嵐が丘・・・ヘイリー・ウエステンラとケイト・ブッシュ
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- 2011年2月10日(木曜)09:12に公開
- 作者: 松田卓也
嵐が丘(Wuthering Heights)とはエミリー・ブロンテの小説である。姉のシャロット・ブロンテはたくさんの小説を書いているが、妹は寡作でこの小説のみである。嵐が丘というのは人里離れた田舎にある館の名前である。ちなみに私はWuthering Heightsを「嵐が丘」と訳したのは誤訳ではないかと思う。なんか嵐の吹きすさぶ丘をイメージするが、ハイツとは、日本でも良くある○○ハイツのハイツである。嵐館とでもした方が適切だと思う。
話の内容は複雑で入り組んでいる。主人公は嵐が丘の主人アーンショウに拾われた孤児のヒースクリフと、アーンショウの娘キャサリンの愛憎劇である。ヒースクリフはアーンショウの死後、キャサリンの兄ヒンドリーに虐待され、キャサリンも別の男と結婚したことを恨み、家族に復習する話である。いろいろ映画化されている。
以下に紹介する歌Wuthering Heightsは死んだキャサリンが亡霊になってヒースクリフを訪れるシーンである。この歌はもともと、英国の歌手ケイト・ブッシュが嵐が丘のテレビ番組を見て想を得て作曲したものだとされている。
私はケイト・ブッシュの曲ではなく、それをカバーしたヘイリー・ウエステンラの歌で初めてこの曲を知った。ヘイリーはニュージーランド出身の歌手で、14歳当時にすでに世界的に売れていた。ニュージーランドで行ったリサイタルの時にこの曲を歌った。ヘイリーはリサイタルのために歌う曲を探していてこの曲に出会い「これだっ」と即時に決めたという。
とても奇妙なメロディーの曲である。歌うのも難しそうだ。このなかでヘイリーが何度も
“Heathcliff, It’s me, Cathy, come home. So cold, let me in your window”
「ヒースクリフ、私よ、キャシーよ、帰ってきたわ、とても寒いわ、中に入れて頂戴」
と執拗に繰り返している。それではヘイリー・ウエステンラのWuthering Heightsをどうぞ。歌詞はこちら。
このヘイリーの曲を巡ってYouTubeのコメント欄では、ヘイリーを支持する一派と批判する一派の間に激しい論争が繰り広げられた。ヘイリーが優れた歌手であることはどちらも認めるが、この歌に限っては、キャサリンのヒースクリフに対する愛憎についての感性に欠けているというのだ。まだ14歳のヘイリーにこれほど激しい恋の経験はないであろうから致し方ないであろうがともいう。要するに歌は声と技術だけではダメで、感情を込めなければならないという主張だ。
私が思うに、一般的にある歌を他の歌手がカバーした場合、かならず本歌と元の歌手の方が良いという強固な主張がある。それは聴衆が本歌になれているので、その本歌の解釈のまま、他の歌手がいかに上手にまねようとも、本物を超えることはできないからだ。一方、解釈を変えて歌い方を変えると、元の歌の雰囲気、味を無くしたと批判される。
私など、この歌を本家ではなく、カバー曲で初めて聞いたものだから、こちらの方が本歌になってしまっている。それでケイト・ブッシュの歌を聴くと違和感があるのだ。それではケイト・ブッシュの本歌をどうぞ。
この奇妙なパフォーマンスはどうだろう。ケイト・ブッシュの奇妙な表情と、踊りともつかない奇妙な振りが、キャシーの愛憎を表現しているのだろうか。私にはひいきの引き倒しに思える。