人工知性戦争を予言するヒューゴ・デ・ガリス
私が「人工知性戦争」、「退職後の仕事」で取り上げたヒューゴ・デ・ガリス(Hugo de Garis)に関する面白い記事を読んだ。Of Tinkerers and Men of Scienceという記事だ。
Tinkererとはよろず屋、鋳掛けや、わんぱくな小僧、ジプシーという意味らしい。どれがデ・ガリスに当たっているのか。わんぱく小僧かもしれない。「わんぱく小僧と科学者」とでも訳そうか。このブログの著者はIbad Ur Rahmanというアメリカのソフトウエアエンジニアで、15年ほどもニューロ・コンピューティングに関心がある。彼が高校生のときにアンテナにかかった人物がデ・ガリスである。
現在デ・ガリスは21世紀後半に、彼が人工知性(Artillect)とよぶ、神のように知的な機械を作るかどうかを巡って人類が2派に別れて争い、数十億人が死ぬ「人工知性戦争」がおきると予言して物議をかもしている。私は彼をオーストラリアの人工知能学者と紹介したのだが、彼の科学における本来の業績についてはよく知らなかった。
このエッセイを読んで分かったことは、デ・ガリスは機械で人工頭脳を作ると言う「ロボ子猫」プロジェクトを京阪奈にあるATRで行った人物だ。プロジェクトは結局は成功せずに中止された。彼は後にベルギー、アメリカを経て中国に渡り、そこで人工頭脳を作ろうとした。それがどうなったかは分からないが、現在は引退して退職後の仕事(ATR: After Retirement Career)として、数学やナノテクの先を行くフェムトテクの勉強をしている。
デ・ガリスのロボ子猫プロジェクトは、ソフトウエア的にではなく、ハードウエア的に人工頭脳を作ることを考えるものだ。ニューロンをシミュレートするハードウエアでニューラルネットを作り、それが遺伝的アルゴリズムで勝手に進化して複雑になって行くと言うものだ。ここで使われたハードウエアーはXilinx社のFPGAである。このようにして作られた人口脳をCAM頭脳(Cellular Automata Machine Brain)とよぶ。
それはDARPAに支援されたIBMのSyNAPSE計画や、EUのHuman Brain Projectに遥かに先駆けるアイデアであった。デ・ガリスは当時、それほど知られた学者ではなかったし、現在も本来の業績が高く評価されている訳ではないらしい。しかしRahmanによれば、デ・ガリスは早くに現れすぎた先駆者であるという。
デ・ガリスは日本政府にさらなる研究支援を要請したようだが、それは得られずに日本を去った。そして最終的には中国政府の支援で、研究の続きを行った。デ・ガリスは別のエッセイで日本に対する失望を表明している。そして中国政府に対する支援を表明している。