2012年に人類文明は滅亡するか?その1 隕石落下による危機
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- 2012年2月20日(月曜)10:56に公開
- 作者: 松田卓也
2012年の暮れにマヤ暦が終わり、人類文明が滅亡するという噂がある。この手の終末論は、1999年のノストラダムスの大予言のように、いつもあるもので、それが本当とは思えない。私には、2012年に人類が天変地異によって滅亡するとは考えにくい。しかしもっと長い時間スパンを考えるなら、天変地異も真剣に考慮する必要はある。本稿では何回かに分けて自然現象に起因する危機、人間に起因する危機、文明論的な危機について論じる。筆者から見て、もっともありそうなのは数十年をかけて人類の現代文明が危機を迎えるというシナリオである。その意味で2012年は人類文明の転換点であるかもしれない。
はじめに
2011年の暮れに朝日新聞から、「2012年の暮れに人類文明が滅亡するという噂がありますが、先生はそれについてどう思いますか?」と聞かれた。インタビュ-したいので、京都に来るという。実際、記者がこられて、1時間ばかり話をした。いろいろ話したのだが、その中で記者が面白いと思った逸話が実際の記事に取り上げられた。それは次のような話だ。私がマヤ暦の話を知ったのは、数年前である。教えている大学の授業の後で、女子学生がやってきて「先生は2012年にマヤ暦が終わり、人類が滅亡するという話をどう思いますか」と聞いてきた。その時は、私はマヤ暦の話は知らず、そんなことはあるはずがないと答えた。
その後、「2012年」という映画も作られ、それを私は見に行った。映画の内容は科学的には完全に荒唐無稽ものであった。この映画はむしろ、人間のドラマとしてみるべきであろう。
先の女子学生の話に興味を持って、私は大学で学生諸君に「もし人類が1週間後に滅亡することが分ったとしたらどうしますか?」という問題をだした。学生諸君の答えは様々であったが、友人と一緒に過ごす、友人とおいしいものを食べる、恋人と過ごす、好きな人に告白する、六甲山に上り、地球が滅びるのを眺めるなど様々であった。家族と一緒に過ごすという回答はほとんどなかったのが興味深い。もし本当に人類が滅びる事がわかっているなら、社会は大混乱に陥り、レストランの店員も仕事をしないで、学生達と同じような行動をするであろう。だから、この回答は人類の滅亡など、あまり誰も真剣に考えていない証拠であろう。私の話は 2011年 12月24日の朝日新聞に掲載された。
実際、今までにも、何月何日に人類が滅亡するというような類の話はそれこそ山のようにあった。例えば 1999年に人類が滅亡するというノストラダムスの大予言がそうである。それが嘘であったことは明らかである。また韓国で1992年に人類の滅亡を予言する新興宗教があった。その予言された滅亡の日に、教祖や教団関係者、信者が集まって滅亡の時刻を待った。しかし予言された時刻を過ぎても何事も起らなかったので、信者たちが怒りだし、教団関係者に殴りかかったというニュースがあった。これなどは、嘘の予言をしたことが明らかであり、またその責任を取らされたという意味においても、なかなか正直でよろしい。平安時代にも末法思想というものがあり、それは仏教にある、一種の終末思想であろう。このように人類は終末思想が好きなのであろう。
人類が特定の日に滅亡するとしたら、考えられるのは隕石か彗星の落下であろう。例えば映画「ディープインパクト」に描かれたようなストーリーである。
小松左京の終末もの SF に「日本沈没」、「さよならジュピター」がある。前者は地殻変動によって日本が沈没する話である。これも現実的にはありそうになく、ヒューマンストーリーとして見るべきであろう。
後者は宇宙のかなたからブラックホールが太陽系に近づいてくるという話である。そのブラックホールの軌道を曲げるために、木星をブラックホールにぶつけるという設定である。これも科学的には無理がある話だが、筆者はその科学的考証に非常に興味を持って、研究テーマの一つとしたくらいである。
本稿では人類滅亡、人類文明の滅亡、人類文明の衰退に関してその原因を自然現象に求めるもの、人間の故意および過失に求めるもの、文明史的な問題に求めるものに分けて数回にわたって論ずる。
