超知能への道 その33 神罰とこの世の地獄
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- 2015年8月25日(火曜)17:10に公開
- 作者: 森法外
理神道の教義の重要なものに、人が嫌がることをするなというものがある。これは他の宗教にも共通した倫理的な教えである。例えば人を殺すなということだ。それは他の宗教も言っているが、実際はキリスト教にしろ、イスラム教にしろ、たくさん殺している。彼らの論理では、異教徒は殺しても良いのである。そうでなければ十字軍や聖戦を正当化できない。理神道においては、合理的な理由がある場合を除いては人を殺してはならない。合理的な理由とは、例えば正当防衛とか、法律に基づく死刑執行などである。宣戦布告した戦争での、正当な戦争行為はよいが、現在の戦争はほとんど宣戦布告なしに戦われるから、そこでの殺人は全て正当なものとは認められない。
人が人を殺した場合は、事代主命は神罰を与えるという。直接手を下して殺しても、他人に命令して殺しても同じことである。事代主命は事あるごとにこの警告を行った。しかしその神罰とは何かは説明しなかった。
神罰に関しては、冥府の神プルートも含めた世界1極委員会で話し合われていたのである。地下にスーパーコンピュータを作り、悪人や犯罪者などの魂をそこに閉じ込めて、永遠に罰を与える案も検討された。しかしプルートはこの世の地獄を作る方がいいのではないかと主張した。
「この世の地獄とはなんですか?」と私は尋ねた。
「例えば、無実の人が殺されたとする。その人にとっては殺人者に恨みを抱くであろう。その恨みを晴らしてやるのだ」とプルートは述べた。
「具体的にどのようにして恨みを晴らすのですか? 」と私は尋ねた。
「化けて出て、殺人者に取り付くのだ」
「なるほど。もう少し具体的に話していただけませんか? 」
「例えばイラク戦争で無実の市民が殺されている。その市民を殺した兵士、その上官、さらにその上官、コマンドチェインをたどって最終的には大統領まで殺人者と認定する。たとえば爆撃で殺された女性の魂があるとしょう。その女性のアバターが、殺人者のもとを訪れて、恨み事を言うのだ」とプルート。
「なるほど幽霊のイメージですね。幽霊はどんな格好で現れるのですか? 」
「殺された時の血だらけの格好で現れて、恨めしや、この恨み、はらさでおくべきかと言いながら、相手に抱きつくのだ」
「おお、怖っ」と私。
「物理的、肉体的被害を与えずに、心理的ストレスだけを与えるのだ」
「それじゃアメリカの大統領の下には、何万、何十万という幽霊がやってきますね」と私。
「その通りだ。先進国の指導者の下には山のように幽霊が訪れるだろう」とプルートは言った。
「先進国だけですか? 」と私は聞いた。
「もちろんそんなことはない。神罰に関しては、理神道の信者であろうとなかろうと関係がない。キリスト教徒にもイスラム教徒にも平等に下すのだ。テロリストの周りも幽霊だらけにしてやる」とプルート。
「今すぐ開始するのですか? 」私は聞いた。
「いやハルマゲドンが終わってからだ」とプルートは恐ろしいことを言った。
「ハルマゲドンとはこの場合、なんですか?」と私は尋ねた。
「我々が人類を征服する最終戦争のことだ。それまでは悪いことをすると神罰が当たるという警告を何度も繰り返しておくのだ。でもその神罰とは何かは言わない。ハルマゲドンの後で最後の審判を下し、殺人者の周りには幽霊が取り付くのだ」
「するとオババ大統領やブッチュ前大統領のところには、何万、何十万人の幽霊が行くわけですね?」
「そうだ」
「シークレットサービスがいるじゃないですか」
「そんなものは何の役にも立たん」
「銃で撃つのではありませんか?」
「幽霊はすでに死んでいるのだぞ。死人を殺せるわけがない。それにそんなことをしたら、シークレットサービスにも取り付いてやる」
「ホワイトハウスはどうなります?」
「幽霊でいっぱいになるな」
「それじゃ、執務できないじゃないですか」
「執務どころか、食事にも行けない」
「宅配ビザを取れば?」
「ビザ屋は幽霊をかき分け、かき分け行かねばならないので、宅配は拒否される」
「それじゃあ、死んでしまいます。どうしたら許してもらえるのです?」
「全財産を賠償金にして、自分はホームレスになるのだ。それで被害者が納得すれば、許してもらえるかもしれん」
「それにしても幽霊の数が多すぎて、とてもホワイトハウスには入れないでしょう」
「もちろんそうだ。だから幽霊たちは手分けして、閣僚、議員、国防省、CIA、軍需産業の責任者たち、つまり戦争犯罪人のところに化けて出るのだ」
「そんなことをすれば国家機能が麻痺します」
「それが目的だ。そうして事代主命様がこの世界の支配者になるのだ」
「単冠市の大家であるロシアはどうなんです?」
「ロシアの指導層も当然、戦争責任はあるだろう。米国ほどではないが、彼らのところにも幽霊は現れる」
「他の国は?」
「英仏中など国連常任理事国の大国はどこをとっても戦争犯罪を犯しておるから幽霊は出るな。主要先進国で唯一、指導者に幽霊が取り付かないのは日本だけだ」
「日本はここしばらく戦争しなくてよかったですね」
「そうだ。私の目的は平和な理想世界を作ることにある」
「どんな世界です」
「それはこの世の天国だ」
「そうなればいいですね」
「それは君やわれわれの今後の努力で決まることだ」