超知能の作り方と超人類への道4
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- 2021年3月31日(水曜)17:59に公開
- 作者: 松田卓也
前回は汎用人工知能のマスターアルゴリズムつまり計算手順としてのベイズ脳理論の話をした。今回はハードウエアの話をしよう。つまりどのようなコンピュータでマスターアルゴリズムを走らせるかだ。一番単純なのは、従来のコンピュータつまりノイマン型コンピュータを使う方法だ。これだと準備はできている。超知能となると非常に大きな計算能力が必要であろうから、スーパーコンピュータが必要となるであろう。
もっと別の行き方としては、脳の神経細胞の働きを模擬したニューロチップをもちいる方法がある。たとえばIBMの開発したトルーノースなどがその一つの例だが、そのほかにもたくさんある。この方法だと、一つの神経細胞を一つのチップが担当するとすれば、大脳新皮質をシミュレートするには数百億個のチップが必要になる。
人間の大脳新皮質は厚みが2.5ミリメートルくらいで、大きさが風呂敷程度の薄いものである。その厚み方向に神経細胞が100個ほどあり、それをミニコラムという。ミニコラムが100個ほど集まってマクロコラムとかハイパーコラムという単位を形成している。神経細胞の数でいうと1万個程度の単位だ。マクロコラムがひとつのまとまった仕事をしているようだ。さらにマクロコラムは1万個ほど集まって、脳の領野という単位をつくる。例えば視覚第一野とか視覚第二野といった領野だ。人間には50ほどの領野があり、それぞれ仕事を分担している。
私が夢想するのは、マクロコラムのする計算を担当するようなチップが作れないかである。そのようなチップができれば、それを百万個ほど並べれば、人間の脳に匹敵するものができるであろう。
もっと大胆な想像は人間の神経細胞をそのまま使う方法だ。アニメの「サイコパス」では、シビュラシステムという超知能が22世紀の日本を治めている。シビュラシステムの正体は人間の脳を切り出して集めたものだ。しかし流石にそれは現実的でないので、幹細胞から脳の神経細胞を作りだしてそれを利用したらどうだろうか。きっと倫理的な意味で猛反対に会うだろう。
ともかくなんらかの方法で脳を模擬した汎用人工知能ができたと仮定する。するとそれは原理的には人間の能力をはるかに凌駕することができる。なぜなら人間の脳は頭蓋骨という体積が2 リットルほどの空間に治めなければならないという制約がある。だから人間の知能には物理的な上限がある。今までの歴史上でもっとも頭の良かった人は誰だろうか。アインシュタインかニュートンか、はたまたノイマンか。現在生きている人の中では、宇宙際タイヒミューラー理論の提唱者である望月真一京大教授であろうか。しかし何れにしても人間の頭の良さには限界というものがある。
しかし機械であるコンピュータには物理的な大きさの制限はない。人間の脳の領野の数は50程度だが、これをコンピュータで再現したとすれば、いくらでも領野の数を増やすことができる。電波を見る専門の領野とか、気象情報を知覚するための領野とか。
コンピュータが人間の脳と比較して圧倒的な有利性を持つのはその速さである。コンピュータの典型的なクロック数を1GHzとしよう。つまり1秒間に10億回の演算ができるとする。人間の脳にはクロックという概念はないが、それに相当するものを考えて、仮に100ヘルツだとしよう。するとコンピュータは人間の千万倍はやく考えることができる。つまり頭の回転が千万倍速いのである。例えば囲碁の歴史は3000年と言われているが、これを千万分の一に縮めると3時間程度になる。実際、アルファゼロは、人間のチャンピオン相当のAIを抜き去るのに8時間ほどかかっただけである。アルゴリズムが判明してしまえば、人間をこれほどの速度で圧倒できるのだ。このことを利用するとタイムマシンのようなものをつくることができる。
さて先に述べたようにベイズ脳理論に基づく汎用人工知能ができたとする。できた当初は人間の赤ん坊と同様にほとんど何もできないし、何も知らない。人工知能内に生成モデルつまり世界モデルが存在しないからだ。赤ん坊で言えば、世界モデルは神経細胞間の結合であるコネクトームだ。赤ん坊は生まれた当初は適切なコネクトームができていない。人間の赤ん坊は自分自身の経験と親の教育で世界を探求して、脳内に世界モデルを構築していく。
