子核物理学専攻理学博士・元理化学研究所研究員・前ワルシャワ大学客員教授)が、ご都合で来れないということで「紙上討論」という形で投稿してくださいました。議論の参考にしていただきたいと思います。

 確率的微分方程式と閾値

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事前討論 Mon, 30 Jul 2012 20:44:14 +0900
丹羽太貫氏の回答(事前討論 No. 2) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1121-discussion2.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1121-discussion2.html

丹羽太貫氏への質問(事前討論 No. 1)質問に、丹羽太貫氏が回答しました。
青字部分が丹羽氏の回答です。

2012. 7. 18(水)

小沢洋一 さま

お便り拝見いたしました。たいへん緻密に調べておられることに敬服いたします。私はこれまで一貫して基礎研究をやってきたので、防護についての知識はそれほどではありませんが、お答えできる範囲で、返事を青字で記載しております。よろしくお願いいたします。

丹羽太貫

疑問1 ICRP1977年勧告で低減係数2を導入という重要事項について、勧告書の本文で具体的に明記しなかったのはなぜなのでしょうか。経緯をご存じでしたら教えて頂けないでしょうか。

お答え 本文でなぜ詳しい説明がないかについて、残念ながら私には知識がありません。

疑問2 ICRP1977年勧告には、国連科学委員会の1977年報告に基づいて、低減係数2を導入したとは書かれていません。この事実が書かれているICRPの文章は存在するのでしょうか。それとも、ICRPの公開資料には存在しないのでしょうか。

お答え ご指摘が正しいです。私はICRPの勧告が国連科学委員会報告に基づいていると思い込んでおり、また実際に国連科学委員会1977報告において、低線量での効果の低減が言及されていますので、この2つを疑問なく結びつけました。この低線量での低減について言及されている部分は、1977年国連科学委員会報告のAnnex Gのパラグラフ318のセンテンスです。現在でもそうですが、ICRPは、放射線の科学情報に関して国連科学委員会報告を参考にしていますので注目していたはずだからです。
なお、Stather 先生はすでに定年で退職しておられますが、国連科学委員会にも毎回出席しておられた方で、かつ研究者としても有名です。過去の経緯についてご存知だと思いますので、彼がなぜこのような書き方をしているのかを、お尋ねしたいと思います。

疑問3 国連科学委員会の1977年報告のどこに、低減係数2が妥当と書かれているのでしょうか。私なりにまとめましたが間違いないでしょうか。文末脚注に根拠となる出典を上げてあります。

お答え UNSCEAR 1977年報告の紹介として問題ないでしょう。ひとつご理解いただきたいのは、白血病以外のがんについてのリスク推定についてです。固形腫瘍は、潜伏期が長いために(恐らく放射線被ばく以外の他の要因を必要とするため)1977年当時では、原爆被爆者のリスク推定で将来予測の不確かさが大きかったことです。そのために、白血病を基本にした推定を行っていました。

疑問4 ICRP1977勧告の採択された後にUNSCEAR 1977 REPORTが発表されている様に思います。先のICRP1977勧告が後のUNSCEAR 1977 REPORTに基づくというのが可能なのかでしょうか。あらかじめ、UNSCEAR 1977 REPORTの内容がICRPには分かっていた、あるいは同時進行ということなのでしょうか。

お答え ご指摘の点、まったく気付いていませんでした。唯一私が申し上げることができるなら、国連科学委員会の報告は、年1回のウイーンでの会合で100人以上の研究者が世界から集まり、喧々諤々の議論のうえ採択されます。しかし実際に報告として出るのはそれから1年、あるいはさらに時間がかかることが多いです。この議論の中で、多くの研究者は報告書の内容を知りますし、ICRPの委員も相当の知識を得ていることは、大いにありうることです。現在でもそうですが、ICRPは、放射線の科学情報に関して国連科学委員会報告を参考にしていますので注目していたはずです。ともあれ、正式な刊行日と実際の議論がもたれた年月日にズレがあったと推察されます。

疑問5 ICRP1990年勧告に、1977年勧告で低減係数2を導入していたことを記載されなかったのはなぜでしょうか。1990年勧告の74項には、1977年勧告に低減係数を導入したことが書かれていません。1990年勧告の付属書B32項にも、「DDREFとしては、2と2.5をもちいたUNSCEAR(1977)」とは記述されていますが、1977年勧告に低減係数を導入したことは記載されていません。ICRP2007年勧告70項にも、「1990年勧告で、放射線防護の一般的な目的にはDDREF=2を適用すべきであるという大まかな判断を下した。」とだけ記述され、1977年勧告で低減係数2の導入をしたことには触れられていません。

