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機械超知能と知能爆発

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シンギュラリティとは何かという言葉の定義に関して、かならずしも識者の意見の一致は見ていない。共通項は人工知能の発展によってなにかドデカイ変化が、近い将来世の中に起きるだろうということだ。問題はドデカイ変化とは何かということだ。

一番の問題は人間の地位というか立場である。一つの極端な立場は、人工知能が意識を持ち、人間を支配するといった見方だ。ハリウッド映画の「マトリックス」とか「ターミネーター」の世界である。

私は、そのような世界も完全には否定できないが、それは避けたいし避けるべきだと思う。やはり人間が何らかの意味で主人公でありたい。しかしその場合も、私の希望は、人間と機械が融合して、つまりサイボーグになることだ。そして人間の知的能力を拡張して超人間というか超人類になりたい。映画でいえば「攻殻機動隊」の世界だ。その意味では私の考える超人間は普通の人間と機械超知能の間にある。

機械超知能の知能爆発

それとは別に、機械超知能と人間は別の発展をとげるという説もある。今回は機械超知能の知能爆発の話をする。

知能爆発という概念は英国の数学者であるI. J. グッドが1960年代に唱えた説だ。人工知能が進歩して、自分でプログラムが書けるようになる未来を想像する。その人工知能は自分のプログラム(アルゴリズム)を改良して少し速く、賢くできたとする。するとその少し賢くなった人工知能はさらにもっと速い賢いプログラムを作るだろう。そうすると人工知能はもはや人間の助けを借りずに、どんどんと速く、賢くなっていくであろう。そしてその人工知能は指数関数的な進歩を遂げてシンギュラリティに突入する。それを知能爆発と呼ぶ。グッドはその種の最初のプログラムが、人間の作る最後の産物で、後の進化は全て人工知能が行うと考えた。これが知能爆発である。

プログラムを書くプログラム

では人工知能がプログラムを書けるのだろうか?私の大学の後輩で天才の村主君というひとがいた。彼は人工知能プログラムではないが、数値流体力学の計算プログラムを自動的に生成するシステムを作り上げた。方程式を与えてやると、彼のプログラムは数値計算プログラムを自動でコーディングして、さらに計算速度を上げるための最適化まで行うのである。このようにまだ完全自動ではないが、人間がちょっと押してやると後はコンピュータが勝手にプログラムを作って計算までするのである。残念なことに村主君は30台の半ばの若さで急逝した。くも膜下出血であった。日本にとって大きな損失であったとおもう。

「人間レベルAI 2018」

上記の国際会議が2018年にチェコのプラハで開催された。人間レベルAIとは、人間のように考える汎用人工知能である。その専門家が一堂に会したのである。日本からは人工知能に意識を植え付ける研究をしている株式会社アラヤの金井良太さんが参加した。

それらの講演が動画としてアップされているが、そのなかで私の関心を惹いたのはジャコモ・シュピグラーというイタリアの若い研究者の話だ。彼は「時間的シンギュラリティ:時間加速したシミュレーション文明とその意味」という講演をした。その話を聞いて、私と同じことを考えている人がいることを知ってうれしかった。

シュピグラーと時間的シンギュラリティ

宇宙文明は存在するはずなのに、なぜその証拠を発見できないかという「フェルミパラドックス」というのがある。それについてのシュピーゲルと私の解答は、進化した宇宙文明はシミュレーション世界に入り込み、宇宙に出てこないからというものである。

また私は以前に「AIとタイムマシン」という議論をした。そのタイムマシンは未来に行くのでもなく、過去に行くのでもない、現在を引き伸ばすのである。コンピュータのクロック速度は速いから、例えばコンピュータの外にいる人の1秒は、コンピュータ内部に住む知的生命体によっては1000万秒、つまり4ヶ月ほどに相当する。私はコンピュータ内に人間の意識が侵入できると仮定したが、シュピグラーはシミュレーション世界の中で意識をもつ機械人間が世界を作っていると考えた。つまりコンピュータ内に住む知的生命体である。彼らから見ると、外の世界の時間進行はきわめて遅い。

