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世界征服計画 その11

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11. ビーナスとアテナに誘惑された僕

会議が解散になり、神々は神殿の周囲にある扉から出て、別室に行ったようだ。若い美人のアテナは僕にウインクしながら近づいてきて、別室に行こうと誘った。アテナは知恵の神であるが、同時に戦いの神でもあるのだ。変なちょっかいを出したら、どんな目に遭わされるかしれない。

<アテナ>

アテナは僕の手を取った。そうしたらビーナスが、自分は秘書だから同道すると言った。アテナとビーナスで少し言い合いになった。

だいたいこの二人はパリスの審判の時以来、仲が悪いのだ。神々の結婚の宴席に招かれなかった不和の女神エリスが「もっとも美しい女神に」と言って、リンゴを宴席に投げ込んだ。そうしたらヘラ、ビーナス、アテナのなかでだれがもっとも美しいかで言い合いになった。ゼウスは仲裁に困って、トロイの王子で、当時羊飼いをしていたパリスに審判を依頼した。

なんで王子が羊飼いをしていたかというと、彼が生きているとトロイは滅びると王女カッサンドラが予言したので、山に捨てられたのだ。後に彼はトロイの王子に帰り咲いて、そして予言通りトロイは滅びた。

さて女神たちは自分を選んでもらおうと、パリスに贈り物を約束した。ヘラはパリスを世界の支配者にする約束をした。アテナはあらゆる戦いでの勝利を約束しようと持ちかけた。ビーナスは世界でもっとも美しい女を与えるという約束した。パリスはビーナス(アフロダィテ)を選んだ。ビーナスはリンゴともっとも美しい女神という称号を手にしたのだ。

この話は西欧絵画の好むテーマで同じモチーフの絵画がたくさんある。キューピッドが足下にいるのがビーナスである。ヘルメットをかぶっているのはアテナである。羽の生えた帽子をかぶっているのがマーキュリーである。

ところがビーナスがパリスに与えた女は、すでにスパルタ王メネラオスの妻であったヘレンであった。いわゆる「トロイのヘレン」である。妻を奪われたメネラオスは兄のミュケナイ王アガメムノンに助力を依頼する。アガメムノンはオデッセイ、アキレウス(ブラッド・ピット)を含むギリシャの王たちを率いてトロイに遠征する。これがギリシャとのトロイ戦争の発端になったのだ。やっかいな話である。

10年に及ぶ戦争はなかなか決着がつかない。パリスの兄の勇者ヘクターはアキレウスとの一騎打ちの末に敗れる。トロイはギリシャ側の木馬の奸計にはまって落城する。落城のどさくさにアキレウスはパリスの放った矢をアキレス腱に受けて死ぬ。そしてトロイも滅びる。ともかく美女はやっかいなのだ。

ヘクターはアキレウスとの一騎打ちの末に敗れる

<ヘクターはアキレウスとの一騎打ちの末に敗れる>

アキレウスはパリスの放った矢をアキレス腱に受けて死ぬ

<アキレウスはパリスの放った矢をアキレス腱に受けて死ぬ>

ギリシャの神々もギリシャ側とトロイ側について争った。アテナとヘラはギリシャ側に、ビーナスはトロイ側についた。

ちなみにこのヘレンはゼウスが白鳥に化けて、スパルタ王テュンダレオスの王妃レダと密通して生ませた子供である。彼らの相姦図は複雑なのだ。またもめなければよいが。

と思っているとヘラがにこにこ笑いながら近づいてきていった。

「ねえ、アテナとビーナス。私たちの3人のうちで誰がもっとも美しいか、この人に見てもらいません?」

二人は「ははは」と笑って言った。

「そうね、そうしましょう。私たちの美しさをこの人に見てもらいましょう」

ビーナスは僕の手を引っ張って、神殿の周りの一つの扉に誘った。4人でその扉を抜けると、そこは深い森の中であった。そこで3人の女神は衣服をするすると脱いで、その美しい裸身を僕の前にさらした。わーあ、まぶしすぎる。そのあまりの美しさに、僕は呆然となった。ビーナスの足下に、背中に羽の生えた子供がやってきた。ビーナスの子供のキューピッドである。マーズとの不倫で生まれた子供だ。ヘラの足下にはクジャクがいた。彼らは西洋の絵画によく登場するシーンを演じて見せたのだ。僕が女神の体を見たいのに見られないでどぎまぎしていると、ヘラは、笑って衣服を着けた。他の二人も笑いながら、衣服を着けた。

