研究所紹介  

   

活動  

   

情報発信  

   

あいんしゅたいんページ  

   

世界征服計画 その15

詳細

15. ポセイドンの話

ポセイドンは手もみをし、うれしそうに笑いながら話し始めた。

「ふっふっふ、いよいよワシの出番じゃな。待っておったんじゃよ。ワシの壮大な計画を話そう。ワシの計画の骨子は海洋国家『大和』の建設と、島嶼国家の利用じゃ。まず大和の話から始めよう」

<ポセイドン>

マーキュリーが口を挟んだ。

「その大和という名前は、漫画『沈黙の艦隊』から取ったものですね。漫画では日本の原子力潜水艦の艦長が独立を宣言して、アメリカの第7艦隊やソ連の艦隊と戦う話です」

ポセイドンはまたうれしそうに笑って答えた。

「はっはっは。その通りじゃ。しかし原子力潜水艦1隻で独立できるわけがない。そもそも補給をどうするのじゃ。女なしの、男ばかりの国などあるわけがない。完全に漫画の世界じゃ。ワシの構想はそんなちゃちなものではない。20万トンクラスの豪華客船を多数建造して、そこに人々を住まわせるのじゃ。たとえば定員が8000人、そのうち乗客が6000人と船員が2000人としよう。この中には彼らの家族も含めるのじゃ。つまり船の中に、一つの充足した社会を作る。乗客はアテナが集めてくる研究者じゃ。この船は高度に自動化されておるから、船を操船する意味での船員は少数でよい。他の船員は普通の社会を維持する人々じゃ。医者、学校の先生、レストランの店員、クリーニング屋などなどじゃ。まあアメリカの航空母艦を想定しておる。違うところは任務が戦闘ではなく研究であること、子供も乗船していることじゃ」

<豪華客船>

アテナが口を挟んだ。

「私の研究所は陸上を想定しているのですが」

ポセイドンは答えた。

「ワシはその両方を想定しておる。1年のうちたとえば船で9ヶ月過ごし、残りの3ヶ月は陸上で過ごす。この3ヶ月は船員にとっては休暇じゃ。船のドック入りもかねてじゃ。その間、研究者は陸上の研究施設で研究する。まだ人々を100%船上生活させるのがよいかどうか、実験してみないと分からない側面もあるでのお。そもそも船で生まれた子供が100%船上生活をすると、陸地が分からなくなる。それに船は必ずメンテナンスが必要じゃ」

マーキュリーが言った。

「食料をどうするのです。船で陸上から補給するのですか?」

「もちろん当初はそうするか、寄港地で補給する。空母と同じことじゃ。しかしワシは食料生産船の構想も持っておる。50万トン級の巨大な食料生産船を造る。核融合技術が確立したら、そのエネルギーを使って食料を生産する。はじめは普通の野菜を水耕栽培するが、そのうちにバイオテクノロジーを使って、もっと効率よく生産する。タンパク質も牛、鶏、魚をへないで、直接に生産する。ここらの技術開発はワシの管轄ではない。それができるまでは、陸地からの補給に頼らねばならない」

アテナが口を挟んだ。

「食料はいいとして、社会生活を営むためには、その他、諸々の品物が必要です。それらはやはり陸上に頼らねばならないでしょう」

「はじめはそうじゃ。しかしワシは工場船の構想も持っておる。アニメ『イノセンス』では、アンドロイドを作る巨大な工場船があったろう。あのアンドロイドは女だからガイノイドと言うのじゃがね。だから大和の日用品を生産する船を考えてもよい。しかしそれが経済的に成り立つかどうかは怪しい。余り安い物を高い船で生産するのは効率的ではない。食料の場合は鮮度を考えるとペイするじゃろうが。そもそも現代の国家は、それ自体であらゆるものを充足できる国などないのじゃ。かならず貿易にたよる。大和も同じことじゃ。自給自足にこだわる必要は無いかもしれん。ワシの工場船はロボットなどのハイテク製品に限ることもありえる。たとえばガイノイドを作るのじゃ、ひっひっひ」