お答え DDREFの概念が、aD + bD^2/aDとしてはっきり成立したのが、1990年勧告であったので、過去のものを引用しなかったのではないかと思います。ただこれは丹羽の個人的な判断です。機会があれば、古いことを知っている友人に問い合わせようと思います。

疑問6 1977年勧告での低減係数2と1990年勧告で導入されたDDREF=2との間には連続性がないのでしょうか。1990年勧告でDDREF=2の妥当性を検討する際に根拠とされているのは、1977年勧告以降の論文・データばかりです。

お答え 私自身、小沢さんほどの厳密な検討をしたことがないので、ご指摘にあるような「1977年勧告以降の論文・データばかり」については知っておりませんでした。連続性という点では、線量率が低いと効果が低くなることは、1977年以前から動物実験で知られていました。しかしヒトでのデータ、特に被爆者研究で低線量域での線量効果関係の詳細が明らかになってきたのは、1980年になってからです。そのため「1977年勧告以降の論文・データばかり」になったのではないでしょうか。

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事前討論 Fri, 27 Jul 2012 17:40:59 +0900
丹羽太貫氏への質問(事前討論 No. 1) https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1120-discussion1.html https://www.jein.jp/activity-report/symposium/nbp2012/pre-discussion/1120-discussion1.html

2日目の講演者である丹羽太貫氏(京都大学名誉教授・ICRP委員)に、氏の講演テーマ「疫学データから見た放射線発がんの機構と幹細胞の役割」
に関連して、参加者の小沢洋一氏(仮説実験授業研究会)から質問と関連資料が届きました。

丹羽 太貫 様

 初めまして。

 仮説実験授業研究会の小沢洋一と言います。

 元東京都都立高校物理教員で、現在は退職して主夫業をしながら、地域で子どもから大人まで科学を楽しんで頂けるような場を作ったり、障害をもった教え子たちをサポートしたりしています。

 昨年の地震・津波・原発事故以降、子どもから大人まで安心して学べる放射線教育教材作りに関わるようになりました。それ以降、放射線の文献と格闘する毎日になりました。最近のICRP勧告書だけでなく、過去のPublicatioや国連科学委員会報告についても、アイソトープ協会の図書室を利用させて頂けたお陰で目を通すことができました。その中で、どうしても私には解決できない疑問点が見つかりました。数人の詳しい方にもご相談しましたが、分かりませんでした。

 そんな時、「放送倫理・番組向上機構への提訴状」をサイトで拝見し、私が解決できないで困っていた疑問点の手掛かりを見つけました。また、「基研主導研究会2012-原子力・生物学と物理」で講演されることも知りました。基研主導研究会で、質問させて頂くことも考えましたが、時間的に難しいと思われるため、事前に、事務局を通じて連絡を取らせて頂くことを思いつきました。

 私がどこまで調査したかについては、添付した資料の方に詳しくい書いてありますが、目を通すのは大変だと思いますので、必要な部分は、質問に転載しました。(転載した添付した資料の脚注がそのまま手紙にも転載されています。一部、原典で未確認の部分が赤字になっています。)

 大変、お忙しいとは思いますが、ご教授頂けると幸いです。

 以下が、教えて頂きたい疑問点です。

疑問1 ICRP1977年勧告で低減係数2を導入という重要事項について、勧告書の本文で具体的に明記しなかったのはなぜなのでしょうか。経緯をご存じでしたら教えて頂けないでしょうか。

 ICRP1977年勧告での低減係数の説明は、下記の部分だけでです。

(29)しかし、多くの例では、リスクの推定値は、高線量率で与えられたもっと高線量の照射から導き出されたデータによっている。これらの例においては、小線量あるいは低線量率で与えられた線量での被曝における単位線量あたりの効果の頻度のほうがより低くなりそうである。それゆえ、リスクの相違がおそらくあるということを斟酌するための係数をこれらの推定値にかけて、その値を減らすのが適切であろう。後に議論するリスク係数は、したがって、できるかぎり実際に放射線防護の目的に適用できるように選定されている。『ICRP1977年勧告』p.12

