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米中スパコン競争と米中覇権闘争

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別項で中国の大手IT企業ファーウェイの副会長である孟晩舟が米国の要請によりカナダで逮捕された事件について述べ、これが米中の世界覇権闘争の始まりであると述べた。米中は現在、ハイテク分野において猛烈な競争を展開している。宇宙開発、ステルス戦闘機、空母などである。

その競争の一つにスーパーコンピュータ、いわゆるスパコン競争がある。ここ数年、中国がスパコン競争で世界一の座を守ってきたが、昨年になって米国が世界一の座を奪還した。実は日本も世界一になるチャンスがあったのだが、それを日本の権力機構がわざと潰したことは痛恨の極みである。

米中の覇権闘争、そのなかでのスパコン競争は私にはデジャブー感が強い。つまりすでに見たことのある光景である。1980年代の日米貿易摩擦のときの話である。当時の日本はそれこそ日の出の勢いで発展していた。土地や住宅価格が高騰し、日本の土地の価格だけで全米が買えるとか、21世紀は日本の世紀であるとか言われて浮かれていた。アメリカ人の書いた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本がベストセラーになった。

当時、スーパーコンピュータを駆使して宇宙物理学の数値シミュレーションをしていた私も、その夢に酔いしれていた。スーパーコンピュータは米国のセイモア・クレイ博士が発明したのだが、1980年代半ばの日本は富士通、日立、NECの三社がクレイ社製スーパーコンピュータをしのぐスーパーコンピュータの開発に成功し、クレイ社製スパコンより高性能で低価格であり、日本の大学など研究機関はこぞって導入した。

一番すごい話は、私の友人であった宇宙科学研究所の桑原邦夫助教授が私費で自宅にスパコンを導入して研究所を作ったことである。桑原さんによれば、政府調達でスパコンを導入するのは面倒な手続きがあり、それなら自分で導入したほうがましだというわけだ、最盛期には自宅になんと6台ものスパコンを設置した。そして私や外国の友人にスパコンをただで使わせてくれた。

こんなことができたのも、桑原さんは先祖の残した土地があり、それを担保に銀行からスパコン導入資金を借りられたからである。実際、一貧乏人に過ぎない京都大学の助教授の私のところにも銀行員が訪れて、金を借りないかといってきたくらいだ。

桑原さんは大阪のある不動産会社の社長を口説いて、社屋のガレージをスパコン室に改造し、会議室を端末室に改造した。そして私と学生にスパコンをタダで使わせてくれたのである。夢のような話だ。計算機使用料は取られなかったが、記録だけは残り、我々の使用料金は1億円であった。

桑原さんは私と同年代だが、残念なことに早くになくなられた。その追悼記念国際会議で、米国の研究者が言うには、桑原さんの研究所のスパコンの総合能力は当時世界一であり、米国のロス・アラモス、ローレンス・リバモアなどの国家的スパコンセンターを圧倒していたという。東急目黒線の西小山の駅を降りたごたごたしたところに桑原さんの世界一のスパコンセンターはあったのだ。それがバブルである。

それがどうなったか?バブルがはじけて、全てがパーになった。後から考えると当時の我々は夢を見ていたのだ。

現在の米中の技術覇権闘争を見ていると、1980年代の日米摩擦を思い出す。当時の日本の勃興にあせった米国支配層は日本に猛烈な攻撃をしかけた。スパコンに関して言えば、日本政府が日本の技術に保護を与えているのはけしからん、また日本の会社が大学に対してスパコンの値段を非常にやすくしているのはけしからんと猛烈な圧力をかけた。日本は中国と違い米国の属国みたいなものだから、ご主人の命令に逆らうことはできない。結局、一部の大学にクレイ社製のスパコンを導入した。

戦闘機開発に関して、日本は独自の戦闘機を開発しようとした。それに対して米国議会は猛烈な圧力をかけて、F16戦闘機を使え、しかし技術移転はしないという難題を押し付けた。それでできたのが、外見がF16そっくりのF2戦闘機である。映画「シンゴジラ」に登場したあれだ。

またコンピュータの基本ソフトであるOSに関しても、日本独自のトロンという有力なOSがあったが、それにも圧力をかけてマイクロソフトのOSを使えといって、トロンの芽を潰した。

またIBMのコンピュータの基本ソフトを日本の会社が盗んだとして、日立の社員を逮捕した。これなどファーウェイのCFO逮捕と重なる。そのほか、米国では東芝のラジカセを叩き壊すとか、自動車を壊すとか散々嫌がらせをした。

現在の米中摩擦を見ると当時とそっくりである。それもそのはず、当時の日本を叩き潰したメンツが現在も指揮を執っているのである。ただ当時の日米摩擦と現在の米中摩擦の差は、日本は米国のいわば属国で米国の意思には逆らえなかったが、中国は違うということだ。人口で見ても日本は米国の1/3程度だが、中国は米国の3倍以上もある。GDPでみても購買力平価で見ると中国はすでに米国を越えている。軍事力でも中国は米国を圧倒するとまでは行かないが、相当よい線を行っている。そもそも日本は米国と軍事対決するという線ははなからない。

まとめ

トランプ大統領はその時々でスタンドプレイをするので良くわからないが、現在の米国の支配層、特に議会は中国の覇権を阻止することで意見が一致している。そのことは2010年ころから、米国の支配層の一部で考えられてきたが、オバマ政権はそれを抑えてきた。ウオールストリートに代表される資本家は自分の金儲けだけに関心があるので、中国との紛争を望んでいない。別に平和主義者でもなんでもなく、貪欲なだけだ。軍部と軍事産業は低強度の紛争が常にあることを望んでいる。軍の存在意義確認と軍需産業の金儲けのためだ。しかし中国との紛争が低強度であり続けるかどうかは疑問だ。米国のマスメディアも最近は中国脅威論が盛んになってきたようだ。今後ますますきな臭くなるであろう。ここ5-10年で戦争にならないか心配だ。米国の支配層も多分、本当の熱い戦争は望んでおらず、中国がソ連のように自己崩壊するのを期待しているであろう。でもそううまくことが運ぶだろうか。

   
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