ポセイドンはなにかいやらしいことを想像しているらしかった。しかしポセイドンの全体計画には一同は一応は納得したように見えた。しかし疑問はいくらでもある。マーキュリーが口火を切った。

「いったい、そんな船を何隻造るのです」

ポセイドンはえたりと、またうれしそうに答えた。

「20万トンの船1隻で8000人とするなら、10隻で8万人、100隻で80万人になる。後で述べる小さな島嶼国家の人口は数万人じゃ。アイスランドは30万人強じゃ。だから100隻も作ればアイスランドの倍以上になる。1000隻作ると800万人じゃ。ここまで来るとそんな人口の国家はわんさかとある。当面の目標は100隻じゃ」

「その100隻を、どんなペースで作るのです?」

「まず計画の時間スパンじゃが、人類補完計画は40年をめどとしておる。だから大和も20年をめどに作り上げ、40年たったら解散してよい。そもそも海洋国家大和を作るのも、壮大な欺瞞作戦の一つじゃ。たとえば米国は、我々の意図が海洋覇権の確立と見るじゃろう。太平洋は自分の裏庭のプールくらいに思っとる米国は、大和計画を妨害するか、悪くすれば攻撃を仕掛けてくるじゃろう。我々の船隊大和の防衛はマーズの役割じゃが、その計画は後でマーズの口から語ってもらおう。さて100隻を20年で作るとすれば、年平均5隻でよい。船の建造コストは普通の造船所で作れば、1隻1500億円程度とすると、7500億円じゃ。だから当初は少数から始めて、後に行くほど生産を加速する。建造費総額は15兆円になる。実は造船も自前の造船所で我々の高度な自動化技術を使って、我々のエネルギーを使えば、人件費なしで、鉄などの材料費だけになる。どの程度の部品を外注するかで値段は変化するが、100億円もあれば十分じゃろう。そうすれば総額1兆円になる。だから本当の総額は1兆から15兆の間になる」

「でも農場船や工場船もあるでしょう」

「うん、そうじゃ。これらは普通の造船所には任せられん。我々の秘密の技術を使った高度な自動工場船じゃ。だからこれらの船は、我々の造船所で造らなければならん。全部、我々の造船所で作るオプションもあるが、日本の造船業界に少しは寄与してやらんと気の毒じゃろう」

「我々の造船所はどこに作るのです」

「一部は国内、残りは海外じゃ。国内は北海道かどこかの僻地を選ぶ。秘密めかすためじゃ。海外に作るのは、我々は研究船のほかに、マーズの海軍のための軍艦も造らねばならんからじゃ。これは高度の機密じゃから、我々の造船所で作る。しかも日本は武器輸出には厳しいから、これは規制の緩やかな国で作る。これは島嶼国家の計画と関連しておる」

そこでアテナが口を挟んだ。

「浮かぶ研究所とも言うべき船隊大和の運用については、私たちともっと詰めた協議が必要です。でも今は時間もないので、ここで第二の計画、小規模島嶼国家について話してもらいましょう」

ポセイドンはまだまだ出番が続くので、得意満面に語り続けた。

「ほっほっほ、言わせてくれ。小規模島嶼国家とは太平洋の島嶼で独立国のことじゃ。たとえばナウル、パラオ、ツバル、クック諸島の人口は1万人の程度じゃ。ミクロネシア連邦、キリバス、マーシャル諸島、サモア、トンガは10万人のオーダーで、フィジーになると80万人もおる。ワシの計画は、大和の船の船籍をこれらの国にする。いわゆる便宜置籍船じゃな。便宜置籍船ではパナマとリベリアが有名じゃが、国が大きすぎる。なぜ小国に船籍を置くかというと、船内の法律は船籍国にあるからじゃ。これらの小国の法律は緩やかなはずじゃ。そうでなくても、これら小さい国に経済援助をして、内政に干渉して、我々に都合のよい法律を作らせる。なぜ緩やかな法律が必要かというと、我々の最新の再生医療技術を実践するためじゃ。どんな文明国でも、新薬や新しい医療技術は厳しい規制に守られて、なかなか実用化できない。しかし我々の技術は確実で、試験は必要ないのじゃ。そこで便宜置籍船の病院船を建造して、そこで最新の医療と新薬を使う。その病院船をたとえば大阪湾に浮かべて、そこで日本では認可されない治療を行う。たとえば若返りとか、歯の再生とか。さらには、現代の人間の医学では不治の病を治療する。もちろん日本の保険は効かないから、保険外診療になるので高いのは仕方ない。金持ちだけが、治療を受けられるわけで、不平等じゃが、いたしかたない。非常に気の毒な場合は、安くすることも考えられる。ケースバイケースじゃ。このことが世界に知れると、世界の金持ちやセレブが、日本にやってくる。そして病院船で治療を受ける。彼らからはふんだくってやればいい。関西空港は繁盛するじゃろう」

