世界征服計画 その8
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- 2011年2月24日(木曜)05:05に公開
- 作者: 森法外
8. この世の天国を作る
「知能増強とは、人間とコンピュータの共生だ。つまり人間の知能の不足部分をコンピュータで補うのだ」
「目が悪くなると眼鏡をかけるとか、耳が悪くなると補聴器をつけるようなものですね」
「うーん、少し違うな。君の言い方なら、頭が悪くなると、コンピュータで知能を補強するように聞こえる。人間は遠くに行くのに自転車や車に乗る。すると足で歩くより、はるかに速く、遠くまで楽に行ける。そのようなものだ。人間は飛ぶことはできないが、飛行機を使うと飛べる。つまり機械を用いると、人間にない能力を持つことができる。コンピュータと人間が密な共生関係に入ると、現在の君たち人間には想像もできないほどの知的能力を発揮することができる。これが知能増強の目的だ」
「人工知能とはどう違うのです」
「人工知能研究の最終目的は、コンピュータが自発的に意識を持つことだ。これは強い人工知能という。いわば、コンピュータが主体で人間は従だ。それに対して知能増強の目標は、人間の知能の増強で、人間が主で、コンピュータは従だ。我々はコンピュータの中に住んでいる純粋精神体だ。しかし我々は人工知能ではない。我々の遙か昔の肉体を持った祖先が、その意識をコンピュータに移し替えたのだ。その子孫が我々というわけだ」
僕はここで急に話題を変えた。
「ところで最近、IBMの人工知能ワトソンが『ジェパディ(危機一髪)』というアメリカのテレビのクイズ番組で、二人の人間のチャンピオンを負かしたそうです。そのコンピュータはインターネットには繋がれていなくて、自分でデータベースを持っていて、地理、政治、歴史、スポーツ、娯楽などに関するあらゆる分野の質問に対して、自然言語を理解して、人間の声で答えるそうです」
「人間もなかなかやるじゃないか。だから危険なのだ」
「しかしワトソンは、意識は持っていません。その意味では、あなたの言う究極の人工知能とは違います。ただワトソンを用いて人間の知能を強化することができますから、知能増強のシステムとして使えますね。IBMはワトソンを顧客相談窓口、医療、金融などに使う計画を立てているそうです。例えば医者は全ての最新の知識を知っているわけではないので、ワトソンを使えば、どんな医者でも最新の知識を用いて診断や治療ができます」
「人間の進歩も急速だ。そこが危険なのだ。ワトソンの現状は平和利用だろう。しかし米軍が目をつけないはずがない。このまま放置すると、ワトソンのような人工知能が今後どの方向に進化するか予測がつかない。アメリカがスカイネットを作り、殺人ロボットを量産する前に、それを抑えなければならない。そのために世界を征服し支配するのだ」
<スカイネット>
「世界征服ですか!!それをいわれると、私があなたたち宇宙人に協力することは、人類に対する裏切り行為になります」
「そうではない。我々が計画しているのは、我々と君が協力して多数のコンピュータで構築された、巨大なデータセンターを世界のあちこちに構築して、その中に人類を仮想化して入れて、シミュレーション世界を建設することだ。そのシミュレーション世界は現実のこの世界とは違って、理想的な世界、つまり天国とか彼岸、浄土のような世界なのだ。つまりこの世の天国を、君が作るのだ」
<データセンター>
「この世の天国を私が作る!!そういわれると、やらざるを得ません。でもそのことと世界征服がどうつながるのです」
「我々が計画していることは、既存秩序の変更だ。それは革命とさえいえる。しかし既存秩序の変更を嫌うものがいる」
「いったいだれが、天国ができることを嫌うのですか?」
「それは既存の秩序によって利益を受けている層、つまり現在の支配層だ。具体的に言えばアメリカ、そしてヨーロッパの支配層だ。支配階級というものは、既得権益を持っている。そしてそれを脅かされることを極度に嫌う。我々が当方の資金でシミュレーション天国を作って、真っ先に彼らをその天国に入れるのならともかく、日本人やアジア人が先に天国に入って、彼らがその後塵を拝するなど、プライドから言っても許せないではないか。そんな天国ならつぶしてしまって、自分たちが別に作ろうとするだろう。だから我々は計画を守るために、この現実世界の支配権を一定程度握らねばならないのだ。我々はアメリカやヨーロッパを軍事的に征服しようとか、税金を取ろうというのではない。ただ我々の計画を妨害させないことが重要なのだ。そのために先進国を始めとして、世界人類の行動を制約する必要がある。これを私は人類征服とか人類の支配とよんでいるのだ」
「うーん、それでも人類の征服とか支配という言葉にはひっかかりますね。あなた方は人類を征服・支配して、結果的に人類をより幸福にすると言いたいのですか?」
「君の問いに簡潔に答えるならイエスだ。しかし物事は君の考えるほど単純じゃない。ここで君相手に少し哲学的な議論をしよう」
「哲学的議論ですか」
