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セロトニンと幸福

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セロトニンとは幸せホルモンとも呼ばれている神経伝達物質である。神経伝達物質とはなにか? それは神経細胞の間で情報を伝達するのに必要な化学物質である。もう少し詳しくいうと、神経細胞同士は直接繋がっているのではなく、神経細胞の先についているシナプスというものから放出される神経伝達物質を介して情報を伝える。

ある神経細胞が興奮するとその内部の電位が上がって電気パルスを発生させる。これを発火という。その電気パルスは神経細胞の中心から出る軸索というケーブルを伝わって、隣とか遠くの神経細胞の近くに行く。そしてその神経細胞のシナプスから神経伝達物質が放出されて、もう一方の神経細胞のシナプスで受け取られて信号伝達が起きるのだ。

神経伝達物質には様々なものがある。今回取り上げるセロトニンの他にドーパミン、グルタミン酸、GABAなどいろいろあり、役割はそれぞれ違っている。このなかでセロトニンは幸せホルモンともよばれ、これが放出されると幸福感を感じる。逆にセロトニンが不足するとうつ状態になる。

シナプスから放出されたセロトニンは役割を果たすと、再びシナプスに取り込まれて、次の仕事の準備をする。うつ病はセロトニン不足なので、うつ病を治療する薬は、シナプスから放出されたセロトニンが、ふたたびシナプスに取り込まれるのを防いで、シナプスの間のセロトニンの濃度を高く保つ。細かいメカニズムはともかくとして、要するにセロトニンという神経伝達物質が多いと人は幸福感を感じて、不足するとうつ状態になるのである。

だから幸せになるには脳内のセロトニンを増やせば良い。脳内でのセロトニンが幸福には重要なのだ。脳ではセロトニンは脳幹とよばれる部分で生成されて、それが脳のいろんな部分に配達される。

セロトニンはどのようにして作られるか。セロトニンの原料はトリプトファンというアミノ酸である。アミノ酸とはタンパク質が分解したものだ。つまりタンパク質がセロトニンの原料なのだ。

脳内でトリプトファンは、ある酵素の作用を受けて5-HTPという物質に変わり、それがさらに5-HTつまりセロトニンに変わる。細かい話はどうでもよく、要するに脳内にセロトニンの原料であるトリプトファンを多く取り込めば、セロトニンが増えて幸福になれるのである。

トリプトファンは食物から取り入れられる。トリプトファンを多く含む食材には豆腐、納豆、味噌、しょうゆなどの大豆製品、チーズ、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品、コメなどの穀物がある。ようするにタンパク質だ。タンパク質は肉類にも多く含まれるのだが肉などの動物性蛋白からトリプトファンを取った場合は、血液から脳内にうまく運び込まれない。そのメカニズムについては後で解説する。

セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から合成される。アミノ酸はタンパク質を分解して得られる。だからセロトニンを増やそうと思えば、タンパク質をたくさん食べれば良い・・・と思うだろう。

ところがたくさんタンパク質をとって、血液中のトリプトファンの濃度を増やすと、脳内のトリプトファンも増えるかというと、逆に減るのである。不思議な話だ。

いったいなぜか。それは脳血液関門というものの性質によるのだ。脳は血液からエネルギーや栄養の源としてさまざまな化学物質を取り込んでいる。ところで脳は大切な器官だから、血液中のどんなものも取り込んで良いわけではない。血管と脳の間には脳血液関門という一種の関所のようなものがある。血液中にある、脳にとって必要なものは通過を許すが、不要なものや有害なものは通過させない。そんな関所が脳血液関門なのだ。

さてトリプトファンが血流に乗って脳血液関門にやってきたとしよう。脳血液関門を街道にある関所に例えよう。その関所は狭いので、旅人は一つずつしか通過できない。タンパク質をたくさん食べると、トリプトファン以外にも多くのアミノ酸が取り入れられる。たとえばチロシン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンといったものだ。さきの関所の例えで言うなら、トリプトファンという旅人の他に、他のアミノ酸というたくさんの旅人が関所に殺到する。だからトリプトファンという旅人が、脳血液関門を通り抜けるチャンスが減るのだ。

このことは私に取っては実に面白い発見であった。動物蛋白をたくさん食べて、トリプトファンをたくさん取り込めば、脳内のトリプトファンは増えるかというと、逆に減るのだ。それではどうすれば良いか。それは高炭水化物食を食べるのである。すると血液内にインシュリンが分泌される。インシュリンはトリプトファンに比べて、他のアミノ酸の濃度を減らす。だからトリプトファンが関所を通過するチャンスが増える。

つまりタンパク質を動物性タンパク質から取るのではなく、大豆のような植物性たんぱく質から取ると、そのトリプトファンは脳血液関門を優先的に通過できて、脳内のトリプトファンは増えて、セロトニンも増える。つまりハッピーになるのだ。

昨今、糖質制限といって、できるだけ炭水化物を減らして、タンパク質を増やすのが健康に良いといった言説が多い。確かに一理はあるのだが、しかし糖質を極端に制限すると、脳内のセロトニンが減ってウツになるのだ。脳内のトリプトファンを増やすと、気分が高揚して、不安が減り、眠気が増える。眠気に関しては、セロトニンは眠気に必要なホルモンであるメラトニンの原料になっている。つまり極端な糖質制限は不眠にも繋がる。

人はコメやパンのような炭水化物を食べたがる傾向がある。その原因は脳内のセロトニンを増やすためであろう。脳内でセロトニンが不足すると、食欲が増進されて炭水化物が食べたくなる。逆にいえば脳内のセロトニンを増やせば食欲を減らし、減量できる可能性がある。ところでセロトニン自身は食べても脳血液関門を通過できない。だからトリプトファンを食事からとるか、トリプトファンを一段階セロトニンに近づけた5-HTPをサプリから取れば良い。5-HTPはサプリとして売っているのだが、なんと減量とか睡眠推進、鎮痛、関節炎にも効くという。でも5-HTPってあまり知られていないサプリだ。

まとめるとセロトニンという神経伝達物質があり、幸せホルモンと呼ばれている。セロトニンが不足すると、うつ状態になり、不眠になり、また過食して太りやすい。セロトニンは直接食べても脳には届かないので、セロトニンの材料であるトリプトファンというアミノ酸からとるべきだ。トリプトファンはタンパク質を分解して作られるのだが、大豆などの植物性たんぱく質からとるのが良い。肉などの動物性蛋白からトリプトファンを大量にとると、脳内のセロトニンは逆に減少するという不思議な現象がある。それを防ぐには、たんぱく質を炭水化物とともに食べるのが良い。つまり極端な糖質制限は、セロトニンの不足を通じて、うつとか不眠につながる。

   
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