コリオリ力に関する誤解・・・コリオリ力は速度が大きい程、効果が大きいか?
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- 2012年1月18日(水曜)10:53に公開
- 作者: 松田卓也
コリオリ力とは遠心力と同様に回転系のような非慣性系で働く見かけの力である。見かけの力とは慣性系では働かないが、非慣性系では働くような力である。それに対して真の力はどのような系でも働く。
遠心力は中心から外向きに働くが、コリオリ力は物体の運動方向に対して垂直に働く。コリオリ力の大きさは速度に比例し、回転角速度の大きさに比例する。数学的にいうと速度ベクトルと回転角速度ベクトルのベクトル積で表される。
コリオリ力の大きさは速度の大きさに比例すると書いた。だからコリオリ力の効果は速度が大きいほど大きいと思うかもしれない。それは大きな誤解である。それが大きな誤解であることを示すのが本稿の目的である。実際、コリオリ力は速度が小さい程、効果は大きいのである。さらに考えている系のスケールが大きい程コリオリ力の効果は大きいのである。
ある流体力学の大家のエッセイにコリオリ力は速度が大きいほど効果も大きいと、間違ったことが書かれていた。私はそのことを指摘する手紙を書いたのだが、返事はなかった。それほどコリオリ力に関しては誤解が蔓延しているのである。
洗面所の洗面器に栓をして水をためる。その栓を抜くと水は渦を巻いて流れていく。その時、「渦巻きの方向は北半球では反時計回り、南半球では時計周りである」。これは実は都市伝説である。実際、洗面器では容器の大きさが小さすぎてコリオリ力の効果はほとんど効かない。また洗面器の中の水流の速さは大きすぎてコリオリ力は効かない。
コリオリ力の大きさは速度に比例すると言いながら、その効果は速度が小さい程大きいというのはどういうことだろうか。それはコリオリ力がなぜ働くかということを考えてみれば明らかである。
今、上から見て時計回りに回転しているメリーゴーラウンドに乗っている人から見ると、投げたボールは左に曲がる。というのはボールが目標に到達する前に目標は右にそれて行ってしまうからである。だから円盤の上に乗っている人にとってはボールが左に曲がるように見えるのだ。下に示す YouTube の動画がそのことを示している。
以下の動画は、コリオリ力の働く理由をわかりやすく解説している。
上の動画を見れば、なぜコリオリ力の効果は、速度が小さいほど大きいかが分かるだろう。メリーゴーラウンドの例で言えば、ボールの速度が遅いと、ボールが目標に到達する前に、標的は大きく移動してしまうからだ。
また考える系のスケールが大きいほど、コリオリ力の効果が大きい理由も分かるはずだ。標的までの距離が大きいと、ボールが標的に到達する前に標的は大きく移動してしまうからだ。
流体力学的に言うと、コリオリ力の効果は遠心力の効果との比として表される。その比のことをロスビー数という。
ロスビー数=コリオリ力の大きさ/遠心力の大きさ=(速度×回転角速度)/(速度×速度/大きさ)=(大きさ×回転角速度)/速度= 回転速度/速度
ロスビー数は速度が小さいほど、また系の大きさが大きいほど大きいことが分かるだろう。
そうすると以下に示すビデオで行われている実験はインチキであることが分かるだろう。実験は赤道直下で行われる。小さな洗面器の中心に穴を開ける。そしてそれに水を満たす。穴の栓を抜くと、洗面器が北半球にあるときは反時計回り、南半球にあるときは時計回り、赤道上にあるときは渦ができていない。
たしかに見事なデモンストレーションではあるが、上記に述べたこと、つまり容器が小さすぎる、水の速度が速すぎるので、コリオリ力の効果はほとんど効かない。さらにもう一つ重要なことがある。コリオリ力は系の回転角速度に比例するのだが、今のような実験では回転角速度の地上に対する鉛直成分が問題になる。これは北極、南極で最大の値を取り、赤道では0になる。つまり赤道上ではコリオリ力は働かないのである。たとえ数十メートル北や南に行ったところで、回転角速度の鉛直成分はほとんど0である。このことからもこのデモンストレーションはインチキであることが理解できるだろう。
それではなぜ渦巻きができるのか。容器に細工がしてあるのか、あるいは仕切り板を取るときにわずかに動かせて、渦度を作るのか。いずれにしても、感心すべきはコリオリ力の効果ではなく、この人の手さばきであろう。西欧人の観客がみんなだまされているのはおもしろい。物理学者の書き込んだコメントにそのことが指摘してある。
ところで地球上の気象ではコリオリ力は大きな効果を発揮する。それは考えている系が大きいからだ。どれくらい大きいとコリオリ力が効くかというと、低気圧、高気圧の程度である。竜巻、トルネード、ツイスターではコリオリ力の効果よりは、遠心力が効く。アメリカではトルネードー・ハンターと呼ばれる人々がいる。
ツイスターという映画があった。