「うむ。征服、支配という概念をもっと緻密に考えたまえ。まず征服とは、それまで支配していなかった人民を支配することだ。さて支配とは何か。相手に自分の意志を押しつけることだ。支配の方法には、軍事的・暴力的支配、経済的支配、文化的支配、情報支配などがある。軍事的・暴力的支配がもっとも根源的なものだ。自分の言うことを聞かないと痛い目に遭うぞとか、殺すぞと脅かすのだ。つまり相手の恐怖心を利用して支配するのだ。軍事的に世界征服を試みたのは、古くはアレキサンダー大王、チンギス・ハン、ヒトラーなどがいる。いずれも世界征服には成功していない。なぜなら被支配者は隙あらば反抗しようと思うからだ。これでは安定な支配はできない」
「暴力的支配はいやですね」
「ものごとはそう単純ではない。 日本を含む近代国家も基本的には暴力による支配をしているのだ。つまり国家の言うことを聞かないと投獄するぞとか、最後には死刑にするぞと脅かすわけだ。この支配のための暴力装置が警察・検察なのだ。外国と国内に対する最大の暴力装置が軍隊であることは言うまでもない。国家とはこのような暴力を正統に独占している機関なのだ。このことは君たちの学者マックス・ヴェーバーがいっておる。警察が暴力装置なら暴力団とどう違うのか?警察と暴力団はどちらも暴力装置だが、正統性が違う。警察・検察は国民がその存在を承認している。これを正統性という。もし暴力団が革命を起こして政権を取れば、そのとたんに暴力団の暴力は正統性を獲得する。人類の歴史とはいわば暴力団にすぎない組織の長が、国や人民を征服して皇帝、国王、領主、大名などになって正統性を獲得する歴史だ」
「そこまで言うと、身も蓋もありませんね」
「ものごとは、冷静に論理的に知的に考えねばならないのだよ。そこが私と君の差だ。さて暴力による支配は、国内の治安、秩序が保たれるという意味で、人民に相対的な幸福を与える。しかし暴力による支配は本質的に不安定だ。なぜなら人民は心の内でそれを望んでいないからだ。
つぎに経済的支配が来る。これは端的に言えば、言うことを聞けば金をやる、聞かなければクビにするというものだ、つまり反抗に対して暴力で報いるのではなく、服従に対して金、利益、幸福で報いるというのだ。だから人民はこちらの方が受け入れやすい。
文化的支配とは、ソフトな支配とも言われる。アメリカは世界に、英語、コカコーラ、マグドナルドのハンバーグ、ハリウッド映画を輸出している。世界の人民はこれを喜んで受け入れる。反米的な中国人でも、マグドナルドではライスバーガーは人気が無く、ハンバーグの人気があるという。つまりアメリカによる文化的支配は人民が喜んで受け入れるのだ。これだよ、君、これを使わない手はない」
「そこまではよく分かります。では情報支配とは何ですか?」
アーキテクトは体を乗り出した。
「さあ、そこが我々のポイントだ。日本を含む現代の国家の支配構造を見よう。支配層・権力層とは政治家、官僚、資本家を含む大企業、それらに属する人間だ。その支配の方法として、警察・検察・裁判所を含む司法による暴力的支配がある。警察・検察は官僚の一部だから、これらは官僚層の支配のための手段でもある。資本家は経済的支配を行っている。ところで近代国家で新聞・テレビを含むマスメディアは情報を独占している。マスメディアの役割は権力の監視だと言われるが、現在の日本の状況はマスゴミと揶揄されるように、マスコミは権力と癒着している。だから新聞はおもしろくないのだよ。米国を見ても、マスメディアは権力層にたいする抵抗はほとんどしない。その証拠にWikiLeaksに対する米国権力の弾圧に対して米国のマスメディアは反抗しない。というのも、マスメディア自体が巨大な権力機構の一部になっているからだ。なぜかというとマスメディアは既得権益層なのだ。この点が重要だ。この事実を我々は利用すべきなのだ。我々が世界を征服、支配するには、暴力的手段は必要最小限にとどめるべきだ。むしろ経済的支配、文化的支配で人民を引きつける。そして最終的に情報支配で人民をコントロールする。ここがポイントだ」
僕は納得して聞き入っていた。
「情報支配とは具体的にはどうするのです?」
「現在の状況なら、マスメディアを押さえることだろう。それが困難なら既存のマスメディアを破壊するか、新しいマスメディアを創出する。しかしこれからの世界でもっと重要なのはネットだ。ネットを支配することが、我々の情報支配の根本のところだ。現在ネットを支配しているのはGoogle, Yahoo, Amazon, Apple, Microsoftといったアメリカの企業群だ。このなかで最も重要なのはGoogleだ。Googleの目的は世界支配にある。Googleの社長の意識、意図とは関係ない。Googleのやっていることは情報による世界支配以外の何物でもない。中国の支配層はそれを恐れているから、Googleを攻撃し、閉め出しているのだ。アメリカは情報の自由というお為ごかしの言葉でGoogleを養護している。情報の自由などという言葉がアメリカ政府から発せられるとお笑いだ。それならなぜWikiLeaksを攻撃し非難するのだ。アメリカは情報支配の機構であるCIAを重用している。
情報支配の3原則を言おう。それは1)真実の隠蔽、2)真実の歪曲、3)真実のねつ造、これだ。アメリカであれどこであれ、世界の権力者はこれを実践してきた。日本政府も変わるところはない。マスメディアもそれに荷担してきた。我々もそれを実行するのだ」