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秘密研究所と秘密研究会

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私は人間の知能をはるかに凌駕する機械知能、つまり超知能を作ることを目指して研究している。超知能を作るためには、人間の大脳新皮質で働いていると思われる基本アルゴリズム、これをマスターアルゴリズムと呼ぶとすると、それがどのようなものかを解明するのが近道であると考えている。

私の研究所は京都の鴨川のほとりにある京都技術科学センターという建物の一室にあり正式名称は「AI2オープンイノベーション研究所」という。秘密研究所とは私が勝手に呼んでいる名前だ。別に秘密でもなんでもなく、ちゃんと看板もかかっている。正式な所員は3名である。

その研究所のスポンサーは株式会社ブロードバンドタワーである。その会長兼社長の藤原洋さんは、彼が京都大学の学生時代に私が少しお世話したことがあり、それが元でこの研究所の他に、私が主催する「シンギュラリティサロン」も後援していただいている。藤原さんは科学技術の普及発展に非常に関心があり、京都大学の花山天文台の望遠鏡設置に資金協力したり、慶応大学に藤原洋記念ホールを作ったり、藤原洋数理科学賞を作り有為な科学者を表彰したりしている。現在はSBI大学院の学長も務めておられる。 

さて私はその研究所で2015年から週に3日、一回につき4-5時間の勉強会を開いている。これも私は勝手に秘密研究会と呼んでいる。元は私の自宅で私の大学時代の元の学生数名を集めて個人的に開いていた勉強会の延長だ。2020年にコロナが蔓延し始めてから勉強会はzoomを利用してリモートで行うようになった。その御蔭で、遠隔地からも参加できるようになり、現在の参加者は私を含む名誉教授が4名、現役教授が2名、退職した技術者などである。多くが京都大学出身者であり、物理学・宇宙物理学専攻が主である。週日の午後に開くために、仕事のある現役の人はスケジュールの調整が大変なようだ。その点、名誉教授とか退職技術者は時間がたっぷりあるので、集中的に勉強することができる。

勉強会の主なテーマは、現状は機械学習とその基礎数学、神経科学、計算論的神経科学である。私の本来の研究内容は宇宙物理学、天体物理学である。勉強会のもとからの参加者は全員そうであった。しかし私は70歳を過ぎる頃からテーマをシンギュラリティ問題に変えた。というのも、以前のエッセイで述べたようにシンギュラリティが起きると世界の歴史が激変するので、それに参加したいと思うようになったからだ。そこで2015年くらいから機械学習と神経科学の勉強に集中することにした。

神経科学に関しては、大阪大学医学部の学生さんに指導してほしいと頼まれて、我々と阪大の学生5-6名でzoomの勉強会をしたこともある。阪大医学部の起源は緒方洪庵の適塾である。そこで私はその勉強会を不敵塾となづけた。不適では少し具合悪いからだ。しかし医学部の学生さんが上級生になり、とてつもなく忙しくなり、沙汰止みになった。また京都大学の大学院で中国人の学生さんの指導も頼まれて、機械学習の勉強会を行ったこともある。これら有為な若者のために山中祥子(さちこ)プロジェクトの支援を受けたことをここに記録しておきたい。当時京都大学の学生であった山中祥子さんは1995年に起きた阪神大震災の時に自宅が倒壊して亡くなられたのだ。それを悼んだ遺族によって祥子プロジェクトが作られた。

さて勉強会だが現在は先に述べたように名誉教授、教授が主体の年寄り中心の頭脳集団として活動している。勉強会ではYouTubeで外国の大学の講義や研究会発表をそのまま英語で聞いている。日本語では適切な講義は(ほとんど)ない。いっぽう英語では山のようにある。まるで宝の山である。どの宝から手にとったらよいか迷うほどである。英語の教科書もたくさん無料で手に入れられる。いっぽう日本語ではほとんどない。インターネット時代の恩恵である。

YouTube動画で勉強することのメリットは、動画を止めて議論できることだ。大学の講義ではそうはいかない。だから1時間の講義を4時間かけて議論しながら理解することもある。私はつねづね思っているのだが、英語の読解力と聴解力は今後のこの手の勉強に必須である。それとコンピュータ言語の能力が必要だ。これらの講義で使われる言語は主としてMatlabとPythonである。

最初の頃、私は機械学習の全くの素人であり、独学(というよりは3人だが)で苦労した。まずは手始めに隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model)の勉強を手探りでおこなった。それから少し系統的になりSimon J.D. Princeのコンピュータ・ビジョンの教科書を読んだ。またそのパワーポイントスライドを使った玉木徹先生の日本語の講義を聞いて勉強した。

それから機械学習ではBishop, Murphy, Barberなどとつづき、強化学習ではSutton & Barto、ロボティックスではThrun, Bulgard & Fox、神経科学ではベアー・コノー・パラディーソ、カンデル、計算論的神経科学ではIzhikevich、Trappenberg、Dayanなどである。これらの書誌情報は別稿にまとめる予定である。ここではPrinceのものだけ上げておく。

Computer Vision: Models, Learning, and Inference, Simon J.D. Prince

教科書は以下のプリンスのホームページからダウンロードできる。

http://www.computervisionmodels.com

このホームページにはアルゴリズムブックの他にMatlabコードも一部付随している。さらに良いことはこの教科書をもとにして、広島大学の玉木徹先生の日本語の講義動画があることだ。われわれはこれで随分勉強させてもらった。

 

 

   
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