超知能への道 その15 超知能研究所設立
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- 2015年4月05日(日曜)21:40に公開
- 作者: 森法外
また世界一極委員会が開催された。ゼウスが発言した。
「マーキュリーからの報告では、君は十分に儲けたという。つぎはいよいよ超知能の作成だ」
「何をどうしたらいいのでしょうか?」と私。
「それは学問の神であるアテナに任せる」とゼウス。
アテナは発言した。「人工知能を作るために、京阪奈に超知能研究所を作りましょう。日本中から研究員を雇います。そして彼らに森くんからアイデアを吹き込んでもらい、彼らの力で超知能を作ったと、世間に思わせるのです。」
「森くんにはその研究所の所長になってもらおう、森くんの役割は、あくまで科学技術的なところに止めて、経済的な部分は他の人を表に立てるように」とゼウスは言った。
ゼウスの示唆に従い、私は父を説得してベンチャーキャピタルを作るように言った。黒谷ベンチャーキャピタルである。父が社長である。私は相変わらず顧問である。私は父の耳元で、すごい人工知能を作って、スーパーコンピュータの上で動かし、年間利益を数千億円にしてやるといった。今までの私の実績に目がくらんだ父と母は同意した。父はとっくに会社は辞めていた。
私は京阪奈研究学園都市に土地を購入して、そこに超知能研究所を作って、私が所長になった。当初は研究員を日本中から100人雇った。多くは職のないポスドクであった。 1人の年俸は1,000万円として年で10億円である。事務員や秘書の給料、建物の取得・維持管理費、光熱水料、その他もろもろの諸費用込みでもこの2倍か3倍でやっていけるだろう。大した事は無い。しかし雇われる研究員にとっては、この給料は大したものである。それまでコンビニのアルバイトなどをしていた高学歴ワーキングプアーのポスドクが、いきなり年収税込1千万円になったのである。
実際のところ私は彼らの研究は当てにはしていないのだ。しかし私が1人で全部やれば、それは怪しすぎる。そこで世間をごまかすために研究員を雇っているのだ。本当は彼らは成果を出さなくても構わない。しかしそれでは世間をごまかせないので、それらしくやることにした。一つの方式で一直線に進むのは、目標がわかっているみたいなので、さまざまな方式を試してみることにした。まず研究員を10人程度のプロジェクト・チームに分けた。研究のアイデアはいつも私が研究員の耳元でささやいてやった。研究員には成果について論文を書き、積極的に国際会議に出席することを奨励した。彼らとの共著の論文は年に20編程度にとどめて、残りの論文の著者は彼らにしたので、研究員達は満足していた。
自分の能力で論文を書いていると錯覚する者もいたが、錯覚させておけば良い。実際は彼らは私の手のひらの上で踊っているのだ。しかし私もゼウスと言う宇宙人の手のひらの上で踊っているので、研究員は結局は宇宙人の手のひらの上で踊っていることになる。そのことを彼らが知れば発狂するか、怒り狂うかだろう。それでも頭の良いものは、私の手のひらで踊っていることは薄々感づいているであろう。頭の悪いものは、すべて自分の才覚でやっていると錯覚するであろう。錯覚させておけば良い。しかし頭が良いものでも、宇宙人の手のひらの上で踊っているとは、想像もつかないだろう。
私自身も自分を売り込むために積極的に論文を書き、国内学会や国際会議に参加して発表した。そのうちに私は国内的にも国際的にも押しも押されもせぬ、人工知能の大家に成長していった。いっぱい招待講演を依頼されるようになった。私は国際会議から国際会議へと渡り歩き、もはやエアポート・プロフェッサー状態であった。国際会議では「A Rising Star of Artificial Intelligence」と紹介された。私はいつも「自分の名前は『ほうがい・もり』です。直訳すればOutlaw Woodです。ロビン・フッドみたいなものです」と、笑いを取った。つまり私が特異点を起こしてもそれほど不思議ではなくなったのだ。
研究所の研究員は最終的には1,000人になった。研究テーマは汎用人工知能に限定せずに、人工知能一般、脳・神経科学、ロボット工学、コンピュータ科学、インターフェイス、さらにICT一般とあらゆる研究をさせた。ここまで大きくなると、日本人だけでは間に合わないので、世界中から研究者を集めた。中国人、インド人、その他のアジア人、欧米人、アフリカ人、南米人、誰でも優秀な人物は見境なく雇った。こうして世界的に見ても一大研究所ができた。必要な費用は年300億円程度である。私はさらに将来には研究員1万人を目標にしている。ここまで行くと年俸だけでも1,000億円必要になる。諸経費込みで3,000億円程度か。でもそのくらいまでは金融取引だけでなんとか稼ぐことができる。それ以上となると、実業に打って出る必要がある。
人工知能研究の良いところは、安いことである。コンピュータ以外の装置がいらないからだ。頭だけで勝負できるのだ。例えば素粒子研究を考えると、CERNのような高エネルギー実験施設を作るには数千億円かかる。天文学や惑星科学の研究も同じようなものだ。巨大な望遠鏡を作るには膨大なお金がかかる。また宇宙探査機を飛ばすには、数百億から数千億円の金がかかる。