隕石、彗星の落下による生物の大量絶滅
人類が滅亡する、あるいは滅亡しなくても人類文明が根こそぎ破壊される原因として、真っ先に挙げるべきは、隕石ないしは彗星の衝突であろう。実際これらの巨大なものがぶつかった場合、生物の大量絶滅、大絶滅が起きる。
実際、地球の歴史において、5億4千万年前の原生代以来 5度の生物の大量絶滅が起きたといわれている。その原因は隕石衝突、超新星爆発のような突発的なものと、大規模な地殻変動などがある。前者の場合は、絶滅は短期間で起こり、後者は地質学的な時間をかけて起きるので、後者は人類史的には問題にしないでいいだろう。
特に6550万年前、白亜紀末の大量絶滅では恐竜が絶滅したことで有名である。その原因としてはさまざまな説があるが、隕石衝突説が有力である。実際メキシコのユカタン半島に巨大な隕石穴が見つかり、この説は有力視されている。隕石が衝突することにより、チリが舞いあげられて、太陽の光を遮り、全地球的な気温低下が起きて、植物が育たなくなり、食糧不足のため恐竜は滅んだというシナリオである。
今まで起きた大絶滅においては、それでも生物の一部は生き残り、その後、生き残った生物が大繁栄したので、繁栄した生物にとっては大絶滅も悪いことではない。実際、恐竜が滅んだからこそ、哺乳類の繁栄があり、人類の繁栄があるのである。
直径400kmの巨大な隕石が地球に落下した場合の数値シミュレーションに関しては次のビデオを参照のこと。
ただし直径400km の巨大隕石の衝突では、あまりに衝撃が大きすぎて生物は完全に絶滅してしまうであろう。現在、科学者が問題にしている隕石衝突はこのような巨大なものではない。半径が1km 以上のものと以下のものに分けられるが、半径が1キロ程度のものでも、人類にとっては大きな影響がある。
ツングースカ・イベント
ツングースカ・イベントとは20世紀初頭の1908年6月30日に、ロシアの人里離れたシベリアの森林地帯で起きた大爆発である。それは5~10キロメートル上空で起きた爆発である。その爆発による人的被害はなかったが、トナカイが被害にあったと言われている。しかし爆発中心地周りの森林の木が、ある点を中心として放射状に大きくなぎ倒されていた。実際、2150平方キロメートルの範囲にあった8千万本の木がなぎ倒されたという。
あまり人里離れた場所であったので、本格的な調査が行われたのはかなり後になってからであった。このビデオでは、爆発の原因が宇宙人の UFO の事故であるという説も述べられているが、それはないであろう。
ツングースカに落下した物体は隕石か彗星かよくわからない。というのも、隕石の落下につきものの隕石穴が見つからないのである。だから、落下してきたものは、硬い隕石ではなく、もろい彗星であろうという説が有力であった。しかし、硬い隕石であっても空中でバラバラになったという説もある。
ツングースカ・イベントの爆発の威力は5-30メガトンの水爆クラスだったのである。先のビデオでは15メガトンと言っている。メガトンは100万トンのことであり、1トンとは、最強の火薬である TNT 火薬1トンの爆発力のことである。ちなみに広島型原爆の威力は15キロトンといわれているので、ツングースカ・イベントの威力は、広島型原爆の1000倍にも及ぶのである。ちなみに史上最大の水素爆弾はソ連のツアーという水爆で57メガトンと言われている。
ツングースカに落ちた隕石の大きさには、いろいろの評価があるが、40メートルから60メートルくらいであろうと言われている。この程度の大きさの隕石で、水爆一個分の爆発力があるのだ。
先に挙げたシミュレーションの天体の半径が400km というが、その値がどのくらい大きいかは、以下のように簡単に計算できる。直径が400km と言えば、40メートルの1万倍であるから、体積は1兆倍となり、もし平均密度が等しいなら質量も1兆倍になる。速度が等しいとすれば、エネルギーはやはり1兆倍になる。広島型原爆の1京倍と、とてつもない物であることが分るであろう。という訳で、現実的に科学者が心配しているのは、それよりはもっと小さな1km サイズ程度の隕石なのである。
トリノスケール
地上に落下する隕石、彗星、小惑星の人類に与える被害の大きさを測るために、トリノスケールというものが1996年にイタリアのトリノで行われた国際会議で制定された。トリノスケールは被害の大きさと被害に会う確率をかけたものである。トリノスケールは0~10までの整数値を取る。
