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聖子ちゃんの冒険 その13

京都ゼミナールハウスの冒険2

技術的特異点と人工知性による世界征服の夢

セミナーではまず森田教授が研究室の今後の方針についての一般的な話をした。その次の話は松谷先生で、先生は「人工知性による世界征服の夢」という話をした。とてつもない話なので皆は面白がって聞いた。一番前列には森田教授が陣取り、その隣には教授の娘の聖子ちゃんが座った。さらにその隣には聖子ちゃんの恋人で数学の天才の森准教授、その後には高山准教授と林助教が座った。以下は松谷先生の話である。

 はじめに

皆さんこんにちは。私は松谷です。既に大学を定年退職した名誉教授ですが、森田先生のご好意により森田研究室の一角をお借りして研究をしております。例の地下室にある秘密研究所です。私の専門は宇宙物理学における数値シミュレーションですが、それ以外のことにもいろいろ興味を持っています。私の理想とす る科学者は映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」にでてくるマッド・サイエンティストのドクです。私もタイムマシンの研究をしましたが、これは原理的にはともかく現実的に近い将来に作る事は不可能です。今日の話はまともな科学者と言うよりはマッド・サイエンティストとしての話です。 たとえば『タイムトラベル超科学読本』-クリエイティブスイートを参照してください。

さて皆さんは私の話のタイトルが、人工知性による世界征服などという大層なもので驚かれたでしょう。今日の私の話では、まず私が狙う世界征服とは何かについて定義します。それからコンピュータの知能が全人類の知能を超える時点、それを技術的特異点というのですが、その話をします。技術的特異点という言葉を広げているカーツワイルというアメリカの人工知能学者によると、技術的特異点は2045年頃に起きると言います。皆さんがまだ生きている時代ですよね。この問題を「2045年問題」といいます。たとえば『2045年問題-コンピュータが人類を超える日』-廣済堂新書-松田-卓也著を参照してください。

 技術的特異点に達した後どうなるかについて、カーツワイルは楽観的な話をしています。コンピュータと人間がドッキングすることによって永遠の生命を得ることができるというのです。一方、悲観的なことを言っている学者もいます。オーストラリア出身の人工知能学者ヒューゴ・デ・ガリスという人です。彼は人類の知能の1兆倍の1兆倍の知能を持つゴッド・ライク・マシンが出現すると言うのです。そのゴッド・ライク・マシンは人類を滅ぼして、そして新しい宇宙を作ると言うのです。キリスト教徒は神が世界と人間を作ったと言いますが、それは間違いで人が神を作り、その神が世界を作ると言うのです。こんな話は夢物語のようですが、デ・ガリスはそれが21世紀後半に起きると言うのです。これもまだ皆さんが生きているときですよね。

 さて私の夢と言うのは、その技術的特異点を我々日本人の手で実現しようじゃないか、皆さんの力で実現しようじゃないかという話です。ただしゴッド・ライク・マシンに人類が滅ぼされるのはイヤですから、人間がゴッド・ライク・マシンと一体となったサイボーグになろう、つまり人間が神になろうという提案です。具体的には、前に座っている森先生と森田聖子ちゃんを、日本神話の神であるイザナギとイザナミに見立てて、彼らを神にして、新しい世界を生んでもらおうという計画です。

 こんな話は途方もないと思われるでしょう。確かに途方もありません。そこでもっと具体的な話を最後にします。技術的特異点に至るまでの10年から30年間に起きるであろう技術的進歩について述べます。この部分は十分に実現可能性があり、その部分を皆さんでやっていただきたいと希望する訳です。

世界征服と支配の意味

 さて世界征服の定義の話から始めましょう。征服とは例えば他民族をその意志に反して支配することです。どのようにして支配するか。支配の方法には私は基本的に3種類あると思います。もっとあるかもしれませんが、主なものは3つです。物理的支配、経済的支配、情報的支配です。

 物理的支配とは要するに力による支配です。つまり軍事力による支配です。もっとはっきり言ってしまえば、言うことを聞かなければ殺すぞという脅しによる支配です。人類の歴史における世界征服というのはまさにこの軍事力による支配です。古くはギリシアのアレキサンダー大王、蒙古のチンギスハン、フランスのナポレオン、ドイツのヒトラーなどが軍事力による世界征服を試みました。みんな一定程度の成功を納めましたが、最終的には挫折しています。それは誰も他人に支配されることを好まないからです。ですから隙があれば支配を覆そうと反抗します。 現在では軍事力で他民族を支配することは非常に不人気です。アメリカがイラクやアフガニスタンを侵略したのはこれですけれども、それが不人気なことは皆さんよくご存知と思います。 力による支配はスマートではありません。

 もっとも日本のような民主主義国家においても、国家は最終的には物理的力で国民を支配します。警察、検察、裁判所などが物理的力を行使するのです。つまり国の言うことを聞かなければ刑務所に入れるぞ、さらには死刑にするぞともいいます。警察で収まりがつかない最悪の場合は軍隊が出てきます。