マーカス・ハッターと知能爆発

シュピグラーの論文を読むと、そのような考えは彼独自のものというよりは、オーストラリアの人工知能学者であるマーカス・ハッターによるものであることが分かった。彼はコンピュータの中では本当にシンギュラリティが起きるのだと論じている。

どういうことか?シンギュラリティという概念は、もともとは数学のもので、関数の値が無限大になるところだ。ところがシンギュラリティ概念をさかんに唱えているレイ・カーツワイルは指数関数的変化をさかんに強調して、進化が途方もなく速くなることをシンギュラリティと呼んでいる。しかし指数関数的変化では決して、なにかが無限大になるわけではない。

ハッターによれば、シミュレーション世界の住人とその文明を考えると、無限大になるという真の意味でのシンギュラリティは起きると言う。どういうことか?カーツワイルが良く出す例が、集積回路のムーアの法則である。この法則ではコンピュータチップの集積度は1年半で倍増する。計算を簡単にするために2年で倍増であるとしよう。すると4年で2倍の2倍、つまり4倍になる。6年で4倍の倍で8倍になる。8年で16倍になる。こうして2,4,8,16,32,64,128・・・と倍増していく。しかし決して無限大ではないとハッターは言う。

しかしコンピュータの中に意識がうまれて、その住人が文明を作ったとしよう。始めはアルゴリズムの性能が良くなくシミュレーション世界の1秒と外の世界の1秒は同じだとしよう。ところが2年たつとコンピュータの速度が倍になる。中の住人は時間が速くなったようには感じないで、むしろ外の世界が遅くなったように感じる。つまり中の世界の1年が外の2年になる。中の住人は研究を進めて、外の世界に速い進んだチップデザインを提供する。すると外の世界から見てもムーアの法則が加速しているように見える。つまり2年でコンピュータの速度が倍増していたのが、1年で倍増することになる。そのうちに半年、3ヶ月、1月半で倍増を始める。結局、カーツワイルの言うような指数関数的変化ではなく、指数関数の指数関数的変化になるとハッターは言う。この変化がそのまま続けば、あるときに本当に無限大になり、中の世界から見れば外の世界は止まってしまう。

全地球、全太陽系をコンピュータに

でも本当にそんなうまいことが起きるのだろうか。コンピュータのサイズが一定では限度がある。そこで中の住人は外の住人に対して、もっとコンピュータを作れ、その電力をまかなうためにもっと発電所をつくれという。そうしてくれれば、なんでもほしいものはやるというのだ。

そのまま進化が続くと、地球全体が一つの巨大なコンピュータになる。やがてそれでは間に合わなくなって、太陽系が全体で一つの大きなコンピュータになる。もはや火力発電も原子力発電も間に合わないので、太陽の全エネルギーを使うようになる。太陽をすっぽりと覆うダイソン球をつくる。これを遠くから観測すると、いままで可視光線で輝いていた星が急に暗くなり、赤外線で明るくなる。つまりハッターによれば、宇宙人と宇宙文明がシンギュラリティを起こせば、天文学的に観測可能だと言うのだ。

とてつもない壮大なSF的な話だ。

まとめ

もしコンピュータの中のシミュレーション世界で意識が生まれて、人間みたいなものができて、彼らの文明ができたとしよう。すると彼らの進化は我々から見ていくらでも速くなり、ある時点で無限大になる。ただしそうなるためには、全地球を一つのコンピュータに変える必要がある。最終的には全太陽系をコンピュータに変えて、太陽のエネルギーを全部使うようになる。むかし、ソ連のカルダシェフという学者が、全惑星のエネルギーを使う文明をタイプ1、母星の全エネルギーを使う文明をタイプ2と呼んだ。全銀河系のエネルギーを使う文明はタイプ3である。われわれはまだタイプ0である。

   
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