2045年問題・・・来るべき技術的特異点
2045年問題・・・来るべき技術的特異点
2013-09-06
松田卓也
技術的特異点(Technological Singularity)とは何か
コンピューターの知能が全人類の知能を凌駕する時点を技術的特異点と呼ぶ。特異点と言う言葉は、一般相対性理論における特異点の概念の類推である。一般相対性理論において、宇宙の始まりとか、ブラックホールの中心などのように、密度や空間の曲率が無限大になるところを特異点と呼ぶ。特異点では、一般相対性理論そのものが成り立たず、特異点の向こうがどうなっているかは、全く分からないとされている。
技術的特異点という言葉は、その時点以降の人類の歴史は予想がつかないということである。その時点がいつであるかは論者により様々であるが、アメリカの未来学者であるレイ・カーツワイルはそれが2045年に起きると主張している。オーストラリアの人工知能学者ヒューゴ・デ・ガリスは21世後半であるという。その他の論者も21世紀半ばか、それ以降という人が多い。2045年というのは、たぶんその中で最も早い時点であろう。
右の図は技術的特異点の概念図である。横軸に1600-2050年の年代を取り、縦軸に技術進歩の指標を表している。それは指数関数的に変化して、例えば2045年あたりで、爆発的に増大する。これが技術的特異点である。あくまでも概念図である。
http://www.maximumpc.com/files/u112496/thesingularity1.jpg
ムーアの法則と収穫加速の法則
ムーアの法則というものがある。ゴードン・ムーアはインテル社の協同創始者である。ムーアが1965年の論文で、集積回路の集積度が、ほぼ2年で倍増するという経験則である。この傾向は法則が提案されて以来、ほぼ50年がたつ現在まで、成り立っている。というよりは、コンピュータ・チップを作る会社が、ムーアの法則を目標にして開発してきたともいえる。しかし、それが可能であると言うことは、ムーアの法則の正しさを支持している。
右の図はそれを表したものである。横軸に1900年から2000年の時刻を取った。縦軸は計算機の速度を1秒あたり、1000ドル当たりの計算回数で表したものだ。この線が直線だと、計算速度は指数関数的に速くなることを意味している。しかし実際は、直線ではなく下に凸な曲線であるから、指数関数的よりもさらに速い。
先に述べたレイ・カーツワイルはムーアの法則をさらに一般化した。そしてそれを収穫加速の法則(The law of accerelating returns)と名付けた。彼はムーアの法則に見られる技術革新だけでなく、宇宙の秩序増大が加速度的に速くなってきていると考えた。「秩序が指数関数的に成長すると、時間は指数関数的に速くなる。・・・つまり、新たに大きな出来事が起きるまでの時間間隔は、時間の経過とともに短くなる。
右の図は横軸に現在からさかのぼった時刻を示す。対数表示である。右端は10年で、つまり現在から10年前である。左端は1011年、つまり千億年前である。ちなみに宇宙の年齢は138億年である。
縦軸は、次の重要な出来事が起きるまでの時間である。これも対数表示である。たとえば100年前は、60年くらいで新しいことが起きた。10年前なら、たとえば数年で新しいことが起きたということを意味している。
図にいろんな色でプロットしてある点は、いろんな著者の推定した値である。右の説明の中に、それらの著者名が示されている。
この図を見ると、さまざまな点をエイヤッと結ぶと、右下がりの直線が引ける。両対数の図で直線だとすると、次々の重要事件の間隔は、現在からさかのぼった時間の巾関数ということだ。この図の直線をたとえば1年前まで引くことができるとして、昨年のイノベーション間隔は数ヶ月であるということになる。たとえば、アップル社の新製品の発表間隔は半年くらいである。
つまり今後の技術進歩は指数関数的に進むことが予想される。とくにコンピュータ、人工知能、ロボットの進歩が大きいだろう。これらの進歩は今後の人類の生活に大きな影響を及ぼすであろう。
知能増強
今後の進歩の方向は二つに大別される。知能増強と人工知能である。
知能増強(Intelligence Amplification)とは、人類の知能を増強する技術である。その方法としては、たとえば薬物などで知能を増強する方法も考えられるが、第一に危険だし、仮にそれで知能が増強されたとしても、たとえば数倍賢くなると言った程度であろうから、質的な変化を伴うほどではない。
知能増強法として有効と思われるのは、コンピュータと人間の一体化であろう。現在までも、たとえば本は外部記憶であり、一種の知能増強手段である。辞書や計算機などもその一環である。最近もっと重要なものは、コンピュータとくにスマートフォンであろう。スマートフォンを使うと、いろんな情報が瞬時に集めることができる。
今後導入される予定のグーグルグラスはスマートファンをさらに一歩進めたものである。目の前にさまざまな情報が提示される。写真やビデオを撮ることも可能である。
これらの器具は非侵襲的つまり頭蓋骨に穴を開けて、コンピュータと神経を直接に結びつけるものではない。SFなどではジャックインといって、脳に直接コンピュータを接続する方法も考えられている。
人工知能
人工知能(Artificila Intelligence)はコンピュータに人間と同様な知能を実現させる方法である。人間はすでに様々な方法で人体の能力を増強してきた。義歯、めがね、義肢などがその例である。これらは歯、眼、手足の能力を機械にだいたいさせるものである。人工知能は頭脳の働きを機械で代替させるものである。
人工知能は「強い」人工知能と「弱い」人工知能に分類できる。強い人工知能とは意識を持った人工知能で、いまだ実現していない。現状の人工知能はすべて弱い人工知能である。弱い人工知能は特定目的の人工知能である。たとえばチェスや将棋をする人工知能、クイズ番組に答える人工知能などである。特定の問題に関しては、すでに人工知能は特定の分野における最強の人間より賢い。特定の分野でない人工知能を一般人工知能とよぶ(General Artificial Intelligence)
強い人工知能はまだ実現していない。SFではたとえば、後で紹介する映画『2001年宇宙の旅』に登場するHAL 9000がその例である。人工知能が意識を持っているかどうか確認するテストを、後に紹介するがチューリング・テストとよぶ。
ありうる未来
強い人工知能が実現したとして、人類のあり得る未来は大きく分けて二つの道が考えられる。その一つは人類がコンピュータに支配されるという世界である。映画「ターミネーター」においては、未来はスカイネットとよぶ人工知能が世界を支配して、人類は存亡の危機にさらされている。映画「マトリックス」では、人類はコンピュータの支配の元に、夢を見ている。これをシミュレーション現実とよぶ。後で詳しく紹介する。
ヒューゴ・デ・ガリスというオーストラリアの人工知能学者は、21世紀の後半にコンピュータの知能が人類の一兆倍の一兆倍にも達すると予測する。そのようなコンピュータを彼は人工知性(Artificial Inttelct=Artilect)とよぶ。彼はこれを神の機械(Godlike Machineょと呼ぶ。神のような人工知性から見たら人類なんか害虫のようなものだから、簡単に滅ぼされてしまうと彼は主張する。
もう一つの可能性は人類とコンピュータが一体となる、つまりサイボーグ化である。この場合はたぶん、現在のような非侵襲的な方法ではなく、コンピュータと神経細胞を直接結びつける方法がとられるであろう。これはアニメ、映画の「攻殻機動隊」の世界である。