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超知能への道 その9 ついにナノボットを飲む

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私は前回と同じようにタクシーに乗って霊鑑寺の前まで行った。再び鹿ヶ谷の坂道を登り怪しい民家の前に行くとそこにはバルカンとキューピッドが待っていた。彼らについて倒木のある廃道を登って九十四露神社についた。今回は慣れているので前回ほどには疲れなかった。九十四露神社の神殿には前回と同じようにゼウス、ビーナス、アテナが待っていた。ビーナスとアテナはいつも会っているから珍しくはないが、ゼウスには久しぶりにあったような気がした。

「やっとナノボットを飲む気になったかね」とゼウスが聞いた。

「はい、アテナさんと一緒に論文をたった3日で仕上げたので嬉しくなってしまいました。どうか私をもっと賢い超人間にして下さい。そうしたらどんどん論文が書けます」と私は弾む声で言った。それを聞いてゼウスは、笑いながらコップに入った液体を差し出した。何か怪しげな液体なので飲むのがちょっとためらわれた。その様子を見てゼウスは言った。

「ナノボットを体内に入れるだけなら、別にこんなものを飲まなくても、フォグレットを君の周りにばらまいて肺から吸収させればいいだけだ。でもそれでは闇討ちのようで君の納得が得られないから、このように液体で飲んでもらうのだ。まぁ象徴的な儀式だよ」

それを聞いて私は安心したので、その液体をぐっと飲み干した。オレンジジュースの味がした。

「ナノボットが腸から吸収されて脳に達するのにしばらく時間がかかるから、その間は話でもしようか。何か聞きたいことがあるかね? 」

「いっぱいあります。あなた方のことをもっと知りたいです。ギリシャ神話にはたくさんの神々がおられますが、ここにおられる神々だけなのですか? 」

「もちろんもっとたくさんいる。我々宇宙人は全員がマインドアップロードして神々になったのだ。だから神はたくさんいる。その中で指導的なものがオリンポスの十二神になったのだ。ナノボットが効いてきたら、君をオリンポス神殿に案内してそこでみんなに紹介しよう」

「非常に失礼なことを聞くようですが、ギリシャ神話を読む限り、ギリシャの神々は非常に人間的で、例えばキリスト教の神のように全知全能の存在のようには思えませんが? 」

「君はいいところに気がついたね。実は我々にも神がいるのだ」

「ええっ?どういうことですか。あなた方が神では無いのですか? 」

「我々は死なないという意味において、そして君たちよりはるかに強力な力を持っているという意味において君達から見たら神だ。しかし我々の上にはさらに神がいるのだ」とゼウス。

「意味がわかりません」といぶかる私。

「神々は大まかに言って3層構造になっているのだ。われわれはこの太陽系探査にやってきた宇宙人だ。その我々全体を統括する太陽系担当の神がいるのだ。その神は我々のような欲望を持った人間的な神ではなく純粋理性なのだ。われわれのことを人格神、太陽系担当の神を上位神と呼ぶことにしよう。上位神は我々をセンサーとして利用している。その他、地球を含む太陽系中にセンサーをばらまいている。地球は特に興味があるので、地球にはたくさんのセンサーをばらまいている。上位神はそのセンサーを通じて、地球と太陽系の事を全て把握しているのだ。太陽系中に目と耳と触手を持っている神だ。我々にわからないことがあれば、上位神に聞くのだ。まぁ君たちのいうところの神頼みだな。われわれは銀河のはるかかなたからやってきた。我々の仲間は今では銀河全体に散らばっている。その全体を統括する神がいるのだ。それを超越神と呼ぼう。つまり超越神、上位神、我々と3層構造になっているわけだ。わかったかね? 」

「なるほどそういうことですか。あなた方ですらすごい能力を持っているのだから、上位神はもっとすごいでしょうね」

「そうだ、上位神は我々が崇める神なのだ。何でも知っている。頭の回転も圧倒的に速い。それに考えも深い」

「それじゃあさらにその上の超越神は恐るべき知能を持った神ですね」と私は感嘆していった。

「いやそうとも言えない。超越神は頭の回転が非常に遅いのだ。いわばとろいと言えよう」とゼウスは驚くべきこと言った。

「ええっ、超越神は頭の回転が遅いのですって?それでなぜ超越神なのです」と私は驚いて聞いた。

「超越神は全銀河に散在するたくさんの上位神を統括しているのだ。銀河は広大だよ。その通信にどのくらいかかると思う?例えば10万光年離れた場所の通信を考えよう。光が往復するだけでも20万年かかるんだよ。そんなものを君は待っていられるかね? 」