疑問2 ICRP1977年勧告には、国連科学委員会の1977 年報告に基づいて、低減係数2を導入したとは書かれていません。この事実が書かれているICRPの文章は存在するのでしょうか。それとも、ICRPの公開資料には存在しないのでしょうか。

 私が確認できたのは、下記の論文までです。この論文も、結論だけで、根拠は示されていません。

Stather,J.w.: Dose and Dose Rate Effectiveness Factor, Radiological Protection Bulletin (NRPB) No.115,13-18( 1990)

A DDREF of 2 was used by ICRP in 1977 for assessing the risks of cancer induction  for radiological protection purposes based on conclusions by UNSCEAR.  (Radiological Protection Bulletin (NRPB) No.115,p.17)

疑問3 国連科学委員会の1977 年報告のどこに、低減係数2が妥当と書かれているのでしょうか。私なりにまとめましたが間違いないでしょうか。文末脚注に根拠となる出典を上げてあります。

国連科学委員会の1977年報告の発がんリスク評価

1977年当時、国連科学委員会では、白血病と他の組織の致死的なガンの発生は、白血病の約5倍と考えられていました。各器官の個々の致死がんリスクを足し合わせて全体のリスクを求めるのは不適切とされていました。個々の致死がんリスクには誤差も大きかったようです。[i]

高線量では、白血病のリスクを0.5%/Svぐらいとしているので、全体のリスクは2.5%/Svと見積もっています。低線量では、白血病のリスクを0.2%/Svとしているので、全体のリスクを1%/Svと見積もっています。[ii]ですから、国連科学委員会1977年報告では、高線量の半分よりも小さく見積もっていたことになります。

また、動物実験の結果として、低線量率での放射線の影響が半分になると推定できるとも書かれています。[iii]

ただし、1977年当時、科国連科学委員会のデータも研究途上だったようです。[iv]

疑問4 ICRP1977勧告の採択された後にUNSCEAR 1977 REPORTが発表されている様に思います。先のICRP1977勧告が後のUNSCEAR 1977 REPORTに基づくというのが可能なのかでしょうか。あらかじめ、UNSCEAR 1977 REPORTの内容がICRPには分かっていた、あるいは同時進行ということなのでしょうか。

出版物の発行の日付は実態を表さないこともありますが、UNSCEAR 1977 REPORT SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATIONの出版は1977.7.5の様です。ICRP1977勧告は、1977.1.17に採択されています。

疑問5 ICRP1990年勧告に、1977年勧告で低減係数2を導入していたことを記載されなかったのはなぜでしょうか。1990年勧告の74項には、1977年勧告に低減係数を導入したことが書かれていません。1990年勧告の付属書B32項にも、「DDREFとしては、2と2.5をもちいたUNSCEAR(1977)」とは記述されていますが、1977年勧告に低減係数を導入したことは記載されていません。ICRP2007年勧告70項にも、「1990年勧告で、放射線防護の一般的な目的にはDDREF=2を適用すべきであるという大まかな判断を下した。」とだけ記述され、1977年勧告で低減係数2の導入をしたことには触れられていません。

疑問6 1977年勧告での低減係数2と1990年勧告で導入されたDDREF=2との間には連続性がないのでしょうか。1990年勧告でDDREF=2の妥当性を検討する際に根拠とされているのは、1977年勧告以降の論文・データばかりです。

 こうした疑問点を解決し、史実を一つ一つ明らかにした上で、確実な事実に基づいて「放射線とその影響」というテーマでの放射線教育教材作りに活かしたいと思っています。

 よろしくお願い致します。

2012.7.17(日)
小沢 洋一      

 

[i] 「237.放射線によって、その他の器官に誘発される癌のリスクについては、ある非常に妥当な値が示されているが、全発癌リスクは、各器官個々からそれへの寄与を和すことでは得られない。」p.467「247.(前略)全ての悪性疾患による終局的な総死亡数は、白血病のみによるしれの4~6倍であろう。」p.471「(致死的悪性疾患の全危険度に関する)この推定は身体各器官のリスクを加算しても確実に得られない。なぜならばある部分、とくに低い誘発率のものは正確度が欠けているからである。しかし、いくつかの知見からすると、男女とも、また年齢層を問わず平均して致死的悪性疾患の全リスクは白血病のみのリスクの5倍程度である。()内は小沢が挿入」「かくして致死的悪性疾患の平均的誘発危険度は10-4/rad」p.29(手元に資料が無い。念のため確認)『UNSCEAR 1977 REPORT,SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION. 1977 report to the General Assembly, with annexesの和文である『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』

