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東日本大震災にまつわる科学 ー 第5回公開講演討論会

テーマ:原子力をめぐる問題と現状

日 時:2011年11月26日(土) 13時30分〜17時30分

場 所:京都大学 基礎物理学研究所 湯川記念館 Panasonic国際交流ホール
    アクセスマップは こちら

プログラム:

【第1部 講演】(13:30~13:50) 司会:坂東昌子(基礎科学研究所所長・NPO法人あいんしゅたいん理事長)

13:30~13:50 「EUのエネルギー事情、のまとめ」
          松田卓也(基礎科学研究所副所長・あいんしゅたいん副理事長)

13:50~14:20 「福島原発日記~若手原子力研究者の視点~」
          真鍋雄一郎(大阪大学大学院 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻助教)

【小休憩】(14:20~14:30)

14:30~15:00 「放射線から貴方の大切な人を守る基礎知識」
          伊藤英男(東京大学宇宙線研究所特任助教)

15:00~16:00 「福島近辺の放射線調査に携わって」
          谷畑勇夫(大阪大学核物理研究センター宇宙核物理学寄附研究部門教授)

【休憩】(16:00~16:10)

【第2部 パネル討論及び質疑・応答】(16:10~17:00) 司会:松田卓也

パネリスト:真鍋勇一郎
      伊藤英男
      谷畑勇夫
      佐藤文隆(NPO法人あいんしゅたいん名誉会長)
      坂東昌子

コメント:「福島の調査に関わって」 石田憲二(日本物理学会京都支部長) 

申 込:申込不要(どなたでもご参加いただけます)

共 催:基礎科学研究所(NPO法人 知的人材ネットワーク・あいんしゅたいん附置機関)・日本物理学会京都支部
後 援:京都大学基礎物理学研究所・京都大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー・科学カフェ京都

原子力をめぐる問題と現状

シリーズ第5回では「原子力とは何だろうか」という問題提起をうけて、原子力発電のルーツを探る議論が重要になってきました。
今回は、実際に福島で測定を現地で行い、そこから未来予測まで遂行された大阪大学の調査グループのリーダー、谷畑先生を迎えて講演をお願いしました。
そのあと放射線防護の考え方を、若い研究者伊藤英男先生に解説していただき、次に原子力の歴史を若い研究者の立場から見つめなおす真鍋勇一郎先生にもご紹介をお願いしました。
パネル討論では、福島にも調査に行かれた石田憲二先生に日本物理学会京都支部長にもコメントを頂きます。

これらの議論を通じて、今後の放射線汚染問題や福島の今後の対策、科学者としてどこまで何ができるか、市民の皆様と情報を共有しながら、今後の方とを考えていきたいと思います。
原発と原爆、低線量放射線と高線量放射線の影響、安全性とコスト、基礎科学と応用科学、いろいろな概念が錯綜していますが、それらを解きほぐし、これからの日本の行く末をお互いに議論していけたらと思います。

 

講演者紹介

真鍋勇一郎略歴

大阪大学大学院 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻助教

京都大学理学部物理学科卒業後、2007年大阪大学大学院理学研究科にて「相対論的ベーテ・サルピーター方程式による2核子系の研究」で学位を取得。大阪大学大学院工学研究科 特任研究員を経て現職。

氏は、もともとは原子核理論が専門でしたが、現在は、原子力発電の未来に向けての核燃料サイクルの研究に携わっておられます。福島原発事故後、自分の専門分野でもある原子力研究の歴史を振り返り、今後の日本の原子力開発の在り方を真摯に模索している若手研究者です。
「原子力のエネルギー政策、安全性に関するこれまでの検証も行い。具体的には、原子力分野の立ち上げの経緯、原子力開発の手法、これまでの原子力開発技術の計画の推移と進展状況、当初考えられていた開発の必要性と現状を歴史資料から検証したいと希望している。

概要

原子核物理から原子力の世界に転向した。当初は教育補助業務に従事していたが、その傍らで高速増殖炉に使用される新しいタイプの核燃料に関する研究に関わるようになった。
転向した当時は原子力ルネサンスと呼ばれる世界的な潮流がメディアで報じられおり、衰退しつつあった原子力業界は「復活」するとの期待が語られていた。また、高速増殖炉もんじゅも再開間近であるとされていた。だが、事故前から原子力ルネサンスは宣伝されていたほどの規模ではないことが各方面で指摘され、もんじゅも炉内中継装置の落下事故で再稼動には至らないまま、その後国の政策の変化で「休止」している。
2011年3月に発生した福島第1原子力発電所の事故を契機に、日本のエネルギー政策は転換期を迎えることになった。エネルギー政策は科学的な知識に基づくべきであるが、最終的には国民の意思で決定されるべきである。アカデミズムに属する人間として議論に資する客観的な材料を提供したいと考え、原子力開発の経緯を明らかにすべきであると思い至った。
本講演では、世界のエネルギー事情、日本の原子力開発の目的である核燃料サイクルの現状と見通しを海外での状況を交えつつ説明する。また、原子力導入初期において原子物理と原子力が「決別」した経緯についても述べる。また、原子力において最大の懸案事項である、使用済み核燃料の処理の現状や原子力の安全性についても述べる。
今後はこれらの問題の詳細な検証により、今後の科学・技術の進歩に関する教訓を引き出していきたい。

