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2013年6月 - 130616

 

 

6月15日 NSA問題

 

フェイスブックとマイクロソフトが米国政府に情報を漏らしていたことを発表

6/15の英国の新聞ファイナンシャル・タイムスの記事によると、NSAについての内部告発問題に関して、米国のIT会社が真相を発表し始めた。

NSAを含むアメリカ政府機関がアメリカの主要なIT会社マイクロソフト、ヤフー、グーグル、フェイスブック、YouTube、アップルなどから情報の提供を受けていた件に関して、いままでこれらの会社のトップは、そんなことは聞いたこともないとか、バックドアーは用意していないとか否定していた。

しかしフェイスブックは、当初の否定とは裏腹に、6/14日に実は情報を提供していたことを明らかにした。それによると、2012年の後半には18,000-19,000のユーザーの情報を政府に情報を提供していた。そのなかには9,000-10,000の中央、地方の警察などの政府機関も含まれている。しかし米国外のユーザの情報暴露はないとしている。

マイクロソフトは2012年後半だけで6,000-7,000件の要請を受け、31,000-32,000のユーザー情報を漏らしたと言う。

合衆国司法長官ホールダー(Eric Holder)はスノードン氏の内部告発は「アメリカ国民の安全を脅かす。合衆国の安全は内部告発のため危険にさらされた」と述べた。

EU側はこの問題に危機感を抱き、米国とPRISM問題を共同調査することに同意した。

フェイスブックはグーグル同様、外国のユーザーの信用を守る為に、事実を発表する許可を政府に求めていた。実際、アメリカ政府は、この情報収集は外国人向けのもので、米国民には関係ないと主張していた。今まではこれらの会社は、政府から秘密命令を受けていたことを発表することを禁じられていた。フェイスブックによれば、政府の要請の一部を拒否したり、スケールを小さくして来たと弁明した。もっともフェイスブックの発表は報告数だけで、内容には触れていない。

感想

問題はオバマの演説によれば、IT会社が政府の要請でユーザーの個人情報をリークしたことが合法的であることだ。議会も同意し、(秘密)裁判所の(秘密)判事の許可も得ている。全てが秘密裏に行われていたことが合法的で、その秘密を暴露することが非合法になるということだ。 やはりアメリカはビックブラザー国家になっていた。 中国、ロシアとそれほど変わりはない国だ。「アメリカは自由な国だ」などという看板は早急におろすべきだろう。また我々も、インターネットを使う限りプライバシーはすべてアメリカに握られていることを自覚すべきであろう。

メールなどの通信を暗号化することでプライバシーを守ることも考えられる。しかしその暗号の作成にもNSAが関与していて、暗号鍵を長くすることをNSAは反対して許可していない。また暗号技術を外国に輸出することも禁止している。ようするに我々が通信を暗号化しても、それは解読が少し難しくなった程度である。その気になれば、米国政府が必ず解読できるようになっているのだ。

ところでフェイスブックが当初の否定から一転して公表に至ったのはなぜだろう。アメリカの関係者の憶測では、政府の要請はフェイスブックのトップのザッカーバーグには知らされずに、技術担当者と法務担当者のみに知らされ、その段階で処理されていたのではないかという。この事件があらわになり、ユーザーの信頼が失われたので、トップが大慌てで対処したのであろう。アップルが計画に参加したのは、スティーブ・ジョブスがなくなってからであり、彼は米国政府の要請に抵抗してきたのではないか。しかし後のアップルの経営者は屈したのではないかという憶測もある。

しかし今回の事件で分かったことは、米国のIT会社は信用できないということだ。そのことは今までにも薄々感じられていたのが、今回の事件でそれが決定的になったのだ。

6月14日 ビッグブラザー、技術的特異点

 

技術的特異点後の7つの予想もつかない世界

上記のタイトルで科学の散歩道にエッセイをアップしました。

 

ビッグブラザーの世界にようこそ

上記のタイトルでここにエッセイをアップしました。

面白いビデオを見つけました。若い女性が、公開討論の講師陣に聞きます。「アメリカはなぜ世界で最も偉大な国なのか?」と。それに対して講師陣は「可能性」とか「自由、自由、自由」と一応は答えます。しかし会場の別の女性が「違う」というプラカードを掲げます。すると講師の一人が「自由な国はアメリカだけではない。カナダ、日本・・・」と続けて、アメリカが如何に世界レベルで見て偉大でないかという話を延々とします。

これは実は"The Newsroom"という、ペイテレビ局HBOの番組の1シーンです。政治ドラマです。しゃべっている男性はJeff Danielsという俳優で、ニュースキャスターを演じています。この場面はいかにアメリカ人が「アメリカは偉大だ、自由だ」という根拠のない幻想を抱いているかを皮肉ったものでしょう。NSAスキャンダルに関して、興味深いので紹介しました。

<Why America is NOT the greatest country in the world, anymore.>

6月12日 MacPro 2013のデザイン

6月10日月曜日にアップルの製品発表会であるWWDC 2013がサンフランシスコのモスコーン・コンベンション・センターで行われた。発表の目玉はiPhoneやiPadの新しいOSであるiOS 7、マックの新しいOSであるOS X Marvericksである。さらに新しいMacBook Airも公開された。

