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脳細胞は新しく生まれる

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今回の話はブラント・コートライト教授という心理学の専門家の書いた「ニューロン新生、食事とライフスタイル」という本の要点である。私はコートライト教授の本を読み、講演を聞いたのでそれをまとめる。

話の要点は歳をとってボケないためにはどうしたら良いかということだ。この手の話が続くのは、私は後期高齢者であり、現在の願いは長生きして最後はピンピンコロリと死ぬことである。歳をとると体と脳が老化する。どちらも問題なのだが、体の老化は本人が困ることであり、脳の老化は認知症やアルツハイマー症になるといったことであり家族など周りの人間が困るのである。今回は脳の老化を防ぐ方法について話す。

人間の脳は一千億個もの神経細胞からできている。神経細胞は脳細胞ともいう。英語ではニューロンという。従来、神経細胞の数は20歳台までは増えるが、それ以降は死ぬだけで、減少する一方だと言われていた。そうだとすると、人間は歳をとるとボケるだけで、それに対して手の打ちようが無いことになる。しかしここ10年ほどで分かってきたことは、歳をとっても神経細胞は新しく生まれるということだ。

なぜそれが分かったのか? 神経細胞は新しく生まれるといったが、脳全体なのか、あるいは脳の一部なのか。どうすれば神経細胞を増やすことができるのか、今回はそれについて述べる。

神経細胞が新しく生まれることを神経新生またはニューロン新生(ニューロジェネシス)というが、その実験的証拠が、ネズミで見つかった。何匹かのネズミを二つの群に分けて、それぞれを違った環境で育てる。一方の環境では、オリには回転する輪などいろいろな遊び道具があり、好奇心をそそるような環境であり、また仲間もいる。つまり刺激に満ちた環境である。また適切な食事を与える。もう一方は、遊び道具がなく仲間もいない、つまり刺激のない環境である。その二種類の環境で育てたネズミの脳をのちに解剖して調べたところ、刺激のある環境で育ったネズミの海馬で神経細胞が増えていることが分かった。どのくらい増えているかというと、なんと500%つまり5倍であるという。5倍とはおそるべき数字である。

ところで海馬とはなにか。海馬はタツノオトシゴのことである。脳の奥深くに一対のタツノオトシゴに似た形をした器官がある。これを脳科学では海馬(ヒポキャンパス)とよんでいる。海馬は大脳でも小脳でも無い別の器官だ。

海馬は何をするかというと、記憶に関係している。記憶にはいろんな種類があるが、短期記憶、長期記憶がある。短期記憶とはたとえば電話番号を一時的な覚えるようなものだ。人はいろんな経験をすると、その記憶はまず海馬に蓄えられる。そして必要な記憶は、寝ている間に大脳新皮質に移行して長期記憶になる。人間は生活する上でいろんな経験をするが、それを全部覚えておくことはできないし、覚えておく必要もない。例えば電話番号とか朝食のメニューを全て覚えておく必要はないわけだ。しかし勉強したことなどは、長期記憶に残したい。

海馬の細胞数が減ると短期記憶に障害が出る。今何をしたか、携帯電話や鍵をどこに置いたかを忘れるのは、海馬の問題である。アルツハイマー症などの認知症で真っ先にやられるのは、短期記憶である。人間がボケ始めるのは、まずは短期記憶からなのである。つまり海馬からやられていくのだ。論理的思考能力などは海馬ではなく大脳新皮質の働きであり、これが障害を受けるのはずっと後の事だ。分かっているのに名前が出てこないとか、「あれあれ」と言ったりするのは、海馬に問題があるのだ。これは多くの人が経験しているであろう。それは認知症の始まりなのだ。海馬の神経細胞の数が減って、海馬が萎縮し始めているのだ。計算能力や論理思考能力に問題がなくても安心はできない。海馬の萎縮は高齢者と言わず、40代などの若い時から始まっているのである。

それでは海馬の神経細胞を増やす正しい生活とは何か。コートライト教授はそれを食事、体、心、精神、魂に分けて説明する。今回はまず食事について述べよう。ボケないための食事法である。

以前デール・ブレデセン教授の「アルツハイマーの終焉」という本を紹介した。その本ではアルツハイマー病にならないための食事法、つまりボケないための食事法として、ゆるいビジタリアンつまり植物中心食を紹介した。コートライト教授によれば、ブレデセン教授の食事法は自分の主張する食事法の一部だという。つまり両者は矛盾しないのである。

コートライトの主張する食事法には、食べた方が良い食品やサプリメントがたくさん紹介されている。そのなかで主要な4つを紹介しよう。1)ブルーベリー、2)オメガ3脂肪酸、3)緑茶、4)ターメリックである。

まずブルーベリーであるが、これは健康な食事法の本を読むと必ず出てくる。ブルーベリーに限らずベリー類は、イチゴつまりストロベリーも含めて、全て良い。それはベリー類の色の成分であるポリフェノールが良いのだ。ただし、いかにベリー類が良いと言っても、日本では手に入りにくい。唯一手に入りやすいのはイチゴだが、これも安いものではない。しかし冷凍したブルーベリーとかイチゴは結構安く手に入る。私は冷凍物を食べている。

2番目のオメガ3脂肪酸であるが、これはすでに別に触れた。人間の脳の大部分は脂肪でできている。その中でもオメガ3脂肪酸は重要な役割を果たす。昔は、脂肪は良くないものとされ、できるだけ低脂肪の食事が良いとされていた。しかしそれは間違いで、脂肪には良い脂肪と悪い脂肪がある。良い脂肪の代表がオメガ3脂肪酸である。これは十分に摂る必要がある。ちなみに悪い脂肪の代表はトランス脂肪酸であり、それはマーガリンや加工食品に多く含まれている。アメリカではトランス脂肪酸は禁止されているが、日本では禁止されていないので注意が必要だ。

オメガ3脂肪酸を多く含む食品は背の青い魚とか寒流に住む魚である。サケ、イワシ、サバ、ニシンなどである。マグロにも多く含まれるが、マグロなどの大型の魚は水銀を含む可能性がある。水銀は脳にとって非常な毒性を持つので、マグロを食べ過ぎることは問題である。マグロは高く、イワシやサバは安いので、安い魚を食べるのは財布にも優しい。

緑茶が良いとされるのはカテキンを含むからである。他の本によれば緑茶だけでなく、ウーロン茶、紅茶、コーヒーなども良いとされている。しかしコートライトはこれらに含まれるポリフェノールは良いが、カフェインは良くないと主張する。ここがコートライトの主張の大きな問題点だ。つまりコーヒーはどちらかというと良くないという主張だが、それでは困る人が多いだろう。

次のターメリックだが、これはカレーに含まれるもので、カレーの黄色の元である。別の回にスパイスカレーを紹介したが、ターメリックを買ってきてカレーとか、その他のインド風料理をつくれば、ターメリックは簡単に摂取できる。

まとめると、人は歳をとっても適切な食事をすれば、海馬の神経細胞を増やすことができる、つまりボケ防止は可能だということだ。食事以外の要素は別に紹介する。

   
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