2014年8月 - 140801
8月4日 人類消滅の可能性
2014-08-04
オックスフォード大学人類の未来研究所の技術レポート#2008-1 by A. Sandberg and N. Bostromの「全地球的カタストロフィ・リスク調査」が興味あるので紹介する。これは2008年7月17-20日にオックスフォード大学で開かれた「全地球的カタストロフィ・リスク会議」で行われた、専門家による意見分布をもとに作成された。21世紀中に人類が100万人以上死ぬ事件がおきる確率、10億人死ぬ事件が起きる確率、人類が滅亡する確率を、さまざまなケースに対して表にした物である。
分子ナノテク兵器とか超人工知能はまだ存在していないが、21世紀のなかばまでには出現するであろう。人工伝染病とは人間が作ったウイルスなどのことで、これは最近作られた。これが事故で自然界に放出されると大きな被害がでることが予測されている。ナノテク事故とはナノボットが自然界に放出されて、あらゆる資源を食いつくし、不毛の世界になってしまうことをいい「グレーグー」と名付けられている。
この表には隕石衝突とか、太陽のスーパーフレアなどが挙げられていないので、完全な物ではない。そのことは表の作成者も理解していて、会議参加者に意見を求めている。
ちなみに表の作成者Nick Bostromは哲学者、物理学者であり、超知能の問題の専門家である。最近「Superintelligence 超知能」という本を書いた。印刷版の出版は9月であるが、Kindle版は既に出ていて、私は買った。読んだら報告したい。
リスク | 100万人死亡 | 10億人死亡 | 人類滅亡 |
分子ナノテク兵器 | 25% | 10% | 5% |
超人工知能 | 10% | 5% | 5% |
戦争・内乱 | 98% | 30% | 4% |
人工伝染病 | 30% | 10% | 2% |
核戦争 | 30% | 10% | 1% |
ナノテク事故 | 5% | 1% | 0.5% |
自然伝染病 | 60% | 5% | 0.05% |
核テロ | 15% | 1% | 0.03% |
21世紀中に人類が滅亡する確率 | 19% |
8月3日 スーパーフレア・ニアミス
2014-08-03
7月25日のAFPのニュースによると、2012年におきたスーパーフレアにともなうコロナ質量放出(CME=Coronal Mass Ejection)は、19世紀におきた同様のコロナ質量放出であるキャリントン事象に匹敵する大きさであったと言う(「12年の強力な太陽風、地球をニアミス」)。
ところで先の日本語のニュースにある「太陽風」という言葉は間違いである。太陽風とは太陽から定常的にふいている風で、特に珍しい物でもないし、有害なものでもない。この記事を書いた記者の半可通であろう。もっと正確なニュースはNear Miss: The Solar Superstorm of July 2012参照のこと。太陽風はSolar windであり、その単語は記事には出てこない。
フレアとは太陽面の爆発現象である。それにともないX線、紫外線が放出され、そのあと電子や陽子が地球に届く。さらに遅れてコロナ質量放出にともなう大量のプラズマの雲が放出される。これが地球を直撃すると、磁気嵐、太陽嵐になる。フレアの巨大な物がスーパーフレアである。有名な物としては1859年のキャリントン事象があり、その時はキューバでもオーロラが見えたという。
幸いなことに、2012のCMEは地球を直撃しなかったので問題は無かった。もし直撃していたら、その論文の評価ではアメリカでの損害は100-200兆円に達しただろうという。しかし、私はその評価は甘いと思う。アメリカアカデミーの以前の研究では、アメリカ東部で死者数百万人という。しかしキャリントン事象がおきた時は、電報機が火を噴いた程度で大した被害は無かった。なにがちがうのか。電気である。