しかし正直言ってこれらのものは以前の製品のちょっとした改良にすぎず、あっと驚かせるほどのものではなかった。例えばMacbook airではでRetinaディスプレイになるかと期待されたがそうならなかった。SSDが1TBになるという噂もあったが、そうならなかった。期待はずれなのである。 

iOS7に関しては、私のiPhoneはまだ4Sであり5ではない。例の2年縛りの為である。メモリが16GBとメモリ不足なのでiOS 6にすら更新できていないのだ。家内に至ってはiPhone 4でiOS 4のままだ。というわけでアップグレードできないのである。今秋に予想されるiPhone 5Sまで待とうと思う。しかし現状のiOS 5で不満な訳ではない。むしろiOS 6にすると、評判の悪いアップルの地図アプリを押し付けられる。

最近アップルのCEOであるトム・クックのインタビューを読んだ。そのなかでインタビューアーが最近のアップルはクールではないのではないかと聞いた。クックは当然否定したが、私はその感じを持っている。例えばグーグルはGoogle Glassという新しいコンセプトを世に問うている。Pebbleはウオッチを出した。サムソンは大画面のスマートフォンを出している。アップルにはそのどれもない。iGlass、iWatch、大画面スマートフォンはずっと噂になっているのだが、でていない。出ていないと言うことは、技術力が不十分と言うことだろう。

アップルは革新的な会社と言われているが、実はそうではなく、堅実な会社で、機が熟するのを待っていると言う説がある。たとえはiPhoneは確かに画期的だったが、スマートフォン自体はその前にもあった。iPhoneはキーボードをなくしたと言うのが画期的なのである。それで大流行して、世界を変えた。だから今回も機が熟するのを待っていると言う説もある。

というわけで最近のアップルはクールでないという話をしたのだが、しかし今回の発表で私が度肝を抜かれたのが、新しいMac Proである。2013年のWWDCで発表された新しいMacPro

これはクールそのものだ。Mac ProとはMacの最上位の製品で、最も強力なコンピュータだ。もっぱらクリエイターなどに愛用されている。さて新しいMac Proの何がクールなのか。その性能ではない。CPUにしろSSDにしろ、目を剥くものではない。目を剥くのはデザインである。なんと円筒形をしているのだ。いままでのPCでこんなものはなかった。この円筒の上部に大きなファンを置き、円筒の中心を通る空気で全体を冷却している。まさにクールなのである。

形が類似と言えば1980年代のスーパーコンピューターであるクレイ1くらいであろう。実はMac Proは公称、最大スピートが7TFLOPSという。Cray 1のスピードは160 MFLOPSだから、実にクレイ1の43000倍である。もっとも、これは大げさで普通の計算では7TFLOPSの1/100程度であろうが、それでも大したものだ。

 

この新しいMac Proのデザインが公表されて、一挙に注目が集まった。その形の類似性からゴミ箱のnew TUBELORに注目が集まった。値段がアマゾンで3504円と、ゴミ箱にしてはえらく高いが、当然Mac Proよりは安いであろう。Mac Proの高さはほぼ10インチ、つまり25cm程度と小さい。このゴミ箱はそれより少し大きい。そこでこのゴミ箱を買って、その内部に安いMac miniをかくして、Mac Proだと言い張るのはどうだろうか。ちょっと見た目では分からないのではないか。 

6月11日 夢の薬レスベラトロール

 

レスベラトロール

 レスベラトロールとはポリフェノールの1種で、ぶどうの果皮などに含まれている抗酸化物質として知られている。レスベラトロールは赤ワインに含まれており、フレンチパラドックスとの関連が指摘されている。フレンチパラドックスとはフランス人が相対的に飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事をとりながら心臓疾患が少ないことを言う。その原因としてフランス人が赤ワインをたくさん飲むことが原因と推測されている。赤ワインの中にレスベラトロールが多く含まれているので、レスベラトロールにその原因があるのではないかと考えられてきた。

最近の研究ではレスベラトロールに寿命延長効果があることが分かった。動物実験では寿命延長のほかに抗炎症、抗がん、認知症予防、放射線による障害予防、血糖降下、動脈硬化予防などの効果もある。まさに夢の化合物である。

レスベラトロールに寿命延長効果があるかどうかに関しては、近年、論争の的になっていたという。しかし2013年3月8日のサイエンス誌に掲載された論文では、そのことが確認されたばかりでなく、分子的なメカニズムが解明されたと言う。

 レスベラトロールの効果はサーチュインという一群の遺伝子と関係がある。サーチュインは老化を防ぐ遺伝子で、レスベラトロールはそれを活性化する。サーチュインの中でも特定のSIRT1が健康に大きな効果を及ぼす。ミトコンドリアを活性化するのである。

これまでの薬は特定のタンパク質の活動を抑えるというものがあったが、活性化するというものはなかった。その意味でレスベラトロールは特異である。と先の論文の著者であるハーバード・メディカル・スクールのシンクレア教授(David Sinclair)は語っている。シンクレア教授はベンチャービジネスのシルトリス(Sirtris)の創始者であり、その会社は後に巨大な製薬会社であるグラクソに買収され、シンクレアはグラクソのアドバイザーになった。これらの話の詳細はこの記事を参照のこと。

レスベラトロールとSIRT1の関係は、他の研究者からはいままで偶然であるとか、人為的なものと批判されて来た。シルトリス自身が一時は、その関係を否定して研究をやめたと言う経緯がある。それが今回の研究で確認されたのだ。今やレザベラトロールがSIRT1にどのように作用するかの分子メカニズムが解明された。

