新型コロナでアジアの死者が少ないこととBCG予防接種仮説
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- 2020年7月13日(月曜)23:49に公開
- 作者: 松田卓也
毎回、新型コロナの話題でうっとうしいが、少し明るい話をしよう。日本はどういうわけか欧米に比べると、新型コロナの被害が少ない。というよりは感染速度が遅い。その理由は結核予防のためのBCG予防接種を多くの日本人が受けていたからではないかという話である。それは日本にかぎらずアジア全体もそうである。
日本で感染が最初に発見されたケースは、1月6日に中国の武漢から帰国した男性だ。つまり非常に初期の段階から日本には新型コロナウイルスが入り込んでいたのだ。中国の武漢で奇妙な肺炎が発見されたのが12月初めであり、中国からの海外旅行客が規制されたのは1月末である。それまでの12月、1月にたくさんの中国人観光客が日本、韓国、米国、ヨーロッパに行った。その時にウイルスをばらまいたであろう。
クルーズ船のダイヤモンド・プリンセス号で2月5日に10人が感染していることが分かり、日本政府はダイヤモンド・プリンセス号を横浜港に寄港させることを認めた。私は米英のテレビ番組をその当時からYouTubeでモニターしていたが、彼らは高みの見物で、日本政府の対応を批判的に報道していた。まるで他人事のようで、ただ自国の乗客のことだけを心配していた。それが一転、自分たちの国に災いが降りかかろうとは、その時は夢にも思っていなかったのだ。新型コロナは中国と日本と韓国、つまり東アジアの問題で自分たちは関係ないと思っていた。実際、イタリアの財務相は会議で麻生副首相にそう言ったという。
ところがその甘い考えは大きく外れた。まずはイタリアで感染爆発が起こり、それがヨーロッパ中に広がり、つぎに米国に広がった。私は毎日、ジョンズ・ホプキンス大学のサイトで総感染数や総死者数およびそれらの増加数をモニターしている。その数字の増加は恐るべきもので毎日暗い気持ちになる。
ところが奇妙なことに、日本の感染者数、死者数の増加は他国と比べると極めてゆるいのだ。総感染者数で最初は、日本は中国についで2位、韓国が感染爆発してからは3位の位置を占めていたのだが、時間の経過とともに、どんどんその順位が落ちていった。総感染者数で議論することは実はあまり意味がない。人口が多ければ感染者数が多いのも不思議ではないからだ。そこで人口百万人あたりの感染者数、死者数というデータも先のサイトには記録されているが、それで見ても日本は極めて感染者と死者の比率が低いことがわかる。それは日本にとっては良いことなのだが、理由がわからない。
欧米と韓国の当時の論調は、日本は検査数が少ないから感染者数が低いのだ、本当はもっと感染者数は多いはずだといったものだった。意図的に隠蔽しているのでないかという韓国の要人の発言もあった。確かに一理はあるのだが、しかし死者数も低いのだ。死者数は隠すことが難しい。重症の肺炎を起こして亡くなれば、当然、新型コロナを疑うだろう。
英国の新聞のファイナンシャル・タイムスは感染者、死者のグラフを出している。横軸に100人目の感染者が出てからの日にちをとる。縦軸は総感染者数の対数をとる。すると中国と韓国の初期、欧米諸国、イランはきれいにある傾きの線の上に乗る。ところが日本はその線に乗らない。直線の傾きが非常に緩やかなのだ。日本より緩やかなのは香港とシンガポールである。
この片対数グラフの傾きは、重要な意味を持つ。この線が直線ということは、感染者数の増加が指数関数的であるということだ。つまり感染が爆発的に増えるということを意味している。その線の傾きは感染爆発の激しさを表している。日本の直線の傾きが他の国々の1/3くらいと小さいのは、日本で感染が広がる速さが遅いということだ。もっともいくら遅くても、そのまま行けば最終的には、大きな感染者数と死者数になる可能性はある。しかしその増加速度が遅いということは、対策に十分な時間的余裕をもてるということで、極めて有利なのだ。