[ii] 317項、318項p.482『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』
「(B62) (4)他の機関により過去においてリスク推定に実際に利用されたDDREFとしては、2と2.5を用いたUNSCEAR(1977)、おそらく5までを示唆したUNSCEAR(1986)、および2から10を勧告したUNSCEAR(1988b)がある。BEIRⅢ委員会(NAS、1980)は2.25のDDERFを用い、BEIRⅤ委員会(NAS 、1990)は2あるいはそれ以上を勧告したが、計算では白血病の場合にのみ2を、その他のがんには1を適用した。NUREG(1989)は3.3を用い、米国国立衛生研究所グループ(Rallら、1985)は、2.3を用いた。これらを考慮して、またとくに限られたヒトでの情報がDDREFはこの範囲のうち低い値であることを示唆していることを考えて、委員会は放射線防護の目的のためにはDDREFとして2という値の使用を勧告することに決定した。ただし、この選択はある程度独断的であり、また保守的であるかもしれないことは認識している。もしも新しい、もっと決定的な情報が将来利用できるようになれば、この勧告の変更は当然予想できる。」『国際放射線防護委員会の1990年勧告』p.132

[iii] 185項p.699『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』

[iv] 『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』320節p.487


丹羽太貫氏への質問に関わる、小沢洋一氏の関連資料です。

● ミニ授業プラン「1年に1mSv(ミリシーベルト)はどう決められたのか
● 授業プラン「低線量低線量率放射線とその影響」

授業プラン「低線量低線量率放射線とその影響」

仮説実験授業研究会 2012夏の合宿研究会 宮城松嶋大会資料
小沢洋一

この授業プランのねらい

ミニ授業プラン「放射線とその影響2 -1年に1mSv(ミリシーベルト)はどう決められたのか-」の姉妹編です。「低線量低線量率放射線とその影響」が歴史的にどの様に推定されてきたかを考えることで、国際放射線防護委員会(以下、ICRP)について考えて頂く材料を提供することにあります。問題の答えを予想してから、次のページを見て下さい。

放射線被曝による致死がんの増加

国際放射線防護委員会(以下、ICRP)では、放射線を1000mSv浴びると、ガンで死ぬ確率が、生涯で5%増えると考えて、放射線防護にあたる様に勧告しています。このガンで死ぬ確率とは、どうやって分かったのでしょう。
ICRPは、放射線の影響は、広島長崎の原爆被爆者のデータに基づいて推定しています。私たちが、生活の中で放射線被ばくは、広島長崎の原爆被爆の様に、一瞬に放射線を浴びるのではなく、ゆっくりと放射線を浴びます。
この授業プランでは、私たちが被曝する様な低線量低線量放射線被曝のリスクが歴史的にどのように考えられてきたのかを明らかにします。

低線量低線量率放射線の低線量とは200 mSv以下の放射線量のことです。低線量率とは、1時間あたり0.1Sv以下の放射線のことです。[1]

[問題1]同じ100mSvの放射線を被曝した場合でも、原爆の様に一瞬で被曝する場合と、弱い放射線を1年間かけてゆっくり被曝した場合とでは、致死がんの増加に違いがあるのでしょうか。あなたはどう思いますか。

予想 ア.どちらも大体同じぐらい増加する。
   イ.一瞬で被曝した方がたくさん増加する。
   ウ.ゆっくり被曝した方がたくさん増加する。
   エ.その他

色々な考え方があった

1980年頃、「100ミリラドを瞬間的に浴びた場合の発ガン影響についてはなっとくできる。しかし、同量の被曝でも、1年間かけてゆっくり浴びた場合の影響が同じであろうはずがない。(後略)」[2]という科学者がいました。
同じ頃、こうした意見とは反対に、ゴフマンという科学者は、『新装版 人間と放射線』という本の中で、影響は同じだという考えや根拠を示しています。