 

伊藤英男氏略歴:

京大学宇宙線研究所特任助教 専門:素粒子論

茨城大学理学部自然機能科学科卒業後、2005年茨城大学大学院理工学研究科にて「B中間子のτを含む崩壊と超対称標準模型」で学位を取得。また、博士後期課程より受託生として高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所理論部にて学び研究させて頂いた。同理論部協力研究員を経て現職。

氏は、素粒子論がご専門ですが、その傍ら、福島原発事故後、放射線防護に関する国際的・国内的歴史的経緯および現状分析をすすめ、国際的な放射線防護の歴史やその科学的妥当性、そして日本の放射線防護関連法令への国際放射線防護委員会基本勧告の導入経緯を、熱心に検討してこられました。

概要

3月11日の震災までは、宇宙線研究所の広報業務の傍ら、自分の専門である素粒子論の研究を行っていた。
しかし、福島第一原子力発電所の事故は、私の生活だけではなく、私の周りの生活にも多大な影響を及ぼし、物理屋ということで周囲から説明を求められるようになった。安易に適当なことを答えるわけにもいかず、さりとてのんびり構えている余裕も無く、出来るだけ迅速にどういう行動指針を持てば良いのかを信用のある国際機関に求め、国際放射線防護委員会の基本勧告へと辿り着く。
今回の講演では、私自身は放射線防護の専門家ではないが、放射線防護の考え方を物理屋の視点を持って客観的に学びまとめたことの概略を解説させて頂くことになった。それに加えて、国内における現行の放射線防護関連法令への基本勧告の適用がどのような流れで行われているのか、そして今現在の私が感じる問題点をいくつか述べさせて頂こうと思う。このようなことに関する調査等に関しては、まだまだ始めたばかりであるので、未だ見えていない問題点等もあるかと思う。それらについて議論する機会になれば幸いである。

 

谷畑勇夫氏略歴:

大阪大学核物理研究センター宇宙核物理学寄附研究部門教授

1965年大阪大学理学部卒業、カリフォルニア大学ローレンスバークレー研究所研究員,東京大学原子核研究所助手・助教授、理化学研究所RIビーム研究室主任研究員等を経て、現職。
1976年Miller Award(カリフォルニア大学)、1989年仁科記念賞等を受賞。主な研究分野は原子核物理学。
著書に『講談社サイエンティフィク「大学院原子核物理」等。

谷畑先生は、宇宙の進化のある時に生まれ、その後姿を消していった原子核、今はあまり存在しない原子核を、今ある加速器を使って作り出してみせました。このおかげで、この宇宙にどんな元素がどのようにできたか、それが遡っていけるようになり、おかげで宇宙の歴史の新しい事実が見えてきたのです。
宇宙はどのようにして今の姿になったのか、その進化の謎を、宇宙の歴史の中で現れた今はない原子核を作ってみるとわかってくる、とても雄大で面白い研究をされているのです。著書に「宇宙核物理学入門―元素に刻まれたビッグバンの証拠」 (ブルーバックス) には、このあたりの解説もしてあるので、興味のある人はうってつけでしょう。

概要

今回の東京電力福島第一原子力発電所の事故で、福島県を中心とした2200余りの地点ごとの5年後までの放射線量の移り変わりを示した電子地図を作製するため、大阪大学の研究グループを結成された。
この研究グループは、福島県を中心とした土壌調査を提案し文科省の調査として2200余りの地点での土壌の採取と放射能の測定を行った。この土壌採取には全国97機関409人の研究者が参加し、21機関340人の研究者がガンマ線の測定を行った。特に131I, 134Cs, 137Csに重点をおいたがその他の放射性物質についても測定を行った。そのサンプルをもとに、放射能の地面からの深さの分布の決定と、全汚染量の分布のマップを作成した。
その結果、現在では空間線量は地中にある134Cs, 137Csから放出されるガンマ線で理解できることが解った。調査した­データを基に、放射性セシウムが時間とともに減少していく割合を考慮して、それぞれの地点の放射線量を5年後まで計算した。また、上空から撮影した写真を見ることが­できる「グーグルアース」のサービスと組み合わせ、雨や風、それに除染などで放射性物質が移動しなかった場合に、予想される放射線量の移り変わりを、選択した時期や地点ごとに棒グラフで示す電子地図を作った。

これらの情報は下記で見ることができる。

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2011/siryo35/siryo2-1.pdf
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/11555_0830.pdf
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_FukushimaNPP/0002/5600_0921.pdf

 

石田憲二氏略歴:

京都大学理学研究科教授 日本物理学会京都支部長

氏の専門は、原子の集まりが示す超電導などの現象の新しい性質を明らかにする「固体量子物性研究」です。
氏は、ウランを含む超伝導体の研究もしておられます。超電導の謎を解くために使っておられたウランの同位元素が、原子力発電に使われていることもあり、今回、福島に調査に出かけられたということです。同じウランといっても、いろいろなところで、研究の対象になっているのです。この機会に、支部長としてのご挨拶と同時に、当初の福島のことなど、調査に関わってのご経験をお聞きしようと思います。

   
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