強力なスーパーフレアが起きると、まずX線、紫外線、放射線により人工衛星と航空機の電気回路が被害を受ける。GPSも通信も止まる。その時に飛んでいる飛行機のかなりの部分は墜落するであろう。それは全地球規模で起きるので、死者は数万人になるのではないだろうか。しかし最も重要な被害は、CMEが地球と衝突することにより電線に過大電流が流れ、トランスが焼けきれて停電が起きることである。問題は、巨大なトランスが焼けきれると、予備が少なく、また専門家の数も少なく、再び作るのにも停電のため難しく、停電が1週間、1ヶ月、1年と続くことである。
すると電気に頼っている現代科学技術文明は崩壊する。電気が止まるのは当然として、水道もガスも止まる。阪神大震災の経験から言えば、真っ先に困るのはトイレである。数日中に町は汚物であふれる。そのため伝染病が発生する。電車は止まるのが当然として、車もそのうちに止まる。ガソリンの予備を使い尽くすと、人も物も運ぶことが出来ないし、ガソリンスタンドでガソリンをくみ出すことも出来ない。交通が途絶すると、食料を運ぶことが出来ず、人々は飢える。町のコンビニの食料品はあっという間になくなる。銀行のATMは使えないので、人々は持っている現金以外は使うことが出来ない。それもすぐになくなるであろう。しかし給料は入らず、預金は消滅する。要するに経済は崩壊する。物々交換の経済が復活するであろう。
病院では72時間は非常電源でしのげるが、停電がそれ以上続くと、まず電気に頼っている病人から死に始める。それから透析をしている腎臓患者が死に始める。さらに薬がなくなり、運ぶことが出来ないので、薬に頼っている病人は死ぬ。
阪神大震災でも東北大震災でも被害にあったのは一部の地域であるから、外は問題なく、従って救助の手がすぐにはいった。しかしスーパーフレアの場合、全地球的に被害を被るので、どこからも援助は来ない。被害を受けないのは、電気に頼っていない発展途上国、例えばアフリカとかアフガニスタンであろうが、そこからの援助を当てにすることは出来ない。日本では都市部は壊滅する。田舎では水や燃料は問題ないかもしれない。そこで米などの食料費の備蓄が十分ある場合は、一部の人々は生き延びることが出来るかもしれない。世界は発展途上国と先進国の一部の田舎だけが生き残るであろう。
「たかが電気と命のどちらが大事だ!」と言った音楽家がいたが、たかが電気がなくなると、大量の命が失われるのである。スーパーフレアとその被害に関して以上に述べたシナリオは、アメリカのアカデミーのレポートにある。
SEVERE SPACE WEATHER EVENTS—UNDERSTANDING SOCIETAL AND ECONOMIC IMPACTS
ディスカバリー・チャネルにはこの問題をドラマ化している。話は人工衛星の墜落から始まる。大気が放射線で熱せられて膨らみ、空気抵抗が増えるので低軌道の人工衛星は墜落する。問題は先に述べたようにCMEにともなうプラズマである。これが地球を直撃すると先に述べた停電が起きる。それを防ぐには、あらかじめ電力網を切っておくしか無い。しかし計画停電を急にすると、そのために被害が出る。2012年のCMEの場合、スーパーフレアが発生してから地球に到達するまで18時間しか無かった。スーパーフレアがおきても、地球を直撃するかどうかは、直前まで分からない。地球と太陽の間のL1点にある早期警戒用の人工衛星でプラズマを観測してから、地球直撃まではほとんど時間がない。ドラマではニューヨークの女性市長が、計画停電するかどうか悩む話である。結局、計画停電を行い、事なきを得たという話だ。しかし、事はニューヨークにとどまらないはずだ。全米の問題であるので、市長レベルではなく、大統領レベルで決断しなければならない。
Perfect Disater - Solar Storm
報告によると2012年クラスのスーパーフレアが、今後10年間におきる確率は12%であるという。これは例えば隕石衝突などと比べると極めて高い確率だ。21世紀の終わりまで考えるとほぼ100%の確率でスーパーフレアが地球を直撃する。対策はトランスの強化、電力網の強靭化である。為政者も電力会社もきたるべきスーパーフレアに備えなければならない。
