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映画『ルーシー』

詳細

映画『ルーシー』は『レオン』や『ニキータ』などクールなヒロイン像を描いてきたリュック・ベッソン監督の2014年のフランスSFアクションスリラーである。

体内に埋め込まれた特殊な薬が漏れたことで脳機能が驚異的に覚醒し、人間離れした能力を発揮し始めるヒロイン・ルーシー(スカーレット・ヨハンソン)の暴走を描いている。通常は10パーセント程度しか機能していない脳が、100パーセントへ向かって覚醒していくヒロインを見守る脳科学者役は、オスカー俳優モーガン・フリーマンが演じている。ルーシーはさまざまな能力が超人的に目覚める一方、少しずつ人間性が喪失し、自らを制御できなくなっていくというのがだいたいの粗筋だ。

この作品をテーマに選んだ理由は?

私は近い将来、シンギュラリティが訪れると思っている。人間よりはるかに高知能の存在、つまり超知能が出現して、科学技術が爆発的に発展して、人類社会が大きく変化するというシナリオだ。

ところで、その超知能のありえる姿として私は二つのシナリオを以前に述べた。1)コンピュータ上の人工知能が意識を持つという機械超知能、2)意識を持たない超知能と人間が密接に結びついて、人間がいわばサイボーグ化して知能増強を図り超人類になるというシナリオである。私は第1の道はありそうにないと思っている。 

さらに第3の道として、生物としての人間の能力、とくに知的能力を何らかの手段で増強して、人間自体が超人間になるというシナリオがある。映画「ルーシー」では、主人公の女子学生が、薬物の力で超人間になるという話である。その意味で、この映画は興味深い第三の道を示している。

映画の突っ込みどころ

この映画のストーリーの基本は、人間は頭脳の10%しか使っていないという説にある。しかしそれは俗説であり間違いであることが分かっている。実際、人間の頭脳の体積は全体の2%しかないのに、20%のエネルギーを使っている。脳が遊んでいるなどということはない。そのエネルギーは神経細胞であるニューロンの電位を維持するのに使われている。もっとも同時に活動しているのは脳の1-16%といわれている。つまり、脳は全体を使うが、同時に活動するのは一部だということだ。

さらに、たとえこの前提を受け入れたとしても、脳の活動が高まると、賢くなることはあったとしても、ルーシーのように超人的な肉体能力を獲得するなどありえない。またタイムトラベルするなど全くありえない。まあそこは主演のスカーレット・ヨハンソンの魅力に免じて許そう。彼女はハリウッド版の「ゴースト・イン・ザ・シェル」でも活躍している。

生身の人間の知能を増強するには、薬物を用いるとか、電流を流すことが考えられている。実際に電流を流すと認知能力が増強されることは知られている。とはいえ、それは例えば10%程度といったもので、ルーシーのように知的能力が強化されることはない。

もっと別の方法として、遺伝子に手を加え、知能の高い子供を生むという考えがある。いわゆるデザイナーベイビーである。人間の知能を規定するのは一つの遺伝子ではなく、たくさんの遺伝子が関係すると考えられている。もしそれらが分かれば、知能の高い子供を生むことができるかもしれない。そのような論文はあり、うわさでは中国の研究所で、世界中から知能の高い人の遺伝子を集めているという。

このようなデザイナーベイビーはナチスの計画を思い出させて、西欧世界では倫理的に見て実現不可能であろう。しかし中国ではそのような社会的、倫理的、宗教的制約はないので可能ではないかと、西欧の学者は恐れている。しかし知能の高いデザイナーベイビーを作ることができたとしても、成長するには20年はかかるので、変化の激しい現代には適した方法ではない。

生身の人間の超人間化は可能か?

薬物や電流により知能を少し増大させることはできるが、大きな効果はない。むしろ人間がコンピュータとマン・マシン・インターフェイスで結合して知能増強を図るほうが効果的である。肉体能力の強化も、義肢義足をつけるとか、パワードスーツを着るほうが手っ取り早い。つまりルーシーへの道はありそうにないし、効果的でもない。

   
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