日本における新型コロナの感染者数の増加の速さが、欧米、中国、韓国に比べて非常に遅いことは謎である。検査数が少ないということは多分、理由にならない。直線の上下の位置は変化しても、傾きは変わらないのだ。
直線の傾きが小さいことに関して、日本国内の論調は日本の特殊性、例えば挨拶はお辞儀であり欧米のような握手やハグをしない、比較的手をよく洗う習慣がある、家の中では靴を脱ぐ、花粉のせいでマスクをする人が多い、シャワートイレが普及している、などの理由が挙げられた。日本には一種の清潔信仰がある。それが今回は良い方向に働いているというわけだ。先のファイナンシャル・タイムスは、日本の感染者数の少なさの理由として、初めは検査数が足りないとしていたが、つぎに老人の隔離をしているという見当違いの理由づけをし、最後には日本国民はお上に従順に従うからだと書いていた。どの理由づけも上から目線であり、真剣にその理由を解明しようとする姿勢は見られない。
日本の感染速度増加が遅いと書いたが、人口あたりの死者数で見ると日本だけではなく、中国、韓国、台湾などの東アジアを始め、フィリピン、ベトナム、東南アジアも、米国と西欧に比べて圧倒的に低いのだ。中国と韓国は最初に感染爆発を起こしたので、当時は大騒動になったが結果的に見れば、死者数は非常に少ないのだ。だとすると日本だけの特殊事情をいってもはじまらない。アジアと欧米という区分けで考えなければならない。
ところがここに新説が現れた。結核予防のためのBCG予防接種のせいだろうという。これはオーストラリアに住むある日本人の方のブログでの主張で、それがあちこちで結構取り上げられたのだ。
世界地図の上にBCG予防接種を現在もしている国、過去にはしていたが現在はやめている国、過去にもしていなかった国を描いてみる。そうすると奇妙なことに気がつく。過去にもBCG予防接種をしなかったのは、イタリア、オランダ、ベルギー、米国、カナダだ。これらの国は新型コロナの被害が大きい。ポルトガル、ノルウエー、アイルランドを除くヨーロッパ諸国とオーストラリアはBCGをやめた。ポルトガルとスペインは隣国であるのに、スペインの被害が大きくポルトガルは少ない。これらをみると、BCGは新型コロナの予防する力があるようだ。
BCGといっても接種する菌にはいろんな種類がある。そのなかでも日本株とソ連株はより有効に見える。というのもドイツでは、旧東ドイツでソ連株のBCG予防接種がなされてきたが旧西ドイツにはそれはない。ドイツ内の新型コロナの感染度をみると旧西ドイツに多く東ドイツに少ない。ベルリンでも、旧西ベルリンに多く東ベルリンに少ない。これらの観察はBCGが新型コロナの予防に効くという証明にはならないが、傍証にはなるだろう。
そのことに気がついた各国は検証を始めた。オランダとオーストラリアでは医療関係者にBCG接種を始めた。ドイツでも検証を始めた。
医学的に言って、BCGは結核予防のワクチンなのだが、自然免疫を強化する働きがある。それが新型コロナに対する防壁になっているのではないか。だとすると米国とヨーロッパ、とくにイタリアで新型コロナが猛威を振るい、日本は比較的被害は少なかった理由がわかる。
それなら中国と韓国はどうなんだと聞かれるかもしれない。両国ともBCG予防接種は行なっている。しかし韓国で新型コロナが猛威を振るったのは、ある新興宗教団体の無謀な行動によるもので、いわば偶然の災害だと私は思う。中国も韓国も新型コロナの蔓延は抑えた。一方、欧米では新型コロナが猛威を振るっている。その差が過去のBCG予防接種のためだとしたら、日本は今後も比較的被害は少ないであろう。安心できる話だ。実際、この仮説を検証する研究論文がいくつか出ていて、肯定的な結果を得ている。
まとめ
新型コロナの予防には結核のためのワクチンであるBCGが効くかもしれないという話をした。それが日本で新型コロナの被害が少なかった理由かもしれない。だとすれば、今年の秋に再び襲ってくるかもしれない新型コロナの第二波も、それほど恐れる必要はないかもしれない。