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腸とニキビ

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前回は「腸と自閉症」、前々回は「腸とウツ・不安」について述べた。今回は腸とニキビの関係について述べる。

正直、私自身、ニキビの原因が腸にあるなんて最近まで知らなかった。ニキビはご存知のように、ふつうは思春期の男女の顔にできる吹き出物である。特に男性に多いが、女性の場合は美容上の悩みも多い。私も中学、高校の時はこれに悩まされた。当時は男性ホルモンの関係だと教えられた。ところが最近は先に述べたように腸内細菌が関係しているという。私は後期高齢者であるので、さすがにニキビは出ないので、あまり関心がなかった。

それでは今回、なぜこのテーマを取り上げるか。実は知り合いの女性が最近、急に大きなニキビができたと言っていた。その人は以前から便秘であったのだ。私は水溶性食物繊維のイヌリンを取ることを勧めた。それで便秘は解消したのだが、最近、とある事情でイヌリンをやめたら、急に大きなニキビができたという。そこで私はニキビと腸の関係を疑って文献を調べたら、たくさんの論文が出てきた。またYouTubeにもたくさん、この話題がアップされていた。そうなのだ。最近の学説ではニキビの原因は腸内細菌のバランスが悪くなること、つまりディスバイオシスにあるという。なんでもかんでも腸が原因なのだ。

私は最近、マイクロバイオームということを盛んに言っている。マイクロバイオームとは人間と共生する微生物のことである。いままでは特に腸に住む腸内細菌のことを議論してきた。腸内細菌は大きく分けて善玉菌と悪玉菌、それに日和見菌に分けられる。善玉菌の代表がビフィズス菌と乳酸菌である。酪酸生成菌もある。食物繊維をとると善玉菌がそれを分解して、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸をつくりだす。これらの酸は腸を弱酸性に保つ。弱酸性だと有害な菌は生息できないので体に良いのだ。

しかしマイクロバイオームがあるのは腸だけではない。皮膚もそうなのだ。皮膚には1㎠あたり100万個以上の皮膚常在菌という細菌がいる。皮膚常在菌も善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類できる。善玉菌は表皮ブドウ球菌というもので、皮膚表面や毛穴に住んでいて、皮膚を弱酸性に保つ。弱酸性である皮膚は病原菌に対抗する。それは腸内でも同じことだ。

日和見菌の代表がアクネ菌である。アクネとは英語でニキビのことである。つまりニキビはニキビ菌とでもいうべきアクネ菌が原因だと言われている。ところがこのアクネ菌はニキビのある人だけでなく、普通の人の皮膚にも普通にある日和見菌である。だからアクネ菌がいることだけではニキビは説明しきれない。なにかもっと別の原因があるだろう。

皮膚のどの部分にも皮膚常在菌はいる。細菌の種類は人によっても違うし、皮膚の場所によっても違う。皮膚の場所は3つに分類できる。乾いた部分、湿った部分、脂分の多い部分である。乾いた部分とは、手とか足の皮膚である。湿った部分とは脇の下とか陰部などである。脂肪の多い部分とは顔、頭、背中、そして一部の胴体である。ニキビの原因菌であるアクネ菌は脂肪の多い皮膚の部分に多い。だからニキビは主に顔にできるのだ。ニキビが圧倒的に顔に多いのは、そこでの皮脂の分泌が多いからだ。アクネ菌は年齢によっても変化する。子供では少なく、思春期から大人になると増えて、50歳を超えると減る。ニキビも子供や老人にはない。アクネ菌はプロピオン酸を作って肌を弱酸性に保ち、病原微生物から皮膚を守るという良い働きもしている。

アクネ菌がニキビの原因だとすると、それを治療するにはその菌を殺せば良いということで、抗生物質が用いられている。私自身、ニキビを治療するのに抗生物質を使うなど、今まで知らなかった。そこまでひどいニキビになったことはないからだ。ニキビの治療に抗生物質を使うことには問題がある。あまり使いすぎると耐性菌ができる。また皮膚に塗布する場合はいいが、口から飲むと腸内細菌を殺してディスバイオシス状態になる。このことを考えると抗生物質使用は慎重にすべきだろう。

