超知能への道 その11 私の特訓授業始まる
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- 2015年3月19日(木曜)17:38に公開
- 作者: 森法外
「あら森君、あなたを探そうと思っていたのよ。あなたの学習計画を立てなければならないわ」とアテナは言った。
「それはビーナスさんに聞いたのです。どんな計画ですか? 」
「以前、一晩が1年間に対応するといったわね。でもいきなりそこまで飛躍するのではなく、最初は一晩を2日ぐらいに対応させるわ。あなたの頭の中も十分に調べる必要があるし、慣れる必要もあるから。それから1週間かけて、だんだんと長くしていくわ。その間にあなたはそんな生活に慣れるでしょう。次の1週間は、7年間に対応するのよ。そんな7年で、高校と大学4年間の復習をするわ。次の1週間は、大学院の修士課程2年間と博士課程の3年間、それにポスドクの2年間とするわ」とアテナは言った。
「私は高校も大学も大学院も出ましたし、そんな復習が必要なのですか? 」と私は不満そうに聞いた。
「もちろんあなたは十分勉強したと思うけれども、それでも復習は必要だわ。世界の影の指導者になろうと言うからには十分な教養がなければならないわ。世の多くの学者は、専門知識は豊富だけれども、教養に欠ける人も多いわね」
「どんな勉強をするのですか? 」
「高校では国語、数学、理科、社会、英語、武術、芸術だわ」
「武術はともかく、その他はなんかありきたりだなぁ」と私は不満そうに言った。アテナはそれを無視していった。
「国語は現代文、古文、漢文、文学、理科は物理、化学、生物、地学、社会は日本史、世界史、地理、公民、英語は読む、書く、聞く、話す、芸術は音楽、美術、書道、ダンスだわ。全部やってもらうの」
「高校の後はどうなるのです?」
「大学のコースでは最初の2年間は教養科目をみっちりやる。その他に数学、英語、物理学、化学、生物学、地学、コンピュータを学ぶの。後の2年は専門で、物理学、数学、天文学、コンピュータプログラミング、英語、英語以外の外国語などやるの。あなたの目的は超知能を作ることだから、大学院からは、テーマを絞ってコンピュータプログラミング、情報科学、人工知能、脳神経科学などをやってもらうわ。物理学や天文学、外国語、武術、芸術はそのまま続けるけどね」
「2週間、つまり14年間で終わりですか?」
「いえ、まだそれだけでは十分でないので、さらに2週間、つまりあと14年間、専門的テーマについて勉強してもらうわ」
「結局、28年間勉強することになるのですか?」
「そのとおりよ」
「すごいなあ。そこまで勉強すれば鬼に金棒ですね。ところで武術というのはなんですか? 」私は聞いた。
「あなたは合気道の三段だわね。だからあなたは合気道の達人になってもらうわ。その他は柔道、剣道、空手から始まり、日本の様々な古武術、外国のマーシャルアーツ、射撃、護衛術などあらゆることをやるわ。それに車や飛行機、ヘリコプターの操縦法も含むわ。飛行機は特に戦闘機ね。これはもちろん始めの3年間だけではなく、ずっとやるのよ」
「なかなか大変そうですね」と私は心配になっていった。
「大丈夫だわ。 1週間は月曜から金曜までの5日間の勉強日と土日の休日からなっているの。朝は6時起床、それから軽い運動と朝食、 8時から12時まで授業よ。 2時間で1コマだけれども 50分授業、 10分休憩を繰り返すの。だからひとこまは100分授業よ。12時から1時までは昼食よ。 1時から5時までは再び授業、 5時から7時までは武術、 7時から8時までは夕食。 8時から10時までは芸術の時間よ。 10時から12時までは読書の時間。そして12時に就寝するの。結局、 1日に6コマで、 5日間で30コマになるわ。土曜、日曜は観光、演奏会、宴会、休養に充てるの」とアテナは説明した。
「すごく詰まった授業プランですね」と私は少し心配になっていった。アテナはそれを無視して続けた。
「 1学期は15週間続くの。つまりどの科目も15日ね。これが1単位だわ。1年はほぼ52週間だから、 1年3月期として45週間になるわね。余った7週間は休みだわ。休み期間にはいろんなテーマの集中コースとか、観光、休暇等があるわ。夏休み3週間、春休み2週間、冬休み2週間だわ。だから余裕あるプランだとも言えるわ」
