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マイクロバイオームと脳・腸相関

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今回もマイクロバイオームの話をする。マイクロバイオームとは人間と共生している細菌のことだ。とくに腸内細菌が重要だ。

前々回は私の持病である潰瘍性大腸炎は腸内細菌が原因であるという話をした。前回は肥満も腸内細菌によって決まるという話をした。今回は精神の健康も腸内細菌で決まるという話をしよう。それを脳腸相関という。

近年、糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病、喘息、多発性硬化症などの慢性疾患が増加している。その原因として腸内細菌の多様性の減少があげられる。これらの疾患の他に、自閉症、うつ病、パーキンソン病などの神経の病気も腸に原因があるらしいことが分かってきた。

脳には千億という膨大な数の神経細胞(ニューロン)がある。いっぽう腸は第二の脳と呼ばれている。どういうことかというと、腸をはじめとする消化器官には多数のニューロンがあるからだ。ここで少し、人間の神経の話をする。

人間の神経には中枢神経系と末梢神経系がある。中枢神経系とは脳と脊髄である。そこには千億近い神経細胞がある。中枢神経系の先端の脊髄からは、末梢神経が伸びている。末梢神経には脳からみて外に向かう方向の神経と脳に向かう神経がある。外に向かう神経の役割は筋肉を動かすことだ。意識的に筋肉を動かすための神経だ。脳に向かう神経は触覚や熱さ、痛みなどを伝える。

この末梢神経とは別系統に自律神経というものがある。これは無意識的に体をコントロールする神経だ。たとえば心臓を動かすとか、汗を出すために汗腺を操作するとか、唾液が出たりするのをコントロールもする。これらは意識ではコントロールできない。

自律神経は交感神経と副交感神経に分かれている。交感神経は興奮した時に働き、副交感神経は穏やかになった時に働くものである。例えば動物が敵に出会った時に戦うか逃げるかしなければならない。こんな時には交感神経が働く。交感神経とは興奮性の神経だ。

一方副交感神経は穏やかにする神経だ。主として消化器官を司っている。リラックスしている時とか、寝ているときは副交感神経が働き、食物を消化する。戦うか逃げるかしなければならない緊急時には、そのことにエネルギーを集中しなければならない。のんびりと消化などしている場合ではない。つまり興奮した時は交感神経が働き、副交感神経は抑えられる。リラックスしているときはその逆だ。

交感神経は脊髄から出ているが、副交感神経の一部は直接脳から出ている。厳密には脳幹と呼ばれる部分である。そこから出ている迷走神経というものが、胃とか腸などの消化器官を支配している。

まとめると腸は迷走神経という副交感神経を通して脳とつながっているのである。迷走神経は脳と腸をつなぐ神経だ。腸で起きた出来ごとは迷走神経、脳幹を通して大脳に伝えられる。つまり腸と脳は密接につながっている。これが脳腸相関の一つの経路である。

もう一つの経路がある。それはドーパミンやセロトニンという神経伝達物質の大部分が腸で生産されることと関係がある。

神経伝達物質とは何か。それは神経細胞(ニューロン)の間をつなぐ働きをする化学物質である。ニューロンからは軸索が伸びていて、その先端には多数のシナプスがある。それらは別のニューロンの樹状突起にあるシナプスと向き合っている。それらの間で信号のやり取りをするのが神経伝達物質だ。ともかく神経伝達物質とは、神経細胞間の情報を伝える化学物質のことである。それが多すぎたり不足したりすると、精神の疾患になったりする。

神経伝達物質にはいろんな種類があるが、そのなかでドーパミンとセロトニンというものがある。ドーパミンは喜び物質ともよばれて、これが出ると快感を感じる。またセロトニンが出ると眠くなったり、リラックスしたりする。神経伝達物質は、普通は脳で生産されるのだが、実は腸でも生産されている。しかもドーパミンとセロトニンは大部分が腸で生産されている。

腸内細菌のバランスが崩れると、気分が滅入り、自閉症、うつ病などの精神疾患が現れる。逆に腸内細菌のバランスを整えてやれば、自閉症やうつ病を治せるかもしれないのだ。これらの研究は始まったばかりだから、まだはっきりとしたメカニズムは分かっていない。

しかし将来、これらの精神疾患を起こす腸内細菌がわかれば、それを殺すか、あるいは抑えるための善玉菌を移植すれば良いかもしれない。糞便移植である。大いに期待が持てる分野である。

まとめると脳と腸は密接な関係がある。これを脳腸相関とよぶ。その経路としては腸から脳に向かう迷走神経を経由する道と、腸内細菌が生成するドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質によるものがある。

   
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