ニキビの原因が腸だというが、証拠はあるのか。これに関してはさまざまな研究がある。健康だがニキビのある人とない人の腸内細菌を調べた研究がある。それによると、ニキビのある人の腸内細菌は多様性が少ない。これはディスバイオシスの兆候である。細菌の種類に関しても違う。腸内細菌の代表的なもの、ファーマキューティーズ属とバクテロイデス属の比が違うという研究もある。

それではどのようにして腸が皮膚にニキビを引き起こすのだろうか。それを理解するカギは、ニキビは要するに皮膚に起きた炎症であるという事実だ。

腸を原因としてさまざまな部分で慢性炎症が起きる。慢性炎症はいろんな病気の原因になる。例えば心臓疾患、脳卒中、喘息、糖尿病、炎症性腸疾患、アルツハイマー病、ウツや不安、自閉症などがある。慢性炎症が皮膚で起きたものがニキビだ。ニキビも慢性炎症による慢性疾患のひとつと考えると納得しやすい。

なぜ腸が原因で、身体中に慢性炎症が起きるのか。それはいわゆるリーキーガット現象によるらしい。リーキーガットとは小腸の壁にいわば小さな穴が空いて、そこから細菌やその生成物が体内に入り込み、血流に乗って体のいろんな部分に届く。体内に入った細菌や、その生成物は体にとっては異物である。異物は取り除かなければならない。異物を取り除くために体に自然に備わった防衛機構が免疫である。そこで体内に入り込んだ異物を排除するために免疫機構が働く。それが炎症である。微細な炎症が慢性的に続くことが慢性炎症だ。この慢性炎症が万病の元である。

リーキーガットになる原因は様々あるが、ひとつにはストレスがある。心理的なストレスはニキビの原因になる。また甘いものや加工食品を好むとか、食物繊維の不足した食事、いわゆる欧米風の食事もニキビを含むさまざまな慢性疾患の原因である。

ニキビを治す治療法としては、抗生物質を塗ったり紫外線を当てたりするといった、直接的に外部から治す方法と、内部から治す方法がある。内部から治す方法は、私がこれまでいろんな機会に述べてきたものだ。腸のディスバイオシスを解消するのだ。そのためには食物繊維を豊富に含む野菜を中心とした植物中心食にする。甘いものや加工食品を制限する。ニキビに関しては脂肪分の多いものを制限する。

内部から治す方法としてビフィズス菌や乳酸菌のような善玉菌を含む食物とかサプリメントをとる。これをプロバイオティックスとよぶ。そのような食物には納豆、漬物、キムチ、ザワークラウト、ヨーグルトなどがある。

ヨーグルトには少し注釈が必要だ。市販されているヨーグルトにはプレーンのものと、そうでないものがある。健康のためにはプレーンヨーグルトを選ぼう。そうでないものは砂糖などの甘味料が入っているからだ。値段を調べればわかるが、プレーンヨーグルトの方が断然安い。プレーンヨーグルトは甘くなく酸っぱいので好きでない人もいるだろう。その場合はオリゴ糖を入れるのが良い。オリゴ糖はプレバイオティックス、つまり善玉菌のエサだからだ。またニキビに関しては脂肪分の少ない無脂肪のヨーグルトの方が良いかもしれない。ヨーグルトのもう一つの問題点は、含まれる善玉菌つまり乳酸菌やビフィズス菌の種類が少なく、製品ごとに異なるのだ。どれが体に合うかは個人によって異なる。だからどのヨーグルトが良いかは、人によって違うのである。

プレバイオティックスといって腸内の善玉菌のエサになるものを食べる方法もある。善玉菌のエサとしては食物繊維とオリゴ糖がある。自然の食物繊維をとるには、それを豊富に含んだ野菜をたくさん食べればよい。もっと手っ取り早い方法は食物繊維のサプリメントを取ることだ。代表的なサプリメントとしてイヌリンがある。そのほか難消化性デキストリンというものもある。

まとめるとニキビも慢性炎症の表れの一つであり、その原因はストレスとか食物繊維不足である。ニキビを治す方法は他の慢性疾患を治す方法と共通している部分がある。ニキビを直せば、他の病気も治るであろう。ある皮膚科のお医者さんのブログを読むと、ニキビを治した女性が明るくなって結婚して、のちになって子供を連れてきたという。明るくなったのは、ニキビが、治り悩みがなくなったからであろうが、ディスバイオシスを解消するとウツ、不安も解消するのである。それが原因かもしれない。一挙両得だ。 

   
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