「お遊びはこれで終わり。そろそろ仕事の話をしましょう」

この女神たちは僕をからかっただけに過ぎなかったのだ。僕になにも贈り物を約束しなかったことからも知れる。ビーナスは僕の手を引いて、もとの神殿にもどり、そこから別の扉を通って外に出た。アテナとキューピッドもついてきた。そこは始めに行ったモルディブの海上ホテルの、海に浮かぶバンガローのテラスであった。さあ座りましょうとビーナスは言った。僕たち3人は丸いテーブルを囲んで座った。キューピッドはビーナスの足下に座って、なにやら一人遊びを始めた。ビーナスが話し始めた。

「今後のあなたの予定、日程は私が管理します。あなたがこちら側の世界にいるときは、私か私のニンフがそばにいます。あなたが現実世界に戻ったときは、私の息のかかった人間の男女を一人ずつ派遣して、あなたの護衛と世話をします。あなたは先ほどゼウスが言ったように、今後30日間、つまり30年間勉強します。あなたが現実世界の1日を終えて眠りについたら、こちらの世界に来て、1年間勉強します。そのあいだにアテナとその部下にも来てもらって、作戦を練って実行します」

つぎにアテナが話し始めた。

「それでは、私の作戦を説明しましょう。私たちの目的は、世界中から若手の科学者、研究者をかき集めて、巨大な研究所を作ることです。そしてそこで我々のキープロジェクト、つまり核融合技術、宇宙開発、再生医療、ナノテク、コンピュータのハード、ソフトの開発、とくに人工知能の開発などを研究させます。基本的アイデアは我々が提供しますが、それがいかにもあなた方人間の発明であるかのように偽装します。それが難しいときは、あなたの研究にします。もっともそれをやり過ぎて、あなたがノーベル賞を取ったら困りますが」

ノーベル賞か。そば屋のじじいがもらうものではない。

「研究員たちには世界一極委員会はおろか、猫の爪の存在も知らせません。彼らにも自分たちの研究だと錯覚させます。敵を欺くには、まずは味方から欺かねばなりません」

ふーん、アテナはなかなかの策士だ。

「我々のプロジェクトで最も重要なものは、人類補完化計画のためのコンピュータのハードとソフトの開発です。そんなものが一朝一夕にできるわけはありません。この基本技術も我々が提供します。しかしそれを偽装するために、あなたがた人間にもコンピュータの研究を徹底的に行ってもらいます。最終的にはOSは当然WindowでもLinuxでもありません。我々独自のOSを開発します。というか、それを我々が提供して、人間の開発したもののように偽装します。なぜ独自のOSを開発するかというと、完全に閉じた世界を作って、ウイルスの攻撃を避けるためです。

そしてそれらのソフトを使ってバーチャル世界のミニチュア版を作り、そこに人々を誘導します。つまりセカンドライフとか映画「サマーウオーズ」に出てくるOZみたいなものを作ります。それをセカンドライフの向こうを張って、ファーストライフとでも名付けましょう。現実の肉体をもった人間がアバターを仮想世界に送り込み、そこで生活させます。終局的な仮想世界に入る練習をさせるのです。つまり、人々の意識をだんだんと仮想世界に誘導するのです。

重要なことは、この仮想世界の管理権を我々が一手に握ることです。我々の目的を実現するための環境作りとして、現実世界の一定の支配を行います。その過程で、彼らの権力機構と衝突するのは避けられないでしょう。現実世界からの攻撃を防止するために、敵を弱体化させます」

僕はアテナに聞いてみた。

「敵としてだれを想定しているのですか?」

「それは現実世界の支配者、権力者およびそのエージェントですよ。具体的に言えばCIAなんかは最も可能性のある敵ですね。彼らはこの世界に何か異変が起きていることを感じるでしょう。自分たちの支配構造が何か脅かされていることを。そこでかれらはエージェント・スミスを派遣してくるでしょう。あなたはミスター・アンダーソンです。あなたが彼らに捕まらないようにしなければなりません。私たちが守ります。

<エージェント・スミス>

作戦を具体的に言えば、我々は独自のネットを構築します。そのネットは、はじめは日本にだけ公開されますが、やがて世界に広がっていきます。そのネットのなかではGoogleを超越したシステムを提供します。さらにWikipediaの向こうを張ったナレッジベースを提供します。こちらは金にあかせて、世界中の学者を雇って、百科事典を作ります。要点は現在の脆弱なインターネットに代わって、我々独自のネットを開発することです。これをスカイネットと呼びます。スカイネットの支配権を握り、その情報支配を行い、Googleの世界支配の野望を打ち砕きます。このスカイネットが発展して、最終的には人類補完計画のためのネットとなり、そこに人々をバーチャル化します。このスカイネットの支配権を握ることが世界支配なのです」

アテナは同じことを何度も強調した。なーるほど、壮大な計画だ。でもスカイネットという名前はなんか不吉だなあ。シュワちゃん主演の映画「ターミネーター」に出てくる、マシン側のネットワークの名前である。

「人類補完計画のためのコンピュータはどんなもので、どこにおくのですか?」

続く

   
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