普通SIRT1はカロリーの制限とか運動で活性化される。飢餓に陥ると、身体を保護するメカニズムが動き出すのである。粗食が健康に良く、過食は悪いと言う根拠がここにある。しかし普通人が粗食や運動をすることは難しい。それがレスベラトロールを飲むだけで良いのだ。レスベラトロールは延命効果があるだけでなく、ガン、心臓病、2型糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、白内障、骨粗そう症、睡眠障害、関節炎、乾癬、潰瘍性大腸炎などにも効くと言う。

シンクレア教授のグループは、一杯のワインの100倍の効果を持つ化合物を4000種も合成してテストし、その中から3種類が、人間で臨床試験が行われている。

ネットで調べるとレスベラトロールは既に、たくさんの会社から健康食品として売られている。

 

またまた永久機関・・・海水発電

このブログを参照してください。

 

6月10日 日本人と無神論

 

日本人は無神論者か?:  フランス人記者のインタビュー


上記のタイトルのエッセイをジャパン・スケプティックスのコラム欄に掲載しました。

 

6月9日 深層学習

深層学習(Deep Learning)

 

人工知能の1つの技術にニューラル・ネットワークというものがある。その進歩形である深層学習(Deep Learning)という技術が最近注目を浴びている。グーグルX研究所がたくさんのコンピューターを使い、コンピューターに猫という概念を発見させたと言われる「グーグルの猫」が有名である。これは深層学習の大きな成果である(「猫を認識できるGoogleの巨大頭脳」) 

本解説ではMIT Technology ReviewのDeep Learningの解説記事を簡単に紹介する。

技術的特異点が2045年に来ると盛んに宣伝しているレイ・カーツワイルがグーグルに入社した。カーツワイルは最近「心の作り方(How to create a mind)」という本を出版したのだが、それに関してグーグルのCEOのラリー・ペイジと懇談した。 2人とも強力な人工知能を作ることを目指している。

カーツワイルにとってグーグルの巨大なコンピューター資源が魅力である。ページはカーツワイルの会社に個人的にコンピューターを使わせるわけにはいかないが、カーツワイルがグーグルの社員になれば使わせてやるという。というわけでカーツワイルはグーグルの研究部門の長になったのだ。

カーツワイルがグーグルにひかれたのはそのコンピュータ資源だけではない。グーグルが最近人工知能に関して達成した偉大な進歩のためである。グーグルは最近、深層学習の研究を進めている。深層学習とは大脳皮質にあるニューロンをシュミレートしようとする試みである。それによって音、画像、その他のデーターに含まれるパターンを認識しようというものだ。

 人工「ニューラルネット」の概念は新しいものではない。1950年代に開発された手法である。コンピューター上に仮想的なニューロンのネットワークを構成する。そしてニューロン同士の結合部分に重みの数値を割り当てる。その重みは学習によって変化していく。

 ニューラルネットは大きな進歩もあったが、同時に失望でもあった。思ったほどの成果をあげなかったのである。ところが最近のコンピューターとアルゴリズムの進歩により人工ニューラルネットワークは非常に強力になった。

 先にのべたようにグーグルはYouTubeから1000万枚のイメージを取り出し、それを16,000個のCPUを使った深層学習にかけて、猫という概念を発見させることに成功した。ニューラルネットには教師あり学習と教師なし学習があるが、グーグルの猫は教師なし学習である。その認識率は以前の倍になっている。

 グーグルはその技術をアンドロイドOSを利用するモバイル機器に搭載し、その言語認識における認識率はアップルのSiriを凌ぐと言われている。(実際そのことは最近のグーグル検索を、音声入力で行ってみれば良い。 iPhoneやiPad、Macに搭載されているSiriの音声認識よりも優れていることがわかる。もっとも私はこの文章をマックの音声認識で書いているのだが、十分に実用に耐える。) 

 2012年10月マイクロソフトの主任技術者リック・ラシッドは中国で講演を行った。彼の講演は英語で行われたが、その英語はまず英語テキストに変換された。その変換の誤差率は7%である。そのテキストがさらに中国語のテキストに翻訳され、そして最後にマンダリンの音声で話されて聴衆の喝采をあびた。

<Speech Recognition Breakthrough for the Spoken, Translated Word>

{youtube}Nu-nlQqFCKg{/youtube}

  カナダのトロント大学のコンピューター科学者であるヒントン(Geoffrey Hinton)はニューラルネットワークを研究して来たのだが、1,980年代に深層学習という概念を発展させた。それは学習を何層にも分ける技術である。最初の層は最も簡単な特徴、画像であれば例えば辺を抽出する。その層が十分に学習すると、次の層に情報が送られる。その層はもっと複雑な特徴、例えば角を抽出する。さらに階層が構築され、最終的に画像が認識されるまでこのプロセスが繰り返される。

 ヒントンのグループは、最近その技術を使って新薬を発見するコンペに優勝した。さっそくグーグルはヒントンの作った会社を買収してそのノウハウとヒントンを手に入れた。ヒントンのホームページはここ

 深層学習の日本語の解説に関しては「ニューラルネットの逆襲」を参照のこと。 

6月8日 美人ハッカー

 

美人ハッカー ケレン・エラザリ(Keren Elazari)

知り合いがエストニアの首都タリンで6/4-6/7に開かれたサイバー戦争に関する国際会議に参加した(5th International Conference on Cyber Conflict)。

サイバー戦争に関してはまた書くとして、今日の話題はその友人が会った美人ハッカーの話である。彼女の名前はケレン・エラザリ(Keren Elazari)といい、イスラエル人である。テル・アビブに生まれ育った彼女はサイバー・セキュリティの専門家で、サイバー・セキュリティ会社や政府に雇われている。現在はNASAにある特異点大学(Singularity University)でも教えている。そしてサイバー・セキュリティについての国際会議に参加して、講演をしている。

