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世界征服計画 その22

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22. 精神と時の部屋に入り30年間特訓する

ビーナスは言った。

「森君に対するレクチャーはこれくらいにして、いよいよ活動に取り掛かりましょう。森君は一度、現実世界に戻りましょう」

僕はこの仮想のオリンポス山が結構気に入っていたので、現実世界に帰されると聞いて、少しがっかりした。浦島太郎は乙姫様と楽しく暮らしていたが、家に帰りたくなったのが運の尽きであった。この世界はビーナスやアテナという乙姫様がいるので、僕は帰りたく無かった。

「ええっ、もう戻るのですか?もっと居たいなあ」

「帰るのは一時的です。夜になって、あなたが寝たら、またこちらに戻って来ます。そして精神と時の部屋に入ります。そこではあなたの世界の一晩がオリンポス山の世界の1年に相当します。そうして、あなたの世界で30日間、つまり、こちらの世界で30年間を過ごしてもらいます。その間に、あなたはこちらで徹底的に勉強します」

「その1月の間に私は、現実世界では何をするのですか」

「特にする事はありません。我々の指示に従って下さい。我々はアバターをあなたの世界に送って、あなたの世界での生活を整えます。具体的にいえば、あなたは我々が用意する家に引っ越してもらいます。CIAのエージェント・スミスなどの敵からあなたを守るためです」

<エージェント・スミス>

「あんな奴は、クズです」

「映画『マトリックス』でエージェント・スミスはいいことを言っています。『あらゆるほ乳類は環境と調和して生きている。しかし人類だけは違う。膨張を重ねて、この調和を破壊している。人類に似ているのはウイルスだ。人類はこの惑星の病気だ。ガンだ。それを治療するのが我々だ』とね」

「なんと言うことを言う」

「でもスミスの言うことは本当よ。その意味でなら、我々自身がスミスに相当するのかも知れないわね、ほほほほ。人類のとどまることない発展を止めるか、発展の方向を変えるのが我々の目的よ。ゼウス様は、人類に芽生えた反科学主義を助長して、人類の発展を止めるとおっしゃった。また元々のプランは、人類の膨張を外ではなく、内つまりコンピュータ内のバーチャル世界に誘導することです」

「あなた方自身がエージェント・スミスみたいなものなら、なぜCIAのエージェント・スミスの攻撃から私を守るのです」

「それは、我々の目的を達成するためよ」

「本当にCIAは私を攻撃しますか?」

「それは分かりません。ただし用心のために、あなたには護衛のアバターを送ります。その代表が助平君とかくこさんです。つまり助さんと格さんです。彼らはアメリカのシークレット・サービス同様の訓練を受けています。あなたは我々にとって、大統領と同じ重要人物よ」

<護衛のアバター>

「助平とは変な名前ですね。『かくこ』とはどんな字を書くのです」

「格子という字ですが、『こうし』と読まないで、『かくこ』と読みます。あなたは彼、彼女たちに守られて、一種の要塞で生活します。もちろんこれは、用心の為だけですけれどね」

「へんな名前」

「もちろん、しゃれですよ。1月経って準備が整ったら、いよいよ世界征服の始まりです。我々は、その他にたくさんのアバターを現実世界に送り込んで、我々の味方をする人間のリクルートや我々の会社、法人の設立を行います。世界征服の準備を1月で行います。さあ、あなたは、現実世界に帰りましょう」

と言われて有無を言わせずに、僕は現実世界に帰された。そこは、京都東山山中の語白神社であった。もはや誰もいない。ただセミがやかましく鳴いている、暑い夏の昼下がりであった。僕は浦島太郎かリップ・バン・ウインクルの心境であった。いや、逆か。浦島太郎やリップ・バン・ウインクルは向こうの世界に短期間いただけなのに、現実世界では長い年月が過ぎ去っていたのだ。

僕は山を降りて家に帰った。そこは何も変わっていなかった。僕は夜がくるのが待ち遠しかった。早く寝て、早くあの世界に戻りたい。そしてビーナスやアテナと会いたい。その日は一日がやけに長かった。ようやく夜になった。僕は勇躍寝床に入ったのだが、興奮してなかなか寝付けなかった。しかしやがて寝いることができた。

