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イーロン・マスクの火星への挑戦。天才が世界を変える。

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2018年2月6日スペースX社の大型ロケット、ファルコン・ヘビーがケープ・カナベラルから打ち上げられた。これが特筆すべきことであるのは、この計画がNASAのような国家機関ではなくイーロン・マスクという個人がなした点にある。彼は最終目標を火星への移住においている。このような大それた計画を、個人が立てて実行できるというアメリカのダイナミズムはすごい。

イーロン・マスク

イーロン・マスクの経歴を簡単にまとめる。彼は1971年に南アフリカに生まれた白人で現在は46歳である。南アフリカでの徴兵がいやで、親戚の住むカナダに移住した。カナダと米国の大学を卒業した。1996年にスタンフォード大学の大学院に入学したが、すぐに退学して起業して成功した。1999年にPayPal社を起業してこれも成功した。2002年にSpaceX社を起業した。2008年に電気自動車のテスラ社のCEOになった。2006年に太陽光発電のソーラーシティを起業した。時速1287キロメートルのハイパーループ計画を立てた。彼は人工知能の脅威を言い立てて、それを防ぐためと称してOpenAIを創設するが、最近会長を退任した。2016年に脳埋め込み装置のニューラルレースを作るニューラリンク社を創業した。

見てわかるように極めて多彩な活動をしている。ハイパーループといい、火星移住計画といい、彼の考えることはとてつもないことが多い。人工知能に関しては、彼は最近なくなった英国のスティーブン・ホーキング、マイクロソフトの創始者であるビル・ゲイツと並んで警戒的な発言をしている。彼はAI、ロボットをデーモンとさえ呼んでいる。

しかし彼の言葉はそのまま信じることはできない。なぜならテスラの電気自動車は先端的なAIを搭載している。ということは会社で研究させているということだ。また多くのAIスタートアップに投資している。ということは、彼のいう危険なAIができれば、彼は儲かるのだ。ニューラルレースは先進的な脳・コンピュータインターフェイスであり、人間とAIを搭載したコンピュータをつなぐ装置だ。彼こそシンギュラリティを目指して投資しているとしか言いようがない。

ただし、言い訳としてAIの発展を監視するためとしてOpenAIを創始した。これでAI界のスター的研究者を集めてAIの基盤を作り、それを広く公開することによりAIの脅威を防ぐという。例えばロボットAIで有名なバークレイ校のピーター・アビールとか、ディープラーニングの教科書で有名なイアン・グッドフェローなどを高級で雇っている。AI研究をオープンにすることは、ありうる危険性を防止するためだという。

しかし例えば核兵器研究をオープンにすることは、危険なテロリストが容易に核兵器を作るための助けにもなる。核兵器の場合は、実際に作るには大掛かりな装置が必要だが、AIの場合はコンピュータと頭脳だけだから、原理的には誰でも作ることができる。もっともテロリストが先端的なAI研究をやすやす理解できるほどの頭脳を持っているかどうかは疑問だ。でも北朝鮮なら、その気になればできるはずだ。北朝鮮の指導者はそれに気づかず、核兵器開発に専念しているが。今や核兵器より、強力なAIは強力な武器に転化し得る。

火星移住計画

さてイーロン・マスクの火星移住計画について述べる。SpaceX社は2018年2月6日にフロリダ州のケープ・カナベラルからファルコン・ヘビーロケットの打ち上げに成功した。これは実際に火星に行くというよりは、テスト目的のもので、搭載されているのはテスラ・ロードスターというスポーツカーである。火星へ向かう軌道に乗り、半永久的に太陽の周りを回る。

今後の計画としては当面2022年に2機を火星に着陸させる。2024年にさらに2機を着陸させる。その目的は帰還用の燃料になる材料を探すことである。ファルコンロケットの燃料はメタンと酸化剤の酸素なので二酸化炭素と水があればよい。火星の大気の主成分は二酸化炭素であるから、問題は水だ。火星に水があるかどうかは、科学上の大きな問題である。火星の地形の研究から、過去には水があったことは確かだ。河川跡とか洪水跡が残されているからだ。問題は現在も水があるかどうかだ。あるとすれば地下か、極地方であろう。水があることが確認されれば、火星に大規模な基地を作る計画が立てられている。最終的には火星を地球の植民地にすることが目的だ。

民間で宇宙計画を実行しているのは、実はイーロン・マスクだけではない。アマゾンの創業者のジェフ・ベゾスによるブルー・オリジン計画がある。ベゾスは2020年代の半ばまでに月に再び人を送り込むとしている。月の植民地化が目的ではなく、本当の目的は小惑星の探査と探鉱である。鉱山を宇宙に求めるという壮大な計画を描いている。ベゾスはNASAなどの公的機関と連携するとしているが、公的機関がもたもたするようだと、自分だけでやるという。

これまでは宇宙計画は国家的機関が担ってきた。それは米国、ロシア、中国、日本、ヨーロッパ、どこでもそうである。しかし最近、民間主導の宇宙計画が増えている。例えば英国のヴァージングループ会長のリチャード・ブランソンが作ったヴァージン・ギャラクティカも有名だ。民営化すると国家機関が主導するよりロケットの打ち上げコストなどが激減する。経済性を重視するからだ。火星移住計画などという大それた夢の計画を、個人が打ち上げることのできる米国のダイナミズムがすごい。

天才が世界を変える

人間一人の力は小さい。それが大きな力になるのは人間の協力である。協力を成し遂げるには人間の組織化が必要である。そのためには夢とリーダーシップとカリスマを持った人物が必要である。これが天才である。歴史的にはアレキサンダー大王やチンギス・ハン、ナポレオンなどの軍事天才がそれである。近年ではアップルのスティーブ・ジョブスなどもそれである。常人から見れば想像もつかない夢とカリスマを持った人物だ。

残念ながら、日本ではそのような天才は出ない。でたら抹殺される。出る杭は打たれるという。たとえばホリエモンもその例だろう。ごく最近にもその例があった。それは平均化、平準化を望む国民的気質のためだ。吉田松陰は言った。夢なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、ゆえに夢なき者に成功なし。吉田松陰は安政の大獄で権力者に殺された。日本では天才が夢を実行すると殺されるのだ。

   
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