彼女のホームページを見ると、ビデオ欄で今年の二つの国際会議で講演した様子が公開されている(The Power of Hacking DLD13, Munich, January 2013; The Cyberpunk Express, Re:Publica 2013, Berlin, May 2013)。タイトな服を着て、とても魅力的である。サイバーパンクの話ではまず、攻殻機動隊の主人公草薙素子のビデオから始まる。Major Kusanagiである。エラザリはその草薙素子か、映画『マトリックス』の女性ハッカーであるトリニティを彷彿とさせる。エラザリは合気道をたしなむと言うから、私とその意味でも同趣味で、是非会いたいものだ。

<DLD13-Interviw Keren Elazari>

<草薙素子>

 

<The Matrix: Trinity escapes (HD)>

6月7日 脳梗塞、Leap Motionのその後

優しくさわることで脳梗塞を救う

脳梗塞とは脳の血管が詰まり、脳の組織が酸素や栄養の不足のため壊死する病気である。日本においては患者数は約150万であり、毎年約50万が発症すると言われている。 寝たきり患者の約3割、全医療費の1割を占めている。 治療法としては発症直後に設備の整った病院で血管内カテーテルによって薬を投与し血栓を溶かすことができる。しかしそれによって救われる患者は少数である。 それ以外有効な治療法というものはあまりない。

最近アメリカの研究で、脳梗塞の治療法の曙光が見えてきた。実験室での偶然の発見なのだが、脳梗塞になったネズミのひげを触ったり、大きな音を聞かせて感覚器官を刺激すると、脳梗塞で切られたニューロンが再活性化し、また血液を別のルートで通すという現象が発見された。

この発見から脳梗塞患者の有効な治療法の開発されるのはまだ道は遠いかもしれない。しかし例えば脳梗塞に陥った患者の唇や顔、指先を優しく触り、耳元でを歌ったり話しかけたりして、常に患者の脳に刺激を与え続けることにより、救急隊が到着するまでに、脳梗塞患者のニューロンを再活性化し、血液を別ルートで流すことができるかもしれない。

 

Leap Motionのその後

私は昨年の2012年5月28日の記事で画期的な入力デバイスであるLeap Motionを紹介した。それがいかに画期的であるかは次のビデオを見てもらえればわかる。

<Leap Motion makes the Kinect and its kin look like yesterday news-720p>

このすごいデバイスがたった70ドルで予約販売をするというのである。出荷予定は2012年の年末か2013年の年始めであると言う。また出荷するまでクレジットカードから現金をおろさないという。それを聞いて私は即座に予約した。

しかしいくら待っても出荷されないのである。そのうちに5月に出荷を延期すると言うメールが来た。ところが5月になっても出荷されないのである。私はこれは新手の詐欺だと思い始めた。しかしその頃に台湾のPCメーカーのASUSとアメリカのPCメーカーのHPがLeepを採用するというニュースが流れてきた。またコンピューター・ショーでもディスプレーしたというニュースも流れてきた。

これなら詐欺では無いであろうと思っているところに、会社から言い訳のメールが来た。最終的な出荷は7月にするという。また6月からβテストを始めるという 。さらにネットを通して事情の説明会が行われた。その記録は配信されているが、私と同様早くから予約した人たちの怒りの声で溢れていた。会社の説明ではハードとソフトの開発に手間取っているという。プロモーション・ビデオを見る限り完璧に見えたのだが、あれはインチキだったのだろうか。

ともかくもすべては軌道に乗ったようで、いろんな新しいアプリが開発され始めた。以下に示すビデオは指先だけで指揮をするアプリである。私はこれを夢見ていたのだ。

<Leap Orchestra>

次のビデオはCADソフトであるAutoCADを指先だけで操作するアプリである。まぁこれで詐欺という疑いは消えた。

<Leap Motion and AutoCAD-command execution and model navigation>

 

宗教心は人間の脳に組み込まれている

 

ジャパンスケプティックスのコラムを参照のこと。

6月6日 男は笑うと負け、女は笑うと勝ち。

男は笑ったら負けよ、女は笑ったら勝ちよ」というエッセイをジャパン・スケプティクスのコラムに載せました。 

 

想像力は傷をいやす

最近の研究(Mental Imagery May Hasten Recovry after Surgery)によると、手術後にメンタル・セラピーを受けた患者はそうでない場合に比べて、傷が治りやすいことが示された。具体的には、傷に血液が流れ込んで酸素や栄養分を運んで、傷が治る様子を想像するのである。

恋のホルモンは人を引き離すこともある

オキシトシンというホルモンは恋のホルモンとして知られている。脳にこのホルモンが分泌されると信頼と親愛感が増し、恋に陥るのである。恋愛の初期に分泌される。しかし最近の研究によると(Oxytocin, the Love Hormone, Also Keeps People Apart)、それも状況によると言う。実験室に被験者の男性と、研究者が用意した魅力的な女性を同室させる。そのときの二人の間の距離を測定する。オキシトシンを摂取した普通の男性は、女性に魅惑されて距離を縮める。ところが既に一人の相手がある(Monogamy)男性は、逆に10-15cmよけいに距離を遠ざけるのである。それはその男性が女性に魅力を感じていないからではない。オキシトシンは親しい二人を近づけるだけではなく、見知らぬ相手には警戒心を増し、遠ざけるのである。

