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腸とウツ、不安

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今回はウツとか不安といった感情は腸に大きく影響を受けているという話をする。結論を言えば、腸の調子を整えるだけで、心のウツ状態とか不安が軽減されるという話だ。つまり幸せになれるのである。

シェークスピアは「世の中には福も災いもない。ただ考え方でどうにもなるものだ」と言っている。もちろん世の中には福も災いもある。しかし災いであれ考えようによっては重かったり軽かったりする。よく言われる例だが、たとえばコップのジュースを半分飲んだ時に、楽天的な人なら、まだ半分残っていると思うが、悲観的な人ならもう半分しか残っていないと思うだろう。つまり同じ出来事でも、考え方次第でどうにもなるのだ。

我々はできれば楽天的でありたい。そうすれば幸せに過ごせる。楽天的か悲観的かは、生まれつきの性格だけで決まるのではなくて、腸の調子も影響するとしたらどうだろう。生まれつきの性格を直すのは難しいが、腸の調子を変えることは比較的簡単である。それで幸せになれるのならこんな楽なことはない。

なぜこの話題を取り上げるか。最近、米国に住んでいる昔の教え子から連絡があり、たいへん不幸な目にあっているという。私がその人に言ったことは、その不幸な事自体はどうしようもないが、それで今後どうするかを考えた時に、ポジティブに乗り切るか、あるいはポシャってしまうか、それは選択することができるということだ。まずは腸を整えて不安感を減らすことだと言った。私はその人の腸の調子を聞いた。そしたらひどい便秘であるという。そうなのだ。強い心理的ストレスは腸に悪影響を及ぼして、便秘になるのである。だから腸を整えて便秘を解消したら、それが脳によい影響を及ぼし、不安感やウツ症状が軽減するであろう。そうすれば今後の人生の方向性も変わってくるだろう。

このことは私自身の体験に基づいている。私は潰瘍性大腸炎という難病に長年悩まされていた。安倍元首相もかかっている病気だ。症状は大腸に潰瘍ができて下痢が続き下血するのである。そのまま行くと、大腸ガンに移行する可能性がある。私は最近、植物中心食に改め、イヌリンなど食物繊維を積極的に取ることにしている。そのため腸の調子が極めて良い。潰瘍性大腸炎の症状が劇的に改善している。

今から思い起こすと、潰瘍性大腸炎の症状が重かった時は、非常に無気力であった。仕事の能率も極めて低かった。また非常に不安に苛まれていた。今から思うと自分はウツ状態であったのだが、その原因が病気にあるとは最近まで思い至らなかった。つまり潰瘍性大腸炎とウツ症状に関連があるとは思わなかったのだ。しかし最近学んだことは、脳腸相関といって脳と腸は密接に関連しているということだ。

幸せも不幸も脳が感じる。脳の中でもとくに辺縁系という感情に関連した部分が感じる。辺縁系と腸は密接に関係している。これを脳腸相関とか脳腸軸という。腸の調子は腸に住み着く腸内細菌により大きく規定されている。人間と共生する微生物群をマイクロバイオームという。そこで脳腸マイクロバイオーム相関とも呼ばれている。

私は現在、腸の調子はとてもよい。そのせいで不安感やウツの症状は非常に減った。いろんなことに前向きに取り組めるようになり気力が充実している。私はこのブログを書くにあたり、いろんなテーマを徹底的に勉強している。たくさんの英語の本や論文を読み、YouTubeの動画を山のように見ている。それができるのは、気力があるからだ。昔の自分からは想像もできないほど、活力に溢れている。それは標語的に言えば「食物繊維のイヌリンのおかげ」である。

腸は第二の脳と言われている。どういうことか? 腸にはたくさんの神経細胞つまりニューロンがある。神経細胞は脳と脊髄にだけあるのではない。腸にもあるのだ。腸にあるたくさんの神経細胞を指して、第二の脳というのだ。第二の脳はどんな役割を果たしているかというと、たとえば腸を動かしたり、消化酵素を分泌したりする。腸の司令塔がこの第二の脳である。