8月2日 間違いだらけの物理学
2014-08-02
学研科学選書「間違いだらけの物理学」松田卓也著、学研出版を7月30日にようやく書き上げた。まだ発行されていないが、8月中旬には発行になる予定である。本書は疑似科学ではなく、古典物理学における誤概念を取り扱っている。対象は相対論や量子論ではなく、力学、流体力学である。相対論や量子論は難しく、力学は易しいという印象があるが、必ずしもそうではなく、多くの人が間違った考え「誤概念」に取り付かれている。とくに興味深いのは専門家と目される物理学や宇宙物理学の研究者である大学教授、准教授、名誉教授にも間違っている人がいることだ。
テーマは本ブログの「科学の散歩道」ですでに議論した問題から精選した。間違いの中で特に顕著なのが、飛行機はなぜ飛ぶかという問題である。これは誤概念の巣であるといってよい。ある調査では日本の、この問題に関する解説書の8割が間違っているという。英語の解説書でも7割が間違っているという調査がある。私はこの問題に関してはすでに本ブログの中で「飛行機はなぜ飛ぶのかまだ分からない??」と題した一文を載せている。
一番驚くべく事は、日本の最高学府の大学の航空学科の2名の名誉教授の本が間違った説「等時間通過説、同着説」を採用していることである。さらにはMITの著名な科学解説家のルーウィン教授が間違った反作用揚力説を採用している。ルーウィン教授の本は日本でもベストセラーで、本屋で平積みされているし、教授の講義はNHKでも放映されたという。しかも彼は自信満々に書いている。実際、私は日経ビジネスでこの問題に関するインタビュー記事を書いたのだが、ある読者からの反応では「松田は揚力について20%しか分かっていない、80%は間違っている」という指摘をもらった。ルーウィン教授の本にそう書いてあるのだという。しかしよく読むと彼の説は自分の発明ではなく、あるブログの受け売りなのだ。そのブログを読むと、あまりに冗長で、自慢話が多く、とても科学論文とは呼べない。ブログには審査が無いので、好きなことがかけるのは、利点でもあるが、欠点でもある。また日本のある科学解説家の本も反作用揚力説を採用していることを知った。
翼の揚力に関しては20世紀の初頭に、複素関数論、等角写像などの数学を駆使した2次元翼理論が完成している。上記の人々は、それを知らないのであろうか。知っているとてそれが間違いだというなら、翼理論に対する挑戦だから、きちんとした論文を書くべきだ。先の専門家2名は当然知っているはずだ。他の物理学者達は知らないで、単なる思い込みなのであろう。
私は2次元翼理論は大学3回生の時に学んだのだが、非常に難しいことは事実だ。当時の私は十分に理解したとは言えない。最近、揚力が問題になって、私は特異点庵で開いている秘密研究会で、2次元翼理論の勉強会を行った。極めて難しいので、誰でもが理解できる訳ではないだろう。
8月1日 ナレッジサロン
2014-08-01
長らくこのブログの更新をサボって来たが、本日から再会する。またいつまで続くか分からないがよろしくお願いします。過去にも書くべき事は色々あったのです、過去にさかのぼっても書くかもしれません。。
ナレッジサロン
今日は記念すべき日である。今月からナレッジサロンの会員になった。今日が初出勤である。ナレッジサロンは昨年大阪駅裏に開業した大型再開発計画のグランフロント大阪の中にある、ナレッジキャピタルの一部である。ナレッジキャピタルは「知」をベースに新しい価値作りと社会変革を、というのがコンセプトだそうだ。そこにはサロンの他にコンベンションセンター、カンファレンスルーム、シアター、貸しオフィス、ラボなどがある。
グランフロントにはJR大阪駅から歩道橋を通って直接行ける。2013年の春に開業した。ゴールデンウイークの頃は大混雑であったという。たくさんのレストランやショップがある。まず歩道橋から南館に入る。そこはタワーAである。ショップとレストランがたくさんある。南北の通路があり、たくさんの人々が歩いている。