線量・線量率効果係数(DDREF)とは

『ICRP1990年勧告』では、低線量低線量率放射線被曝の影響は、高線量高線量被曝放射線被曝の影響の半分ぐらいと見積もるのが妥当だとしています。[3]低減係数である線量・線量率効果係数(DDREF:Dose and dose-rate effectiveness factor)は2とされています。『ICRP2007年勧告』でも全く同じ考え方です。
広島長崎の原爆被爆では、放射線を1000 mSv浴びると、がんで死ぬ確率が10%増えます。低減係数が1/2またはDDREF2ということは、私たちが生活で被曝するような低線量低線量率放射線被曝では、その半分の5%と推定されるという意味なのです。
低減係数またはDDREFの数値によって、私たちの放射線被ばくリスクの推定値が変わるわけです。

ICRP 日本人委員丹羽太貫(京都大学名誉教授)氏他の「放送倫理・番組向上機構への提訴状」2012.5.7にも次のように書かれています。
「強い放射線を短時間に照射するよりも、弱い放射線で長時間かけて同じ量の放射線を照射する方が、生物に与える影響が小さくなること(線量率効果)は、放射線生物学や放射線医学の分野で長年広く認められた科学的事実である。」[4]

いつから、科学者の意見が一致したのでしょう?

[問題2]国際放射線防護委員会(ICRP)が、低線量低線量放射線被曝の影響を高線量高線量被曝放射線被曝の影響の半分ぐらいと見積もる様になったのはいつからだと思いますか。

予想 ア.1990年勧告
   イ.1977年勧告
   ウ.もっと前
   エ.その他

1977年勧告から

ICRP1990年勧告で線量・線量率効果係数(DDREF)を導入したのが始まりと思われています。[5]確かに、ICRP1990年勧告には、線量・線量率効果係数としてどのような数値が妥当か検討されています。[6]
1966年勧告では致死がんリスク推定値そのものを掲載していません[7]し、他に、検討されている勧告はありません。
しかし、線量・線量率効果係数(DDREF)という言葉は使っていませんが、1977年勧告は、すでに低線量低線量率放射線被曝の影響を高線量高線量率被曝放射線被曝の影響の半分ぐらいと見積もっていたのです。[8]1977年勧告が低線量低線量放射線被曝の影響を半分に見積もった根拠は、国連科学委員会の1977 年報告にあるらしいのです。[9]

国連科学委員会の1977年報告の発がんリスク評価

1977年当時、国連科学委員会では、白血病と他の組織の致死的なガンの発生は、白血病の約5倍と考えられていました。個々の致死がんリスクの誤差が大きいと考えられため、各器官の個々の致死がんリスクを足し合わせて全体のリスクを求めるのは不適切とされていました。[10]
高線量では、白血病のリスクを0.5%/Svぐらいとしているので、全体のリスクは2.5%/Svと見積もっています。低線量では、白血病のリスクを0.2%/Svとしているので、全体のリスクを1%/Svと見積もっています。[11]ですから、国連科学委員会1977年報告では、高線量の半分よりも小さく見積もっていたことになります。
また、動物実験の結果として、低線量率での放射線の影響が半分ぐらいと推定しています。[12]
ただし、1977年当時、科国連科学委員会のデータも研究途上だったようです。[13]

ICRP1977年勧告を読んでも分からない

確かに、『国際放射線防護委員会の1977年勧告』には、(低線量と高線量)「(29)リスクの相違がおそらくあるということを斟酌するための係数をこれらの推定値にかけて、その値を減らすのが適切であろう。後に議論するリスク係数は、したがって、できるかぎり実際に放射線防護の目的に適用できるように選定されている。」と書いてあります。リスク推定に低減係数が導入されているように読めます。しかし、具体的な低減係数についての記述はありません。参考文献も示していないので、ICRP1977年勧告を読んでも低減係数2や根拠に辿りつくことはできません。ほとんどの人(専門家も含めて)が、1977年勧告が低減係数2を採用していることに気づいていないようです。その他のICRPの出版物にも、1977年勧告に低減係数を採用したという記述は見当たりませんでした。

[問題3]最近の放射線の研究ではどうでしょう。同じ100mSvの放射線を被曝した場合でも、原爆の様に一瞬で被曝する場合と、弱い放射線を1年間かけてゆっくり被曝した場合とでは、致死がんの増加に違いがあるのでしょうか。

予想 ア.どちらも大体同じぐらい増加する。
   イ.一瞬で被曝した方が2倍ぐらい増加する。
   ウ.ゆっくり被曝した方が2倍ぐらい増加する。
   エ.その他