体の運動には二種類あって随意運動と不随意運動がある。随意運動とはたとえば手や足の運動のように、意識して体を動かすことができる、そんな運動が随意運動だ。不随意運動とは心臓の動きとか、腸の動きとか、意識ではコントロールできない運動だ。

意識的に動かせる随意運動を支配するのは、第一の脳である。大脳を中心とした中枢神経系と、脊髄を通じてそれにつながる末梢神経系である。一方、不随意運動を支配するのは自律神経系という。心臓や腸をコントロールするのは自律神経系だ。自律神経系には交感神経と副交感神経がある。興奮した時に働く交感神経とリラックスした時に働く副交感神経だ。腸にとって重要なのは副交感神経の、そのなかでも迷走神経とよばれる部分である。

第二の脳である腸の神経と脳は迷走神経を通して交信している。その交信は双方向である。脳が腸などの消化器官に信号を送ることができる。例えばおいしい食物を見たときに、よだれが出るとか、腸が動き出すとか、消化酵素がではじめたりする。また不安や恐怖を脳が感じた時は、腸の運動を止めることもある。逆に第二の脳である腸神経は脳に信号を送っている。これが脳腸相関のひとつの道(パス)である。

脳と腸の関係は迷走神経を介してだけではなく、そのほかにも化学物質を経由した道もある。神経細胞間で信号を送るための神経伝達物質というものがある。有名なものとしてはドーパミンやセロトニン、アドレナリン、グルタミン酸、GABAなどである。ドーパミンは喜びホルモン、セロトニンは幸せホルモンなどのあだ名もある。神経伝脱物質は第一の脳で生産されるのだが、実は第二の脳である腸でも生産されている。しかもセロトニンなどは体内で生成される量の9割以上が腸で作られているのだ。

セロトニンは幸せホルモンというように、これが第一の脳で分泌されると不安感が減少する。またGABAという神経伝達物質は神経細胞の興奮を抑える。つまりこれらが多く出ると、不安やうつが軽減するのだ。そのセロトニンやGABAが腸で多く生産されている。腸で生産された神経伝達物質はそこで使われるので、第一の脳に行くわけではない。だから腸でセロトニンをたくさん生産したからといって、それでなぜ不安が軽減されるのかは謎である。つまり脳腸相関といって、脳と腸は密接に関係しているが、その詳細な機構はまだよくわかっていない。

しかし実験的事実はあるのだ。それはネズミで日本人が発見した。腸内細菌がいないマウスがいる。無菌マウスという。無菌マウスの性格は、たとえば探検好きとか大胆なのである。いっぽう別の無菌でないマウスを二種類用意する。大胆な外交的なマウスと、逆の臆病な内向的なマウスである。それらのマウスの腸内細菌を調べると明らかに異なっているのだ。

そこで大胆なマウスの糞便を無菌マウスに移植すると、無菌マウスは大胆なままだが、臆病なマウスの糞便を移植すると臆病になるのだ。つまりマウスの性格は腸内細菌で決まり、それを移植することにより、性格は移し変えることが可能なのだ。

これはあくまでマウスの実験であり、人間ではない。しかしマウスの性格が腸内細菌で決まるというなら、人間もそうではないだろうか。うつ傾向な人と、そうでない人を比較した最近の研究では、うつ傾向な人の腸にはある2種類の腸内細菌がいないという。つまりその腸内細菌が、人の性格を決めているのかもしれない。また別の研究では、ある特定のビフィズス菌や乳酸菌を摂取するとうつが改善したという研究もある。

これらの研究はまだ始まったばかりである。将来的には、抗うつ剤などの薬ではなく、ビフィズス菌や乳酸菌を飲むことで不安やうつが改善されるかもしれない。ともかく今、私たちにできることは、植物中心食に改めて、イヌリンをはじめとする食物繊維を積極的に摂取して、腸内環境を改善すれば、不安が減少し、気力が湧き、幸せになれるかもしれないということだ。 

   
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