研究所紹介  

   

活動  

   

情報発信  

   

あいんしゅたいんページ  

   

超知能への道 その20 東南アジア進出

詳細

世界一極委員会での会話である。

「宇宙の基本は物、エネルギー、情報だ。人間社会も同じことだ。我々は工場を作り、物を作ることができる。情報に関しては、我々はスーパーコンピューターと汎用人工知能を作った。もっとも世界の情報の収集はこれからだ。問題はエネルギーだ。日本ではエネルギーが高すぎる。原子力発電所は日本では建設できない。また軍需産業も起こせない。それに日本は規制が多すぎる。だから海外進出をする」とゼウスは言った。

「軍需産業ですって? 死の商人になるつもりですか?」とビーナス。

「いや、戦争を起こさせないため、平和を守るための軍備だ」とゼウス。

「日本の軍備を援助するのですか?」

「いや、ベトナム、フィリピン、台湾に武器供与して、中国の脅威から守るのだ。というより、そのふりをするといったほうが良い」とゼウス。

「ふりをするって?」とビーナス。

「戦争を起こさせはせん。そんなことがあれば、究極の手段を使う」とゼウス。

「ああ、ファブレットですね」と私が言った。

我々は東南アジアに進出をすることにした。理由はいろいろある。その一つは、日本にいてはできないことがいろいろあるからだ。たとえば様々な規制の問題だ。我々は弥勒菩薩システムを使って新しい薬を開発しようとしている。あるいは新しい治療法を開発しようとしている。ところが日本にしろ、アメリカにしろ、先進国においては、それらが承認されるには長い時間がかかる。航空機の開発も同じことだ。安全性を考慮しているのだから当然なのだが、我々が作り上げるものは最初から完全なものなので問題は無い。しかしそのことを外部に対して証明することはできない。弥勒菩薩システムの秘密について明かす事はできないからだ。そこで規制のゆるやかな国で、それらを実現しようというのだ。

第二はエネルギーの問題だ。日本は電気代が高い。その理由はいろいろあるが、大きいのは原子力発電所が停止していて、天然ガスなどの化石燃料に頼っていることだ。風力発電や太陽パネル発電のようないわゆる自然エネルギーは、現状では非常に高価である。電気代が高いのだ。日本でこれ以上原子力発電所をつくるのは論外である。国民感情が認めないからである。そこで我々は海外に発電所を作ることにした。火力発電では日本と変わらない。核融合発電も考えられるが、それを即座に実現するのは怪しすぎる。当面手っ取り早いのは原子力発電である。

設置場所としては東南アジアを選んだ。ただしウラン型の原子力発電ではいろいろ問題が多すぎる。核兵器の原料となるプルトニウムができることとか、放射性廃棄物が多量に出ることである。そこで我々はすでに稼働実績があるが、捨てられたトリウム炉を採用することにした。これは1960年代にアメリカでできて稼働実績があるのだが、アメリカは原爆を作るためのプルトニウムが得られるという理由でウラン型原子炉を採用したのだ。我々は弥勒菩薩システムをフルに稼働して新しいトリウム型原子炉を設計した。トリウムは主にインドで産出する。またトリウム型原子炉では核兵器は作れない。その点で諸外国の疑心暗鬼を招かないだろう。放射性廃棄物も少ない。また大きさは小さくして、米国の空母や原子力潜水艦に搭載されている程度の物とした。出力は20万kw程度である。こわれた場合のリスクが小さいからだ。小型の原子炉をたくさん設置するのだ。設置方法としては、地面に深い穴を掘るか、山に長いトンネルを掘りその奥に設置する。事故は起きないように十分に安全に設計してあるが、万が一事故が起きた場合はそのまま埋めてしまう。燃料がなくなって廃炉にする場合もそのまま埋めてしまう。要するに使い捨て原子炉なのである。

設置する国の候補としてわれわれはベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーを選んだ。タイ、マレーシア、インドネシアはすでに十分に発展しているので、これから発展するであろう国を選んだ。われわれは代表団をこれらの国に送り交渉した。われわれはこれらの国々で原子炉を作り、工業を発展させ、いろんな工業製品を日本や諸外国に輸出して国を豊かにさせると約束した。 10年から20年の期間で、国民一人当たりのGDPを先進国に近くすることを約束した。我々の工場は人間の労働力を必要としないほど自動化されているので、雇用を増やす事は出来ないことをあらかじめ断っておいた。十分な外貨収入を獲得し、政府に対して十分な税金を支払うので、それで国として雇用を増やしてほしいとお願いした。

原子炉が高いのは、主として開発費とそれに伴う人件費である。我々のシステムは、開発費がほとんどタダである。その意味で必要なのは材料費だけなのである。我々の原子炉は実質的には極めて安い。もっともそのことは公表しない。われわれは東播磨重工という会社を神戸に設立した。そこがベトナムに原子炉製造工場を作った。そしてベトナム中部の海岸に、トリウム型原子炉を、始めは10機程度、最終的には数百機作った。それらの電力を使っていろんなものを生産した。

