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アウトブレイク -感染拡大-

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新型コロナウイルスを予言したともいわれるカナダのテレビドラマ「アウトブレイク-感染拡大」を紹介したい。10回物のテレビドラマである。アマゾンプライムでたまたま見つけて第一回目を見て、はまってしまって、最終回まで見た。今日の話は少しネタバレを含むがご容赦を願いたい。

このドラマの何がすごいかというと、制作されたのが2019年であり、放映されたのが2020年の1月7日だということだ。しかも内容が新型コロナウイルスによる感染拡大の話なのだ。つまり現在の新型コロナウイルスの感染が知られる以前に制作されたというのがすごい。また非常にリアリティに富んでいるのである。

ドラマではこのコロナウイルスはアメリカコロナウイルスCoVA(コヴァ)と命名されている。現実の新型コロナウイルスはSARS-CoV2と呼ばれているが、似ていて面白い。トランプ元大統領は新型コロナウイルスを中国ウイルスと呼ぼうと提案したが、この映画ではそれがアメリカウイルスと呼ばれているのは、偶然とはいえ皮肉が効いていて面白い。

このドラマは実際の新型コロナウイルスの感染が発見される以前に撮影されたので、専門家の意見を十分に取り入れているとはいえ、現実の新型コロナウイルスに慣れた我々から見れば、少し甘い点もある。例えば、医者ならちゃんとマスクをしろとか、病院でマスクを脱いで咳をするなとか、そこで握手をするな、キスをするなとか、そこに触れたらダメだろ・・・とか。またマスクの転売とか、インチキ薬のネット販売とか、病院で咳をした人が殴られるとか、あるあるの話がいっぱいだ。だから十分にハラハラして、楽しめるのである。

ドラマの舞台はカナダのケベック州のモントリオールである。ケベック州はカナダの中でもフランス語圏であるので、セリフもフランス語である。字幕があるので問題ないが、英語の勉強を期待したなら、期待外れだ。モントリオールは人口178万の大都会である。ちなみにカナダ最大の都市はトロントで人口は273万人である。モントリオールが舞台といっても、ドラマに登場するのは病院と主人公が所長を務める緊急衛生研究所、登場人物の自宅などに限られている。モントリオールらしさはどこにも見えない。

話の始まりは、モントリオールの公園に住むイヌイットのホームレスの間で奇妙な病気がはやり、人々が次々と亡くなり始めたことだ。その調査を始めたのは、緊急衛生研究所の所長であるアンヌ・マリー・ルクレール博士である。結構美人でやり手の女性である。

最初に感染するアラシーという名の患者の顔が東洋系であったので、私は中国人だと思ったのだが、そうではなくてイヌイット、つまりエスキモーであったのだ。イヌイットはアジア人が氷河時代に凍結したベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に移住する途中に、北極圏に住み着いた人々だ。だから北アメリカに住み着いたアメリカインディアンと同様に東洋系の顔立ちをしているのだ。また白人でない先住民は経済的にも困窮していて、ホームレスの多くがイヌイットなのだ。カナダの社会問題があらわになる。

ドラマの初めにフェレットが登場する。イヌイットの女性がたまたま逃げ出したフェレットを飼うのだ。実はこのフェレットがウイルスの感染源なのだが、それを突き止めるのがこのドラマの筋である。いわば一種のミステリーなのだ。

アラシーというイヌイットのホームレスのいとこの女性はネッリーといって、結核菌を研究している大学院の博士課程の院生である。アンヌ・マリー博士はこの大学院生に、本来の研究を中止して自分を助けてほしいと依頼する。そのほか3人の研究所員とともに、アンヌ・マリー博士は感染症の謎の解決に向かうのである。最初に犯人つまりフェレットが分かっているという筋立てのミステリーと思えばよい。

ドラマの本筋は感染源を調べることと、治療薬の開発に絡む話であるが、それ以外にややこしい人間ドラマが展開する。アンヌ・マリー博士の夫マルクは感染した患者たちが運び込まれるサン・アンドレ病院の医者である。その患者を治療するのがクロエという女性の医者だが、夫のマルクとクロエは不倫関係にある。そのことを発見したアンヌ・マリー博士は夫の懇願にもかかわらず、夫を追い出す。夫のマルクはしかたなく愛人宅に身を寄せる。ところがその愛人のクロエ医師が患者の治療中に新型コロナに感染してしまうのである。アンヌ・マリー博士は夫の愛人を救うべきか? 話がややこしいのは、夫婦の一人娘である高校3年生のサブリナは父親の愛人のクロエ医師を慕っているのだ。このサブリナという娘はとても良い娘なのだが、最後に新型コロナに感染するのである。

主人公のアンナ・マリー博士が所長を務める緊急衛生研究所ではたびたび記者会見が開かれる。それにはアンヌ・マリー博士の上司であるローラン・ドゥメール公安大臣が同席する。ちなみに公安大臣とあるが、たぶんカナダ政府の大臣ではなく、州政府の大臣だと思う。カナダは米国と同様に連邦制で、地方分権制だ。各州にはそれぞれ首相がいるし大臣もいる。カナダ中央政府の大臣がいちいち地方都市であるモントリオールでの記者会見に同席しないと思う。

このドゥメール公安大臣がまたややこしい人物である。彼のパートナーは女性ではなく、パスカルという男性なのだ。つまり二人は同性愛者である。それでもドゥメール大臣は、子供は欲しいので、フランソワーズという女性に人工授精させて代理母に仕上げようとしている。ドラマで大臣とパートナーの男と、代理母のフランソワーズとその子供が一緒にいる場面があり、その人間関係がよく分からなかった。このパスカルがペットショップからフェレットを買って、それがもとで子供と母のフランソワーズが感染する。

話の途中で米国の製薬会社が開発した薬が新型コロナに効くことが分かる。その薬の開発担当者はアンヌ・マリー博士の昔の友人であるシルヴィ・ガドボア博士だ。しかもアンヌ・マリーの夫は、もとはシルヴィのボーイフレンドであったのをアンヌ・マリーが奪ったという設定だ。この夫のマルクという男は三人の女性を渡り歩いたけしからん、いや、うらやましい男なのだ。

新薬のテストを計画するが患者の数に比べて薬の数が少ない。そこで試験をする患者を選ばなければならない。私情をさしはさまないようにするために、薬を投与する患者はランダムに決められた。ところが公安大臣のために代理母になってくれたフランソワーズが新型コロナに感染して入院する。そこで大臣は、試験担当の医師に、新薬を他の患者を外してフランソワーズに試してほしいと頼む。その見返りとしてアンナ・マリー博士をクビにして、代わりにその医師を研究所所長に充てるという。

試験リストから外された子供が死ぬ。その子の母親が公安大臣の不正に気付いて詰め寄る。もうなにがなにやら、ハラハラドキドキ。最終回まで見たが、完全に話が終わったようには見えない。第2シーズンが作られるのであろう。

「アウトブレイク-感染拡大」は、2019年に制作されたカナダのテレビドラマだが、新型コロナウイルス感染症を主題にしており、まさに予言的なドラマなのだ。現実の新型コロナ感染症をまさに予言したような映画で、2020年1月に放映されて大きな反響を生んだ。舞台はカナダの都市モントリオールだ。話の筋は感染源であるフェレットを突き止めるという一種のミステリー仕立てである。我々視聴者は、現実の新型コロナ感染症で様々な知識を身に着けたので、このドラマを見ると登場人物の一挙手一投足にハラハラドキドキとするのだ。

   
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