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アニメ『電脳コイル』

詳細

このアニメは今から10年以上も前の2007年にNHK教育テレビで放映された全26回のSFアニメである。主人公は小学6年生であるのでお子様向けアニメであるが内容はけっこう濃く、大人でも十分に楽しめる。というか小学生には難しいかもしれないし、大人でも話の展開についていくのはそれほど簡単ではない。このアニメはたくさんの賞を受賞している評価の高い作品である。

私がなぜこのアニメを取り上げたかと言うと、近未来のユビキタス・コンピューター社会、つまり生活にコンピュータとネットが浸透した社会を描いているからである。スマホの次は電脳メガネだと私は思うのでこのアニメは近未来のありえる世界を描いていると思う。もう一つの理由はアマゾンプライムで、無料で見られるようになったからだ。

設定は2026年ころの地方都市である。その時代は電脳メガネとよばれるメガネ型のウエアラブルコンピュータが普及している。そのメガネをかけると、現実には存在しないペットや道具や電脳空間が見える。インターネットや電話も電脳メガネを用いる。いわば現在のスマホがメガネになったものだと思えばよい。仮想空間に現れる生物の例としては、現状ではポケモンがそれに近いが、電脳コイルに登場する電脳ペットや生物は、はるかに高機能である。

話の筋を紹介する。主人公は小学6年生の女の子たちである。小此木優子という小学6年生が金沢市から近くの大黒市に引っ越してきて大黒市第三小学校に転入する。同じときに天沢勇子という女の子もやはり金沢から転入してくる。どちらも名前が「ゆうこ」なので漢字を訓読みして「やさこ」と「いさこ」と呼ばれる。「やさこ」は心の優しいおとなしい子で、デンスケという犬型の電脳ペットを飼っている。

「やさこ」はコンピュータに強い文恵(フミエ)と友達になる。フミエは電脳探偵局の局員である。「やさこ」は「いさこ」に友達になろうと誘うがきつく断られる。いさこはコンピュータ・ハッカーであり、電脳メガネとコンピュータに非常な能力を持っている。

その他の登場人物は多いが、「やさこ」の祖母の「メガばあ」は電脳駄菓子屋を営んでいて、さまざまな電脳グッズを商っているおもしろいキャラクターだ。

登場人物というか、大黒市空間管理室のサッチーという違法電脳体駆除ソフトが面白い。ウイルスソフトなのであるが電脳メガネを通してみると高さ3メートル程度の巨大な「だるまさん」の様なかたちで「僕サッチー、よろしくね」といいながら迫ってくる。子供たちはサッチーから逃げるために、大黒市にたくさんある神社に飛び込む。サッチーは神社、学校、民家には入れないのだ。管轄外だからだ。私は「電脳コイル」を見始めた当初は「僕サッチー、よろしくね」という言葉が頭にこびりついて、つい言ってしまったりした。

舞台になった大黒市のモデルはどこかが話題になった。アニメでは金沢市のみが実名で登場する。その近くのメガネで有名な福井県鯖江市ではないかとする説がある。もっとも作者は鎌倉と八王子を平均したような街だと言うが、どちらも金沢からは遠い。背景に山があるし市内に神社が多く、また畑もあることから金沢に近い地方都市と見てよいだろう。

話は後半に近づくにつれ結構深刻になっていく。ネタばれになるのだが、結末を言ってしまうと「いさこ」の亡くなった兄に対する思慕、その兄に幼いときに恋した「やさこ」に対する「いさこ」の嫉妬がポイントである。小学生対象のアニメといいながら、兄と妹、兄の女友達の愛情の三角関係を描いたけっこうシリアスな作品である。

スマホ後の世界について語りたい。「電脳コイル」が放映されたのは2007年である。ちょうど同じ年にアップルからスマートフォンであるiPhoneが発売された。「電脳コイル」を構想したのは2007年以前であろうから、まだスマホという概念はなかった。その意味で「電脳コイル」はパソコン時代からスマホを飛ばして、一気に電脳メガネ時代に突入しているのである。

私は、iPhoneは革命であるし、それを開発したスティーブ・ジョブスは天才であると評価している。現在の世界中の多くの人がスマホを使っているし、私も含めてスマホ中毒になっている人も多い。空いた電車に乗ると、向かいに座る乗客のほとんどがスマホを見ている。これほど世界の人間の行動様式を変えた発明も少ないであろう。

私はiPhoneの3代目である3GSから使っている。現在使っているのは最新のXRである。しかし次期機種の更新は、4年は待とうと思っている。もはやスマホの技術はほとんど成熟した。最新のXsやXRの売れ行きは芳しくないという。旧機種のiPhone7, 8で十分という声もある。実際私は4年前の6sも持っているし、使ってもいる。機能的にはそれで十分な気がする。

私はiPadのようなタブレット形コンピュータとiPhoneのようなスマホは人間の知的能力を大きく前進させたと思う。実際のところ科学者、研究者としての私はインターネットとスマホ、タブレットの恩恵を大きくこうむっている。私は毎日、人工知能の高度な理論の勉強をしているが、ネットとタブレット、スマホを使えば必要な教科書、論文、解説が即座に手に入る。1970年代の時の私は必要な文献を求めて東京の国会図書館にまで行き、それでも手に入らなかった思い出がある。現在ではなんと分厚い教科書が無料でネットから手に入るのである。今日もあるテーマに関しての論文、解説、教科書を10篇ほどダウンロードした。読む時間があるかどうかが問題だ。20世紀は情報不足の時代、21世紀は情報過多の時代である。

スマホは技術的にすでに成熟した。その先は何か?私は電脳メガネだと思っている。具体的な製品としては2つの方向性がある。

透明で外部世界が見えるマイクロソフトのホロレンズのような電脳メガネと、外界が見えないフェイスブックのOculus Riftに代表される没入形ディスプレイである。没入形のほうがより現実的な仮想環境を提供できるけれども、それは例えば映画を見るとかゲームをするといった、動かない座ったままの環境でのみ使用できるので、用途は限られる。歩きながら、電車に乗って使えるものではない。

一方、ホロレンズのような透明タイプは外部世界と仮想世界が重なって見えるタイプで、まさにアニメの「電脳コイル」に登場した電脳メガネである。ただし現状のホロレンズはまだ解像度が粗く、また視野角も狭い。ソフトも充実していない。まだまだ発展途上の技術だ。しかし「電脳コイル」の舞台設定になった2026年までには、十分に技術的に成熟するのではないだろうか。必要なことは、2K-4K程度の解像度と180度近い視野角で、かつ現在のメガネ同様にかさばらない事だ。

私の希望は寝ながらに本や論文を読めるような装置である。スマホは字が小さすぎるしタブレットは重い。投影型ディスプレイはたいそうだし、設置場所が限定される。やはり透明の電脳メガネ型でインターネット接続したものが望ましい。さらにその先は、コンタクトレンズタイプとか、さらに先は直接に脳と接続するタイプになるだろうが、まだ10年以上先のことだと思う。

まとめ

2007年NHK教育テレビで放映されたアニメ「電脳コイル」は小学生が主人公であるが、大人が見ても楽しめる作品である。それは2026年ころのありえる社会を描いている。技術的にはインターネットに接続した電脳メガネであるが、スマホの先の技術として非常に有望である。 

   
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