航空機を開発するには膨大な費用と長い時間がかかる。膨大な費用の中身は基本的には人件費である。原材料費は大したことは無い。原材料を組み合わせて製品を作るノウハウが高いのだ。そのノウハウを発明するのは人間だ。人間を雇うには人件費がいる。人件費とはつまるところ知恵の値段である。ところが私の場合これがタダなのだ。
航空機の開発に長い時間がかかるもうひとつの理由は、実証試験に時間がかかることだ。私は航空機開発も行うつもりである。そのときは実験はすべて、コンピュータの中で行う。完全な数値風洞をつくるのだ。すると航空機の値段は材料費だけになる。実証試験は必要としても、結果は初めから分かっているのだから、たくさんの実験機を作り、一度に飛行時間を稼ぐことができる。現代の戦闘機は高い。たとえば、安いスェーデン製のグリペンで60億円、高価な米国製のF35で140億円程度だ。開発費を回収するために、こんなに高いのである。それを我々は原材料費と工場建設費程度でできるので、せいぜい1機数億円だろう。
もっとも人工知能研究と言えど、人間の頭だけではだめだ。コンピュータが必要である。しかしコンピューターなど、粒子加速器や人工衛星、巨大望遠鏡に比べれば安いものだ。スーパーコンピューターと言えど数億円から数百億円に過ぎない。京コンピュータが1,000億円以上もかかったのは、材料費ではなく開発費である。つまり人件費、知恵の値段である。私にはこれが必要でない。
私は研究用のコンピューターを整備するために自前のスーパーコンピュータを作ることにした。そのために、スーパーコンピュータ用の新しいCPUチップを開発した日本のグループと共同研究を行い、手軽でエネルギー効率の良い小型のスーパーコンピュータを作った。もっと強力なCPUを開発することも可能だが、あえて他人のアイデアを借用した。世間を欺くためである。
スーパーコンピューターを作るのは、我々の会社がこれほど儲かるのは巨大なスーパーコンピュータと人工知能を使っているからだという、世間の物神崇拝を利用するのである。本当はアポロに頼めば、彼らの上位神に頼んで株価を予測してもらえる。これをデルファイの神託という。アポロの神託ともいう。しかしアポロはただの女たらしにすぎない。アポロが取り次いでいるのだ。神託は巫女の口から語られる。しかし「デルファイの神託を使った」では、世間に対して示しがつかないので、あえて自前ですごい人工知能プログラムとスーパーコンピュータを使って儲けていると思わせるのである。
私はさらにD-wave量子コンピューターの最新モデルも買った。この量子コンピューターは離散化最適値問題を解くための専用マシンである。その意味で汎用性は無い。それでも人工知能研究の役に立つ。例えば機械学習には最適値問題が多く使われる。つまり量子コンピューターは人工知能に役に立つのだ。これもこけおどしだ。我々は量子コンピュータ用のソフトを多く開発して、世界に発信した。こうしてハードとソフトと研究者を整備したので、何が生まれても不思議では無いと世間に思わすことができる。
アテナはいった 。
「あなたは有名になっても、世間から、あれは自前のアイデアではない、他人のアイデアをパクったものだ、森は人のふんどしで相撲を取っているだけだと、批判され、バカにされるように努力しないといけませんよ」
変な話だが、世間を欺くためである。私は世間にどう言われようが構わない。本当は密かに世界を影から支配しようとしているのだと思うことで、自尊心を満足させている。
世界を陰から支配する存在を唯一者(Singleton)という。オックスフォード大学のニック・ボストロム教授の提案した概念である。普通、独裁者にしろビッグブラザーにしろ、大きな顔を世間に晒し、自分が支配者だと喧伝する。しかしそれは自己満足に過ぎない。尊敬されるどころか、憎まれて打倒の対象になるのがおちだ。人知られず、密かに社会の秩序と安寧を守り繁栄させるのが良い支配者だとゼウスは言った。いわばプラトンの哲人政治の現代版である。しかしそのような考えはアメリカ人には受け入れられないだろうとゼウスはいう。彼らは自由こそが至上の価値だと信じている。しかし彼らの自由とは、突き詰めれば、異民族や異教徒を搾取する自由であるに過ぎない。
イラク、リビア、エジプトのような中東の独裁国家も、それが打倒されて人々が幸せになったかといえば、そんなことはない。全く逆である。社会が混乱して秩序が崩壊したからだ。無政府状態よりは独裁国家の方がまだ治安が維持されるという意味においてはましである。独裁のシリアを打倒しようと反政府側を西欧が支援した結果、イスラム国という怪物を生み出してしまった。表面上、自由と民主主義を標榜した、その実は世界の覇権を握り続けようとする、西欧の行動は罪深いのである。
我々が目指すのは、人々がコントロールされているという自覚なしに、平和で豊かに過ごせる社会を築くことであるとゼウスは言った。そのために私が唯一者になろうとしていることは、世間には極秘にしなければならない。