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アップロード ~ デジタルなあの世へようこそ

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SFの話である。アマゾンプライムで配信された米国のドラマシリーズの「アップロード ~デジタルなあの世へようこそ」の話をする。全10回で一回30分のドラマだ。5時間ぶっ通しで見れば、一度で全部見られる長さだ。

ドラマの舞台は2033年の米国である。主人公はネイサン・ブラウンというイケメンのアプリ開発者の青年だ。彼は自動運転車の事故で重体になる。止まれと命令したのに、車は止まらなかったのだ。

ネイサンが死にそうになったので、彼の金持ちの恋人のイングリッドがネイサンの魂をホライズン社のコンピュータにアップロードする。死んだ人の魂をアップロードする会社がいろいろあり、イングリッドはホライズン社を選び、ネイサンの魂はレイクビューという湖のほとりの豪華ホテルに転送される。レイクビューは現実には存在しない仮想リゾートなのである。

死にかけているネイサンに、アップロードのための複雑な契約書を読んでサインしろとか、このドラマは実はコメディなのだ。魂をコンピュータにアップロードした瞬間に、頭部は切断され、肉体は氷詰めにされる。将来、生き返る時を見越しての措置である。

ネイサンは湖畔のホテルの豪華な一室をあてがわれる。窓の外の景色はスイッチひとつで、秋になったり冬になったりと、好きなものを選べる。そのホテルにはAIの従業員と、客であるアップロードされた死者たちがいる。

死んだ人の魂の世話をするのは、ホライズン社のカスタマー・サービスである。彼らはエンジェルとよばれ、何人もの死者の世話をしている。レイクビューの仮想ホテルは、例えてみれば現実社会の介護施設のようなものだ。介護施設は老人の世話をするが、ホライズン社は死者の世話をするのだ。エンジェルは、呼べば眼前にバーチャルな姿として現れる。実際は、コンピュータのオペレーター室でオキュラスのような仮想現実用の埋没型ディスプレーをつけて応対しているのだ。

地獄の沙汰も金次第という諺がある。アップロード先は一種の天国なのだが、天国の沙汰も金次第なのである。なんか食べると料金が発生する。また急に目の前に広告が現れたりする。金を持っている人は豪華な部屋を、貧乏人は2ギガとよばれ、地下のみすぼらしい部屋をあてがわれている。データの転送量が2ギガバイトに制限されていて、それを越えると止まってしまうのである。

ネイサンは恋人が金持ちであるので、良い部屋をあてがわれている。しかし、恋人もいつまでも死んだボーイフレンドのために金を使ってくれるかどうかわからない。ネイサンの母親は生きているが金がない。一度、安い会社の天国に移動しようと見学に行くが、あまりひどいのでやめる。実は私は、この映画を観る前からいつもモルディブにある海に浮かぶ豪華リゾートでの仮想生活を妄想していたのである。目的は遊びではなく、美女たちを集めて勉強会をするのだ。だからこの映画を気に入ったのだ。

ネイサンの担当はノラという美人の黒人女性である。ノラがこのドラマのヒロインだ。ノラはニューヨークに住んでいて、貧乏だ。母親は死んでいて、父親は死にそうな病気だ。父親の死後にアップロードしたいが、金がないので、社員優待のアップロードをしたいと思っている。しかし父親は、亡くなった妻と天国で再会することを夢見ているので、アップロードを拒否する。

ネイサンが死んだので葬式が行われる。しかし死んだネイサンも自分の葬式に参加できるのである。恋人のイングリッドは豪華な葬式を企画する。ネイサンは葬式に参加するための衣装を恋人の趣味で選ばれてしまう。なんせ衣装代を出すのも恋人なのだから、逆らえないのだ。葬式会場には大きなガラスの壁があり、現実世界はその片側にあり、仮想世界はもう一方の側にある。生きた人と死者は同じ場を共有できて会話もできるが、そのガラスの壁を越えることはできない。葬式の参加者にネイサンの親友はいない。みんな欠席か早退したのだ。悲しむネイサン。