6月5日 義体化

義体化の時代近づく

義体とはアニメ「攻殻機動隊」、「イノセンス」に出てくる言葉で、体を機械に置き換えてサイボーグ化することである。これは必ずしもSF的な概念ではなく、人間はすでに、いろんな形で行っている。めがねをかけるとか入れ歯を入れるといったことも、初歩的な義体化といえるだろう。最近はそれがさらに進み、人工心臓などの技術も進歩してきた。ここで紹介するのは、義手である。

6年前に事故で腕を失ったアックランド氏(Nigel Ackland, 53)は、ターミネーターのようなカーボン・ファイバーの義手を装着した。拳の部分はアルミでできている。この義手は筋肉の神経とつながっているので、意志でかなり自由に動かすことができる。非常に巧妙にできているので、キーボードをタッチタイプすることもできる。

<'Terminator' arm is world's most advanced prosthetic limb>

アックランド氏は視聴者の疑問に答えて、さらにいろんなことをしてみせる。たとえば靴紐を結ぶ、カードを配るなどである。おもしろいことは、手首を360度回転させられることである。これは当然人間にはできない芸当である。

<'Terminator' false arm ties shoelace and deals cards>

米軍ではイラク戦争などのために2000人以上の兵士が手を失った。 米国の国防省高等研究局(DARPA)では洗練された義手の研究を行っている。義手をコントロールするのは、神経かまたは筋肉である。次のビデオはイラクで手を失った兵士が義手を操作しているところである。

<Targeted Muscl Re-innveration (TMR) for Advanced Prosthetic Control>

もっとすごいのは、義手を考えるだけで動かすDARPAの技術である。これは脳にチップを埋め込んで、離れたところにある技手を操作する。

<DARPA prothetic arm>

 

イノセンスの突入シーン

「攻殻機動隊」(こうかくきどうたい、英語タイトル:Ghost in the shell)は士郎正宗による漫画でサイバーパンクSFである。 それが押井守監督により映画化され(1995年)公開された。日本では公開当時あまりヒットしなかったが、アメリカでは非常に評判になり 、ウォシャウスキー兄弟監督がそれを参考に映画「マトリックス」を制作した事は有名である。その続編が 「イノセンス」(2004)である。

時代は2030年代の日本である。 マイクロマシン技術を使用して、脳の神経ネットに素子を直接接続する電脳化技術や、義手・義足にロボット技術を付加した発展形であるサイボーグ(義体化)技術が発展、普及している。その結果人間は電脳によって直接にインターネットにアクセスできる。その時代には生身の人間、電脳化した人間、サイボーグ化した人間、アンドロイドなどが混在する。テロなどの犯罪を事前に察知して防ぐためにできた内務省直属の公安9課(通称、攻殻機動隊)の活躍を描く作品である。

「攻殻機動隊」では主人公は草薙素子(くさなぎもとこ、通称少佐)である。草薙素子は脳だけが人間で、それ以外の部分はすべて機械に置き換わっている。映画の最後では、素子は最後に残った脳すら捨てて、ネットの世界に融合してしまう。

「 イノセンス」では主人公はバトーというサイボーグ化した刑事である。ロックス・ソロス社というロボット会社が、ガイノイドという愛玩用の少女型ロボットを作っている。工場は択捉島の海上に浮かぶ船である。ガイノイドを作る製造工程で犯罪があり、それを捜査している刑事のバトーとトグサは、工場に突入する。ロックス・ソロス社の警備担当者たちは中国語をしゃべっている。 ちなみにこの映画では至る所中国語があふれている。バトーたちは、少佐の助けを得てガイノイドと戦い、工場船を占拠する。私はDVDを買って、このシーンだけで100回ほど見たであろうか。

<イノセンス戦闘シーン>

ちなみにこのシーンで演奏される映画音楽は「傀儡歌(くぐつうた) 陽炎(かぎろひ)は 黄泉に待たむと」川井憲次作曲で、合唱は西田和枝社中、和太鼓は茂戸藤浩司(もとふじひろし)である。ちなみに川井は打楽器を演奏している茶髪のおじさん、西田和枝は合唱団の中央で歌っている少し太めのおばさんである。歌詞は万葉時代の言葉である。

<陽炎は黄泉に待たむと>

傀儡歌 

陽炎(かぎろひ)は 黄泉に待たむと

陽炎は 黄泉に待たむと

咲く花は 神に祈(こ)ひ祷(の)む

生ける世に

我(あ)が身 悲しも

夢は 消(け)ぬ

怨恨(うら)みて 散る

怨恨(うら)みて 散る

百夜(ももよ)の悲しき

常闇(とこやみ)に

卵(かいこ)の来世(こむよ)を

統神(すめかみ)に 祈(の)む

6月4日 シュッツ教授、年寄りはだまされやすい

 Professor Bernard Schutz

昨日、旧友のシュッツ教授にあった(Bernard Schutz)。現在、京都大学基礎物理学研究所で「湯川国際セミナー YKIS2013 "Gravitational waves -Revolution in Astronomy and Astrophyscs-"」というものが開催されている。シュッツ教授はそれに参加して、初日の最初のセッションで「Gravitational Wave Astronomy in the Next Decade (重力波天文学の今後の10年)」と題する講演を行った。

シュッツ教授はアメリカ人で、一般相対性理論の大家である。長らく英国のカーディフ大学の教授をしていたが、後にドイツのポツダムにあるマックス・プランク研究所・重力物理学研究所(Albert Einstein Institute)に移った。そこで相対論的宇宙物理学グループを率いている。