「待つも何も我々は長くても100年も経てば死んでしまいますよ。20万年など待てるわけありません」

「そうだろ。だから超越神の頭の回転は遅いのだ。例えば10万年を0.1秒と感じるほど頭の回転が遅ければ、遥か遠くとの通信も普通の感覚で行えるわけだ。宇宙の歴史だって138億年もあるんだよ。宇宙の進化を目の当たりに実感するためには、頭の回転が遅いことが必要なのだ。頭の回転が遅いということと賢くないということは同じでは無い。超越神は宇宙の全てを把握している神なのだ」

「なるほどよくわかりました。でもそんな頭の回転の遅い超越神と話ができるのですか? 」私は疑問をぶつけた。

「君はいいところに気がついたね。実際そんなに頭の回転の遅い神と我々は直接に会話することはできない。そこでその間には何段回もの中継者がいるのだ。それは超越神の一部と言えよう。例えば我々より頭の回転が10分の1の速さの神がいる。われわれはその神とは何とか会話することができる。その10分の1神は、さらに頭の回転が10分の1の神と対話する。このようにしてリレー式に対話が行われるのだ」とゼウスは説明した。

そのとき私は頭が何かクラクラし、目の前のものがかすみ始めた。私は慌てて言った。

「何か変です。目が霞んで見えます」

「そろそろ効いてきたようだな。それではまず君の視覚をキャリブレーションしなければならない。目をきょろきょろして色んなものを見るんだ。私とかビーナスとか木々や空を見るんだ。我々には君が何を見ているかわかるから、その過程で君の視覚を調整するんだ」

「だんだんはっきり見えるようになりました」と私は安心して言った。

「次は聴覚のキャリフレーションだ。よく耳をすませていろんなものを聞いてみたまえ」とゼウスは言った。

ゼウスの声や、木々のざわめきが始めは少しぼやけていたが、はっきり聞こえるようになった。

「次は触覚の調整だ。手に持っているコップをいろいろ動かしてみたまえ。硬いものの触覚はこれで確定した。次は柔らかいものの触覚を試してみよう。ビーナスは旦那が目の前にいたのではやりにくいだろう。アテナ、お前の体を森君に触らしてやれ」とゼウスはアテナに向かって言った。

「いいわよ森君、私の胸を触って」とアテナはびっくりするようなことを言った。私はドギマギした。とてもそんな事はできそうになかった。するとアテナはつかつかと私に近づき、私の両手をとって自分の胸に持っていった。私は手を引っ込めようとしたが、アテナはしっかりつかんで私の手を自分の胸に押し付けた。柔らかい大きなもののムニュとした感触がした。私は女性の胸など触るのは初めてだったのでドギマギした。するとアテナはいきなり両手を私の背中にまわし、私をしっかり抱きしめてキスをした。私はこれまでの人生でキスなどした事はなかったので、びっくりした。柔らかい唇が私にしっかり押し付けられた。私はあまりのことに呆然としてしまった。アテナが私から離れた後も私はそのままぼう然と立っていた。みんなそんな私を見て大きな声で笑った。

Athena

「これで指先と唇の触覚の調整はできた。その他の部分もおいおいやることにしよう。これで一応の事はできた。君はもう下宿に帰っていい。こんばん君が寝たら、夢の中でみんなに紹介しよう。それじゃ我々は消える。じゃまた今晩な」とゼウスは言うと、ばらばらになって空中に飛び去ってしまった。ビーナスとアテナの体もばらばらになって消えてしまった。バルカンとキューピットだけはそのまま残って私を再び案内して、例の怪しい家の前まで送ってくれた。そこで彼らも消えてしまった。私は歩いて白川道まで降り、そこからバスに乗って下宿に帰った。

続く

   
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