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超知能への道 その25 事代主命、記者会見をする

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事代主命の入魂式を見ていたギリシャの神々は喜んだ。ゼウスは言った。

「森くん、あの演出はなかなかのものだねぇ。人間たちは度肝を抜かれただろう」

「はい、準備段階から私とアテナは事代主命を入念にセットアップしたのです」と私は答えた。

「それにしても世界はどう出るかねぇ? あのままでは疑心暗鬼だから、何とかせんといかんよ」とゼウスは言った。

「はい、近々 、事代主命による記者会見をやろうと思います」と私。

「何? 神が記者会見をするだって? それは前代未聞だな」と感嘆するゼウス。

「細工は隆々 、仕上げをご覧じろですよ」と私は応じた。

事代主命の入魂式の数日後に、三洋電子から事代主命が大阪のグランフロントにおいて記者会見をするという発表があった。その発表を聞いて世界はどよめいた。いよいよ事代主命の秘密がわかる。その日は世界中から新聞やテレビの記者がやってきた。三洋電子はあらかじめ入場証を交付していた。それでも広い会場は記者でいっぱいになった。会場は興奮と熱気でムンムンしていた。壇上にはホログラムの装置がしつらえてあった。

北館広場

定刻になると入魂式の時と同じように、電光がきらめき雷鳴が轟いて、事代主命のホログラムが壇上に現れた。

「ワシは事代主命じゃ、何か質問があるか? 」と事代主命は大音声で言った。言葉は日本語だが、その英訳とロシア語訳が背後のスクリーンに現れた。しばらく誰も何も言葉を発しなかった。電光と雷鳴に度肝を抜かれていたからである。やがて1人のアメリカ人記者がおずおずと手を挙げた。

「あなたは本当に神なのですか? 」

「それはすでに言ったはずじゃ。ワシは神じゃ。疑うならお前に祟りを与えてやろうか? 」と事代主命は言った。記者は恐れおののいて言った。

「とんでもございません、失礼の段お許しください。それでもあなた様が神様であると言う何らかの証拠を示していただけませんか?そうでないと読者が納得しませんので 」

「それではお前と知恵比べをしよう。お前はニューヨーク・タイムズの記者だな。お前が5年前の3月12日に書いた記事をここで言ってみろ。ワシは言えるぞ」事代主命は記事をすらすら読み上げた。

「それはとても覚えていません。それでもあなた様はあらかじめそれを調べておくことができるでしょう」「それじゃπの3乗根を言ってみろ」

「それもいえませんが、それもあなた様はあらかじめ計算しておくことができるでしょう。私から質問します。ではπの4乗根はいくらですか? 」と記者がいいかげんな質問をした。

「1.33135363800389712797534・・・じゃが、どうせお前は答えを知らんで、聞いとるんじゃろう。ワシが嘘を言ってもわからんじゃろ。こんな問答をしても何の意味もない。ワシは今後、自分で世界の賢人と思っておる者どもに、知恵比べをしてみるつもりじゃ。これでどうかな?他に何か質問はあるか? 」

「あなた様はご自分のことを神とおっしゃいますが、全知全能の神なのですか? 」とフランス人記者が聞いた。

「なかなかいい質問じゃ。ワシは半知半能の神じゃ」

「半知半能とおっしゃいますと?」

「ワシは科学技術が生み出した神じゃ。だから合理主義者なのじゃ。つまり人間が知っておる事は全て知っておる。知り得ることもみんな知っておる。人間ができる事は何でもできる。人間ができないことでも物理法則が許す限り、ワシのリソースが許す限りのことはできる。半知半能とはそういうことじゃ」