と思ったら、僕はすでにまたオリンポス山に戻っていたのだ。嬉しい。そこには予想通り、ビーナスがいた。

「あら森君、また会えて嬉しいわ。私は愛と美の女神ですからその仕事をしなければ」

と言って、ビーナスは僕を抱きしめた。ビーナスの胸が 僕の胸に当たった。それは柔らかかった。ビーナスは僕にキスしようとした。おお、ついに!その時、誰かの足音がしたので、ビーナスはパッと離れた。残念無念。誰だ、邪魔をするのは。それはアテナだった。アテナは言った。

「お帰りなさい。森君。さあ、今日から1年間勉強よ。私と私のニンフがあなたの勉強の世話をします。ビーナスとそのニンフはあなたの身の回りの世話をします」

「何を勉強するのですか?」

「当面は人間の文化に関する事です。あなたは物理学者だから、そちらの方面を伸ばしましょう」

「物理学、数学、天文学、コンピュータ、英語、歴史、地理、文学、哲学、芸術、武道などにしましょうか?あなたの得意の分野だものね」

「えらく盛りだくさんですね」

「大丈夫よ、なんせ30年もあるのだから。最初の10年くらいで、ほぼマスターできるわ。その後で、科目を増やしましょう。もっとも、芸術は色々あるから、大変だけど。芸術なら何がやりたい?」

「音楽なら、音楽理論、作曲法、指揮法、歌、ピアノ、ギターなどですが。それから書道と絵画もです」

「欲張りね、でも出来るわ」

「なぜ武道が科目に入っているのです?」

「それは非常の場合、あなた自身を守るためよ」

「どんな武道です?」

「まずは徒手のマーシャル・アーツである合気道かしらね。それから剣道、居合道、手裏剣、分銅鎖(万力鎖)、ピストル、ライフル射撃、護衛術などよ。要するにあなたにゴルゴ13の様になってもらうの。もっともあなたは護衛される方だけれどね」

居合道

<居合道>

護衛術

<護衛術>

「何のためにそこまでやるのです?」

「それはね、CIAの派遣するエージェント・スミス達に襲われた時に身を守るためよ。もちろん護衛がいるから、彼らが守ってくれるけれど、いざという時は自分で自分の身を守りなさい」

「どこで勉強するのですか?」

「それは世界中のホテル、リゾート地、宮殿などどこでもいいわ。1月毎に場所を変えましょう。最初は、例のモルディブの海上コテージはどうかしら?」

<モルディブの海上コテージ>

「いいですね」

「どんな時間スケジュールなのですか?」

「朝は6時起床よ。4時起きで世界が変わる、という話もあるようだけど、こちらの世界は、時間がいくらでもあるので、気にする事ないわ。12時に就寝よ」

「一日の時間割は?」

「朝起きたら、簡単なストレッチ体操をして、それからゆっくりとみんなで朝食を取る。どうせ時間はたっぷりあるのだし、慌てる事はないわ。ユックリと楽しみながらお勉強よ。勉強は50分のセミナーや講義の後、10分休憩して、また50分する。この100分で一コマよ。休憩時間を入れると2時間毎が、一つの単位になる。こうして午前は8時から12時まで2コマあるわ。さらに午前中は10時を挟んで20分のお茶の時間もある。

昼食は12時から1時半までと、ゆったりしましょう。午後は1時半から6時までで、その間に40分のティパーティをしましょう。なんせ、遊びながら勉強するの。武道などの運動は午後の最後の時間にしましょう。そうでないと、疲れて次の時間は勉強にならないから。6時から8時までは夕食、8時から10時までは5コマ目で、この時間は芸術にしましょう。10時から12時までは、音楽会とか映画会よ」

<ティパーティ>

「へー、楽しそうですね」

「そうよ、毎日がパーティーみたいなものだわ。土曜、日曜は休みよ。観光地の場合はそこらを回りましょう。それからこの時間に読書をすると良いわ」

『時間割はどうなるのです?』

「学校のように細切れに講義をすると、色んな事が並行して頭に入ってくるので能率が悪い。だから3週間15コマを連続して勉強して、それを2単位とするのよ。一日に5コマあり、その内の2コマは芸術と武道とするので、他の3コマが普通の勉強よ。まあともかく始めましょうか」

我々は朝のモルディブの水上コテージにいた。アテナの他にご学友のニンフが二人、ビーナスの他に身の回りの世話係のニンフが二人。結局6人の美女に囲まれた夢のような生活が始まった。今はモルディブの朝の6時半である。僕たち7人はレストランに行って朝食を取った。バイキングなので好きな物を食べる事が出来た。