私は1975-77年にカーディフ大学(当時のUniversity College Cardiff)の応用数学・天文学教室に客員教授として滞在していた時、シュッツは講師をしていた。そこで彼と知り合い、いろいろと啓発された。とても頭の良い人だと思った。

シュッツは相対性理論の本をたくさん書いているが、日本語にも翻訳されている。たとえば「シュッツ相対論入門」である。下に述べるニ間瀬さんが翻訳している。

私は当時、京都大学工学部航空工学教室の助教授をしていたのだが、当時の修士課程院生であったニ間瀬敏文さん(現在東北大学天文学教室教授)を、修士課程修了後にカーディフに送り、彼はシュッツのもとで博士号を取得した。先のWikipediaの記事では、ニ間瀬さんは「相対論の研究を反対されながらも押し通し」とあるが、反対したのは私ではなく、ニ間瀬さんの形式上の指導者である講座の教授であった。たしかに「航空工学教室」で相対性理論の研究をするのは、他の教授の目もありまずかろうという教授の心配の為である。私自身も宇宙論の研究ではなく、流体力学の研究をするように言われた。そこで私はニ間瀬さんをカーディフまで連れて行き、シュッツにゆだねたのだ。ニ間瀬さんもとても頭の良い人であった。ニ間瀬さんは現在では日本に置ける宇宙論、相対性理論の権威者である。

前回、シュッツ教授が京都を訪れたときは、当時私が蟠踞していた情報メディアセンター北館の地下にある可視化実験室(通称秘密研究所)に案内した。その後、北白川のかに道楽で家内共々話し合った。この店は小部屋を予約することが出来るので、外国人の客が来るときは、いつも使っている。今回も、そのつもりで招待しようと思ったのだが、彼はなんと日曜に日本に来て火曜にはドイツに戻ると言う。忙しいことだ。

年寄りはだまされやすい

この記事に関しては、ジャパンスケプティックスのコラムを参照してください。

6月3日 二酸化炭素は地球の緑化を促進する

 

二酸化炭素の増加で地球の緑化が促進されている

二酸化炭素はなんか地球温暖化を通じて悪の帝王みたいにいわれているが、そうではない。植物は基本的には葉で太陽エネルギーを受けて、二酸化炭素と水から光合成作用ででんぷんを作り、葉や幹を作る。植物の生産量は二酸化炭素が増えると増大する。また温度が上昇したり、水が増えると上昇する。

1982年から2010年までの人工衛星の観測データから、地球の緑化が進んでいることが確認されているが、その原因について色々取りざたされて来た。オーストラリアの研究チームは、アメリカの南西部、オーストラリア、中東、アフリカの一部について研究した。植物の生育に及ぼす他の効果、温度上昇、湿度の変化、光の量の変化、土地利用の変化、これらを考慮して、二酸化炭素の影響のみを抽出すると、11%の緑化促進が認められた。これは二酸化炭素の肥料効果と呼ばれている。今までの研究では、研究者は観測された緑の増加の原因を温度上昇とか湿度上昇のせいと考えて来たが、今回の研究で二酸化炭素増加の肥料効果が明らかになった

二酸化炭素が増えると葉の量が増える。しかしジャングルのようにすでに緑に覆われている部分は、それ以上増えようがないが、砂漠のような不毛な土地の緑は、二酸化炭素の増加によって増える。観測によると緑地が増えているが、草よりは木の方に影響が大きい。木が緑地に浸食していると言う。木は土地に根を張るので、草よりも二酸化炭素増加の影響を受けると言う。

私の感想

気候学者は二酸化炭素増加による地球温暖化のマイナス面ばかり強調するが、プラス面が明らかにされたことは、興味深い。地球の歴史の中で、温度が現在よりも遥かに高いときがあった。二酸化炭素の量が10倍も多いときもあった。そんなときは北極や南極まで緑に覆われていた。地球温暖化は生物総体に取っては善、寒冷化は悪である。

なぜ地球温暖化の脅威をヨーロッパなどの先進国が叫ぶかと言うと、地球の現在の気候でもっとも利益を受けているのが、中緯度にあるヨーロッパであるからだ。地球温暖化が進むとロシアやカナダなどに好影響が及ぶ。そこでの食料生産は増えるであろう。しかしヨーロッパにはマイナスの影響があるかもしれない。西欧先進国の学者は、そうは言わないで、アフリカやアジアなどの発展途上国に被害が及ぶ、バングラデッシュや島嶼国が、海面上昇で被害を受けると言う。

西欧先進国はまた地球温暖化ビジネスでもうけようともしている。鳩山元首相のようにナイーブな人は、西欧先進国の深いプロットに乗せられて二酸化炭素削減25%などと、できもしないことを約束したのだ。

興味を持たれた読者はジャパン・スケプティックスのコラムも参照してください。

地球の気温の変化

近年、地球温暖化の脅威が叫ばれているが、過去の地球の温度変化はどのようなものであったか。現在は広い意味の氷河期にある。氷河期とは、地球のどこかに氷河がある時代である。現在では南極大陸、グリーンランド、ヒマラヤなどに氷河があるので、氷河期である。しかしそのなかでも、比較的暖かい間氷期と氷期が交互におとずれていた。約1万年前に氷期が終わり、暖かい間氷期になり、人類は農耕を始めて文明が開花した。過去数千年前には現在よりも温暖なときがあり、その時期を気候最適期(Climatic optimum)とよんでいる。