1番重要なものは石油と天然ガスである。われわれは水と二酸化炭素から石油と天然ガスを作る方法を、弥勒菩薩システムを使って開発した。なぜ石油と天然ガスかというと、石油は自動車の運転に必要だし、天然ガスは原子炉のない国で発電するのに必要だからだ。我々はそれらの製品を日本に輸出することにした。その結果、日本はエネルギー源を中東に依存しなくて良いようになった。我々の石油や天然ガスの製造コストは、地面から吹き出してくる石油ほどには安くないけれども、輸送コストが低いので、日本が中東から買っている石油や天然ガスよりは安くなった。日本が輸入している石油や天然ガスは、数十兆円にも上る。我々はそれを全て供給することにした。その結果我々の収入は数十兆円に上るはずである。

われわれはベトナムにベトナムフーズという会社を作った。我々は弥勒菩薩システムを使って、穀物から遺伝子技術を使い牛肉や魚の肉を直接に作る方法を開発した。アメリカから輸入したとうもろこしを使って、本物の牛肉や魚のような味がする肉を作ったのだ。本当は石油の場合のように、水と二酸化炭素から作ることもできるけれども、それではあまりアメリカを刺激するので、アメリカから穀物を輸入することにしたのだ。それでもアメリカからの日本への牛肉の輸入が途絶えたので、アメリカ政府は怒り狂った。アメリカとの関係がだんだん険悪になってきた。

また中国が作っている様々な工業製品を、東南アジアの国で作ることにした。そのことは中国をいたく刺激した。中国の貿易のシェアーのかなりの部分をベトナムなど東南アジア諸国が奪ったからである。また中国とベトナム、フィリピンは南シナ海にある島をめぐって争っている。だから中国とベトナムの関係はさらに悪化した。

そこでわれわれはベトナムで、東播磨重工が軍艦や戦闘機を作ることにした。そしてそれらを、ベトナム、フィリピン、台湾、日本に安く売ることにした。平和を標榜する我々がなぜ兵器を作るかというと、標語的には平和を守るためである。しかし実際はこれらの兵器は張り子の虎である。中国に勝手にさせないための威嚇である。

われわれはいざというときには絶対戦争をさせない、あるいは戦争が始まっても即座に勝利する秘密の方式がある。それはゼウスに頼んでファブレットを相手国の首脳の鼻から脳に送り込んで、うつ状態にして意欲を喪失させるのである。しかしこんな事は最終手段である。こんなことをしたら世界の疑惑が爆発する。そこでまずは戦争しようという意欲を喪失させることが重要である。そのための軍備拡充である。使えない、使わない軍備なのである。

われわれは第6世代の戦闘機を開発した。それはステルスであり、また完全に無人ではないけれども、人工知能が操縦するので、パイロットの技量がほとんど必要とされないのだ。どこの国でもパイロットを養成するのは費用と時間がかかる。それがほとんど不要になったのだ。素人みたいな人間でも、ベテランパイロットより上手に操縦できる。ようするに操縦をみんな人工知能に任せればよいのだ。

われわれはこの戦闘機を一機30億円で数百機売りつけた。これは国際相場としては極めて安い。しかし我々にとって製造費は工場建設費だけである。この初期投資は必要であるが、一度作ってしまえば、後は材料費だけになり、 1機が数億円ですむのである。

fighetr

日本と台湾は別にして、ベトナムやフィリピンのような貧乏な国に、そんな高い金を支払う予算的な余裕は無い。そこでわれわれはその費用を、特別国債を発行して支払ってもらうことにした。国債だから新規に通貨を発行するわけでは無い。ただし我々がその国に払う税金をその特別国債で支払うことに合意してもらった。結局は貸付と同じである。

軍艦として最新のステルス式の沿海域戦闘艦とよばれる小型の低武装の艦を作った。これは、乗務員は12人程度と非常に少ない数で済むようにした。もちろん完全に0にすることも可能なのだけれども、当面それは行き過ぎだ。残りの乗務員をロボットにした。それをベトナム、フィリピンには多数供給した。南シナ海の島嶼を防衛するためである。

さらに我々は1万トンクラスの駆逐艦、5万トンクラスの強襲揚陸艦、10万トンクラスの空母をたくさん作った。これらの一部はベトナムとフィリピンに供与したが、大部分は後に述べる島嶼国家の軍艦とした。島嶼国家の艦隊を集めたものを連合艦隊と呼ぶ。

我々のこの行為に対し、中国は烈火の如くに怒った。アメリカは疑心暗鬼に陥った。しかし我々は日本政府ではないし、手の施しようがないのだ。中国は軍備増強で対応したが、それは国力を疲弊させるみちである。ソ連が崩壊したのも、アメリカとの軍拡競争に疲弊したからである。

続く

   
© NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん (JEin). All Rights Reserved