線量・線量率効果係数の見直し

ICRP 日本人委員丹羽太貫(京都大学名誉教授)氏他は、「DDREF の値について、ICRP は2を用いている。しかし米国国立衛生研究所は2003 年の報告で1.75 を推奨し米国航空宇宙局もこれを採用(2)、米国科学アカデミーは2005 年に刊行した電離放射線生物影響報告(BEIR VII 報告)で1.5 を提示(3)、ドイツ政府は1 を用いてリスク計算をおこなっている。このようにDDREFの値としてどの数値を使うかについては議論があり、国際的に見直しの機運が高まっている。」[14]という事実を訴状の中で明らかにされています。
線量・線量率効果係数は2で間違いないと確定しているということではなさそうです。それほど、確実な数値ということではないということです。今も、科学者の意見は一致しているわけではなく、より妥当な低減係数を求めて研究が進められているようなのです。

将来、線量・線量率効果係数は見直されるかもしれません。

質問1 授業プランを体験され、気づいたこと、疑問がわいたことがあったら出して下さい。

 表1 低線量低線量率被曝致死がんリスクの変遷[15](%/1000mSv当たり)

推定の情報源 原爆被曝致死がんリスク 低線量低線量率
被曝致死がんリスク
低減係数 線量・線量率効果係数
BEIRⅠ 1972 1.2(相加) 6.2(相乗)   1

1

1977勧告 1 1/2 2
UNSCEAR1977 2または2.5 1[16] 1/2または1/2.5 2または2.5
BEIRⅢ 1980 0.8-2.5(相加) 2.3-5.0(相乗)   1 1
UNSCEAR1988 4.0-5.0(相加) 7.0-11.0(相乗)[17]   1 1
BEIRⅤ 1990 8.85     1
1990勧告 10 5 1/2 2

 


[1] 『ICRP1990年勧告』(74)p.23正確には、単位はGy。

[2] ジョン・W・ゴフマン『新装版 人間と放射線』(明石書房)p.348

[3] 「(74)委員会は、低線量・低線量率における影響の確率の推定値を選るために高線量・高線量率のおける低LET放射線についてのデータを解釈するにあたって非直線性を考慮に入れることは、放射線防護の見地からは正しいとする十分な根拠があると結論した。付属書Bの議論に基づき、委員会は、高線量・高線量率における観察から直接に得られる確率係数を1/2に減らし、必要があれば細胞死の効果を考慮して修正することを決定した。データには大きな散らばりがあり、委員会は、この数値を選んだことはやや恣意的であり、多分保守的かもしれないと認識している。高LET放射線によるデータの解釈にはそのような係数を用いない。委員会は、この低減係数を線量・線量率効果係数DDREFと呼ぶ。この係数は、0.2Gy以下の吸収線量、および、線量率が1時間あたり0.1Gy以下の場合のもっと高い吸収線量による、すべての等価線量について確率係数の中に含められた。」『ICRP1990年勧告』(74)p.23

[4]  ICRP 日本人委員丹羽太貫(京都大学名誉教授)他「放送倫理・番組向上機構への提訴状」2012.5.7 p.5

[5] 放射線医学総合研究所 米原英典 お茶の水女子大学で放射線医学特論「放射線防護体系」講義資料7ページ「放射線防護の歴史4.1990年勧告」、中川保雄『<増補>放射線被曝の歴史』(明石書店)2011(1991出版の増補版)中川氏の本の中には、低減係数についての記述そのものは見当たらない。

[6] 『ICRP1990年勧告』(B62)p.131,132

[7] 「(7)放射線による白血病およびその他の型の悪性腫瘍の誘発機構はわかっていない。100rad以上の線量を受けた後にこのような誘発がおこることは現在はっきりしているが、それ以下では悪性腫瘍は生じないというしきい線量が実際に存在するかどうかは不明である。」「(43)公衆の構成員の線量限度を放射線作業者の値の1/10に決めることが適切と考える。現在この点についての放射線生物学的上の知見が十分でないので、この係数の大きさにはあまり生物学的意義をもたせるべきではない。」『国際放射線防護委員会の1965年勧告』1965年勧告の中には低線量被曝による致死がんリスク推定値を掲載していない。

[8] 「ICRP Publ.26においてもリスク係数の推定のために高線量からの直線外挿に対して1/2の低減率を考慮していた.」草間朋子『ICRP1990年勧告』(日刊工業新聞社)p.140