過去1万2千年の気温変化を示す。以下の図はすべてWikipediaから取った。(Temperature record, 図の右端が現在で、左端が1万2千年前である。1万年前に前の氷期が終わり、温度は急上昇して間氷期に突入した。過去8千年から4千年前の気温は、現在よりも高い。この時期はサハラ砂漠も緑に覆われていたし、カバや象もいた。この時期に農耕が始まり、文明が開花した。地球温暖化が文明の鍵である。

過去12000年間の平均気温の変化

過去80万年間の気温変化。右端が現在で左端は80万年前。ほぼ10万年続く氷期と1万年続く間氷期が交互に訪れている。現在は間氷期が始まって既に1万年が経過したので、自然のサイクルに任せると、いつ氷期になってもおかしくはない。

過去80万年の気温変化

過去500万年の気温変化。右端が現在で左端は550万年前。現在は寒冷な氷河期である。そのなかでも何度も比較的温暖な間氷期(図のピーク)と寒冷な氷期が交互に訪れている。ほぼ300万年前から寒冷な気候になったことが見える。

過去500万年の気温変化

過去6500万年の気温変化。右端が現在で左端が6500万年前。現在は寒冷期で、過去には現在よりはるかに高温期があった。この図では過去300万年間は気候変動が激しく、温度変動が大きい。南極に氷河が出来たのは3400万年前で、それが溶けて、また1200万年前に氷河に覆われた。5000万年前は非常に暑かったことが読み取れる。

過去6500万年の気温変化

要するに地質学的なデータを見ると、現在の地球の平均気温は過去の温度と比較すると低いのである。それではなぜ地球温暖化が騒がれるかと言うと、現在の西欧文明が現在の気候に最適化しているので、これが変化すると困るからである。それもゆっくりな変化ならともかく、急速な変化の場合、適応が困難になる。いわば既得権益者が、既得権の喪失を騒いでいるのである。

6月2日 ワインシュタイン騒動 続き

 

ワインシュタイン騒動

昨日紹介したアインシュタイン(Einstein)を超えるワインシュタイン(Weinstein)の話の続きである。Facebookのお友達から、New Scientistでもワインシュタインの理論の紹介があると教えてくれた。それによるとワインシュタインの最初の講演は聴衆が少なかったらしい。しかし新聞に取り上げられたことで、結構な騒動になったようだ。そこでもう一度講演したら、今度は聴衆が集まったらしい。

New Scientistの意見記事の中で、オックスフォード大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの宇宙論学者ポンツェン(Andrew Pontzen)は、重要な理論の発表と言いながら、素粒子論学者がいないところで、こっそりとセミナーをするなんてけしからんという意見を乗せた。もっとも、セミナーを主催したオックスフォードの数学者ソートイ(Marucus du Sautoy)は電子メールをまわし、ポスターも作ったのだが、手違いでうまく行かなかっただけだ。そこでポンツェンは訂正して謝罪の文章を載せている。早のみこみで、人を攻撃するのはあやぶいものだ。

昨日紹介したScientific Americanのブログ記事でも、ブロガーのオエレット(Jennifer Ouellette)はワインシュタインに対して批判的であったが、ポンツェンとeメールを交換して、間違った情報で攻撃したようだ。このブロガーも訂正文を出し、少し態度を和らげているが、それでも、ソートイとワインシュタインのやり方は、正統科学の方法に反していると批判している。しかし、セミナーをする前に論文を出しておくべきだとするのは、少し言いすぎだろう。ソートイはワインシュタインのアイデアが革命的だから、まずはセミナーをしてプロの物理学者の意見を聞き、それから論文にすると言っているが、そちらのほうがもっともらしい。もっとも、オエレットはセミナーをガーディアンのような一流紙に広告したのはけしからん、またガーディアンもけしからんと述べたが、そちらもガーディアンの記者から連絡もなしにいきなり攻撃するのはどうかと、批判されている。

疑似科学の跳梁跋扈

ところでワインシュタイン騒動を調べていると、ワインシュタイン自身とその理論、数学者のソートイを強烈に批判する文章に出くわした。"The Latest Hoax in Physics: Eric Weinstein"(物理学における最近のでっち上げ:エリック・ワインシュタイン)と題する文章でマチス(Miles Mathis)なる人物が書いている。とても長いので読むのが大変だが、ようするに徹底的に攻撃的な文章である。そこでこの人物のホームページを調べると、どうも良く分からない。そこに書かれていた彼の本なるものを読むと、既成の物理学を徹底的に攻撃している。どうやらこの人物は疑似科学者であるらしい。そこでさらに調べると、マチスはインターネットにおける悪名高い疑似科学者であると指摘するサイトに出くわした。マチスは円周率のパイが4であると主張していると言うのだ。やれやれ。

彼は独自の理論を展開していて、それですべてを説明できるという。私はこの手の理論を「オレオレ理論」とよぶ。オレオレ理論が世間に認められれば、オレは天才だ。認められなければ、オレは不遇な天才だ。彼は本まで書いていて、アマゾンで売っている。その書評を読むと星が5と1-2にはっきりと分かれる。5のものはマチスが天才だと褒めそやし、1-2のものは疑似科学者だという。5のものは最初に集中しているので、これはたぶんマチス自身が変名で書評を書いているのであろう。アマゾンの書評にはこの手の、自分ないし身内の書評が時々あるようだ。書評数が増えて行けば、この手のサクラの密度は減るであろう。

ニュー・サイエンティストの記事の後にコメント欄があり、読者は間違った情報でワインシュタインを批判しているが、それは後には訂正されている。すべてはポンツェンの早とちりから出ている。しかし興味深いことは、このコメント欄でも別の人が『オレオレ理論』を披露して、批判されていた。日本にも世界にも、疑似科学者の種は尽きまじ。

筆者が会長を務めるジャパン・スケプティックスのホームページのコラム記事も参照のこと。

6月1日 アインシュタインを超えるワインシュタインの14次元統一場理論!!??