 もっとスマートな支配方法が経済的支配です。これは言うことを聞けば金をやるということです。逆に言えば、言うことを聞かなければ会社をクビにするということです。人々が会社で働くのは、給料を貰って生活するためです。ですから会社の言うことを聞かなければなりません。聞かないと最終的にはクビになります。クビになると食べていけません。食べていかないと死にます。しかし経済的支配は力による支配よりもスマートです。言うことを聞かなければ殺すぞと言われるより、言うことを聞けば金をやるぞと言われる方がいいですよね。 要するに金は力なのです、権力の源泉なのです。経営者、会社、資本家、財界などが経済支配の主体です。

 さらにもっとスマートな支配方法が情報支配です。政府やマスメディアは情報支配を試みます。情報支配の要諦は、情報をコントロールすることです。そのためには真実の情報を隠蔽する、歪曲する、捏造するなどします。独裁国家や共産主義国家では情報のコントロールが特に重視されます。なぜなら情報は権力の源泉だからです。日本のような民主主義国家では、国家権力による情報支配は、もちろん行われてはいますが、嫌われますので堂々とは出来ません。

 エシュロンを知っていますか。英米を中心とした英語圏の国が、密かに世界の電話や通信を傍受しているシステムです。これなど情報を集積することにより、世界を自分たちの思う方向に操ろうとするものです。

 太平洋戦争で日本が米国に敗れた大きな原因は、もちろん日米の工業力の大きな差にあるのですが、暗号が解読されたことも大きいです。ミッドウエー海戦で日本は大敗して、以降の戦局が決まったのです。その敗因の一つとして、日本軍の暗号が解読されていたことがあります。英国は例のコンピュータの親であるチューリングが中心となり、ドイツのエニグマ暗号を解読しました。情報は力なのです。

 平時において情報支配をもっとスマートにやっているのが新聞、テレビなどのマスメディアです。現在の日本の政治の方向性を決めているのはマスメディアであるといっても過言ではありません。マスメディアが国民を一定の方向に誘導して、ある世論とか空気を作り出し、それが政治の方向性を決めています。マスメディア自身は、マスメディアの目的は国家権力の監視であるなどといいますが、実はマスメディア自体が権力なのです。司法、行政、立法につぐ第4の権力と呼ばれています。国家権力と一体となった権力機構を構成して国民を支配しているのです。ただそのことがあからさまに見えないのでスマートな支配方法なのです。

 ところが最近、新手の情報支配の方法が現れました。グーグル、ヤフー、アップル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックなどアメリカの情報産業による支配です。これは膨大な情報を集積することにより、世界を自分たちの思う方向に持って行こうと言う意味で、あからさまではありませんが、明らかに新手の支配法です。みなさんがグーグルメールを使うときに、その横に宣伝が現れますよね。例えば温泉という言葉がメールに含まれる場合、温泉の宣伝が出てきます。これはコンピュータによりあなたのメールが読まれていると言うことです。アマゾンで買い物をすると、貴方が以前に買ったものを覚えていて、これなどどうですかと推薦してきますよね。これは人工知能があなたの行動を監視しているのです。

 グーグルの目的は世界の支配にあると思います。もちろんそんなことはあからさまには言いませんが。その目的はもちろん金儲けの為です。政治的支配というよりは金儲けのためです。でも本来は望まないことを人々にさせると言う意味で、これも支配法のひとつなのです。中国がグーグルを規制しているのは国民に真実が知られては困るからです。真実が暴露されて、人民が共産党の支配を覆すのを恐れているのです。中国共産党を転覆させるのはアメリカの利益ですから、アメリカはグーグルを支援しています。つまり情報は強力な力を持っていると言うことです。世界を支配する力を持っているのです。このことが重要です。

 これで皆様もお分かりかと思いますが、私の話の要点は、非常に強力な人工知性を作ってそれによる情報支配を行おうというものです。まずは日本を支配し、それから世界を支配します。世界征服といっても武力による征服などではなく情報、知能、知識による支配なのです。スマートな支配です。グーグルに対抗しようというわけです。目的は金儲けのためではありません。世界平和のためです。

技術的特異点

 さて私は最近、森先生、高山先生、林君の影響で人工知能に興味を持っています。それでいろいろ調べてみたのですが、非常に面白い話をしている研究者を知りました。そのうちの1人は先に述べたアメリカの未来学者、発明家であるレイ・カーツワイルです。彼は2045年頃に技術的特異点に達すると予言しております。技術的特異点と言うのは、コンピュータが非常に発達して、その知能が全人類の知能を凌駕する時点です。