一同はほーおーという顔をした。ポセイドンはますます得意満面に語り続けた。

「病院船のほかにもプランがある。災害救助船じゃ。日本は当然として、インドネシアとか、フィリピン、バングラデシュ、パキスタンといった国は自然災害が多い。地震、津波、火山の噴火などじゃ。これら災害が起きたとき、現地政府の対応能力は低い。そこで20万トンクラスの災害救助船を造り、定員はたとえば1万人とする。災害が起きたときにすぐに駆けつけて、災害が復旧するまでの仮の宿を提供する。また災害救助隊もこれに乗せておく。東日本大震災にこの災害救助船が間に合えば良かったのじゃが」

マーキュリーが不思議そうな顔をして尋ねた。

「なんでそんなことをするのです。儲からないじゃありませんか。金を取るのですか?」

ポセイドンはしたり顔で答えた。

「君も思慮が足らんのお。彼らに恩恵を施して、海洋国家大和に対する外交的好意を、いわば買うのじゃな。多分アメリカは大和を目の敵にするじゃろうから、アジアの海岸国家を大和の味方につけるのじゃ。あっ、それからアテナに言っておかねばならん。君の研究船の研究員には、ぜひ日本人だけではなく、アメリカ人、ヨーロッパ人、ロシア人、中国人、インド人などを入れてくれ」

アテナは聞いた。

「どうしてです?」

「うん、それは彼らを一種の人質にするのじゃ。アメリカが船隊大和を攻撃しようとしても、アメリカ人が乗っておれば、やりにくいじゃろう。ヨーロッパ人も同じことじゃ。ロシア人と中国人に対しては容赦ないじゃろうが。これは保険じゃ」

一同はほーっと感心した。

「ただし、それでもことあるときは、アメリカ政府はアメリカ人乗員に下船を勧告するかもしれん。そのときは、マーズの海軍の出番じゃ。でもその前に、海洋国家大和は島嶼国家や日本と相互安全保障条約を結んでおくのも手じゃな。もっとも現状ではアメリカのポチの日本がどれだけ役に立つかは分からんが」

一同はポセイドンの思慮の深さに感心した。ポセイドンはますます図に乗ってしゃべり続けた。

「島嶼国家利用のもう一つの目的は、宇宙基地の建設と、軍艦、兵器工場の建設地じゃ。まずロケット発射基地は赤道に近いほど有利であることは、知っているじゃろう。そこで赤道直下で、東に島のない島を探して、そこにロケット発射基地を作る。インドネシアかその近くの島になろうかな。ただインドネシアは大国じゃからやっかいかもしれん。ワシは東チモールを考えとる。ただここはまだ東に島があるので、ロケット基地はだめじゃ。東チモールも主権が緩いので、金で主権を買える。そこに工場や連絡基地を作る。東チモールの首都のディリと関空との間に直行便を飛ばす。ディリと宇宙基地の間にも航空路を開く。ところで、我々は関空に金を出して買い取り、また新たな航空会社を作る必要があるな。日本航空を買い取って、前日本航空という名前にするのはどうじゃ。略して前日空じゃ」

「全日空とまぎらわしいですね」

「それなら新日空はどうじゃ」

ビーナスはポセイドンの話が発散し始めたので、そろそろ時が来たと見て発言した。

「ポセイドンの計画は、さらに興味深い細部があるでしょうが、まずは防衛大臣マーズの船隊大和防衛計画について話してもらいましょう」

続く

   
© NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん (JEin). All Rights Reserved