8時からいよいよ勉強の開始である。コテージの居間にある机を囲んで4人が座った。まずは英語の勉強から始まった。英語と言っても、読む、書く、聞く、話す、それに文法とか、英米文学と様々ある。これから数年かけて僕の英語能力を徹底的に鍛えると言った。英語が終われば、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、中国語、ロシア語などもするという。どれだけ時間がかかるか分からないが、30年あるのだから、何とかなるだろう。

まずは英会話から始めた。アテナはギリシャ人かもしれないが流暢なアメリカ英語を話した。もう二人のニンフもイギリス英語とオーストラリア英語を話した。本当はここにインド英語を話すニンフがいると完全なのだが。そういうと、そのうちに違うニンフを連れてくると言った。インド美人であるそうな。彼らと英語で話すのであるが、アテナは僕の発音を直した。

こうして50分はあっという間にすぎて、小休止になった。その間にトイレに行ったりする。後半の50分もあっという間に過ぎた。次の20分はティタイムである。ビーナスのニンフがお茶を運んで来た。その時はビーナスも入って雑談になる。

2コマ目は物理学である。大学で物理学を学んだ時の様に、力学から始めて、数年かけて全科目を徹底的にやるという。物理は講義ではなく、著名な教科書を読み合わせするという。まずはランダウ・リフシッツの教科書を英語で読む事になった。これは15日では終わりそうにない。

3コマ目は世界史である。これも英語の教科書を読み合わせした。

4コマ目は武道である。アテナは戦いの女神だから、強い。ここでの練習は形式的な物ではなく、あくまでも実戦的である。はじめは形式的な形の練習をやるが、後には現実の場面を想定して練習するという。例えば居合道や剣道では、真剣で実際に相手を切るという。僕がビックリしていると、アテナは笑ながら説明してくれた。

「ここはシミュレーション現実の世界ですから、何だって作り出せます。相手は人間らしく作った一種のロボットです。私が相手をしてもいいのですが、それだと心理的なしこりを残しても困るので、あまり人間らしくないロボットにしました。相手と切りあって、相手を切れば血が出ますが、それは一瞬で、すぐに止まります。あなたが切られると、痛いし、血も出ますが、それも一瞬で終わります。要するに練習です。でも人間世界では経験出来ない、実戦的な練習ですよ」

5コマ目は音楽理論と授業は進んで行った。その間にたっぷりと時間を取った昼食、ティパーティ、夕食があり、7人はレストランで楽しく過ごした。なんせ他の客はいないので、僕たちだけの貸切状態である。

夜の10時からは、サロンを借りての音楽会である。ちゃんとオーケストラがいて、何とサラ・ブライトマンが歌ったのだ。ビーナスは「ふふふ」と言って目配せした。

<サラ・ブライトマン>

「森君はサラが好きなんでしょう」

身近で聞くサラ・ブライトマンの声量は圧倒的であった。終わった後でサラにハグしてもらった。これはビーナスも公認のようであった。コンサートが終わったのは12時前であった。

僕はあるコテージに一人で寝て、両隣のコテージにビーナスとアテナがそれぞれのニンフを伴って寝た。両者とも相手が僕に手を出さないか警戒している様子であった。困った事は、6人の美女に囲まれた生活をしているのに、誰にも手を出せない事である。ご馳走を前にしてお預けを食らっている犬の状態である。

精神と時の部屋での生活は夢のように過ぎて行った。3週で1科目を終わるので、1年では体育と芸術を除いて、ほぼ52科目をマスターする事が出来た。これで30年あるから、1560科目を終了する事が出来る。

モルディブでの生活は1月続いたが、次の月にはスイスの山岳地帯のホテルに変わった。それから英国の田舎にある貴族の別荘になった。こうして1年で12箇所の観光地を旅して回る事が出来る。どこもとても快適で素敵であった。

<スイスの山岳地帯>

でもこれをやりすぎると、どうしてそんなに賢いのかという疑念を聴衆に起こすので、程々にしなければならない。でも僕は言いたくて、言いたくて、うずうずする。だから僕は周りの疑念を買って、それを嗅ぎつけたエージェント・スミスに狙われるのだとアテナは言った。

続く

   
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