神経可塑性を利用した超絶学習法
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- 作成日 2023年3月01日(水曜)10:55
- 作者: 松田卓也
今回の記事もスタンフォード大学医学部のアンドリュー・フバーマン教授のポッドキャストを元に、神経科学に基づいた新しい学習法について9項目を解説する。
神経可塑性とは脳神経細胞(ニューロン)間のシナプス結合の強さが変化できることをいう。神経可塑性があるから、我々は新しいことを学ぶことができる。神経可塑性を高めるには、一定の手順(プロトコル)に従わなければならない。本稿では神経可塑性を利用した効果的な新しい学習法について述べる。ここでいう学習とは単に勉強だけではなく、楽器の習得とか、運動技術の習得なども含む広い意味で使う。ここで述べる方法は最新の神経科学の研究に基づいたものであり、科学的根拠があるものである。
1 注意力を高める
神経可塑性を高めるには、注意力を高める必要がある。そのためには、まず脳と体内でアドレナリン(エピネフリン)を分泌しなければならない。アドレナリンを分泌させる手法はいろいろあるが(例えば別の記事で紹介した冷水シャワーとか)、勉強前に簡単にできる方法として深呼吸法がある。素早く鼻から息を吸い、口から出す動作を25~30回行い、最後に空気を吐いて肺を空っぽにした後15-60秒間息を止める。次に空気を吸い込み、そして息を止める。どれくらいの時間息を止めるかはできる範囲でよい。無理はしない方が良い。
2 集中する
視覚を利用して集中力を高める。具体的には勉強開始前に部屋の壁の特定の部分やコンピュータスクリーン、あるいは特定の物体の一点を30-60秒間、凝視する。瞬きはしても構わない。それにより脳内にアセチルコリンが分泌されて神経回路の活動が活発になる。集中力をそぐ原因としてスマホやウェブブラウザーがある。スマホは電源を切り、部屋の外に置く。ブラウザーはできるだけタブを閉じておく。
3 反復練習を行う
一回の学習時間内にできるだけ反復を繰り返す。楽器練習や運動練習が良い例だが、数学や語学の学習でも同じことだ。失敗とかエラーを犯すことは問題ない。それについては4を参照のこと。
4 失敗・エラーは当然のこととして受け入れる
危険な場合でない限り、失敗やエラーはむしろ良いことだ。なぜなら失敗したら覚醒度が高まるからだ。成功した場合は、脳は注意を払う必要がない。失敗すると注意力が高まり、むしろ学習効率が高まる。研究によると15%程度のエラー率が最適とされている。
5 短時間の休憩をランダムに入れる
学習中に10秒間程度の短時間の休憩を、2分に一度程度の間隔でランダムに入れる。そうすると脳の海馬と大脳新皮質の神経細胞が、読書、音楽の練習、技能の訓練などを実際に行ったときに起きた神経活動のパターンを休憩中に繰り返す。それは10倍も速いので、休憩中に10倍の神経活動の復習をすることになる。これを「ギャップ効果」と呼ぶが、それは深い眠りの時に起きることに似ている。
6 ランダムに報酬を与える
学習のモチベーションを上げるには報酬、つまり自分にご褒美を与えるのが良い。ただし成功に対して必ず報酬を与えるのではなく、ランダムに断続的に与えるのである。それはラスベガスなどのカジノで、店側が客をギャンブルに引き止めるための手法と同じである。店側は客にランダムに断続的に勝たせると、客はつぎこそ勝つだろうとギャンブルにのめり込むのである。予測可能な報酬では、客はすぐに飽きてモチベーションが低下する。学習も同じことである。
7 学習のセッション(勝負)を90分に制限する
研究によると、学習に対して集中力が持続できる時間は90分が限界である。だから学習は90分以内に打ち切って休憩を取るべきだ。集中的に学習する時間を勝負(バウト)と呼ぶが、勝負間隔は2~3時間が適当である。また1日には3勝負が限度である。
8 学習勝負の後は非睡眠深部休息(NSDR)をとる
非睡眠深部休息(Non Sleep Deep Rest=NSDR)とは、文字通り、寝ないが深く休息する手法である。具体的なやり方はいろいろある。人を対象とした最近の研究によると、学習の後にNSDRや浅い昼寝を取ると、学習の速さと深さを高めることができる。
9 学習後は質の高い十分に長い深い睡眠をとる
学習して一時的に記憶したことは、睡眠中とNSDRの時間内に、長期記憶に移行する。学習勝負の時間は記憶の引き金または刺激と考えるべきであり、記憶が定着したわけではない。実際に神経回路の再配線が行われるのは、睡眠とNSDRの時である。
最後に
全ての学習勝負で上記の1-9を全て実行する必要はない。しかし1,2,9は絶対に必要である。
参考文献
Teach & Learn Better With A “Neuroplasticity Super Protocol”
参考動画