トリノスケールが0の場合は全く気にする必要がなく、10では衝突が確実で人類文明に対して大きな影響を及ぼす。このような出来事は10万年に1度程度の頻度でしか起こらない。
トリノスケール1(緑)でも全く問題はない。トリノスケールが2~4の値(黄色)では、天文学者は注意を持って見守る必要がある。5~7の値(オレンジ)では、隕石衝突の確率が大きく、もし衝突が起きたとしたら大きな被害を及ぼす。トリノスケールが8~10(赤)では、衝突は確実で値に応じて局所的から全地球的被害を及ぼす。
このWikipediaの図はトリノスケールをその値に応じて色で示したものである。横軸は衝突確率で1億分の1~0.99以上までを表している。縦軸は衝突のエネルギーで、メガトン単位で表した運動エネルギー、或いは隕石の大きさを表している。
現在トリノスケールがゼロでない天体は二つあり、その一つ2007VK184という名前の近地球小惑星はトリノスケールが1であり、2048年に0.057%の確率で地球に衝突する。小惑星の大きさは130メートルである。これだと威力は100メガトンの程度だから、最大の水爆、ツアーの2個分ぐらいのことはある。もう一つ2011AG5もやはりトリノスケールは1で、2040年に0.16%の確率で地球に衝突する。
今まででトリノスケールがもっとも大きかった天体は(99942)アポフィスという小惑星でトリノスケールの値が一時は4にまで上った。しかし後に軌道が観測により確定してゼロになった。アポフィスの大きさは350メートルである。それは2029年4月23日に地球の近傍を通り過ぎる。2036年に再び地球に近づくが、軌道が不確定であるので一時はトリノスケールが1であったが、今はゼロに戻っている。というように、比較的大きな天体で近未来に地球に衝突する天体はない。しかし例えばツングースカ・イベントを起こしたよな小さな天体は発見されていないので、いきなり地球に衝突してくることはありうる。
近地球天体(NEO: Near Earth Object)
近地球天体あるいは地球近傍天体とは、地球に落下するかもしれないような、地球軌道に近い軌道を持つ天体のことである。もう少し具体的にいうと、その天体の軌道が太陽中心から0.983から1.3天文単位である場合をいう。ここで天文単位とは太陽と地球の距離を1とした、長さの単位である。近地球天体のことを英語では、Near Earth Object(NEO)という。その正体は小惑星、彗星、大きな流星である。それが小惑星の場合は近地球小惑星と呼ばれる。英語ではNear Earth Asteroid(NEA)という。
小惑星とは主として火星と木星の間に軌道をもつ固体の天体の事を云う。小惑星の中には軌道が火星よりも内側にあるものもあり、地球軌道と交差するものもある。そのようなものは、場合によっては地球に落下してくる場合がある。イトカワは近地球小惑星の例である。
アメリカの議会は半径が1km以上ある近地球小惑星を発見するよう NASAに命じた。そこで立てられた計画は2008年までに、大きさが1km 以上の近地球天体の90%を発見するというものだった。そこでNASAはスペースガードプログラムというもの開始して、近地球天体の発見に努めた。日本もスペースガードプログラムに参加している。
地球に近づいた近地球小惑星のもっとも最近の例としては、2005 YU55 という名前の小惑星があり、2011年11月8日に月の軌道の内側を通過した。この小惑星の大きさはエンパイアーステートビルぐらいの大きさであるという。 NASA では電波望遠鏡を使ってこの小惑星のレーダーイメージを公表した。この程度の大きさの天体が、これほど地球の近傍を通るのは200年ぶりのことである。もしこの小惑星が地球の大都市に落下したら、大惨事になったであろう。
小惑星や彗星が地球に衝突するという想定で、そのときに生じる影響を巡って様々な映画が作られた。先に紹介した「ディープインパクト」のほかに「アルマゲドン」などがある。しかし先にも述べたように、現在までに判明している限りでは、当面はこのような危機はない。というわけで、結論としては、小惑星、彗星の衝突で近い将来に、人類文明が滅びる心配はほとんどない。