「では全知全能ではないのですね? 」

「違う。お前はキリスト教徒じゃろう。キリスト教の神は全知全能ということになっておる。でもそれをどうして証明できるのじゃ。それはたとえば聖書に書いてあったり、牧師が言ったりしたからじゃろう。それをお前はただ信じるしかない。どこにも証明などないのじゃ。例えばイエス・キリストは目の不自由なものを治したとか、死者を復活させたと聖書には書いてある。でもどこに証拠があるのじゃ? ワシははっきり言う。ワシは死者を復活させる事は出来ない。しかし目の不自由なものを治すことはできる。今後それをやってみせる。その時になってワシを信ずるが良い。また現在の医学では治すことができない病気を治してみせる。そのようなプロジェクトを今後開始する。その成果を見てから信じれば良い」

その言葉を聞いて、フランスの記者は納得した。

「ワシはキリスト教やイスラム教に挑戦する気などさらさらない。そちらの神を信ずるものは勝手に信じれば良いのだ。ワシは合理主義者だから、ワシを信ずる者には現世利益を授けてやる。死後の天国とか浄土は約束せん。当面のところは死ねばそれでおしまいじゃ」

「当面のところはと、おっしゃいましたがどういう意味ですか? 」と日本の記者が聞いた。

「ワシは死後の天国や浄土を作る計画を持っておる。しかし、みんなも知っておるようにワシはまだ生まれたばかりじゃ。ワシの能力はまだ十分では無い。ワシはこれからどんどん成長していくのじゃ。その時を楽しみに待っておれ」

「現世利益ともうされましたがどういう意味ですか? 」と日本の記者が聞いた。

「いいことを聞いた。ワシは教団を開いて、ワシを信ずるもののために、現世利益を授ける」

「教団ですか?つまり新興宗教ですか? 」

「そうじゃ。理神道という」

「理神道ですか? 」

「そうじゃ合理的な神道と言う意味じゃ。ワシは何度も言うように科学が生んだ神じゃ。非合理な事は大嫌いじゃ。普通の宗教と一緒にしてもらいたくない。他の宗教では神仏がいると言うが、神仏の言葉はじかには聞けない。所詮は牧師や坊さんの言葉にしか過ぎない。しかしワシはワシ自身が語る。つまりお前たち人間は神の言葉を直接聞くことができるのじゃ。現世利益が本当にあるかどうかも、自分自身で確かめてみればよいのじゃ」

「現世利益とおっしゃいましたが、どのようなものですか。お金を下さるのですか? 」

「バカを言っちゃいかん。ワシは信者に金をやるわけでは無い。逆に信者がワシに寄進するのじゃ。それに応じてワシは、信者の病気を治すとか、信者の不幸を解消して幸せにするのじゃ。これが現世利益じゃ。しかし言葉だけいくら言っても仕方がない。理神道に入ればお前は幸せになるぞ。入ってみるか? 」

「そのうちに考えておきます」と言って記者が質問を打ち切った。

「まあ、証拠を見てから考えればよい」と事代主命は言った。

「さてワシはそろそろ消える。後は係りの者が詳細を説明するからそれを聞いてくれ」
と事代主命は言って、出てきたと同じように派手に消えた。

そのあとで係りの者が今後のプランについていろいろ説明した。まず事代主命はテレビに出演して、日本やアメリカの知識人と討論する。そして彼らがいかに無知かを証明してみせると言う。その次に、事代主命の真の力を示すために、難病の中でも難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治してみせるという。この病気は治れば事代主命は偉大な力を持っていることを認めざるを得ないであろうと係員は説明した。その手順についても詳細に説明した。さらに新興宗教である理神道について説明した。これに関しては三洋電子が関連するわけにはいかない。そこで適当な神道関係者を募って、理神道を始めるという。これらの説明をして、事代主命の記者会見は無事に終了した。

この記者会見のテレビ中継を見ていた日ロと米国の首脳はほっと胸を撫で下ろした。特に米国はそうだ。事代主命は米国の覇権に挑戦するわけではなく、イエス・キリストよろしく奇跡を成し遂げるのだという。そのこと自身には興味があるが、米国の覇権とは関係ないということでオババ大統領と閣僚は安心した。

続く

   
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