南館を出るとまた橋があり、そこを渡って北館に達する。北館にはタワーBとCがある。南北の通りを進むと巨大な吹き抜け空間に達する。ナレッジキャピタルはタワーBとCにまたがっている。ナレッジサロンはBとCの間の吹き抜け空間を囲む低層階の7階にある。エスカレーターでもエレベーターでも上がれる。その付近の屋上は庭園になっていて、樹木が植わっている。ちなみにタワーCの上層階はインターコンチネンタル・ホテルになっている。
ナレッジサロンに関してはこの「月額9450円で大阪の中心で仕事ができる「ナレッジサロン」潜入レポート」が雰囲気を良く伝えている。入った所に受付があり、会員はカードをタッチする。会員は10名まで同伴者を同伴する事が出来る。同伴者は受付で名前などを書き、ビジタープレートをつける。2000平米ほどの大きな空間にメインラウンジ、カフェラウンジがあり、様々な椅子がさまざまに配置されている。そこでも作業は出来るが、主として会話に使われる。密談コーナーなどというものもある。PCなどを使って作業するにはワークスペースを使う。電源が用意されている。もちろんWiFiは完備している。プロジェクトルームというものが8室あり、定員は6名から24名まである。そこでは公開のセミナーなどを無料で行う事も出来る。そのときだけ、会員は定員までの客を招待する事が出来る。ただし会員が常に付き添っている事が条件である。
私は受付で登録をすませて会員カードをもらった。まずはカフェでコーヒーを買って飲む。比較的リーゾナブルな値段である。外に出なくてもサロンの中で食事も出来る。もちろん外に出れば、たくさんのカフェやレストラン、バーなどがある。
サロンはオープンが基本的コンセプトでプロジェクトルームこそ遮音されているが、スケスケで外から見える。サロンは結構繁盛しているようで、たくさんの若い人々がいた。私はワークスペースに座ったが、目の前の窓の外には屋外スペースがあり、読書する人、PCで作業する人、電話する人などいろいろだ。そこは静かだろう。私の右隣には、しゃれた帽子のクリエーターとおぼしき若い男性がMacで仕事している。左隣には、PCで作業したり、電話したり、テキパキと仕事をこなす女性がいる。部屋には会話を楽しむ人々、会議をしている一団、部屋は決して静かではないが、邪魔になるほどでもない。そもそもウイークデイの昼間にここにいるということは、たぶん会社員や学生、大学教員ではないと思うが、よく分からない。
私がここを始めて知ったのは、映画「トランセンデンス」に関してWIREF誌のインタビューをここで受けたからだ。その次はウエアラブルの宣教師、神戸大学の塚本先生と情報処理学会に投稿予定の「2045年問題」解説記事に関して話し合ったと。塚本先生はここの会員であると言う。会費であるが、個人会員は消費税別で年10万円である。これを高いと見るか安いと見るか。アカデミックな割引として2人で10万円というのがある。また10人で30万円というのもある。これだと年に3万円である。塚本先生はその会員だと言う。残念ながら私は仲間が見つからなかったので、個人会員になった。
私は大学を定年退官後、この種のオフィスを探した。京都でレンタルオフィスを借りると月5万円程度で、机一つを借りられる程度だ。図書館も色々行ってみた。同志社大学と京都大学の図書館は雰囲気は悪くはない。しかし毎日仕事する場としてはどうか。結局この問題はNPO法人あいんしゅたいんが京都大学の某建物の地下室を借りる事が出来て、解決した。しかし2013年1月にその部屋を退去せざるを得なくなった。耐震工事の為である。私はその後、山科に民家を借りて特異点庵となづけて秘密研究所にしている。週に一度は秘密研究会と称して勉強会を行っている。それで場所の問題は解決したのだが、やはり小人閑居して不善をなすというように、ひとりでいると煮詰まってしまう。やはり外に出て刺激を受けるのが脳の活性化にはよい。それでナレッジサロンの会員になったという訳だ。この会員になるには、面接を受けなければならない。本来の目的に適合するか審査するのであろう。