「基礎科学研究所」設立される
詳細- 詳細
- 2010年12月15日(水曜)10:00に公開
- 作者: 松田卓也
私は「あいんしゅたいん」のブログの第10回で「バーチャル研究所の提案・・・定年退職研究者のために」と題した一文を書きました。その構想が今回、不完全ながらも成就したというご報告をいたします。
バーチャル研究所とは
レンタルオフィスとかバーチャルオフィスという概念があります。起業した個人に対して、小さなオフィスとか、あるいは大きなオフィスの中の机を一つだけ貸すという商売です。バーチャルオフィスは個人の企業家をまとめて、住所と電話の面倒を見るという商売です。
私が考えるバーチャル研究所とは、定年退職した研究者や所属のないポスドク、オーバードクターの人たちに対して、所属と郵便住所を与えるためのものです。研究者にとって必要なものは、研究室、研究装置、研究費などですが、意外と知られていないものに、所属と住所があります。研究者が論文を書いて雑誌に投稿した場合、所属がないとか、住所が自宅である場合、編集部とレフェリーにうさんくさく思われて、アマチュア科学者あるいは疑似科学者と混同されることがあります。そうすると通る論文も通らなくなる場合があります。論文は内容がよければ認められるという単純なものではありません。権威主義と言えばそうですが、人間社会にはついて回るものです。もうひとつ実務的な要素として、校正刷りなどを送りつける住所があります。だから学振の奨励金に当たらなかったオーバードクターの人たちは、所属、肩書き、机を獲得するためだけに、年間数十万円の授業料を納めて研究生になったりします。踏んだり蹴ったりです。
そこで当面、研究費や研究場所は提供できないとしても、所属と郵便用の住所だけは提供できないかと考えたのが、最初に述べた提案です。しかし、いかにバーチャル研究所といえども、現実のオフィスと住所は必要です。それがなければ郵便物は届きません。また郵便物を配るための事務員も必要です。私は昨年に京大近くの物件を調査しました。そこで分かったことは、オフィス用の家賃が月10万円程度は最低限必要であること、水道光熱費、アルバイト料などを見ると、月に20万円は必要なことです。すると年間240万円は必要です。さらに権利金、敷金、家具什器などの準備に100万円は必要という試算をしました。その資金をまかなうために、会員を募り年会費12万円、入会金5万円というプランを立てました。しかしNPO法人としては、出資法の縛りなどがあり、なかなか資金を集めることが難しいことも分かりました。というわけでバーチャル研究所の構想は頓挫していました。
バーチャル研究所の夢膨らむ
しかし第51回のブログ「京都大学 小山田研究室との共同研究始まる」で述べましたように、高等教育研究開発推進センターの小山田教授とあいんしゅたいんの間の共同研究が始まり、情報メディアセンター北館の地下にある可視化実験室を使わせていただくことになりました。ここには、たくさんの仲間が訪問してくれます。共同研究を組んでいる小山田教授、坂本助教などとの定期的な研究会での「可視化」についての議論はもちろん、科学教育を語る仲間、若手研究者、学内の方々も含めて研究会に来た外国研究者も含めてたくさんの人と、今までブログやあいんしゅたいん会員メーリングリストで議論したテーマなど、議論がわきます。まさに、バーチャル研究所を飛び越え、リアルな研究室がここにあるのです。こうして、NPOあいんしゅたいんのもとに、科研費取得が可能な「基礎科学研究所」を立ち上げようと、構想を練り、何とか趣意書を作り、組織の構想をねりあげるところにまできたのです。かなり、夢に近づいたといえます。
しかし、実は、最初の夢であった所属の住所の問題はまだ解決していません。あくまで、共同研究のために、使わせていただいているだけです。ですから事務所が移ったわけではありません。
郵便用住所の問題を解決するために、我々は京都大学のベンチャービジネス・ラボラトリーの大部屋にある机の使用権を申請しました。申請は受理されたのですが、現状では二つある大部屋の机はすべて使用されています。ですから空きが出るまで待つ必要があります。もし将来に空きができたとしたら、晴れてベンチャービジネス・ラボラトリーを基礎科学研究所の住所として公表することができます。そのときに初めて基礎科学研究所は正式に運用を開始できます。
ただし、これでも住所ができただけであり、机一つでは何もできません。皆が議論でき、いろいろなプロジェクトが動くためには、もっと広いオフィススペースを獲得する必要があります。それに向けてはいろいろと考えてはいます。例えば、ある若者たちのNPOが、使われていない3階建てのビルを月9万円という格安の家賃で借りたというニュースを知りました。そのビルの大家さんが、老朽化したビルをもてあましていたのを聞きつけた若者たちが、交渉の末に格安で借りたということです。そして若者たちを動員して建物をリニューアルして、なんと机一つを月3万円の家賃で貸すというレンタルオフィスを始めたとのことです。元が取れるどころか利益まで出るという、夢のようなアイデアです。というようなうまい話が転がっていないかと、我々は夢想しているところです。なんかいい話があったら、聞かせてください。