[9] Stather,J.w.: Dose and Dose Rate Effectiveness Factor, Radiological Protection Bulletin (NRPB) No.115,13-18( 1990)
A DDREF of 2 was used by ICRP in 1977 for assessing the risks of cancer induction  for radiological protection purposes based on conclusions by UNSCEAR. (Radiological Protection Bulletin (NRPB) No.115,p.17)
2のDDREFは、UNSCEARによって結論に基づいて放射線防護の目的のためにがん誘発のリスクを評価するために1977年にICRPによって使用された。(小沢訳)
1977年UNSCEARでは、DDREFという用語は使われていない。(小沢)
「ICRP は、国連科学委員会の1977年報告に基づき、DDREF の値として2を採用した。」ICRP 日本人委員丹羽太貫(京都大学名誉教授)他「放送倫理・番組向上機構への提訴状」2012.5.7
出版物の発行の日付は実態を表さないこともありますが、UNSCEAR 1977 REPORT SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATIONの出版は1977.7.5です。ICRP1977勧告は、1977.1.17に採択されています。ICRP1977勧告の根拠を後に発表されたUNSCEAR 1977 REPORTに基づくというのが可能なのかどうか疑問が残っています。

[10] 「237.放射線によって、その他の器官に誘発される癌のリスクについては、ある非常に妥当な値が示されているが、全発癌リスクは、各器官個々からそれへの寄与を和すことでは得られない。」p.467「247.(前略)全ての悪性疾患による終局的な総死亡数は、白血病のみによるしれの4~6倍であろう。」p.471「(致死的悪性疾患の全危険度に関する)この推定は身体各器官のリスクを加算しても確実に得られない。なぜならばある部分、とくに低い誘発率のものは正確度が欠けているからである。しかし、いくつかの知見からすると、男女とも、また年齢層を問わず平均して致死的悪性疾患の全リスクは白血病のみのリスクの5倍程度である。()内は小沢が挿入」「かくして致死的悪性疾患の平均的誘発危険度は10-4/rad」p.29(手元に資料が無い。念のため確認)『UNSCEAR 1977 REPORT,SOURCES AND EFFECTS OF IONIZING RADIATION. 1977 report to the General Assembly, with annexesの和文である『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』

[11] 317項、318項p.482『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』
「(B62) (4)他の機関により過去においてリスク推定に実際に利用されたDDREFとしては、2と2.5を用いたUNSCEAR(1977)、おそらく5までを示唆したUNSCEAR(1986)、および2から10を勧告したUNSCEAR(1988b)がある。BEIRⅢ委員会(NAS、1980)は2.25のDDERFを用い、BEIRⅤ委員会(NAS 、1990)は2あるいはそれ以上を勧告したが、計算では白血病の場合にのみ2を、その他のがんには1を適用した。NUREG(1989)は3.3を用い、米国国立衛生研究所グループ(Rallら、1985)は、2.3を用いた。これらを考慮して、またとくに限られたヒトでの情報がDDREFはこの範囲のうち低い値であることを示唆していることを考えて、委員会は放射線防護の目的のためにはDDREFとして2という値の使用を勧告することに決定した。ただし、この選択はある程度独断的であり、また保守的であるかもしれないことは認識している。もしも新しい、もっと決定的な情報が将来利用できるようになれば、この勧告の変更は当然予想できる。」『国際放射線防護委員会の1990年勧告』p.132

[12] 185項p.699『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』

[13] 『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』320節p.487

[14] ICRP 日本人委員丹羽太貫(京都大学名誉教授)他「放送倫理・番組向上機構への提訴状」2012.5.7 p.5

[15] 『国際放射線防護委員会の1990年勧告』表B-10p.149から孫引きですが、できるだけ原典にも当たるようにしました。UNSCEAR1977の数値は、表B-10の数値2.5%も掲載した。UNSCEAR1988の247節、248節、p.45にも2.5%の記述がある。
表10-4草間朋子『ICRP1990年勧告』(日刊工業新聞社)p.146低減係数が考慮されているのは、UNSCEAR1977、ICRP1977年勧告、ICRP1990年勧告だけ。

[16] 『放射線の線源と影響(1977年国連科学委員会報告書)』318節p.482 個々の致死がんリスクを足し合わせると、1.25%/Svになる。

[17] 『放射線の線源・影響及びリスク(1988年国連科学委員会報告書)』表10 p.44

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事前討論 Fri, 27 Jul 2012 06:02:24 +0900