「なるほど。それで授業はどのようにやるのですか?あなたが講師になるのですか? 」
「その場合もあるけれども、基本的にゼミ形式でやるの。あなたと3人の御学友で勉強するのよ」
「御学友ってなんですか?」
「あなたと一緒に勉強する神よ。あなたは女神がいいでしょうから、私とビーナス、それに月の女神のダイアナにしましょう。先に警告しておくけれども、ダイアナは処女神だから手を出したらひどい目にあうわよ」
「そんなことしませんよ」
「武術には私だけでなく男性の神にも加わってもらうわ」
「楽しみですね。ところで授業はどこであるのですか」と私は聞いた。
「授業は世界の観光地、リゾート地を回ってするのよ。それぞれ1週間ずつ世界の超一流ホテルを回るのよ。ハワイやバリ島、プーケット、モルディブなどのリゾート地、ロンドン、パリ、ローマなどの古都、それに日本の温泉地など世界中を回るの。土日には観光するのよ」
「それはすごいですね。楽しみだなあ」
「ええ、十分に楽しみながら勉強するのよ。演奏会もカラヤンの演奏会とか、亡くなった芸術家の演奏もあるわ」
「すごい、すごい。贅沢きわまりないなあ」
「今日は手始めに武術からやりましょう。ご存知のように、私は戦いの女神だから、ちょっとあなたを揉んであげるわ。剣と盾を取りなさい」とアテナはいい、ギリシャ式の短い剣と大きな盾を私に渡した。
「こんなの使ったことありません。どう使うのかわかりません」と私は戸惑っていった。
「まぁ手始めだから適当にやりなさいよ」とアテナは言って、剣と盾を構えた。私も仕方ないから、映画で見たような格好をして構えてみた。アテナは剣をシュッシュッと振って、いきなり切りかかってきた。私は何とか盾で止めたけれども、アテナはいきなり盾を私の盾にぶつけて押してきた。私はそんなことは予想もしていなかったのでヨロヨロとよろけた。私の防御がおろそかになったその隙にアテナは剣をシュッと横に薙いだ。切っ先が私の頬をかすめた。あっ痛い! 手を頬に当てると血がついた。わあ、切られた。私はパニックになった。今まで剣で切られたことなどなかったからだ。アテナはホホホと笑って剣を納めた。
「まぁこんなもんよ、でもその傷はバーチャルなものだから、すぐに治るわ」とアテナは笑いながら言った。
「でも本当に真剣で切らなくても」と私は不満そうに言った。
「でも真剣じゃないと、真剣にならないじゃない」とアテナは冗談めかしていった。しかし、その後は、そんなに派手なこともなく、基本的な型をきっちり教えてくれた。
それから私はアテナ、ビーナス、ダイアナと夕食を取った。ダイアナは恐ろしく美しい女神であったが、男には全く興味がないと言った感じで、ちょっととりつく島がなかった。食事の後は芸術の時間で、アポロについてピアノのレッスンを少しした。その後は読書の時間とかで、アテナは私に読むべき本のリストを渡した。いずれも教養書といったたぐいのものであった。私は自分の神殿を与えられて、部屋に下がった。一流ホテルのような立派な部屋であった。私は12時まで読書してから就寝した。次の日からはアテナが言った予定表に沿って授業が進められた。こうして私は1週間かけて少しずつ時間を延ばしながら、スケジュールをこなしていった。
仮想の日程が終わる前は、現実の前日を思い出すシミュレーションをしてから、現実の世界で目覚めた。現実の世界では、私は研究室に熱心に通い、朝から晩までプログラミングと研究に専念した。そしてさらに論文を数編仕上げて、夏目教授の所に持っていった。今回はちゃんと教授の名前を著者に入れておいた。
「先生、新しい論文です」
「なんと、また論文ができたのか?信じられない」と教授は驚いて言った。
「いえすでに、論文の準備をしてあったので、まとめて書いただけです。たった数日で研究を仕上げたわけではありません。長い準備期間を費やしたのです」と私は嘘を言った。もっともこの研究は、アテナとやったものだけれども。教授は急遽研究室のセミナーを開いて、研究室員の前で発表するようにいった。私が発表すると、教授は皆の前で言った。
「森君はすごい、何編もの論文をいっぺんに仕上げたんだ。もっともその前には、長い時間かけて準備したそうだが。みんなも森君の様に仕事をしなければならないよ」と教授は鼻高々に言った。それを聞いていた助教の目が、悔しそうにきらりと光った。ちょっと嫌な気がした。