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飛行機はなぜ飛ぶか分からないって本当?

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このテーマを取り上げることにした理由は、何人かの人からこのテーマに関しての私の記事を見たという通知をいただいたからである。実はこの話は今から5年も前の2014年の頃、日経ビジネスという雑誌の記者にインタビューを受けて、その記者が書いた記事なのである。当時、その記事は結構話題になったのであるが、それがなぜ今頃話題になっているのか分からなかった。調べてみると記事の人気ランキングみたいなものがあって、その一位になったので再掲されたからだそうだ。というわけで、自分もその記事を読み直して見た。またこのテーマはすでにこの「科学の散歩道」ど取り上げているのだ。

さて話というのはこうだ。現在たくさんの飛行機が飛んでいるが、実は飛行機がなぜ飛ぶのかは科学的には分かっていないのだという俗説があるが、それは本当ですか? と雑誌記者に聞かれたのだ。答えを言ってしまえば、もちろんそんなことはない。飛行機がなぜ飛ぶかは100年以上前からわかっている。飛行機が飛ぶのは翼に上向きの揚力が発生してそれで飛ぶのだ。

その揚力の大きさを表す公式をクッタ・ジューコフスキーの公式という。翼の揚力理論であるクッタ・ジューコフスキーの公式はクッタが1902年に、ジューコフスキーが1906年に独立に提案した。ライト兄弟の1903年の初飛行と前後して、翼の揚力理論は確立されている。もう116年も前の話だ。ライト兄弟はクッタ・ジューコフスキーの公式は知らなかったが、飛行機を作る前に徹底的に実験した。

それではクッタ・ジューコフスキーの公式とはどんなものか。簡単に言えば揚力は空気の密度かける飛行機の速度かける循環である。公式自体は簡単なのだが、この循環というのが曲者だ。この理解が難しい。その定義は翼を囲む閉曲線を描き、それに沿って流れの速度成分を積分したものである。といっても何のことかわからないだろう。数学的にこれ以上、追求するのはやめよう。

もっと単純に考えよう。飛行機の翼に揚力、つまり上むきの力が発生するのは、翼の下面の空気の圧力が高く、上面の圧力が低いからだ。だから空気は翼を上に押し上げるのだ。あるいは上に吸い上げるといってもよい。

じゃあ、なぜ翼の下面で空気の圧力が高く、上面では低いのか。それは翼の表面を流れる空気の速さが下面では遅く、上面では速いからだ。

空気のような流体では圧力と速度の2乗の1/2の和が一定になる。これをベルヌーイの定理と呼ぶ。それが正しいとすれば、翼の上面で空気の速さが速ければ圧力は下がり、翼の下面の圧力は逆にあがる。

つまりまとめると、翼の上面の空気の速さが下面よりも速ければ、上向きの揚力が発生するのだ。ここまで比較的簡単な話である。でも問題は解決したわけではない。なぜなら翼の上面では空気の速さが、下面での速さよりも速くなるのはなぜかということだ。ここに答えないと揚力を説明したことにはならない。

先にクッタ・ジューコフスキーの公式の話をした。揚力は循環に比例する。そこでは循環とは何かを詳しくは説明しなかった。

飛行機のはるか上流の流れは翼の影響がないので一様だろう。つまり同じ速度の平行な流れであろう。これを一様流と呼ぶ。一方、翼の周りの空気の流れは翼の存在のために一様流からずれている。この差が循環なのである。例えば紙の上に翼の断面図を描くとする。この翼は紙面の左に向かって飛んでいるとする。翼から見れば、紙面の左から右に空気が流れてくる。そして翼の前縁で空気の流れは上下に分かれる。上を流れる空気の流れが下のものよりも速いとすると、この翼には上向きに揚力が発生す。このことを時計方向周りの循環があるという。

色々ゴタゴタ言ったが、分かっていただけたであろうか? 分かりにくいと思う。要点は空気の流れは翼の上面では速く、下面では遅い、すると上面の圧力は小さくなり、下面の圧力は高くなり、その空気の圧力差が翼を上に持ち上げるのである。そのことを公式で書くとクッタ・ジューコフスキーの公式になる。翼の上面下面の速度の大きさを表現したのが循環だ。難しい。翼の揚力理論はそれほど簡単なものではない。

私がインタビューで強調したのは、翼の揚力に関して世間では大きな誤解が蔓延しているという点にある。その間違いは市井の市民だけではなく、なんと大学教授も間違いを犯している。さらに驚くべきことは、揚力理論の専門家であるはずの、某有名大学の二人の航空工学の教授自身が間違いを犯している。「飛行機はなぜ飛ぶのか」と言う解説本がある。それが間違っているのである。私は飛行機がなぜ飛ぶかという揚力理論の解説自身より、なぜ航空工学の専門家である大学教授がそれを理解していないのという、この驚くべき事実に驚くのである。

大きく分けて2種類の間違った説がある。この間違い説はNASAのホームページに懇切丁寧に説明してある。間違いの一つ目は等時間通過説とか同着説と呼ぶものだ。この間違いが最も多い。先の航空工学の二人の専門家の解説書もこの間違いを犯している。

同着説とはどんなものか。今、飛行機に乗って考えてみよう。前方からやってきた空気は翼の前縁に当たると一部は翼の上を流れ、他の部分は下を流れる。そして翼の後ろの縁で出会い、そして後ろに流れ去って行く。さてその時、前縁で上下に分かれた空気の塊は、後ろの縁に「同時」につくと考えるのが同着説だ。

飛行機の翼は、普通は上面が上に凸に膨らんでいる。これをキャンバーという。実際の翼の断面を見ると、上面を通って後ろの縁に行く距離が、下を通って行く距離より長い。だとすると、前縁で別れた二つの空気が後ろで「同時」に出会うには、上を通る方が速く走らなければならない。だからあとはベルヌーイの公式を使えば、翼の上面の圧力が下面より低くなることが説明できるというわけだ。

細かい説明は良いとして、同着説の要点は翼の前縁で別れた空気が同時に後端で出会うということである。本当にそうだろうか? 空気の流れを目で見えるようにして風洞実験をしてみると、そんなことはないことがはっきりわかる。上を通る空気が先に後端に達するのだ。コンピュータシミュレーションをしてもわかる。

それにもし同着説が出しいとすれば、飛行機は背面飛行できないことになるが、そんなことはない。また厚みのない平板の翼は、上面と下面の距離が等しいので、同着説では飛行機は飛ばないことになるが、そんなことはない。紙の飛行機を作って飛ばせて見れば明らかだ。

今回の話の要点は飛行機の揚力に関して間違った解説が横行しているということだ。ある調査では一般書の解説の7割程度は間違っているという。私の記事が出た後、ある読者が「松田は間違っている、なぜならMITの著名な教授の本にそう書いてあったからだ」と書いてきた。調べて見ると、その教授は著名な科学解説家である。彼の書いたものを詳細に見ると、完全に間違っている。つまり大学教授といえども、物事の本質を理解していない、分かっていないことがあるということだ。それでも教授としてやっていけるのだから不思議なものだ。 

   
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