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食べて病気を治す

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今回は米国の医学研究者で解説家でもあるウイリアム・リ博士というひとの書いた「食べて病気を治すEat to beat disease」という本についてである。リ博士という人は、中国系アメリカ人である。ハーバード大学とピッツバーク大学で医学を学び、医学研究に入り、現在はテレビ出演もする有名人である。

私がリ博士を知ったのは「食べてガンを飢えさせる」というTEDトークを聞いた時だ。TEDトークとは、聞くに値する話として世界の著名人が15分から20分程度の感動的な話をするという取り組みである。私はTEDトークをたくさん聞いた。どれもなかなか興味深く、価値が高い。ものによっては日本語字幕入りのものもある。

さてその中でリ博士の話に興味を持った私は、彼のYouTubeでもっと長い講演をたくさん聞いた。そしてついに刊行されたばかりの英語の著書Eat to beat diseaseのキンドル版を買って読んだ。その本の要点が今回の話だ。

その本の内容に入る前に、今述べた「食べてガンを飢えさせる」というTEDトークについて述べる。このトークは1100万回も視聴されたというモンスター級のトークだ。内容はガンの治療法についてである。現在、ガンの主要な治療法として手術の他は化学療法と放射線療法がある。リ博士は、もっと体に優しい治療法はないかと考えた。というのも彼の80歳を超えた母親がガンになり、なんとか治したいと考えたのだ。ここにガンの免疫療法というのがある。その詳細はともかくとして、母親は免疫療法を受けさせてガンは完治した。話のこの部分を聞いて聴衆は大きく拍手した。そんなすごい療法があるのなら素晴らしいと思ったからだろう。さらに90歳になる米国のカーター元大統領も、免疫療法でガンが完治した。これを聞くと、聴衆はますます期待感が煽られる。ところが・・・である。この治療法はめちゃくちゃ高いのだ。誰にでも受けられるものではない。さらに誰に対しても効果があるかというと、そうでもないという。腸内にある特定の腸内細菌を持っていれば効果があるし、なければ効果がないという。

リ博士はそもそもガンの治療法を考えるより、ガンにならないのが最も良いのではないかと考えた。ガンの原因は細胞の突然変異だ。その原因はいろいろある。太陽に当たっても、食べ物を食べても、極端に言えば息を吸っても細胞に突然変異は起きる。そうして人々は毎日のように微小なガンを発生させている。しかし人体の免疫機構がガン細胞の成長を阻害している。

実際、中年女性の乳房を調べると多くの微細なガン細胞が見つかる。中年男性であれば前立腺に多くの微小ガンが見つかる。老年になれば必ずガンを持っている。それでもこれらが微小であれば、問題はない。

ガンが成長するには栄養がいる。そのためには栄養をガン細胞に運ぶ血管が必要である。新しく血管ができる現象を血管新生とよぶ。これは普段は起きないが必要な機能だ。例えば怪我をして体の一部が損傷したら、そこを治すには新しく血管を作る必要がある。つまり血管新生は必要な機能である。しかしガン細胞が血管新生を始めるとガン細胞は急速に成長する。そしてさらに転移して新しいガン細胞を体のあちこちに作る。こうなったら手遅れである。

そこでリ博士が考えたのは、ガン細胞の血管新生を抑えられないかということだ。それも高価な薬を使うのではなく、普段の食事によってである。それが可能なら、人々は微小なガンを抱えながらも健康に過ごせる。

さて「食べて病気を治す」の本の内容に入ろう。要点は食べ物を薬とみなして、病気を予防する、あるいは治す方法についてである。これは日本では医食同源と呼ばれる概念だ。もとは中国から来た思想だ。中華料理に薬膳というのがある。米国では「薬としての食物Food as a medicine」として知られる概念だ。

先に血管新生を防いでガンの成長を抑えるという話をした。それも薬ではなく食べ物によって。しかし逆に血管新生を促進しなければならない場合もある。人体はこれらの微妙なバランスを取っている。そのバランスが破れたのが病気である。リ博士の思想は、食事によって体のバランスを保つというものだ。

病気を防ぐには血管新生を含めて5つの重要な要素があるという。「マイクロバイオーム」つまり腸内細菌はその一つだ。これについて私は以前に盛んに書いた。そのほかに「失われた細胞の再生」、「DNA保護」「免疫」があると彼はいう。

その詳細はどうでも良い。どんなものを食べたら良いのか、私はそれを知りたい。皆さんも細かい理屈はいい、何を食べたらいいのかだけ聞けばいいだろう。本では先の5つの要素に関して、それぞれ良い食品を挙げている。そのなかには重複するものも多いので、私は区別を無視して体に良い食品を列挙する。

まず基本的に野菜と果物である。肉類は必要最小限だ。野菜と果物は食物繊維のもとだ。とくにカラフルな野菜と果物が良い。カラーはポリフェノールという抗酸化作用のある分子を持つ印である。本の巻末に数百の食物のリストがあるが、米国の本なので日本に馴染みのないものもあり、それらは割愛する。ABC順に列挙されているのを日本語で言えばつぎのようになる。

りんごとその皮、タケノコ、ブルーベリー、マグロ、ブロッコリ、キャベツ、人参、カリフラワー、さくらんぼ、鶏肉、ブラックチョコレート、ナス、ぶどう、キウイ、マンゴー、オリーブ油、玉ねぎ、牡蠣、もも、グレープフルーツ、サニーレタス、ローズマリー、鮭、トマト、大豆、ほうれん草、いちご、スイカ、わさび・・・などである。

飲み物に関しては緑茶、ウーロン茶、コーヒー、紅茶、赤ワインとあるから、飲み物はなんでもいいわけだ。

リストが多すぎて覚えきれないだろう。リ博士はテレビ番組でとくに推奨すべき食品について語っていた。まず大豆である。彼は豆乳を挙げたが、日本人なら豆腐、納豆、味噌がある。発酵食品は良いというので納豆などは特に良いだろう。でもアメリカにはないのであげられていない。甘いお菓子類は全部ダメだが、唯一良いのがブラックチョコレートである。さらにトマト、マンゴーがある。そのほかいちご類、キウイ、キノコ類、牡蠣、オリーブ油などもあげられた。

リ博士は何を食べたら良いかというポジティブリストをあげたいという。逆にこれは食べるべきでないというネガティブリストもあるはずだ。それは個別にはあげられていないが、加工食品一般、とくに砂糖をたくさん含むケーキ、コーラ類がある。また油で揚げたものも避けるべきだ。ようするにジャンクフードと呼ばれるものだ。さらにあまり強調していないが、特殊なものを除く加工肉つまりハム、ソーセージ、ベーコン類があげられる。また牛肉と豚肉も推奨されていない。油に関しては、彼はエクストラバージンオリーブ油だけを推奨している。これらに関しては別の回で取り上げたい。要するに自然な食品を自分で料理して食べろということである。彼は著書で料理法とか料理器具についてもウンチクを語っている。

全体を読んで思ったのは、近代西欧医学というのは例えば抗生物質に代表されるように、人体を分析的に捉えて、病気を一挙に治すという方向性だが、東洋医学は人体を全体的なもの、つまりホリスティックなものとしてとらえて病気を治すという思想だ。リ博士は中国人であるので、東洋思想の影響が強いように思われる。つまり食物を薬と考えて、生活の中で病気を予防し、かつ治療していくのだ。もちろん彼は西洋医学者なので、西洋医学を否定するものではない。ただし悪化したガンを、食事で直すなどという悠長なことはできない。

   
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