 技術的特異点という言葉自体はカーツワイルの発明ではなくバーナート・ビンジという人が提案しました。技術的特異点に達すると、それ以降の人類の歴史は予想もつかないとされています。特異点という言葉自体は、一般相対性理論の概念から取ったものです。ブラックホールの中心や、宇宙の始まりのように、曲率や密度が無限大になる場所があります。そこを特異点といいます。技術的特異点という言葉はそのアナロジーです。

 カーツワイルは音声認識の研究をやってきました。現在のアップルのMacintoshやiPad、 iPhoneなどに搭載されている音声認識のソフトは基本的にはカーツワイルが創始した会社のものです。現在はニュアンス社といいます。日本でも音声認識ソフトであるドラゴン・スピーチ11Jを発売しています。カーツワイルの一番重要な主張は収穫加速の法則です。それはムーアの法則の拡張です。ゴードン・ムーアはインテルの共同創始者です。ムーアの法則については皆様よくご存じだと思いますが、集積回路の集積度が1年とか2年で倍になると言うものです。つまり集積回路の集積度は倍々ゲームのように、指数関数的に増加すると言うものです。この法則は60年代に提案されましたが、現在に至るまで40年間成立しています。カーツワイルはこのムーアの法則が単に集積回路の集積度にとどまらず技術一般、さらには宇宙のあらゆる出来事に適用できると考えたのです。これが収穫加速の法則です。しかし我々にとって重要なのは技術における収穫加速の法則です。

 カーツワイルはいろんな予測をしています。その一つは遺伝子工学です。遺伝子工学の発達により、将来ほとんどの病気が治せる、そして人間の寿命が非常に伸びると言う話をしています。その次はナノテクノロジーです。ナノボットという赤血球程度の大きさのロボットを作り、それを人間の体内に入れることを考えています。このナノボットも病気を治します。そして近い将来、人間は不死になるというとんでもないことも言っています。彼はその時点まで生きるために、あらゆる健康法をやっています。一日に200以上のサプリメントを飲むとも言います。本気なのか冗談なのかよくわかりません。

 ナノボットの次は人工知能とロボットです。ロボットというと皆さんは鉄腕アトムやドラえもんのようなものを想像するかもしれません。そのようなロボットは人間の形をしたロボット、ヒューマノイド型ロボットと言われています。しかしここで私が話したいのは、そのようなヒューマノイド型ロボットだけではなく人工知能一般です。人工知能を実現するコンピューター・アルゴリズムをロボットあるいはボットと呼ぶことにします。これはまさに皆さんの研究テーマですね。

Brain Machine Interface (BMI)

 私は脳とコンピュータを直接に接続して人間の知能を増強する事を夢見ています。これをBrain Machine Interface (BMI)といいます。これには入力と出力の両面があります。脳が直接にコンピュータに指令を出して操る、つまり脳から見れば出力、コンピュータから見れば入力については後で話しましょう。

 まずコンピュータ出力を脳に入力する方法について述べます。これは歴史的にはラインプリンタ、CRTで行われてきました。最近は液晶モニターを使って行われています。もっと進んだものがヘッドマウント・ディスプレイや、まだ実現はしていませんがスマート・コンタクトレンズによるものです。すでに研究はされています。

 何か調べ物をする時、例えばiPhoneを使ってググって答える事は、一種の知能増強です。 何か質問された時に、 iPhoneを使うとググっているのが分かります。しかし外からは分からないようにググって答えを出せたら、賢そうに見えますよね。外部から見て、その人の知識量や知能指数が上がったように見えるでしょう。現代のシャーロック・ホームズはiPhoneを使って捜査をするのです。必要な情報はネットから仕入れます。

  私はこれをスマートにやりたい。現在最も有力な手法はヘッドマウント・ディスプレイを使うことです。Googleが2012年に発表したグーグルグラスなどはその例です。これとスマートフォンをBluetoothのような無線通信装置を使って接続します。すると検索結果が眼前に現れます。コンピュータに対する入力は当面は音声認識でしょう。

<グーグルグラス>

 ヘッドマウント・ディスプレイが進むと、こんどはコンタクトレンズになります。未来のコンタクトレンズを使うと、眼前に現実の像と、増強現実の像が重なって見えますが、それは外からは分かりません。これを使ってデートの指南をしてもらおうと言うパロディがこれです。

 <増強現実は未来の恋の指南役>

 カーツワイルは人間とコンピュータのインターフェイスとして、ナノボットを脳の血管に入れる事を提案します。脳内のニューロンの電位をナノボットが測定して、それを無線で外部に送信します。すると脳とコンピュータのインターフェイスが出来ます。考えるだけでコンピュータを操作できます。現状でも頭の周りに電極を張り巡らせて、脳波でコンピュータを制御する製品が売られていますが、問題点は精度です。たとえばEmotiv EPOCという製品があります。

 と話していると、時間がどんどんと過ぎてしまいました。世界征服のプランを40分で話せる訳はありませんので、私の話は今はここまでとして、後は希望者に夜にお話ししましょう。

続く

   
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