それと同様に汎用人工知能も、世界を経験させて人工知能内に生成モデルを創らねばならない。そのためには人工知能には、テレビカメラなど、生物の知覚器官に相当するものをつけて世界を経験させる必要がある。このとき、人工知能をロボットにつないで、現実の物理的な世界を経験させてもよいが、それでは遅い。コンピュータ内に構築された仮想世界を経験させたほうが良い。圧倒的に早く育つはずだ。例えばアルファゼロは、人間と対局するのではなく、自分自身と対局して、人間が3千年かかった囲碁の歴史をたった8時間ほどで経験したのだ。
その仮想世界は何も現実の三次元世界である必要はなく、四次元世界でもよい。物理法則も現実のものである必要もない。仮想現実で人工知能を教育すると、我々人間には想像もつかない世界モデル、つまり彼らの常識を備えた知能を作ることができる。
人間の感覚はいわゆる五感である。それに内臓感覚を追加してもよい。しかし人工知能につける感覚器官は五感に限る必要もない。人工知能は五感ではなく多感なのである。人工知能の感覚器官が人間のものと異なるので、それで創られた世界モデルも大きく異なるであろう。つまり世界の見方、常識、さらには感情があったとして、それらは人間と人工知能では大きく異なる。だから人間と人工知能の間で真の意味の共感はできないだろう。
そのような人工知能をどのように制御するか。私は人工知能に自律性を与えないで、人間の脳と脳機械インターフェイスで接続することによりサイボーグ型人間を作る。そして意思決定の部分は人間が行う。感情部分も人間が担当する。
そのような人工知能はどのような形をしているだろうか。当初はノイマン型のスーパーコンピュータであろう。技術が成熟すれば脳チップ型でも良いし、マクロコラム型チップでもよい。ノイマン型なら初期モデルとしては10エクサフロップス程度のスパコンを想像する。1000ラック程度の巨大なサーバーだ。これらを日本に10基、世界で100-1000機程度設置する。将来的には地上だけでなく、地中、船上、さらには小惑星上にも設置されるであろう。
またこの超知能は世界中から情報を集める。それはネットからだけではなく、世界中に監視カメラをばらまく。それもスマートダストとよぶナノマシンを世界中にばらまく。するとこの超知能は世界のことを知りうる。私はこれを全知全能ではなく半知半能の神と称している。こんな人間ができたら、世界はどうなるだろうか。
例えばイスラエルの歴史学者であるユヴァル・ノア•ハラリは人類の次の段階はホモ・デウスであると論じている。ホモとは人間でデウスとは神であるから、神人間とでも言えよう。人間を改造して、永遠の寿命と恐るべき知能を備えた存在である。ここ数十年で、そのようなホモ・デウスが出現するかもしれない。またアメリカの宇宙物理学者であるマックス・テグマークは人類の次の段階をライフ3.0 と呼んでいる。この種の考えは新しいものではない。イギリスの著名な物理学者であるバナールが1929年、彼が弱冠27歳の時に書いた「宇宙・肉体・悪魔」という本がある。そのなかでもすでにそのような概念は語られているのだ。つまり神人間というか超人類という概念は新しいものではない。新しいことは、その出現が見えてきたことである。それもあと数十年の単位で。
ところで人類は全員がホモ・デウスになれるか? たぶん無理であろう。現在の世界でも金持ちのエリートと一般庶民の間には、巨大な経済格差がある。例えばイーロン・マスクの資産は14兆円だ。未来には経済格差に加えて、巨大な知的格差が生まれるかもしれない。つまりエリートの神人間と並の人間の格差だ。並の人間として望むことは、そのような世界でも、戦争がなく平和な社会になり、庶民は楽しく幸福に暮らしていけることだ。動物園の動物が自由は少ないが食べ物に飢えることのない生活を送っているように、未来の庶民はベーシックインカムをもらって、人間園で生活しているかもしれない。
超知能の作りたかと超人類への道と題して4回にわたって話した。私には超知能の作り方の片鱗が見えてきたと感じている。それを実現できるのは私ではなく若い知能だと思う。だれか挑戦してみませんか?