 

アインシュタインを超えるワインシュタインの14次元統一場理論!!??

今朝はなかなか画期的なニュースが飛び込んできた。英国の権威ある新聞ガーディアンの報じたところによると、アメリカのワインシュタイン( Eric Weinstein)という人が、現在の素粒子論の究極の問題である量子論と一般相対性理論を融合する統一場理論を提唱したというのである。興味深い話は、このワインシュタインという人は確かにハーバード大学で数理物理で博士号をとったのだが、ここ20年間はアカデミックな世界とは関係なく、ヘッジファンドで働いてきたという経歴である。そのことは上のワインシュタインの名前をクリックすると、彼のサイトに飛ぶが、そこには金融関係の論文が列挙されているが、それとならんで「経済学はゲージ理論だ」、「生物科学における競争とキャリア」などという論文もある。

ワインシュタインはオックスフォード大学でセミナーをしたのだが、それをアレンジしたのはオックスフォードの Marcus du Sautoyという著名な数学の教授である。ソートイはかのリチャード・ドーキンスが占めていたシモニー教授職である。ソートイはワインシュタインと1990年代にヘブライ大学でポスドクとしてともに研究したのだが、その後の進路は別々になった。ワインシュタインは統一理論のアイデアを20年間暖めていたのだが、2年前にソートイにアイデアを話した。ソートイのもとには、この手の話がたくさん舞い込んでくるのだが、彼はあまりまじめに考えていない。しかしワインシュタインの話を聞くうちにこれは現在の物理学の根本問題を解決する大変な大理論だと確信するようになった。そこで話を専門家に聞かせようとセミナーをアレンジしたという。ソートイのガーディアンの記事はここを参照のこと。

これらの記事を要約しよう。現代物理学には解決されていないいろいろな問題がある。例えばこの宇宙を構成する物質はたったの5%以下で、25%程度はダークマター、70%はダークエネルギーである。これらのものが何者なのかは、ほとんど分かっていない。また素粒子の問題として3つの種族があることが知られている。それぞれの種族には2種のクオーク、ニュートリノ、電子などのレプトンが属している。しかしそもそもなぜ3種類の種族があるのか。さらに20世紀の物理学の最大の発見である量子力学と一般相対性理論の融合という難問がある。これらの問題、特に最後のものは最大の難問で、アインシュタイン自身を含む多くの研究者が解明を試みてきたが成功していない。

ワインシュタインは自分の理論を「幾何学的統一理論」と呼ぶ。彼は14次元の観測宇宙(Observerse)というものを考え、我々の住む4次元世界はそのなかに埋め込まれている(embedded)と考える。この二つの関係は、例えてみれば野球場の観客席とグラウンドみたいなものだ。観客はグラウンドのプレイは見ることは出来るが、その詳細は見えない。

観測宇宙では見えないダークマターは存在しないという。現在の素粒子の標準理論は右手系と左手系の非対称性を仮定する。しかしワインシュタインの理論ではこの非対称性は存在しない。我々がダークマターを容易に観測できないのは、観測宇宙が比較的平坦な場合、左手系と右手系は非常に分離しているからである。

また彼の理論では、ダークエネルギーは重力、電磁気力、強い力、弱い力とならんで基本的な力であると考える。彼の理論ではダークエネルギーは時間的に変化する(アインシュタインの宇宙定数は変化しない)。ワインシュタインの理論では150もの新しい素粒子の存在が予言される。それらは奇妙なもので電荷が2であったり、スピンが3/2であったりする。

現在の有名な統一理論として超弦理論があるが、いまだにテストできる予言をしていない。ワインシュタインの理論は、一般相対性理論を量子化するというアプローチではなく、その逆、つまりすべてを幾何学的に説明しようとするアプローチである。これはアインシュタインが試みて失敗した統一場理論と類似の理論である。

ワインシュタインの理論の最大の問題は、内容自体よりも、それが論文の形になって物理学のコミュニティによって試されるという、現代科学の取る正統的方法を取っていないことだ。ワインシュタインは彼のアイデアを何人かの学者には話している。学者たちは賛否両論である。内容が間違っているというよりは、あらゆることを一挙に説明しようとするワインシュタインの態度、あるいはやり方に批判的なのだ。詳細な数式を示した論文が無ければ、一般の研究者にはその正しさを調べようが無い。ワインシュタインは論文をプレプリント・サイトに投稿予定だと言う。

ソートイはワインシュタインのやり方を擁護する。今までの科学は大学や研究所に所属するプロの研究者が行い、結果を論文にして雑誌に投稿し、それをレフェリーが査読して、満足すれば掲載する。それを読んだ他の研究者は、その研究を確認するか否認するか、あるいは無視する。このようにして現代科学は進んできた。しかし今や、インターネットで情報はいくらでも得ることが出来るのだから、アカデミックな世界に属さない研究者でも研究は出来る。毎日象牙の塔のエレベーターに乗っている研究者も、外部からやってくるアイデアにもっと心を開くべきである。

もっともこの世はソートイのような人たちばかりではない。例えばScientific Americanの最近の記事では、それにたいして非常に批判的である。いずれにせよ、ワインシュタインの理論はプレプリントになるのだから、世界の研究者の厳しい検証を受けることになるだろう。

   
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