ノラには黒人のボーイフレンドがいる。しかしそのボーイフレンドに飽き足りないノラは次第にネイサンに惹かれて行く。ドラマはネイサンとノラとイングリッドを中心に展開される。ホライズン社の規則ではエンジェルは死者と恋愛してはならない。ノラの上司の女性は、ノラのネイサンに対する恋愛感情を知り、ノラを叱責する。

イングリッドはネイサンと再びセックスしたいと願う。セックスには視覚と聴覚だけではダメで、触覚が必須である。そのための装置としてボディスーツというものがある。それを着ると、触覚がシミュレートされるのだ。イングリッドはそれを着て、ネイサンとセックスをする。

一方、アップロード同士のセックスは問題ない。あらゆる感覚をシミュレートできるからだ。年齢も関係ない。100歳を超えた女性と、若い男性のセックスも描かれている。

さて長々と映画「アップロード」の紹介をしたが、果たしてこのようなことは可能だろうか。アップロード、あるいはマインド・アップローディングはシンギュラリティの一つの究極の目標である。シンギュラリティを喧伝している米国のレイ・カーツワイルはその著書の中で、シンギュラリティ後はマインド・アップローディングが可能だとしている。つまりこの映画はカーツワイルの思想を元にしたものだ。

しかし現実問題として、私は、マインド・アップローディングは極めて困難だと考えている。人間の脳は極めて複雑であり、例えば記憶もコンピュータのようにどこか一箇所に蓄えられているわけではない。脳の複数の部分に分散して蓄えられている。そのような複雑な脳をコンピュータモデルでシミュレートするのは至難の技だと思う。

私は死者と生きている人間のコミュニケーションよりは、生きている人間同士の仮想的なコミュニケーションのほうがはるかに現実的だと考えている。我々は面と向かって会話する他に、コロナの時代にはzoomなどを使って会話している。Zoomでは視覚と聴覚を使う。さらに嗅覚もシミュレートすることは、比較的現実味がある。アロマ・セラピーのように、匂いを作り出して与えれば良いからだ。

やはり触覚が最大の難関だ。ドラマのセックススーツのようなものは原理的には可能だが、ちょっと使いたくない。現実世界にはラブドールというセックス用、愛玩用の人形が売られているが、それを買うのは普通の人にはちょっとはばかられる。それと同様に、セックススーツも技術的には可能としても、ラブドールと同様のキワモノ扱いになるのではないだろうか。

私は触覚のシミュレートには、イーロン・マスクのニューラリンク社が開発しているニューラル・レースという装置の方が、はるかに現実味があると思う。ニューラル・レースは頭蓋骨に数カ所穴を開けて、コンピュータチップを埋め込む技術である。埋め込む場所は当面は、触覚を司る体性感覚野と、運動を司る運動野である。ニューラリンク社は2019年7月17日に大々的な報告を行い、ネズミと猿では実験に成功したと発表した。次の目標は人間だ。最初の用途は健常人ではなく、例えば手を動かせないひとのための装置だ。心で念じると腕を動かす信号が運動野で発生して、その信号を頭に埋め込んだチップで受けて、それを元にロボットの腕を動かすのだ。これは技術的に十分可能で、その気さえあれば比較的短期間で実用化されるであろう。もちろん安全性の問題など、乗り越えるべき障壁は色々あるが、マインド・アップローディングに比べれば、はるかに現実的な技術だ。

アマゾンプライムで放映されている「アップロード ~デジタルなあの世にようこそ」の紹介をした。死んだ人の魂をコンピュータに保存して、死後も仮想的な世界に生きさせるという話だ。2045年頃に起きるとされるシンギュラリティ後の世界では可能かもしれない。しかし2033年ではまだ無理だと私は思う。

それよりは、頭蓋骨に穴を開けてコンピュータチップを埋め込むニューラリンク社の技術の方が現実性がある。死者と生きている人の間の会話ではなく、生きている人同士の遠隔の仮想現実的コミュニケーションはコロナ後の世界には必須の技術であり、今後急速に進歩するであろう。触覚までシミュレートした遠隔恋愛も可能になるかもしれない。 

   
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